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オズマ戦記  作者: 葱龍
三章「熱闘!ルトヴァーニャ大武闘会」
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第三十一話「エタニティ」

「何が起きてるんだ」「助けてくれ」「死にたくない」…。

四方からそう言った怒号や悲鳴が狂想曲となって響き渡る中リゼルとシャイン、シャッテは負傷したシロウを庇うように取り囲んでいた。

エルとゴンザ、そしてモヨモトは出入口付近で来場客等を落ち着かせつつ避難誘導に当たっている。

敵が何処から来るか解らないし、どの様な戦力を以て襲い来るのかもまた解った物じゃない。

コウの取り越し苦労である事を祈りたいが…。


「お、お前達…は…?」


シロウが苦悶の表情を浮かべながら上体を起こし尋ねる。


「リゼル・ミァン・ルトヴァーニャ。この国の王女で、貴方と戦った小妻コウの仲間よ。

 そしてそこにいるのはシャイン・バルバとシャッテ・バルバ。」

「なんで俺を助ける?」

「コウにそう言われたから。それに、放っといたら貴方殺されちゃうでしょ?」

「かもな…」

「例え貴方が悪人だったとしても、貴方に死なれるのはコウは望んでないだろうし、私にしてみても目覚めが悪いから」

「なぁるほど」

「な…何よその含みのある言い方」

「ねーちゃん」


ふいにシャッテがリゼルの服の裾を引っ張ってきた。


「ど、どうしたのシャッテ?」

「来るよ」


シャッテの指さす先には赤みがかった金髪の女と…全身を包帯で覆い隠した男。

ゆっくりと降り立ち、リゼル達の下へ近づいてくる。

それに追随する様に観客の内の何人かもリゼルの方へ向き直る。


「随分と察しが良いのね。私達の方から声をかけるつもりだったんだけど」

「そんな殺気だっていたら嫌でも気づく」


シャッテが即座に反論するとシャインが、


「シャッテちゃん、あの人達…」

「うん、解ってる。凄く怖い人。母様に言われるがままだった私達とは違う。

 自分から悪い事を率先してやる人…。」


「あら怯えちゃって。可愛いお嬢ちゃん達だ事。私の名前はマンダ。スカーレット・マンダ。秘密結社エタニティの戦士。今後ともよろしくね…」


自己紹介するとマンダはニタリと口元を吊り上げて笑う。

妖艶であると同時に不気味な笑みにシャインもシャッテも、リゼルも肌を粟立てる。

リゼルは内なる畏れを押し殺しながら、


「今後ともじゃなくて、これっきりにしたいわ。」

「私を前にしても尚気丈に振舞えるとは、流石ねお姫様。私の異能は既に発動していると言うのに…」

「異能を?」

「周囲の生物の神経を麻痺させる。それが私の異能…。

 例外的にごく一部、意志力の強い相手には効かないみたいだけど…貴方達は大丈夫そうね」

「効かないのに…大丈夫ですって?」


すると包帯男が前に出て、


「こいつの異能は人の動きは止められても殺す事は出来ない。

 だから大衆の目の前でシロウを処刑すると同時にリゼル、アンタを殺し大衆達のショックを煽ろうと言う訳だ。」

「その声…!!」


リゼルは、包帯男の声に聞き覚えがあった。

あれは一か月以上前、城から聖剣を奪い大勢の人間を傷つけ殺していった、あの極悪人によく似ている…。

まさかとは思いたいが。


「久しぶりだな…あのコウとか言う野郎がいないのは気になるが……」


包帯男の全身を覆っていた包帯が突如として引き裂かれ、隠されていた素顔が露になる。

白髪と死人の様でありながら狂気を孕んだ眼。

嗚呼、この男こそまさに…


「クドー……!!」

「おねーちゃん、クドーって?」


シャインが問い、シャッテと共にリゼルを見つめる。


「貴方達2人と会う前、お城から聖剣を奪って悪い事に使おうとした奴よ。」

「悪い奴って事?」

「それも私が今まで出会った中じゃ一、二を争うほどにね」


シロウはクドーの方を見やると、


「…新人が、俺の始末をしに来た訳か…。」

「無様だなシロウ。利用価値がなくなったと判断されて殺処分。役立たずにはお似合いだ」


満身創痍のシロウを役立たずと侮蔑するクドーの横柄な態度にリゼルは怒りを露わにし、


「貴方!それが仲間にかける言葉なの!?」

