表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オズマ戦記  作者: 葱龍
一章「消えた聖剣と呪われし王女」
6/168

第五話「生命散華」

青い髪の騎士は左腰に挿した剣に左手を添えたまま悠然とした態度でコウとクドーのいる方へと歩み寄る。

敵対の意志があれば即座に切り捨てるつもりだ。


「これは一体どういう事だ?聡明なるルトヴァーニャ国王のお足元でこのような狼藉!嘆かわしい!!」

「た、助けてください!あいついきなり俺に襲い掛かってきて・・・」


コウは藁にもすがるような思いで青い髪の騎士に言い寄った。


「言わずとも良い。君が襲われている側である事は目を見れば解る」


信じてくれた。彼が味方であると言う確証を得たコウは更に


「それとあいつ、聖剣を盗ませたとか言ってました。他にも仲間がいる筈です!」

「あの男が・・・?そうと解れば話は早い。そこのお前!今すぐ下に降りて・・・」


青い髪の騎士が言い終える前にクドーの真後ろに恰幅の良い男が着地し、


「ボス!エルとの連絡が取れました。」

「解った。すぐに合流すると伝えろ」

「はい」


短く応じると恰幅の良い男は再び跳躍。

その姿はあっという間に見えなくなった。

仲間がいなくなったのを見やるとクドーは


「何故ここまで情報をバラすか解るか?俺にはお前達全員に勝てるという自信があるからだ。

 お前達が俺に虫けらのように薙ぎ倒される様が、容易に想像できるぞ?」


クドーのあまりに挑発的な物言いに青い髪の騎士の後方で待機していた騎士達からは

「何と無礼な!」「恥を知るべきだ」「半裸の癖に」と罵詈雑言が飛び交う。


「だが俺にも都合って物がある。お前らにかまっている暇は無いんだ。ついてくるな」


そう言い残すとクドーは踵を返して跳躍する。


「逃がさん!」


クドーを追わんと前に出る青い髪の騎士だが、コウが青い髪の騎士の左腕を掴みそれを制止する。


「待ってくれ騎士さん!」

「なんだ!?邪魔をするな!!」

「そうじゃない!あいつはとても恐ろしい能力を持っている!全員に勝てると言い切った根拠もそこにある!!」


青い髪の騎士はコウの方に向き直り、掴んだ右腕を振り払うと


「能力だと?魔法とはまた違うのか?」

「おそらくは。奴は右腕から糸に繋がれた剣を出して、それを自由自在に操れるんです。

 口ぶりから察するにそれは、俺以外には見えない・・・。」

「・・・情報提供、感謝する。後は我々に任せてもらいたい」

「けど!」

「騎士とあろう者が民を戦いに巻き込む訳にはいかん。それに、見えないなら見えないなりに戦いようはある筈だ」


しかし、と反論しかけるコウだが、やめた。

彼らには彼らなりのプライドと言うものがあるし

この事をリゼル達に報告しなくてはならないと言うのもある。

ここは彼らの力量を信じるしかあるまい。


「すみません!えー・・・っと」

「カイルだ。カイル・ドミナンテ」

「カイルさん!ご武運を!!」


カイル・ドミナンテと名乗った青い髪の騎士はコウの方を見ず、


「敵の力は未知数だ!ハッキリ言って今まで戦ってきた中で一番の強敵になるかもしれない!

だが我々は逃げる訳にはいかない!敵に背を向け逃げる事は騎士の恥であり、何より護るべき民を危険に晒す行為に他ならない!

騎士達よ敵を恐れるな!敵がやらんとしてる蛮行を恐れ、そしてそれを止めよ!全てはルトヴァーニャの為に!!」


カイルのやや大仰すぎる演説に騎士たちがうおぉっと沸き上がり、高らかに片腕を上げる。

戦闘前の戦意高揚は充分か。カイルはコウの方を振り返る事なく、後ろ手に右腕を突き出しサムズアップ。

コウも思わずサムズアップを返すとリゼル達と合流すべく全力疾走。


「サムズアップの風習、こっちにもあったんだ」


走りながらカイルの挙動に遅めのツッコミを入れるコウだったが、その事を耳にする者は誰もいなかった。



■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■



カイルは鎧で重くなった我が身を気にする事なく部下の騎士達を伴いスラム街を駆けていた。

子供二人分に相当する鎧を身に纏っても意に介する事無く走れるのは日ごろの鍛錬の賜物か。


「こっちの道で間違いはないんだな?」

「はい。既に斥候にあの男を追わせているので間違いはないかと」


三日前に殺人事件が起きて以降カイルはルプシカ内で不審人物がいなかったか捜査に当たっていた。

ある時は事件現場で証拠や痕跡を探し、またある時は街の人に聞き込みをして、そして今は斥候に不審者を追わせている。


「俺の推測が正しければ一連の殺人事件を起こしたのもあいつ・・・。逃がす訳には!」


突き当りを右に曲がると既に回り道をしていた騎士5人に道を阻まれる白髪の姿。

来た道を戻らんと振り返った白髪とカイルの目が合った。


「チッ・・・!!」

「逃げ場はないぞ。両手を頭の後ろに付け、膝を付け。」

「嫌だと言ったら?」

「…少し痛い目に遭ってもらう」


カイルは左腰の剣を抜き、両手で柄を握り構える。

他の騎士達もカイルに倣い抜刀し臨戦態勢を取るが、当の白髪は警告通りにするどころか腕を組み含み笑いを浮かべたままだ。

馬鹿にしているのかそれとも構えずに立ち向かえる自信の表れか。

詮索をしている余裕はない。


「かかれ!」


カイルの号令とともに騎士達が一斉にクドーへ殺到する。が!


