第三十二話「野獣(ケダモノ)死すべし」
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今後の展開と矛盾する箇所があった為修正しました。
懐からボウイナイフに似た刃物を取り出すマンダと右腕から赤黒い糸の様な物を出すクドー。
リゼルは細剣を構えなおし二人の攻撃に備えるが、向かってきたのはマンダだけ。
クドーの方はと言うと、リゼル達のいる方とは全く反対の方へと跳躍していた。
そしてその先にいるのは───
「!?エルッッ!!」
リゼルに名を呼ばれエルが振り返るのと、クドーがエルの目の前に着地するのはほぼ同時の出来事だった。
両肩をピクリと反芻させ驚くエルだが、すぐに平静を取り戻し、
「…ひ、久しぶりじゃない……」
「思えばお前が裏切ったから俺はあの屈辱的な敗北をしたんだったな…」
「あんたが私達を素手駒の様に扱ったからでしょ。逆恨みもいい加減にして!」
「逆恨みじゃなくて事実だよ。あの裏切りが無ければ俺はあいつ等を全滅できたしお前も良い暮らしが出来た物を」
「残念。私は今の暮らしに、何でも屋稼業に非常に満足しているわ。
むしろあんたの下っ端としてこき使われ続けてたら、そっちの方が後悔しそう」
「ほざけ」
そう言うとクドーの右腕から再び赤黒い糸が伸び、エルの左頬を撫でる。
歪曲した刃状の先端がエルの白い肌を僅かに傷つけ、鮮血が頬を伝い、エルは戦慄する。
「お前が今まで生き残ってこれたのは運が良かっただけの話だ。
その気になれば、俺は何時だってお前を殺せる。それを解ってて盾突いてるのか?」
「…そうよ。それにあんたなんかよりずっと強くてずっと優しい人を、私はたくさん知っている」
「例えば?」
クドーの背中、そして胸を細剣が貫く。
そしてクドーが後ろに首を巡らせると、そこにはリゼルの姿。
エルはふっと笑みを浮かべると、
「そこにいるリゼルお姉様とか」
「ぐっ!?」
リゼルは道端で死にかけた虫を見る様な冷めた目をクドーに向け、
「エルが時間を稼いでくれたおかげでこうして近づく事が出来たし、大事に至らなくて済んだ。
後ろから突き刺すなんて卑怯だって言いたいだろうけれど、自分が勝てそうな相手を選んで襲う貴方にそれを言う資格は無いわ」
「てっ…めェェえぇぇ!!!」
リゼルはそのまま息の根を止めんと突き刺した細剣に力を込める。が…。
ドンッ、と言う轟音と地響きが巻き起こりリゼルも、エルも、いやその場に居合わせた全ての者が動揺を見せた。
「何の音!?」
そしてその一瞬の隙をクドーは見逃さなかった。
一、二歩踏み出し胸に突き刺さった細剣を強引に引き抜き、リゼルの方へ向き直るクドー。
「しまった…!?」
「状況が呑めていない様だな。今のは多分アルバスが戦ってるんだろうさ。その相手は…小妻コウ以外いないだろうよ。」
「コウとアルバスが……?」
「前の雪辱が張らせないのは悔しいが、コウはまず負けるだろうよ。そして」
クドーは左腕からも赤黒い糸を出す。
これで左右一つずつ、糸の二刀流となったがリゼルにもエルにもその姿は見えない。
「お前達もここで俺たちに負ける」
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スカーレット・マンダの振るうナイフが煌めき、空を切りながらシャインとシャッテに肉薄する。
正確に喉元を狙った斬撃。シャインもシャッテもそれを紙一重でかわすのが精一杯だった。
「まだ小っちゃいのに察しが良いねぇ!私のナイフは掠めるだけでも怖いと言う事に勘付くとは!!」
「やっぱ何か仕込んでるんだ」
「仕込んでるの毒なんでしょ?と言うか他に仕込むの考えられない」
マンダはクルクルとナイフを弄びながら、
「あったり~!私のナイフには浴びれば身じろぎ1つ取れなくなる程強力なオニゴロシドクガエルの皮膚から抽出した猛毒が塗ってあるの。
正解したお嬢ちゃん達にはご褒美に…天国へとご招待してあげる」
恍惚の笑みを浮かべるマンダにシャインとシャッテはほぼ同時に肌を泡立てた。
気持ち悪い。怖い。そんな評価が率直に出てくる目の前の女は危険極まりない。
2人の気持ちは一つ。
