第二十七話「続く激戦」
試合を終えジン・ハウロンの巨躯が担架の上に乗せられ係員に運ばれていく。
ジン・ハウロンの下に駆け寄るとコウは、
「その…大丈夫ですか?」
ジン・ハウロンは苦痛に顔を歪めながらコウの方へ首を巡らせると、
「心配いらん。勝ったんだからもう少し嬉しそうにしろ」
係員が担架を持ち上げ、ジン・ハウロンが運ばれていく。
行先はおそらく備え付けの医務室だろう。
そう1人納得するとコウは観客席のロイヤルクラスに座るリゼル達の姿を見つけ、彼女等の下へと歩いていった。
「やったじゃないコウ!」
ロイヤルクラスにたどり着いたコウを真っ先に歓迎したのはリゼルだった。
「何と言うか、いきなり決勝戦やったような…そんな感覚だった。あの人ホント強い…」
コウがジン・ハウロンと戦った時の感想を率直に伝えると、
「そりゃそうさ。あいつ今大会の優勝候補だぞ?」
そう言ってきたのはモヨモトだ。
「知ってんの?」とコウが問うと、
「3年前の大会を、ちょい人には言えないやり方ではあるが見に行った事がある。
そこで惜しくも名誉騎士になり損ねはしたが準優勝を果たしたのが、あのジン・ハウロンだ。
コウ、お前は先の試合で前大会の準優勝者に勝ったんだ。言うなれば、お前がこの大会の台風の目になっている」
「へぇ…」
強い訳だ、と納得すると同時に自分はとんでもない事をやっているのではと言う恐怖をもコウは感じずにはいられなかった。
すると突然場内がなんたびか沸き上がり、
「ほらコウ、次の試合始まるみたいよ。座って」
「次の試合って言うと…」
コウが中央の舞台を見やると、そこにはやや痩せ型で浅黒い肌をしたボクサーパンツ姿の男と、藍色のジャケットを着たツンツン頭が。
「アイツか…」
「控室で妙に馴れ馴れしく握手を求めてきて、コウが得体のしれない何かを感じたみたいだけど…」
「その謎が、いよいよ解けると言う訳じゃな」
コウとリゼルのやりとりを紡ぐ様にリドが言う。
コウはリドの左隣に腰を下ろした。
ツンツン頭=シロウはレッドサイド。ブルーサイドに立つ男はチャン・コーローと実況担当者が紹介すると、
「それでは第二試合、はじめ!!」
ゴングが鳴り、試合が開始されると先に仕掛けてきたのはチャンの方だった。
まるで機銃掃射の如き凄まじいパンチのラッシュとムエタイを彷彿とさせるミドルキックを組み合わせた激しい攻撃にシロウは防戦一方。
このままチャンの勝利で終わるかに思われたが、
チャンの右ストレートをシロウが左手で掴んだ瞬間、流れが変わった。
「捕まえた」
シロウが嗤いながらそう呟くのをコウは確かに聞いた。
そして、さっきのお返しと言わんばかりにシロウがチャンに殴りかかる。
顔、顎、腹、脚を執拗なまでに何度も殴り何度も蹴るシロウの顔には笑みが浮かぶ。
相手を甚振り、傷つけ苦しめるのを楽しむかの様な狂気を孕んだ笑みが。
ベキィ!と言う不快な音と共にチャンの左足がくの字に折れ、チャンは崩れるが、
それでもシロウの猛攻は止まらない。
ゴングが鳴り、スタッフがシロウを強引にチャンから引き剥がすと、
「まだだ!まだコイツは参っちゃいねぇ!!俺の前に立ちはだかる奴は悪!悪は徹底的に叩きのめさなきゃ…」
スタッフに無理矢理シロウが場外へ連れていかれると、会場は一気に静まり返った。
リゼルはコウの方を見やり、
「…今の試合見て、何か解った?」
「少なくとも、シロウがマトモじゃないと言うのは解った」
続く第三試合、モージ・モージィとヨゥスィー井上の対決は
モージィのアキレス腱固めが決まりヨゥスィーがギブアップ。
モージィが二回戦へと駒を進める事となったが、観客からは「絵面が地味すぎる」と非難轟々であった。
第四試合はシバタ・カツヤとエルマ族の戦士ルコラの対決。
ルコラの風魔法に一時は劣勢に立たされるカツヤだったが、
突然スイッチが入ったかのように動きが変わりそのままルコラを場外へ弾き飛ばし逆転勝利。
カツヤの急な変化にコウも何か得体の知れないものを感じたのか試合終了後から神妙な表情を浮かべずにはいられなかった。
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控室に置かれた椅子に腰かけるアルバス・ロアは苛立っていた。
彼は今回の大武闘会に参加していない為、予選で敗退したのが面白くない、と言う訳ではない。
ではなぜ苛立っているのか?その理由は彼の隣でスマートフォンを弄る男にあった。
「随分機嫌悪いなアルバス」
須磨豊太郎はスマートフォンから視線を逸らす事なく問うた。
どちらかと言うと整った顔立ちだが、その表情には覇気がない。
人間、と言うよりはマネキンが動いてると言った方が良いくらいだ。
アルバスは豊太郎の方を見やり、
「お前こそ随分と無責任に聞いてくるな」
「俺は決勝に出られなかったがシロウの方は二回戦進出。良い傾向じゃないか」
豊太郎が嘯くように言うとアルバスは身を乗り出し、豊太郎を睨みつけながら、
「だ!か!ら!腹が立つんだよ!!シロウがまともに素手で戦っていると言うのにお前は何だ!?