「仲間だと思った事は一度も無いね」

「殺させない…貴方にだけは絶対に…!!」

「ならどうする?」

「倒す!絶対に!!」


そう怒鳴るとリゼルは髪留めを外し二振りの剣へと変える。

同時にマンダとクドー、それに観客の中に紛れていたエタニティの下位戦士達が一斉に襲い掛かった。



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アルバスの右手から紫色に光る球が放たれ、コウ目掛け一直線に突き進む。

コウは状態を逸らす事でこれを回避。


「さっきまでの威勢はどうした?防戦一方じゃないか」

「くそっ、余裕かましやがって…」


実際アルバスの言う通りであった。

アルバスにはまるで付け入る隙がなく、コウは為されるがまま。

このままではマズい。そう思った瞬間、上面と左右を壁と天井で覆われている廊下に稲妻が走った。

何事かと思うより早く、コウの右手には剣が握られていた。


「ペンドラゴン…またお前の力を借りる日が来ようとはな」

『悠長な事を言っている場合か。この男に対しては、お主の持てる力を余さず出し切らねば勝てん』

「かもな…」


「ほぅ、聖剣を呼んだか。これで少しは楽しめると言う物!」


そう言うとアルバスは一気に距離を詰めて右の手刀を繰り出した。

すぐに聖剣でガードするコウ。

瞬間、凄まじい衝撃が場の空気を震わせ、壁と天井に真一文字の亀裂を刻み付ける。


コウは足を踏ん張り、剣を握る両腕に力を込めてアルバスを弾き飛ばす。

すぐに体制を整え着地するアルバス。

再び紫の光球を左、右、左と三回連続で投げつけるが

コウはそれら全てを聖剣で弾き飛ばした。


「そうだ。やはり勇者は剣で戦わねば。」


しかしアルバスは余裕の表情を崩さない。

その事にコウは苛立ちすらも覚えていた。



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「トアァァーッ!!」


エタニティの下位戦士がリゼルに襲い掛かる!


「ヤァァーッ!!」


リゼルは右手に握った細剣を突き出す!


「グワーッ!!」


エタニティの下位戦士の腹に細剣が突き刺さる!

刺さった反動でエタニティの下位戦士はそのまま後方へ吹き飛ばされる!


「…敵とは言え辛い‥‥!もっと強い心が欲しいです、父様……!!」


腹を押さえ苦しむ下位戦士を見やりリゼルは独り言ちる。

しかし相手への感傷はシャインの「お姉ちゃん上!」と言う叫びにかき消される。

言われた方を見上げると別の下位戦士。その手には槍が握られている。


「イヤァァーッ!!」


このまま対処するのはたやすいが、視界の端々にはまだエタニティの戦士が何十人もいる。

それにマンダとクドーも…。この二人は吹けば何処へでも飛んでいくような下位の戦士とは違う。

下位戦士どもに手間取り体力を消耗させるのは得策とは言えない。


リゼルと同じ事を考えていたのかシャッテが、


「お姉ちゃん、下がってて」


シャッテの胸の前に両手をかざすとその中心に風の球が現れた。

シャッテはそれを大きく振りかぶると、


超獄大旋風(アンリエッタ・ハリケーン)!!」


風の球を下位戦士たちの中心目掛け力任せに投げ飛ばす。

風の球は地面に落ちると同時に弾け、巨大な竜巻となって下位戦士たちを呑み込んでいく。


「もの凄い突風…けどこれなら…!」


荒ぶりその場に居合わせた者全てを吹き飛ばさんとする竜巻にリゼルは顔を伏せながら呟く。

竜巻はしばらくその場に留まり続け、治まる頃には下位戦士の姿は殆ど無くなっていた。


「チッ、役に立たない連中ね…。お嬢ちゃん達を消耗させる事すら出来ないの?」


下位戦士たちのあまりの不甲斐なさにマンダは毒づく。

まるでゲームの雑魚キャラ同然に薙ぎ払われる部下共に腹が立ったのだろう。

しかしクドーは彼女とは対照的に飄々とした態度で、


「まぁ良いだろ。雑魚共にやられたら却って興ざめしちまう。」


クドーの腕から伸びる糸を見るやシロウは脇腹を抑え、よろめきつつも立ち上がる。

それを見たシャインは、


「ダメじゃないの寝てなくちゃ!」

「解ってる!!ガッハ…こいつに勝てると言う保証がないのも…ブホッ!俺が戦える状態じゃないって事も!!

