第五十五話「戦闘準備」
武器防具を新調するにあたりコウ達はリゼルを除きルプシカの武器屋へ向かおうとしたが、
兵士に「もっと良い所がある」と言われある場所へと連れられた。
リゼルが同行しなかったのは、別件での用事があった為である。
金属の削れる音、叩く音、熱された金属が急激に冷やされ蒸気を噴き出しながら立てる音が入り混じり、
それらの轟音に負けじと男達も怒号が木霊している。
「ここは?」
「工房『ヘーベリオン』。騎士団で使う武器防具を製造してる所だ。」
「装備品の工場か…。武器屋で調達するのと何が違うのかがイマイチ解らないのですが…」
コウがそんな疑問をぶつけると1人の男がコウ達の姿を見るやコウ達の下へ駆け寄ってきた。
色黒だがやや痩せ型で目元をゴーグルで覆い隠し、頬はこけ、おおよそ工房で働く男と言うよりは
デスクワーク専門と言った容貌だ。
男はゴーグルを上げ隠れていた目元を露にすると、
「武器屋で売られてるのはあくまで冒険者用の汎用品。
騎士団員の特徴に合わせた特注品に比べれば威力は落ちるよ」
「貴方は?」
「メック・メェル。この工房のスタッフの1人さ」
「特注品って…俺達用のを今から作るんですか?
時間かかるんじゃ………」
「『能力鑑定』の魔法でどの能力が優れてるかを見て
その中から最適な武器や防具をこちらで用意するだけだから問題は無いよ。
もう少し時間があれば、じっくりと専用武具を作ってやりたいんだけどね」
「解りました。鑑定の程、お願いします」
「んじゃ…『能力鑑定』!!」
能力鑑定。
と言われコウは何となく自分の能力を可視化、数値化し目の前の半透明なウィンドウに表示する物を連想した。
しかしウィンドウの類は全く表示されない。
メックにだけは見えてるかもしれないが。
「…凄いバランスが良いな君!」
「………はい?」
能力が可視化される訳でもなく数値が表示される訳でもなく、
ただ「バランスが良い」と褒めるだけのメックにコウは思わず首を傾げた。
「バランスが良いだけじゃ解る者も解らないでしょうが。
力はどれくらい?魔力は?何と比較してバランスが良いんだ?」
「君には突出した能力は無いが同時に不得意な項目も無い、言わばオールラウンダーだ。
ルトヴァーニャ騎士団のごくごく一般的な騎士を力、守、速、魔の四項目を
C~A、Sの四段階評価でオールBとすれば
君はオールAとかなり優秀な部類に入ると言って良い。」
「全然褒めてるようには聞こえないな。んで最適な防具は?武器は聖剣があるからそれ使うとして」
「じゃ、これはどう?」
メックはこの工房で試作されたであろう数多くの武器防具が散乱するテーブルの中から1つ防具を取り出して見せた。
金属質な手袋と言った容貌のその防具は、コウも良く知っている。
「ガントレットじゃないか。最近式で付けたけど良い印象は無いなぁ」
「それは儀礼用の話。重いだけで敵の攻撃大して防げないし動きにくくなるだけの鉄製と違って、ほら!」
メックが投げて寄こしたガントレットをコウが慌ててキャッチすると、コウは驚愕した。
「軽い…!!なんだこれ軽い!!鉄製とは比べ物にならない軽さだ!」
「鋼鉄を凌駕する強度と軽量化の両立を実現させた金属『ゼオスナイト』だ。
手の甲に嵌められている魔法石で僅かながら魔法によるダメージも軽減できる優れもの。それから…」
メックは再びテーブルの中から防具を取り出した。
今度は盾。円形の盾だ。
「普通の盾に見えるだろ?だけどこいつは!!」
メックはハンマーを取り出すと盾を床に置き、ハンマーで思い切り盾を叩き始めた。
しかし盾は砕けるどころか傷1つ付かず、ただ甲高い金属音を鳴らすだけ。
「こいつは聖剣を修復する際に余ったヒヒイロハガネを使って作成した盾なんだが、
ご覧の通り極めて高い耐久性と衝撃吸収力を持っているんだ!」
「そいつは凄いな。よし、このガントレットと盾を貰っていこう。
次はシャインとシャッテの装備だが……」
コウはシャインとシャッテの姿を探す。
2人は工房の端の方で製鉄作業を眺めている。
コウは二人の元に歩み寄ると、
「お前達用の装備を整えたい。一緒に見てくれるか?」
「必要ないよ」
「私達の装備は私達で見つけるから」
シャインとシャッテが目を閉じて、意識を集中させると
工房内の完成した武器防具らがフワリと浮かび上がり、その中の幾つかがシャインとシャッテの下へ飛んでいき、
まるで意思を持っているかの様に2人の身体にマントが羽織られ、武器を掴む。
「見つかった」
「これが一番しっくりくるって事ね」
2人が手にしてる武器は杖だった。
シャインの杖は先端に太陽が、シャッテの杖は先端に三日月があしらわれ、
中心には魔法石がはめ込まれている。
「メッシさん、この杖に名前は付けてるの?」
「メックね。いやまだ付けてはいないけど…」