「グワーッ!」「うあーっ!!」


引っ張られるかのように進行方向とは逆の方へ吹き飛ぶ騎士達。

その光景を目の当たりにしたカイルはゆっくりとを閉じる。

早くも諦めるのか?否・・・


ヒュン・・・ヒュンヒュン・・・


耳を澄ますと聞こえてくる空気を切り裂く音。

そしてそれは徐々に大きくなっていく。


「ッ!!」


金属同士がぶつかるような甲高い音と重い衝撃。

これが見えない刃の威力か、とカイルは内心独り言ちる。

目に見えない衝撃を横薙ぎに振り払うとカイルは、


「全員輪形の構え!周囲の音に警戒しろ!!」



カイルの号令を受け騎士達は二人一組となると、互いの背中を庇い合う様に身構えた。

お互いの死角を補う防御の型。これこそが輪形の構え。ルトヴァーニャ騎士団では基礎の一つとして学ぶ戦術だ。

だが、


「騎士様とあろう者が逃げ腰ですかぁ?痛い目に遭ってもらうんじゃなかったんですかぁ~?マジウケる」


後手に回る騎士団を挑発するクドー。

だが騎士たちは動じない。

クドーは思い通りの反応を示さないのが面白くないのか、


「チッ・・・面白くねぇ。だがよぉ、俺の無敵の刃はただ斬るだけじゃねぇ。こんな事だって出来るんだよ!!」


クドーがそう嘯いた途端輪形の構えを取る騎士の一組が突如宙に舞い上がる。

二方の首は見えない力で締め上げられ、ギリギリと音を立てている。


「が・・・・・・ぁっ・・・!」

「なんだ!?何をやった!!何をやっている!!?」

「見て解んない?締め上げて、吊るしてる」


クドーが指揮者の如く指を立て、腕を振るとゴキンッ、と不快な音を立て、

吊るされた騎士の首を抑えていた腕がだらりと垂れ下がり、

糸の切れた人形の様に崩れ落ちた。


別の騎士が突然痙攣した様に身を震わせ、

眼、鼻、耳、口から血を噴き出す。

恐ろしい事に、耳から入り込んだ見えない糸状の物体に脳や内臓を引き裂かれているのだ!!

騎士の血の噴出は止まる事無く、そのままうつ伏せに倒れる。

直視するのも憚られるほど無残な死に顔だ。


しかし地獄の様な殺戮はこれで終わりではない。


「う・・・!?うわあああああああああああぁぁぁ!!!!」


仲間が惨死する様を見て錯乱した騎士の一人が両手で剣を振りかぶりクドーに突進するが、

破れかぶれの攻撃が通用するはずもなく、逆にクドーの見えない剣で首を跳ね飛ばされ、

更に他の騎士達も巻き添えを食らう形で胴や首を切り裂かれる。


瞬く間に6人、いや7人もの騎士が犠牲になった。

一瞬の内の惨劇にさしものカイルも狼狽する。


「くっ!貴様、やるなら私から先にやれ!!部下たちに手を出すな!!」

「何か勘違いしてないか?俺は戦うのが好きでやってるんじゃない。勝つのが好きなんだ。殺すのが好きなんだ。

 より多くを殺すのが好きなんだ。これからより大勢を殺す為の準備をしなきゃならないから邪魔すんじゃないぞ」

「聞けるものか!そんな身勝手な要求!!」


余裕を見せつけながら踵を返すクドーに激昂し前のめりになるカイルを部下が制止し、


「止めるな!」

「駄目です隊長!ここは一度体勢を立て直すべきです!!奴は無傷だけどこちらは既に戦力を損耗しているんです!!」

「見逃せと言うのかあの悪魔を!!」

「そうは言ってません!戦いは常に万全を期した状態で挑むべきです!!ここで隊長を失ったら一体誰が我々の面倒を見るんですか!!?」


部下の言葉を聞いたカイルはハッとなり、その場で項垂れると


「・・・すまない。こうなったのは全て私の責任だ。総員退却。斥候には再度追跡に当たらせろ」

「「「了解」」」


カイルの指示に従い残された騎士たちはクドーの進む方とは逆方向へと移動を始める。


「お気になさらないで下さい隊長。犠牲になった者もその家族も、皆こうなる覚悟は出来ていたのですから」

「ああ、解っている。だが奴があの異質な力を持っている以上もう部下を人柱にする様な真似は出来ない」

「ならどうするんですか?心眼でも使うと言うんですか?」

「いや、当てはある。私の憶測が正しければ・・・あの見えない刃を見る事の出来る男が一人だけいる」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