第四十三話「天の使い」
「なんと言う技術力…。
モニターくらいルトヴァーニャにだってあると驕っていたさっきまでの自分が馬鹿だったわ」
屹立するロボの巨体を見上げるや先程の自分の言葉を戒めていた。
無理もない。
辺境の島国がこんな物を作り上げ、尚且つ実践投入できると言う話など信じろと言う方がおかしいのだから。
「リゼル姫、あまり自分を責めないでほしい。ロボは門外不出の技術の塊。
姫の反応の方がむしろ普通なんだ」
エレベーターが制止するとリムジンのドアが開け放たれ、ノブシゲは格納庫の中へと降り立ち、コウ達もその後に続く。
格納庫の中をノブシゲは堂々とした足取りで歩きだす。
コウはその背中を追いながら、
「魔物の掃討には、あのロボを使用するんですよね?」
「そうだ。今君たちに見てもらったのはRX-010『ヒトマル式』。今ここにある中では最も信頼できる機体と言って良い」
「俺達もここにあるロボで出撃するんですか?」
「いや、君達には他にやってもらう事がある」
「やってもらう事?」
「その前に1つ、これからご覧いただくのは我が国でもトップシークレット扱いの機密だ。
くれぐれも口外したりしない様に。」
何十体ものロボ軍団でも十分凄いのにこれ以上に凄いものがあるのか。
内心驚きつつもコウ達は再びノブシゲと共にエレベーターに乗り込み更に地下深くへと移動を始める。
エレベーターが制止し、降り立った先には先程までとは違う空気が立ち込めていた。
大きく開けた空間の至る所にケーブルが張り巡らされ白衣を纏ったスタッフがせわしなく右往左往している。
そしてその中心には先程目にしたロボとはまた異なる特異なシルエットが五つ。
何処となくコウのいた世界にあった『戦闘機』と言う乗り物に見えなくも無いが、類似する機体は何一つコウには思い浮かばなかった。
「これは一体…?」
「10年前にフジの樹海に近い遺跡で発掘された物だ。
埋もれてた地層から10万年前の物と推測されるが、使われている技術は今の大和を遥かに凌駕する物だ」
信じがたい話だった。
ロボット兵器を現実の物とする大和の技術力も充分凄い物があると言うのに
それを凌駕する技術が既にあったとは。
発見し、解析した人は自分たちが井の中の蛙であった事を思い知らされた事だろう。
「今の大和以上の技術で…?これくらいの物、ロボを作れるなら普通に作れるんじゃないんですか?」
「それがな、外見は戦闘機なんだが…」
ノブシゲはタブレット端末を取り出すとタッチパネルを操作すると画面をコウの方に向けた。
目の前にある『戦闘機』の4面図だ。
「部品構成がかなり細かい上、航空機として使うには無駄と言えるパーツがあまりに多い。
私が思うに、この機体には航空機として以外の用途を秘めていると思うのだよ」
「その用途とは?」
「『邪龍と天の使い』は知っているな?」
「はい。ツバキさんから聞きました」
「『邪龍と天の使い』において神は邪龍の暴虐を止める為天の使いを遣わしたと記されているが、
この天の使い、どの様な姿をしていると思う?」
「どんな姿って、そりゃ…人の姿に羽根を生やして頭に輪っかが浮いてて…」
「それは違うな。文献に記されている天の使いには羽根も輪っかもない。いやそもそも天の使いは人型ではない…
そこにある『戦闘機』に酷似した姿をしていたのだ」
「なっ!?」
「天の使いに似た機械が発掘されその丁度10年後にキングヒドラが復活…」
「偶然にしては少しできすぎね」
「神は天の使いを己が見定めた五人の若者に与え若者は天の使いを駆りキングヒドラと戦った。
戦いの中天の使いは若者の声を受けて1つとなり、巨人の姿となりてキングヒドラを地の底へ投じ込めた…」
「それって…」
「察しが良いな。発掘された『戦闘機』が神話に出てくる天の使いそのものなら、
『戦闘機』には合体機構が備わっている。」