「なら、私がこの杖の名付け親になる。
ガザン語で『東より昇る太陽』と言う意味の…『セヴェル・ソーン』と言うのはどうだろ?」
「ガザン語は良く解らないけど、語感は凄く良いと思うぞ」
コウは率直な感想を述べる。
ちなみにセヴェルが北で、ソーンが太陽と言う意味らしい。
「じゃ、私のは『夜を照らす月光』と言う意味の『ノーチ・ルチル』で」
シャインとシャッテの装備が決まった所で、
ツバキの方はどうなったのかコウはふと気になった。
ツバキは、工房の職人と何かを話しているようだ。
「カタナ?」
「そうそう。片方にだけ刃が付いてて、刀身が真っ直ぐじゃなく少し反ってて、
目釘と呼ばれる小さな部品で茎と柄を繋いで固定するの。一本くらい無い?」
「残念ながらありませんね。けど今言った特徴によく似た武器なら……」
そう言うと職人が一本の武器を取り出した。
鞘に収まっている為刀身は見えないが外見は概ね刀のそれに近い。
「これは?」
「試製魔法増幅剣『ステファニー4號』。
使用者の魔力を鞘を介して刀身に込める事でより強力な斬撃を放てる様になる様設計した剣です。
リゼル様がかの転生者なる者との戦いで使った魔法剣を誰でも使える様に、と言うコンセプトで開発したのですが」
「ステファニーってのは?」
「愛称みたいなものです。特に深い意味はありませんね。あ、4號ってのは製造番号でこれと同じ物があと3本あります」
「ふーん…」
ツバキはステファニー4號を受け取り、鞘から刀身を少しだけ引き抜いてみせる。
鈍い光を放つ黒鉄色の峰と対照的にギラリと鋭い光を放つ刃のコントラストが美しい。
刀身が反っていない事を除けばまさしく刀と呼ぶにふさわしい仕上がりだった。
「良いわ気に入った。ステファニー4號、有難く使わせてもらうわね」
「そう言って頂けると作った甲斐があると言うものです」
コウ達が各々に装備を選び終えると、工房出入口の巨大な扉が開かれ、女性2人、少年1人と騎士2人が工房内に入ってきた。
リゼル、エル、シドである。
コウ達はリゼルの姿を見るや一斉に彼女の下へ駆け寄っていく。
「みんな気に入った装備は見つかった?」
「そっちの方はバッチリ。リゼルの方…和平交渉の方はどうだった?」
和平交渉。
それこそがリゼルの用事であり、コウ達と共に装備品を吟味できなかった理由である。
デストラの最高責任者、現在はアルバス等と交渉し戦争状態に陥るのを防ぐ狙いがあったのだが……
リゼルは目を閉じ、首を横に振った。
「決裂どころか、聞く耳すら持ってもらえなかった。
『甘ったれ共と話す事など何もない』って………」
「ひどい…!」
シャインはマウザンディア政権より改善されるどころか
逆に悪化の一途を辿りつつある生まれ故郷の現状に絶句し、吐露する。
「ああ酷いな。」
コウもシャインにかける言葉が見つけられず、ただ同意する事しかできなかった。
リゼルも、
「前大統領の国葬を利用して世界中に宣戦布告した以上、こうなる事は予想できたけれど…。」
ツバキもまた真剣な面持ちで、
「一国家ならともかく全ての世界を相手にするなんて無謀としか言いようがないけど、
その無謀を現実に出来るだけの確証があのアルバスにあり、それこそがエタニティと言う組織なんでしょうね……。」
コウは一つ息を吐き、両頬を両の手で一叩きし気合を入れ直すと、
「連中がその気なら受けて立ってやるまでだ!
チート能力持っていい気になってるアルバスとその仲間の出鼻をへし折ってやるんだ!!」
その話を聞くやリゼルは満面の笑みを浮かべ、
「賛成!あいつ等にみんなの居場所をメチャクチャにされてたまるもんですか!」
シャインも、
「私とシャッテと、お母さんの生まれたデストラを乗っ取った悪い奴!」
シャッテも、
「アルバス・ロアをやっつける!!」
ツバキも、
「もちろん、アルバスに味方し暴虐の限りを尽くす仲間たちもね!!」
仲間たちの意志を汲みコウは、
「真の敵はデストラではなくそれを裏で操っているであろうエタニティだが、
まずは目先のデストラの部隊だ。シャインシャッテには辛いだろうが、何が何でも生き残るぞ!
生きて必ず、この世界を平和にするんだ!!!!」
コウが頭上高く右腕を掲げ、リゼル達も「おー!」と右腕を掲げて応じる。
皆コウとは出会って一年と経たないが、苦楽を共にし続けてきたためか不思議と連帯感が芽生えてきている。
アルバスよ、これが俺の仲間たちだ。
お前が力で従わせたりしている様な連中とは違う。
これこそが本当の意味での『仲間』。
この仲間たちと共に必ずお前を倒す!
コウは世界の全てを見下ろしながら嘲笑するアルバスの姿を思い浮かべながら決意を新たにするのだった。
ゴンザ、モヨモト、マスターリドは………まぁ家を守ってくれてるだけでも良しとしよう
次回、遂にデストラの部隊と全面対決!