初戦でいきなり銃など使いやがって!!そのせいでお前は反則負けだ!!ド阿呆のシロウですら守れるルールを何でお前は守れない!!?」
「面倒くせぇじゃん。それに俺出たいなんて一言も言ってないし。お前に無理矢理出場させられただけだし」
「小学生みたいな言い訳をするんじゃあない!!」
「言っとくが、俺はお前の仲間にも同胞にもなった覚えはない。
俺がお前に協力してるのは、お前が作り出そうとしてる世界がどんな物か確かめるためだ。
意のままに操れると思わない事だ」
「俺だってお前が転生者でないただのゴミクズであったらエタニティに引き込んだりなど…」
険悪なムードが漂う中控室の扉が開かれ、シロウが顔を覗かせる。
「あ…お邪魔だった?」
怪訝そうな顔を浮かべるシロウにアルバスは、
「別に構わん。用があるなら入って良い」
そう言われシロウは控室に足を踏み入れる。その足取りは何処か余所余所しい。
一回戦第二試合で見せたそれとはまるで別人だ。
そんなシロウの姿を見るやアルバスはいつもの冷静さを取り戻し、テーブルに肘をつき顔の前で両手を組み合わせると、
「二回戦進出おめでとう、とでも言わせてもらおうか」
「ありがとうございます」
「二回戦の相手は小妻コウだ。アーサレナ生まれのチャンとは訳が違う。心してかかれ」
「強いんですか?その、小妻コウって」
「強い。クドーもあいつに一度右腕を切り落とされ、モアザ・バルバとその二人の娘を同時に相手して生還を果たしている。
しかも彼の力は日増しに強くなっている。いくらお前達2人が己の異能に自信があろうと、奴はそれを凌駕する。
いずれは私さえも…」
「だからそうなる前に潰しておこうと…」
「そうだ。仲間に引き込もうともしたが信用ならないと断られた。となればもう戦って、叩きのめすしか道は無い。」
「だから俺や豊太郎を大会に出して小妻コウを負かし、奴にこれ以上邪魔させないようにすると…」
「そうだ。」
「最初から殺しておけば…?」
「あ、それ俺も思った」
シロウの率直な意見に豊太郎も相槌を打つ。
アルバスはしばし沈黙した後、
「奴が光の魔法に目覚めた今それは困難を通り越し不可能だろう。
過去の勇者の文献には光の魔法には相手の殺気を常人より明確に感じ取る力があると記されている。
コウも同様であるならば、暗殺者を送り込んでも返り討ち。むしろ真正面から戦った方が賢明だろう」
「なるほど」
シロウが納得するとアルバスはすっくと立ちあがり、
「シロウ。お前はたとえ無理でも小妻コウに勝たねばならない。負ければ貴様はその瞬間に『正義』ではなくなるぞ。
今は非公表である以上、エタニティの名に傷がつく事は無いが、悪になりたくはあるまい?」
正義の反対は別の正義、と言う言葉がある様に人の正義とは千差万別。
その中でシロウの考える正義は『勝利した者こそが正義』と言う実にシンプルな物である。
かつてイギリス海軍は何十人もの負傷者を乗せたドイツの船を沈め多くの負傷者を殺したが、
最終的に戦争に勝利している為かそれを咎める者は誰もいなかった。
そう言った意味では、シロウの理念は間違ってはいない。
扉を開け、控室を後にするアルバス。
その後ろ姿を見やりながらシロウは、
「悪になるなんて、嫌に決まってるだろ…」
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通路に出たアルバスは爆音の如く響き渡る大歓声にまず気圧された。
何事かと想い通路を駆け、試合会場に出る。
試合会場では今まさに一回戦第七試合が行われている真っただ中。
戦っているのはシャオハーン出身、ロドリゲス、
対するは大和の国出身、決勝トーナメント進出者で数少ない女性参加者のツバキ・タカクラ。
戦局は、ツバキが圧倒。
相手の攻撃を舞を踊る様に受け流し返しの一撃を確実に叩きつけていく
ツバキのその優雅な身のこなしに観客も魅了され大歓声を上げていた。




