第三十八話「日本っぽい名前の国は木造住宅だらけだと思った?」
お待たせしました。
今回より第四章開始です。
四章は今までと趣旨を変えコメディ寄りの内容となっています。
三章で初登場した新キャラクターツバキも大活躍。
ご期待ください
柔らかな陽光が目に差しコウは目を覚ました。
エタニティの襲撃から既に3日。
結局大武闘会は日を改めて再開される事になったが肝心の日程がまだ決まっておらず、
選手たちは止む無く祖国へと帰国する事になった。
元々滞在期間が限られていたと言うのもあったのだが、テロがあった以上安心してルトヴァーニャにいる事が出来ないと言うのもうなずける。
シロウだけはコウ達の元を去ったきり連絡が取れていない。
去り際「エタニティを抜ける」と言っていたので元の鞘に収まる事は無い筈だか。
第二試合の途中でシロウを狙撃した相手は…あれから結局何一つ情報が掴めていない。
エタニティのメンバー、あるいは協力者である筈なのだが、
年齢も性別も、転生者なのかそうでないのかすらハッキリしていない。
解らない物をいくら考えてもしょうがないので、コウは深く考えない事にした。
コウの怪我も3日と言う時間と回復魔法のおかげで完治とまではいかずとも生活に支障が出ない程度にまで回復した。
武闘会再開までの間は何でも屋として依頼をこなす。
それが今のコウに出来る精いっぱいである。
そう思うベッドから起きようとするコウだが、身体が重い。
身動きが取れないと言うより身体が上から圧迫されてるような感覚。
何とか動く首を巡らせ布団の上を見てみるが特に何かが乗っかってる様子はない。
いや、良く見たら布団がいつもよりも膨れ上がってる。
「一体なん…」
コウが布団をめくってみると、女が1人自分に寄り添うように眠っていた。
長い黒髪に整った顔立ち、褌に晒しを巻いただけの裸体に近い姿で寝息を立てる彼女。
コウの悲鳴が、朝のルプシカに木霊した。
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「つまり床に就いた時は何もなかったけれど、朝起きたらそこの女が添い寝していたと…」
テーブルの前でしょぼくれてるコウの向かいに座るリゼルは腕を組み不機嫌そうな顔を向けている。
なぜ怒っているのかを聞いても「知らない」と拗ねるばかり。
そもそもの問題は、コウの右側、リゼルから見て左側に座る和服の女性なのだが
「女じゃなくて、ツバキ・タカクラってちゃんとした名前があるんですよ、こ・っ・ち・に・は」
「それが何だってウチで寝泊まりしてんのよ!!」
リゼルがテーブルを両手で叩きながら怒鳴ると、
「しょうがないじゃないルプシカの宿屋宿代高いんだから!」
ツバキも怒鳴り返す。
「だからってここに泊まらなくても良いじゃないの!!」
「私が何処に泊まろうと勝手でしょ!!」
ツバキとリゼルの痴話喧嘩をコウは頭を抱えうずくまる。
頭痛い。何が悲しくて朝っぱらから女子二人の大ゲンカに巻き込まれなきゃならないんだ。
そんな事をコウが考えていると、
「やめんか二人とも」
リドが怒鳴り、リゼルとツバキの頭をどついた。
お互い殴られた頭を抑え目尻に涙の球を浮かべる。
「いい歳にもなってみっともない…。」
苦言するリドを見やり、やっと話を進められると安堵するやコウはツバキに視線を移し、
「…ツバキさん、でしたか。貴方はここが何でも屋であると知ってて来たんですか?それともただ寝泊まりする為に?」
「何でも屋と知って来ました。小妻コウ。貴方にはお願いしたい事があります」
急に真剣な顔になったツバキを見てリゼルは、
「私と結婚してくれってのなら願い下げよ」
「お前は黙っとれ」
「依頼…と言うのは?」
リゼルを窘めるリドを無視しコウは話を進める。
「私の祖国、大和では近年原因不明の地殻変動や魔物の急激な活発化が何百件も確認されています。
貴方達には、その調査をお願いしたいのです」
