第二十八話「一回戦終了」
ロドリゲスが起死回生の一手として右ストレートを繰り出すが、
ツバキは突き出された右腕の動きに合わせ、コマのように回転しながら右ストレートをいなし、
剥き出しになった右脇腹にカウンターの水平チョップを叩きつける。
試合が始まってからずっとこの調子。
殴ろうとすれば殴り返され、蹴ろうとすれば蹴り返され、
投げようとすれば投げ返される。
反撃の糸口が全くつかめないし、何より観客がツバキの方ばかりを応援してるのがロドリゲスには辛かった。
惨めだ。
家業である家畜の世話を捨ててまで鍛え上げ、賞金で親に少しでも楽をさせてやろうと思ったのに。
現実はただの農民であるロドリゲスにはあまりに厳しすぎた。
ロドリゲスは脇腹を抑える手を一度降ろすと、
「…参った。オイラの負けだ。」
ギブアップ。
自らの敗北を認め降参する行為。
誰しもがツバキの勝利を信じて疑わない試合だったが、
そのあまりにあっけない幕切れに会場からはブーイングが巻き起こる。
「あんたも解ってたんだろ?オイラじゃあんたにゃ勝てないって…。
これ以上やったって、何にもなりやしない。だから…」
「…解った。貴方が降りると言うなら無理強いはしない。
次に会える日を、待っているわ」
ロドリゲスは何も言わず、トボトボと会場を後にした。
ツバキはその背中を見て若干の後ろめたさを感じずにはいられなかった。
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「凄かったなあのツバキって人…。動きに全く無駄が無い。」
試合の一部始終を見たコウは、率直な感想を述べた。
「しかもただのカウンターじゃなく、人体の構造上喉の次に鍛えにくい脇腹を正確に狙った、とても強烈な一撃だ」
ゴンザが光の言葉を紡ぐように続いたが、
「一撃じゃない。僅かな時間の間に何十発も手刀を打ち込んでる…」
リゼルには見えていた。
刹那の内に嵐の如く叩きこまれた連撃の軌跡を。
そしてそれだけ激しい猛攻を加えても尚汗1つかかないツバキの妙を。
「コウよ、お前がこのまま順調に勝ち進めて行けば、決勝で当たるのは彼女になるかもしれんぞ」
マスター・リドが話を締める様に告げた。
直接言葉にはしてないが、彼の眼は『女だからと言って手加減しようなどと思うな』と言っている様に感じられた。
程なくして第八試合が終了し、
第二試合の対戦カードが出そろった所で大武闘会一日目の日程は終了となった。
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その日の食事は会場に設営された食堂で摂る事になった。
80人ほどが座れるであろう長テーブルが8つほど、それよりもやや短めのテーブルの上に肉やサラダの乗ったオードブルが幾つも並べられ、
大会の参加者とその関係者たちが各自に料理を皿に盛り付けていく。
所謂バイキング方式なのだが、部屋自体は全く飾り気がなく殺風景。
ただ食欲を満たすだけの空間と言っても過言ではない。
コウもとりあえずチキンに似た肉料理とサラダを摂り食べはしたが、
何分語りたい事は昼の内に語り尽したため、無言のまま黙々と食べ続ける。
気まずい。が何を話せばいいか解らないもどかしさをコウは感じずにはいられなかった。
そんな折だった。
「すいません、隣…良いですか?」
自分と同年代位の少女を連れた若い男が話しかけてきた。
「良いけど」
別に減る物でもないし、とコウが承諾すると男はコウの左隣に、少女はその向かいの椅子に腰を下ろす。
「あんた達も参加者か」
コウは左隣に座った男に問いかけてみる。
「はい。世界中旅してるんですが、旅費が尽きてしまい…。あ、申し遅れました。俺、シバタ・カツヤと言います」
「シバタ…三回戦で戦ってた選手か。連れてるのは…彼女か何か?」
「そう見える?」
彼女、とコウに言われた少女は不満そうな顔を浮かべている。
「いや、俺の妹です。ほら、挨拶して」
「シバタ…ユキです」
ユキ、と名乗った少女は仏頂面のままお辞儀。
「すみません、彼女人見知りが激しくて…」
「カツヤにユキ…お二人さん、日本人か?」
日本人、と言うアーサレナでは聞き慣れない単語にカツヤとユキは眉をピクリと反芻させる。
「え、えぇ…。父母と一緒に旅行をしていたのですが、道中で事故に遭い気が付いたら…」
「もしかしたら父と母もと思い旅を続けているんです。ご存じ、ないでしょうか?」
「残念ながら…」
先程コウに見せた態度とは対照的に不安を抱えた表情で必死に懇願するユキだったが、
リゼルは残念そうに首を横に振る。
「そうですか…」
「でも、捜索願とか出しておけば今すぐとはいかないけど貴方達のお父さんお母さんを、誰かが見つけてくれるかも」
「本当ですか!?良かったなユキ、ほんの僅かだが希望が見えてきたぞ!!」
リゼルの言葉にカツヤの表情が明るくなるのを見るやコウが、
「話は変わるけどカツヤさん、ユキさん」
「さんは付けなくて良いです。呼び捨てで構いません」
「じゃカツヤにユキ、赤い髪に黒い鎧を着た男に会わなかったか?」
「いえ…赤髪の人ってこっちじゃそう珍しくはなさそうだし黒い鎧ってのも…」
「名前はアルバス・ロアと名乗っていたが、とにかくその男には気を付けた方が良い。
奴は俺やお前達兄妹の様に別世界から転生してきた人間を集め、何かを企んでいる。
その何かについてはまだ何一つ解ってはいないが、殺人鬼までも仲間に引き入れてるんだ。ロクな事じゃないのは明白だ。
奴に仲間になれと言われても、断れ。抗え。誘いに乗るな。試合以外でお前達と戦いたくない…」
「…解りました。アルバス・ロア…。肝に命じておきます」
その後、コウ達とシバタ兄妹は食事を終え宿に戻るまでの間語らい合った。
今日に至るまでに体験した冒険の事、前の世界では何をしていたのか、
そしてどんな物が好きなのか…。
語らいは食事が終わった後も続き、コウはアーサレナに来て初めて「友」と呼べる存在に出会ったような感覚を味わわずにはいられなかった。
夜も更け、それぞれの止まる宿に戻り眠りにつく。
トーナメント一回戦と言いシバタ兄弟との出会いと言い、非常に良い経験が出来たとコウは思う。
大武闘会、参加して本当に良かった。
内心そう呟きつつコウは眠りにつく。
明日は二回戦。その相手は…あのシロウ。
奴がどの様な技を使うか、奴の「異能」は何か…。
そのいずれもコウは知らない。




