第四十一話「金色の破界龍」
木々が鬱蒼と生い茂る森の中をコウ達は歩き続けていた。
ここはフジの山麓の樹海。
ここは大和の中で最もマイナスのエネルギー(瘴気とも呼ばれる)が集まりやすい場所であり、
それ故凶暴な魔物が数多く出現する為一般人が立ち入りできない区域に指定されている。
更にこの樹海は瘴気がそうさせるのか人間の方向感覚を狂わせ、人体に悪影響を及ぼし、やがて死に至らしめる為
魔物でもない限りこの地に住む事は不可能とされている。
そんな危険地帯にわざわざ踏み入れたのは単純に仕事だからである。
魔物の活動が活発化しているので原因を調べてほしいと言う依頼。
一度引き受けた以上は、果たさねばならないと言う気持ちがコウにはあった。
腰には餞別としてノブシゲから賜った日本刀。
顔は瘴気を吸い込まないようにする為のガスマスクで保護している。
ガスマスクの方はコウ以外のメンバーも同様。
ツバキはマスクに加え記録用のカメラを携行していた。
草を掻き分け、崖を上り、魔物が立ちはだかればこれを打ち倒して先へ進む。
そうやって歩を進めていくと、やがてコウ達はたどり着いた。
樹海の中でも、一際瘴気の濃い所に…。
「いるだけで息苦しくなるような瘴気だな。ここは本当に人の住む世界と地続きなのか?」
木々は枯れ土も腐り陽の光が一筋として差さない暗闇、
おおよそタカクラ邸のある街と同じ地にあるとは思えない異様な光景にコウは率直な感想を口にする。
するとツバキが、
「大和には古くから伝わる伝承があって、
今から10万年も昔、大和の地はある一匹の魔物により支配されていたと言うわ。
その魔物の名は『キングヒドラ』。
キングヒドラは木々も家畜も喰らい、吐き出す息は炎と瘴気を伴い大和の地は荒れ果てた。
しかしヒドラの横暴を神が許す筈もなく、天から舞い降りた神の使いによりキングヒドラは大和の地の奥深くに封印され、
大和にはかつての美しい大地が蘇った…。と、これが大和で語り継がれている神話の1つ『邪龍と天の使い』の一節よ。」
良くある御伽噺ではあるが肝心の魔物の名前がキングヒドラと100%英語である事がコウは少し気になった。
むしろ龍の首が三本付いてて空を飛び、口から稲妻の様な光線を出しそうだ。
などと考えていると、
「ツバキさーん」
シャッテがある一方を指さし、
「そのキングヒドラってあれ?」
指さす方には地面から太い幹か根の様な物が生えうねっているのが見えた。
大きさは目視ではあるが50マルトはあるだろうか。
いや、良く見たらそれは幹でも根でもない。それどころか植物ですらなかった。
その先端には枝分かれした角を生やしたトカゲの頭…もとい龍の頭。
龍の頭がコウ達の方を向き、生気を感じさせない目で睨むと、
「人間…ここを我が聖域と知って踏み入れたか」
喋った。
魔物が人の言葉を喋った事に一同は狼狽する。
しかしコウはすぐに平静を取り戻し、
「かも知れないと思って来ました。いやはや、まさか伝説に語り継がれるお方に生きてお会いできるとは…」
「何言ってるのよ!?」と小声で苦言するリゼルだが、コウは「黙って合わせろ!」と目配せで返す。
「で?」
龍は冷淡に問いかける。
「えと…その…」
言葉に詰まるコウ。
適当に話を合わせ時間を稼ぎ、リゼル達を逃がす算段であったが、
こう話が続かないとなるとどうしようもない。
「人間が聖域に入って、ましてや我の姿を目にして生きて帰れると思っているのか?
そうやって我と対等に話をしようとする事自体おこがましい。」
「ちょっとコウ。これ…なんかマズくない?」
実際マズい。これは完全に殺しに来る流れだ。
コウは皆を目配せすると、
「みんな、俺に考えがある。」
「考え?」
「俺の読み通りなら、奴の胴体は今地面の中に埋まっている状態だ。
追ってくるとするなら相当時間が掛かる筈だ!ツバキさん、今のちゃんと撮ってる?」
「追ってくる?」
「どういう事?何を言ってるの!?」
リゼルとツバキがそれぞれに問うと、
コウは返事をする代わりに踵を返し、
「逃げるんだよぉぉぉぉぉぉ!!!!」
そのまま火が付いた様に来た道を全力疾走。
「ちょ…待ちなさいよ!!」
逃げ出すコウをリゼル達も追う。
「逃げられると思うな!!!」
龍も首から下を引きずり出し追いかける。
「どういう事よ!いきなり逃げ出すなんて!!」
以前全力疾走を続けるコウの背中を追いながらリゼルが質問を投げかける。
「まともにやり合ったってこの瘴気だ!無事に帰れる保証は何処にもない!
それに俺達はあいつを倒す為じゃなくてあくまで調査の為に来てるんだ!!
逃げた方が良いに決まってる!!」
「そうかも知れないけど!!」
シャインが獣道に倒れた木の幹にけつまずき転倒。
彼女が嗚咽を漏らすのを聞き取ったコウはすぐさま反転。
シャインの下に駆けつけ、そして見た。
山と見紛わんばかりの巨体。
巨木の如き脚、黄金の輝きを放つ鋼の如き肌、
悪魔にも似た羽根を生やした背中からは更に四本の首が生え、二つに枝分かれした尾の先もまた龍の頭が生えている。
計七つの首を持ち、その一つ一つから炎と瘴気の混ぜこぜになった息を吐く金色の邪龍……。
それこそがかつて大和の地を蹂躙しつくした悪しき巨龍、キングヒドラの御姿であった。