「大和の国の人に頼めない程危険な依頼なんですか?」
「大和に生息する魔物は危険度が高いし、軍を動かせば国の脆弱さを露呈する事になりかねないのです。
故にこの依頼も水面下で実施したい…」
「つまり極秘任務か…危ない橋渡らされるんなら、報酬は弾んでもらわないとな」
「その辺なら抜かりは無いのでご心配なく。欲しい物があればなんだって差し上げます」
「なんだって…ねぇ?」
「だったら」
リゼルは立ち上がり、ツバキに詰め寄ると、
「ヒヒイロハガネ…って知ってる?」
「勿論。大和原産の希少金属ですから」
「そのヒヒイロハガネを貰えるかしら。聖剣ペンドラゴンの修繕にどうしても必要なの」
ヒヒイロハガネとは市場でも滅多に出る事の無い素材で、
その名の通り太陽に似た緋色の輝きを放ち、布のような軽さとダイヤモンドの3倍の硬度を持つハイパーダイヤモンドよりも更に硬い硬度を持ち、
決して錆びる事は無く魔力を吸収する性質を持った超常の金属である。
聖剣ペンドラゴンの魔法を吸収する特性はこのヒヒイロハガネに由来し、ヒヒイロハガネで作られた盾はとある国の国宝に指定されている。
「あれね…。まさか伝説に謳われた聖剣を折る奴が出てくるとは」
理論上聖剣を折る事は困難であるが、現にアルバスの手で聖剣は見事なまでに叩き折られている。
彼の振るう魔剣の切れ味がなせる業か、それともアルバスの技量故か…。
「良いわ。剣一本治せる分は、用意してみる」
「ありがとう」
「ついでに私も付けるけどどう?小妻コウ」
ツバキはコウに詰め寄り、頬と首筋を人差し指でなぞり囁く。
「どうって…」
「なんでそうなるのよ!!」
リゼルは再び憤慨しツバキを強引にコウから引き剥がす。
「なんでって…一緒にいたいからって理由じゃ…ダメ?」
「ダメに決まってるでしょ!!」
「なんで怒るのよ。あの双子の子は一緒に住んでるのに私はダメって…」
「シャインシャッテは他に行くところが無いから仕方なく預かってるだけ!
あんたはちゃんと帰る場所があるでしょうが!!」
「嫁ぐから問題ないし」
「問題大ありでしょが!!!」
「そもそも何で怒るの?もしかして、私に嫉妬してるの?」
「しっ……」
嫉妬してる。
そう言われた途端リゼルは言葉に詰まり目を泳がせる。
誰の目にも明らかなほど解りやすい動揺を見せている。
「してるんだ…。まぁ、ツバキさんが嫁ぐかはこの際置いといて、その依頼引き受けるとしましょう。
マスター・リド、留守をお願いします」
「解った」
支度を済ませるとコウはリゼル、シャイン、シャッテ、そしてツバキを伴い大和行きの船へと乗船する。
リゼルはコウを一人に出来ないと、シャインシャッテは純粋に大和と言う国に興味があっての志願である。
「ツバキさん、その…大和ってのはどんな国なんだ?」
大和へ向かう船の中、コウはふとツバキに疑問をぶつけてみた。
「さんは付けなくて良いわ。大和…隣接する国の無い島国で、二千年以上の歴史を持つ国家…。
なんだけど、国交は軍隊を持たない国相手だけに留めていて、殆ど鎖国と言って良い状態がもう100年以上は続いてるわね」
「鎖国か…。俺の生まれた国も鎖国やってた時期があったって学校で習ったっけな。」
「なんでも国防の為の力を軍事利用されるのを恐れての鎖国らしいんだけど…まぁ行ってみれば解ると思う」
波に揺られる事一日強。
コウ達は大和の国にたどり着いたが、
「……何ッッッッッ………だこれ……!!!!」
そこにあったのはコウのイメージする古き良きジパング的島国では無かった。
地上100マルト(100メートル)は優に超える超高層ビルが幾つも立ち並び、
港を出た先には敷き詰められたコンクリートの上を馬車よりも100年は未来の乗り物である自動車が走り、
街中には通行人に混じって機械が、ロボットが行き交うメトロポリス…。
次元の壁を越えていない筈なのに、全く違う世界がそこにはあった。




