第六十二話「俺こそが神帝!俺の命令には虫一匹も逆らえない!!」
夜が明けた。
東から昇った太陽の光が砂に反射して光り輝く様は夜とはまた違った美しさがあるが、
肌を晒して外に出れば瞬く間に天と地からの両面焼きが待っている。
それを避けるべくコウ達リゼル騎士団は人数分のマントを羽織り、顔と上半身を覆い隠し外に出ようとした時、
もの凄いスピードでこちらへ迫ってくる人影があった。
土煙を上げず、軽やかなステップで荒野を駆けるその姿は、あっと言う間に洞穴の出入口に立つコウの目の前に到着した。
「エル!」
顔を汗でずぶ濡れにし、両肩を上下させ息をするエルにコウは水筒を差し出す。
エルはコウから水筒を奪い取るとそれを一口で飲み干した。
「…プハッ!!店長改め団長、大変よ!!」
「どうした?血相変えて。神帝の事で何か掴んだか?」
「何かどころじゃない…。神帝がサムャータに視察に来るって!!」
「なにっ!!?」
エルの言葉に驚くコウ。
洞穴の奥の方で準備していたリゼル達もコウと同じく驚愕の表情を浮かべる。
「…本当なのね?」
リゼルが問う。
「はい。昨日私達が神帝隊を追い払ったのを嗅ぎつけたのかと…」
「探りを入れようと思ったら向こうからやって来るとはな。
上等だ。こっちから神帝の誘いに乗ってやる!」
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「神帝様のご視察だー!道を開けろぉー!!」
サムャータの町に再び怒号が響く。
道の左右に分かれて跪き頭を下げる人々の前をいきり立った様子でマシンガンの銃口を向けながら歩くモヒカン。
その傲岸不遜な態度にアルババのバーテンダーも頭を垂れつつ周囲に悟られぬよう舌打ちしていた。
「俺達はいつまでこうやって頭を下げ続けなければならないんだ………。
このまま子供を神帝に貢ぎ続けていれば、そう遠くない内にこの国は滅ぶと言うのに…!!」
「今誰か何か言ったかぁ!?俺の地獄耳なめんじゃねぇぞ?
もし神帝様の悪口を言っている様だったらぁ…この場で処刑する!!!誰が言った!!名乗りやがれぇ!!!」
マズい。口に出ていた!?
バーテンダーは焦り、同時に自らの死期を悟った。
その時だった。
「俺だ」
何時だったか聞いた事のある声にバーテンダーは、
いや町の人全てが顔を上げ、一転に視線を注ぐ。
その先には……
「き、貴様らは!確か昨日の!?」
「リゼル騎士団ただいま参上」
「おのれ、神帝様に盾突く愚か者め!!」
モヒカンはマシンガンの銃口をコウに向け引き金を引く。
放たれる無数の銃弾だが、コウはそれを最小限の動きで避けながらモヒカンに肉薄。
「あたぁっ!!」
「ぺやんぐっ」
モヒカンの顔面を殴りながらマシンガンを奪い取り、そして投げ捨てる。
「こんなおもちゃで俺の首を取れると思ったら大間違いだ」
コウの言葉にモヒカンは身じろぎしながら、
「お前こそ、俺1人に勝ったくらいでいい気になってるようじゃ…
神帝様には勝てない…ぜ………」
台詞を言い終えるのを待っていたかの様に大型トラックがモヒカンを跳ね飛ばした。
バキッ、と言う不快な音と共に弾き飛ばされるモヒカン。生存は見るまでも無く絶望的だろう。
トラックには荘厳にして悪趣味な装飾が随所に施されており、
中でも目を引くのが後部に備え付けられた巨大な背もたれ状のパーツだ。
その姿はまるで、祭りで担ぎ出される神輿の様だった。
コウはその巨大な背もたれに腰かける男の姿を見やり、やや自嘲気味に笑う。
「…まさか、お前が神帝だったとはな」
そこにいたのは、アルバスとの会談の時に出会った男。
シャインが強い嫌悪感を露わにした、あの男。
そう、ルスナの新たな支配者となり独裁の限りを尽くす神帝の正体は、須磨豊太郎だったのだ!!
