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オズマ戦記  作者: 葱龍
六章 転生者大戦 激闘篇
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第六十三話「荒野に小さな命が散る!コウよ、悲しみを胸に立ち上がれ」

コウが神帝軍に捕らえられてから3日が経った。

残されたリゼル達は洞穴に籠ったまま身動きが取れないでいた。


「何で誰もコウさんを助けに行こうとしないんですか!?

 彼が死んでも良いと言うんですか!!」


「落ち着きなさいシド。誰もそんな事一言も言ってないわ」


焦るシドをリゼルが窘める。


「確かにコウの救出は急務だけれど、神帝の…スマホ太郎の異能を使われたらそれで一巻の終わり。

 相手の出方を伺いつつ、相手の弱点を探し出せれば良いけど、残念ながらあの異能に関する情報が少ない以上それも難しい…

 できる事と言えば、コウの無事を祈る事だけ………」


「私達、少しは強くなったつもりでいたのに、たった1人の超能力に手も足も出せないでいる。

 なんて無力なのかしら。転生者を前にした私達って………」


ツバキの言い分も最もであった。

これまでも何度か転生者と戦った事はあったが、その時はいつもコウをはじめとした転生者が近くにいた。

だが今回コウが捕まり、アーサレナ人のみで転生者の相手をするとなった時改めてその力の差を実感させられた。

クドーを倒せたから、相手が転生者でも勝てると思い込んでいたがそれは思い違いだった。

あれはただ単にクドーの知性が低く、手の打ちようが十二分にあったからだ。


コウに無事でいて欲しいと思う反面、

仮にコウが戻ってきたとしても豊太郎に勝てるのか、と言う不安も確かにリゼル達の中には存在していた。



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二日二晩、コウは食事も与えられず寝る事も許されず、

一時間に1、2回のペースで看守のモヒカンから殴る蹴るの暴行を受け続けた為衰弱しきっていた。


「さしもの勇者様も、こう痛めつけられたら形無しだなぁ。あぁ?」


何も答えないコウ。

目も虚ろで、もはや看守の声も聞こえているかどうかすら解らない。

このまま光も届かぬ地下牢で朽ち果てるのか?