こいつの存在をこの世界から消してやらないと。
対立するコウばかりか自分の仲間ですら手にかけるアルバスに協力する様な奴だ。
やらなきゃもっと凄惨な事をやらかすに違いない。
シャインは右手に魔力エネルギー体を生成。
すぐに荒ぶる炎に変えると鞭のようにしならせマンダへ叩きつけた。
マンダは目の前に迫る炎を前にしても微動だにしない。
いや、する必要が無かったのかもしれない。
炎はマンダの鼻先で静止、いや見えない"何か"に弾かれる。
「これは…魔法!?」
「使えないと思った?」
炎の鞭がそのままシャイン目掛け跳ね返る。
炎に焼かれ弾き飛ばされるシャイン。
炎が跳ね返ってくる寸前、咄嗟に別の炎を精製しぶつける事で受けるダメージを最小限に抑える事は出来たが、
「相手の魔法を跳ね返す魔法…母様ですら知らない魔法があるなんて!!」
「絶対反射。相手の魔法を水鏡の様に返すこの魔法を知らないなんてね…。
私が最初の発案者って訳じゃないから…こっちじゃ禁忌扱いになってるのかしら」
「魔法が通じないのなら…シャッテ!!」
シャインの号令を受けシャッテが両腕を交差させながら突き出すと、
その袖口からワイヤーに繋がれたペンデュラムがガス圧で勢いよく発射される。
右腕から放たれたペンデュラムがマンダの左腕を、左腕から放たれたペンデュラムが右腕を絡め取り、
シャッテが両腕を開くと逆作動的にマンダの両腕が閉じられた。
「シャイン!!」
「えあぁぁぁーッッ!!!」
シャインは一度距離を取った後助走をつけ、気合の雄叫びとともに飛び膝蹴りをマンダの顔面に炸裂させた。
更に着地するよりも早く左延髄蹴りと右回転ソバットをマンダの首と脇腹に叩きつけてからようやく着地した。
「いッッッ…たいじゃないの。女の顔を…膝でぶん殴るなんて…。
それに両手も使えない様にしちゃってさ。酷いと思わない?」
「思わない!」
シャインが即答すると続けてシャッテも、
「みんな金縛りにして怖い思いさせてるアンタの方がよっぽど酷い」
冷ややかな顔で答えるのだった。
マンダがシャインの猛攻を受けながらも拘束から逃れようと身じろぎするが、
シャッテはそれを許さずワイヤーでマンダの両腕と繋がる腕に力を込めた。
しかし、突然ワイヤーが切れマンダの拘束が解けたかと思うと目に見えない衝撃がシャインとシャッテを襲う。
シャインもシャッテもその場に転げまわる中、空を切る音と共に黒い影が三つ、激闘で荒れ果てた会場内を縦横無尽に駆け巡り、
三つの影は観客席の最前列に着地した。
1人は動物の、狼の様な耳を頭から生やした少女。
もう1人は腕から無数の羽毛を生やした少女。
最後の一人は手足に魚の鱗の様な物が付いた少女。
いずれも亜人種である事は誰の目にも明らかであった。
そして、
「やれやれ。任せておけと大口叩いておきながらなんだそのザマは。マークしてた奴1人も始末できてないじゃないか。
特にマンダは子供二人に袋叩きにされてるじゃないか。やれやれだな」
不遜な態度で出入口から現れた男が呆れた様子でマンダとクドーを軽蔑する。
殆ど骨と皮だけと言わんばかりに痩せたその男を見るやマンダは、
「う、うるさい!ちょっとぶたれただけだ!!ここから一気に逆転するつもりでいたんだよ!」
「どうだかな。クドーの方はまだ互角みたいだが…」
痩せっぽちの男はリゼルと剣戟を繰り広げるクドーを見据え独り言ちる。
その姿を捉えるや亜人の少女達は目の色を変え、
「正嗣様!」
「正嗣様ご命令を!!」
「早く!リヴィアは早くウジ虫を壊したくて仕方ありません!!」
「やれやれ。ルプスはクドーに加勢、ラークスはガキ二人の相手を、リヴィアはシロウの息の根を。俺はこっから見てる」
三人の亜人少女に命令を下すだけで自分は何もしない痩せっぽちの男にシャインはよろめきながらも立ち上がり、
「あ、あんたは戦わないの!?」
「やれやれ、戦術と言うものが…解っていない。これは様子見…敵の能力を図り戦力差を見極めるための布石…。
それに、参謀は前に出るべきではない…。」
「あんた…何様のつもり?」
「自己紹介がまだだったな。
俺の名は、直江正嗣。エタニティの協力者であり、独立国家オヴェロン国王。それ以外は…何も知らない」