「驚いたか?」
神帝と言う身分を名乗っている為か豊太郎の態度は最初に会った時より横柄に見える。
「ルスナから去れスマホ太郎。貴様の存在はこの国の人達を苦しめるだけだ!!」
「断る。民はともかく俺は今の暮らしに大層満足している。
それらを捨ててまで、ここを去る道理など無い」
「なんと傲慢な…!!」
リゼルが怒る。
リゼルだけでない。
リゼル騎士団の全員が目の前のトラックに、そこに座す神帝に対し怒りを露わにしている。
特にシャインは今すぐにでもヤツの首筋に噛みついて息の根を止めかねない気迫があった。
「ならせめて子供を親から取り上げる様な真似はやめろ。」
「何故だ?この国は俺の物、この国の人間も全て俺の物。
自分の物をどうしようと俺の勝手だろう」
何たる傲慢。
邪悪、外道とはまさにこの事か。
「彼等は物じゃない生命だ!」
「お前だけは許せないとでも言いたげな顔だな」
「当たり前だ。元々お前をこの国から追い出す為に来たんだからな」
「そうはいかねぇ」
豊太郎が指を鳴らすと弓道警察やモヒカン、スキンヘッド等がぞろぞろとコウ達の前に立ちはだかった。
それぞれに斧や槍、弓で武装し臨戦態勢を整えている。
「直接戦わないのか?」
「そんな面倒くさい事誰がするか。俺は支配する事は好きだが戦うのは好きじゃないんだよ」
「ならそうせざるを得ない様…こいつ等をぶっ倒すしかないな。全員戦闘態勢!!」
コウの号令を受け、全員が一斉に武器を構える。
コウも右手を空高く掲げ、聖剣を呼んだ。
今回は相手に転生者がいたのか、聖剣はすんなりと来てくれた。
『今回は素直に来てくれたな』
『相手が相手だからな。なりふり構ってはいられん』
『それで良い。…』
「行くぞ!」
コウの合図と共にリゼル騎士団は神帝軍目掛け走り出す。
リゼルの二振りの細剣が、シャインとシャッテの魔法が、エルの体術が、
ツバキの剣が、シドのロッドが、そしてコウの聖剣が次から次へと神帝軍を薙ぎ倒していく。
その力の差に豊太郎が気づいた時には、既に神帝軍全員が倒された後であった。
「ほんの数手で全滅…」
「随分と余裕だな。お前の手駒無くなったんだぞ」
「俺の力1つあればお前達に勝つ事くらい簡単だからさ。」
「言ってろ!!」
聖剣を振りかぶり、豊太郎目掛けとびかかるコウ。
だが、
「小妻コウ、拘束」
「!?」
豊太郎がそう呟いた瞬間、コウの身体がビタリと止まり、そのまま地面に墜落した。
「ぐっ……なん…だ……!?身体が…………!!」
「俺の異能は相手を命令するがまま操る事が出来る力。
お前の異能については既に把握済みでね。
いくらお前が傷つき、死の淵から這い上がる度力を増す異能が強力だろうと、
こう動きを止められてしまえば赤子も同然だろう」
地べたに突っ伏したまま動けないコウ。
このままでは殺されてしまう!
「助けなきゃ!!」
コウに近づこうとするリゼルだったが、
「来るな!!」
コウの一声に踏みとどまった。
「こいつの異能はハマったら終わりだ!!
俺の事は良い!一度退いて体勢を立て直せ!!!」
「コウ……ッ!!解ったわ。みんな、撤退しましょう!!」
「良いんですか姉さん!コウさんを置いて行くなんて……!」
「みんな纏めて捕まるか、殺されるよりはマシでしょう!!」
シャッテが魔法で空気中の水素を操り、霧を発生させて視界を遮る。
霧が晴れた時にはリゼル達の姿は既になかった。
「逃げ足の速い奴等だ…」
豊太郎はその引き際、手際の良さに感銘を受ける。
倒れていた神帝軍が意識を取り戻し、各々に立ち上がるのを確認すると豊太郎は、
「こいつを地下牢に運べ」
皆が無事逃げのびたのを感じると、
コウは安堵しつつも意識を失った。
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コウが再び目を覚ました時、そこにはサムャータの町とは似ても似つかない光景が広がっていた。
暗い色味の石畳で四方と上下を囲まれ、天井からは水滴が滴り落ち、
部屋の隅には棘の付いた車輪など物騒な器具が置かれている。
ここは拷問部屋かとコウは察すると同時に自分の両手足が鎖に繋がれて身動きが取れない事も理解した。
するとモヒカン頭の男が、
「目ぇ覚ましたみたいだな」
「ここは…地獄か?」
「安心しな。まだこの世だぜ」
「そうか…スマホ野郎はどうしてる?」
モヒカン男は何も言わず棒鞭でコウの顔を叩く。
「ッ!!」
「神帝をその名で呼ぶな!!」
「良い仇名だと思ったんだが…やっぱガキの頃そう呼ばれて弄られたからか?」
モヒカン男は再び棒鞭でコウを叩く。
顔や胸を何度も叩かれ、皮膚が裂け至る所から血が噴き出す。
「…どうした、その程度か?」
何も答えず呼吸を整えようとするモヒカン男。
「半端に痛めつければ痛めつける程お前達は余計不利になる…。
殺したいんなら、一思いに一発で仕留めるんだな……」
棒鞭を振るわず、拳でコウの顔を殴るとモヒカン男は地下牢を後にする。
コウは1人だけになった地下牢である疑問に気づいた。
スマホ太郎の異能が相手に命令し、その命令のままに操る物だとしたら、
何故リゼル達を捕らえずにみすみす見逃したのか?
何故自分の息の根を止めず生け捕りにしたのか?
肝心の命令も何処か機械に語りかける様に単語を並べただけなのも気がかりだ。
考えても答えは見つからず、コウはただ吊るされた姿勢のまま眠りにつく事しかできなかった。
二度目の敗北、お許しください!