「合体って…嘘だろ!!?」
さしものコウも声を荒げて驚いた。
「君達にはこの『戦闘機』を実戦で使用できるようにしてもらいたい。」
「それ、ロボだけで何とかなる物じゃないんですか?」
リゼルが問うとノブシゲは駆け寄ってきた研究員から渡されたタブレットを見つめ、
神妙な表情を浮かべるとタブレットの画面をコウ達にも見せた。
今度のは空撮映像だ。フジの森を悠然と歩くキングヒドラの姿が遠目からも確認できる。
そしてその近くを守る様にキングヒドラと同じくらいの巨体の魔物が何十体も列を成して歩いている。
「随伴してる魔物は何とかなるが、その際の損耗が問題でな。
辛勝では国民を安心させられない。少しでも多くの戦力が必要なんだ」
「そうは言いましても…」
「…やりましょう。少しでも戦力の足しになるのなら、最善は尽くすべきだ」
そう言うとコウは戦闘機に駆け寄るとキャノピーを開き戦闘機のコクピットに乗り込んだ。
計器類周りは灰色ではなく白を基調としているが概ねコウが元いた世界のそれに準じている。
だが…
「……これどうやって動かすんだ?」
さしものノブシゲも呆れた顔を見せる。
コウが狼狽えるのも無理はない。
彼は言うまでもなく今まで一度も戦闘機に乗った事は無く、
仮に乗った事があったとしても通常の戦闘機にはある筈のイグニッションキーがこれには存在しない為
事前情報なしにこの戦闘機を動かす事は不可能であった。
「操縦桿を握って魔力を込めるんだ。」
言われるがまま目の前にある日本の操縦桿を握り、目を閉じて魔力を込めるコウ。
「魔力充填率20%を超えました!」
「25…30…35…40……」
戦闘機に魔力が充填されていく様子をモニターで確認しながら研究員が確認していく。
その様子を見たリゼルが、
「これ動かせる様にするのが貴方の本当の目的?」
「その通りだと言いたいが、正直に言わせてもらうと動かせる様にしなくて済む状況になって欲しかった…。
今後の役に立つかと思い兵を使って稼働実験を幾度となく繰り返してきたが今日に至るまで成功した試しがない。」
「それで私達に白羽の矢を立てたと…」
「そうだ」
「!?…ダメです!充填率、50のまま停滞!」
「またダメか……!!」
戦闘機への魔力の充填が滞ったのに対し焦りの表情を見せるノブシゲ。
それを見たリゼルは残った4機の内の1機に駆け寄り、コクピットに飛び乗った。
「何をしてるんだリゼル君!!?」
「これ1機だけでなく5機あるって事は、1機だけ動かすんじゃなくて5機同時に動かさなきゃいけないって事なんでしょ?
だったら私達も見てるだけじゃなくてやらないと。シャイン!シャッテ!!」
シャインとシャッテも戦闘機に乗り込む。
これで5機中4機に人が乗り込んだ。
最後に残った1機には誰が乗るか。ふと研究員たちの視線がツバキに注がれる。
「な…なによ?」
「そう言えば今までで魔力充填率が50に達したのは、ツバキお嬢さんが唯一だった様な…」
「…わ、解ったわよ。乗るわよ乗ればいいんでしょ!?」
悪態をつきながらツバキも最後に残った一際大きな戦闘機に近寄り乗り込んだ。
リゼル、シャイン、シャッテ、ツバキがほぼ同時に操縦桿を握りしめ、魔力を込めていく。
するとどうだろう。
50%で止まったままになっていた魔力充填率の数値が一気に膨れ上がり、
「!?信じられない…75…80…85…90…100!!」
魔力充填率が100に達した瞬間唸りを上げるかの様な轟音が室内に響き渡る。
これこそが、『戦闘機』が起動した何よりの証であった。
歓喜に沸く研究員たち。
それを見たコウは何処か誇らしい気持ちになり握りしめた右拳を頭上高く掲げてみせた。
しかしこれは終わりなどではない。
ようやく第一歩を踏みしめる事が出来たに過ぎないと言う事をその場に居合わせた皆々が再度認識しなければならなかった。