 だが!いやだからこそこいつは!!ゴフッ…俺を守りながら戦える相手じゃない!!

 それに俺にはアルバスに手を貸してしまったツケを払う義務がある!

だから…俺にそのツケを…グフッ!は…払わせてくれ!!頼む!」


吐血しながら懇願するシロウ。

己が身を顧みぬその気概にリゼルは、


「…解ったわ。貴方のやりたい様にやりなさい。ただし、絶対に死なない事。」

「ありがたいぜ…!」


リゼルに感謝し前に出るシロウを見やったクドーは、


「くたばりぞこないが。テメェの役目なんざもう終わってるんだよ、さっさと往生しやがれ!!」

「その役目は、元々アルバスが一方的に与えた物だ。行く場所の無かった昨日までの俺だったらただそれに従うしか無かった。

 だが今は違う。今はただ…生きたいと、生きてあいつに詫びたいと思っている!だから!!俺は生きる!!!生き抜いてやる!!!!」



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コウの振るう聖剣の斬撃がアルバスの胸から腹にかけてを打ち据え、鮮血が飛び散る。

既にアルバスは顔も胸も腕も足も、全身至る所が傷だらけになり満身創痍。

勝利を確信せずにはいられなかった。


「デカい口叩いてた割にはもうボロボロじゃないか。このまま一気に勝負を決めてやる!」

『待てコウ!あの男、完全に押されていると言うのに…!!』


だが彼の表情は苦悶に歪むどころか不気味な笑みを浮かべている。


『おかしいとは思わないか?』

「言われてみれば確かに…。何か裏があるとしか思えんが。

 おいアルバス!何痛めつけられて笑ってやがる!!何かの作戦か!?」


「作戦?違うな、ただ嬉しいだけさ。こうして痛めつけられ苦しむ度、お前を憎いと思えば思うほど、

 私の魔法は力を増していくのだからな」


『苦しみ憎む程力を増す?まさか!?この男…』


表情こそ変わらないものの聖剣ペンドラゴンは心底驚いた様子を見せる。


「どうしたんだ?」

『この男…闇属性の魔法の使い手だ』

「闇属性…光の魔法とは対極に位置する的な代物なのか?」

『その通りだ。魔法は祈りを具現化させる者である事は以前話した通りだが、

 闇の魔法は祈りではなく、怨みや妬み、苦しみと言った負の感情…呪いを具現化させる。

 相手を洗脳したり、記憶を改竄したり、呪い殺したり、

 人道に背く物の多さからルトヴァーニャをはじめ多くの国では闇の魔法を会得したり使用する事はタブー視されているのだが…』

「勝てるのか?」

『むしろ光の魔法を使えるお主でないと勝てない』


「ついでにもう一つ良い事を教えてやろう。小妻コウ、君はその聖剣に選ばれた様だが…

 私も既に選ばれているのだよ」


「なに?聖剣がもう一本あるとでも言うのか?」

『そんな筈はない…!私以外に聖剣があったとしても、あの様な男を使い手に選ぶ訳がない!!』


アルバスが右手を掲げると、オブシダン色の稲妻が轟音とともに天井を破壊した。

眩い光と立ち込める土煙に思わず顔を伏せるコウ。

土煙が晴れるとアルバスの右手には剣が握られていた。

一見すると聖剣ペンドラゴンに酷似しているが、その色は黒く、刀身も禍々しく歪曲している。


「なん…だ?その剣は…」

「紹介しよう。魔剣モルドレッド…。私の信頼する武器だ」


そう言うとアルバスは手にした魔剣を弄んで見せる。

一瞬、コウの目にはアルバスの傷がみるみる内に塞がっている様に見えていた。

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