そんな時だった。


コンコン、と地下牢の向こう側から物音が響き渡る。


「!?誰だこの野郎!!」


いきり立って地下牢の扉を開け、廊下へと走り去っていく看守。

本来なら地下牢から抜け出すチャンスと考えるだろうが、それを実行するだけの体力は今のコウには無かった。

何か硬い物で殴りつける音の後、何者かがコウのいる地下牢まで駆けてきた。

看守じゃない。看守よりも遥かに小柄で、布きれで頭と顔を覆っている。

小さな侵入者はコウの前に立つと、懐から鍵束を取り出すと、コウに取り付けられていた手枷の鍵を外し、

コウを自由にすると、今度は懐から水筒を取り出し、ふたを開ける。


「飲んでください。」


コウは促されるがまま水筒を一口煽り、気持ち程度ではあるが体力を回復させると、


「君は…?」


小さな侵入者は顔を覆っていた布を取り、素顔をさらけ出して見せる。


「ミリヤ・マフリヤール。異国の勇者、貴方を助けに来ました」


マフリヤールはその小さな体でコウを担ぎ上げて歩き出す。

コウ自身の体重と、マフリヤールの力の都合も相まってかその足取りは重く、鈍い。

これでは何時衛兵に見つかるやもしれん。


その予感は的中する。

通路の突き当りに出た所でコウとマフリヤールの前に立ちはだかる男が1人。

テリブル・デッドだ。

テリブル・デッドは拳銃の銃口をマフリヤールの眉間に向ける。

2人は自分たちの死期を悟った。が、


「………」


テリブル・デッドは銃を下ろすと2人に歩み寄って耳打ちし、


「こっちの通路を左に曲がって、水路沿いに行けば外に出られる。

 俺が囮になるから、その隙に逃げろ」


「何故…そんな事を?」


コウは敵である筈のテリブル・デッドの言葉に動揺するが、


「さぁな。金の為なら何だってやる、傭兵流の気まぐれかな」


そう言うとテリブル・デッドは二人に踵を返し、


「侵入者だ!!向こうに逃げたぞー!!」


天井に向け発砲しながら通路の右側へと走り去っていった。

コウはマフリヤールと目を合わせ、


「今の内に」

「はい!」


銃声を背にテリブル・デッドの言った道をコウを背負いながらマフリヤールは重い足取りで進む。

地上の光が見えるところまで辿り着く頃には、銃声もテリブル・デッドの声も聞こえなくなっていた。



■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■



どれくらい歩いただろうか。

アルババの町は遥か後方。巨大な宮殿も手の平サイズに見える程小さく見える。


マフリヤールは息を荒げ、足取りも更に重くなっていた。

コウは彼女の身を案じて「少し休もう」と何度も問いかけるが、

その都度彼女は「心配いりません」とコウの提案を拒否し続け歩き続けている。


既にマフリヤールの体力は限界だろう。

今の彼女を支えているのはもはや気力のみ。


「何故、そこまで………」


「今のルスナは、子供は神帝に虐げられ大人は神帝に逆らえず、

 ただ黙って子供を貢ぎ物として捧げるばかりなのはご存知ですよね…?」


「あぁ知ってる。この町の人から聞いたよ」


「このままではこの国はそう遠くない内に神帝の手で滅ぼされます。

 それに対抗できるのは貴方だけ、貴方達だけ…。」


「だから単身乗り込んで、俺を助けたのか…。無茶する」


「それもありますし、何より私は、両親も友達もみんな神帝に殺されていますから。

 仇を取って、この様な負の連鎖を終らせてほしいんです」


コウはマフリヤールの話を聞きながら、地下通路からある一室に少女達の遺体が大量に捨てられていたのを思い出していた。

吐き気を催すような無惨な光景だった。あの様な凄惨な行為を連日連夜行っているのが神帝、須磨豊太郎なら、

彼を神と認める事はコウにはできなかった。

彼が殺した少女たちの為、この国の人達の為にも、必ず報いを受けさせねば。

そうコウが考えていると、


「いたぞぉぉぉ!!いたぞぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


追手の声。

テリブル・デッドの嘘に気づいたのか、それとも最初からコウ達が脱出したのを知ってたのかは知らないが、

兎にも角にもまずい状況だが、体力がまだ回復しきっていないコウにはどうする事も出来ない。


「このままじゃ2人とも捕まってしまう…」


「なら…」


マフリヤールは岩場に一度身を隠すと、コウをその場に降ろし、


「私が彼等を引きつけます」


「なっ!?」


「2人では逃げ切れないかもしれないけれど、貴方一人なら…」


「しかし…!!」


「それに私には、これがあります」


そう言ってマフリヤールはマントをめくり、懐に隠してあった物をコウに見せる。

キーチェーンで腰に提げられた琥珀色の魔宝石に、ダイナマイトが4本…。


「爆発魔法を内包した、魔宝石。これがあれば数十人程度は蹴散らせる筈です」


「しかし、それでは君の命は…」


「私の命1つで貴方を、引いてはルスナの未来を救えると考えれば、惜しくはありません。

 生きてください、貴方は最後の希望…」


マフリヤールは立ち上がり、踵を返すと、「さようならです、異国の勇者」と言い残し走り去っていく。


「!?やめろマフリヤール!!」


叫ぶコウ。しかしマフリヤールは戻らない。


今すぐにでも助けに行きたいが、足に力が入らない。

まだ体力が回復していない!


「マフリヤール!!戻れマフリヤール!!!!」


コウの視線の向こう側で巻き起こる爆風と爆発音。

立ち上る黒煙は1つの小さな命が失われた事を意味していた。


「マフリヤ───────────────────────────ル!!!!!!」


コウは昇る黒煙に向かって叫んだ。

たった一人の少女を救えないばかりか逆に命を救われたと言う事実と、

己の無力さに苛まれ、

両の握り拳に力を込め、奥歯を強く噛みしめる。


「何が…何が勇者だ………!!

 あんな小さな子1人守ってやれないで…

 それどころか逆に助けられて‥‥‥

 恥ずかしくないのか小妻コウ………!!!」


コウは両脚に力を込め、ふらつきながらもゆっくりと立ち上がり、歩き出す。

確かにマフリヤールの犠牲は悲しい。だがここで自分が死んだらマフリヤールの死が無駄になる。

死ねない。ここで死ぬわけにはいかない。

コウは自分に言い聞かせながら歩き続けるが、やがて前のめりに倒れ、意識を失ってしまった。



荒野に倒れ伏したコウの前に人影が1つ。

人影はコウを抱き抱えると何処かへと向かっていくのだった。


「小妻コウ、お前にはまだやってもらわなければならない事が山ほどある」


人影の言葉を聞く者も、その意図を理解しうる者もその場には1人としていなかった。


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