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オズマ戦記  作者: 葱龍
三章「熱闘!ルトヴァーニャ大武闘会」
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第二十六話「激闘制す者」

ジン・ハウロンが右脚を蹴り上げると同時にその右脚から炎が吹きあがる。

蹴りの余りの速さに大気と摩擦が生じ燃えているのか、それとも火の魔法を足に纏わせているのかは解らないが、

まともに当たれば無事では済まない事は明白だ。


コウは両腕をクロスさせると両腕が淡い光を発する。

マスター・リドとの修行により編み出した光の魔法「閃光腕(レイバーム)」。

腕から発した光を剣状に収束させるこの魔法は本来攻撃の為の物だが、

応用すれば盾の様な使い方も出来る汎用性も併せ持つ魔法だ。


ジン・ハウロンの「炎の脚」とコウの「閃光腕」が激しく激突し、スパーク。

場内を眩い閃光が包み込む。


閃光の中、炎と光の激しい鍔迫り合いが繰り広げられ、

コウはジン・ハウロンのパワーの前に思わず片膝をつきそうになる。


「クッ…ゥゥ…ッ!!」


瞬間、コウは思い出した。

険しく厳しい修行の日々を。そしてその最中マスター・リドが口にした言葉を…。


『良いかコウ。もしお前が自分より力の強い相手と戦う時が来たら、決して力で対抗しようとしてはならん。

 激流に逆らおうとしてもいつか力尽き呑まれるばかり。激流の流れに身を委ね、受け流すのだ。

 さすればお前の力が劣ろうと勝機は必ず訪れる』



激流の流れに身を委ね、受け流す…。

その言葉を胸中で呟くとコウはジン・ハウロンの炎の脚に抵抗するのをやめ、思い切り身をのけぞらせた。

予想外の行動にジン・ハウロンは思わず前のめりにバランスを崩す。

その隙を逃さず、コウはジン・ハウロンの右脚目掛け足払いをかけ、

両腕を地につけるとバック転からのダブルキックをジン・ハウロンの腹部にお見舞いする。


大きくのけ反る様に吹き飛ぶジン・ハウロン。

彼の背中が石畳に叩きつけられ嗚咽するが、テンカウントを待つ事なく立ち上がる。

コウを見据えるその眼は、まだ戦意を失ってはいない。



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会場の南側に位置する騎士団用の観覧席。

騎士団のカイルもそこの最も前側の席に座りコウとジン・ハウロンの試合を真剣な眼差しで観戦していた。


「あれがお前の言ってた小妻コウか?」


カイルの右隣に座るスタン・バハモンドが飄々とした態度で話しかけてきた。

やや垂れ気味の目尻とブロンドのウェーブがかった髪が特徴的な美しい顔立ちの青年だ。

彼に話しかけられ様ものなら世の女性は心動かされずにはいられないだろう。

が、彼には問題がある。


「あぁ」

「なんだよしけた面しやがって。小便でも我慢してんのか?」


スタンは騎士と言う礼節を重んじる役職に就いているにも関わらず、品性が無い。

それに加え女癖も悪く金遣いも荒いと、容姿と騎士としての技量以外の要素が著しく劣っているのだ。

武器の扱いに長け魔法も扱える事、それと人当たりの良さから辛うじて存在意義が見いだされてはいるが、

それでも彼の性格を問題視する声は騎士団内でも少なくない。


「これは名誉騎士を決める試合でもあるんだぞ。一隊長としてお前の様に娯楽感覚で見る事は出来ん」

「あぁそう…。じゃ質問変えるけど、どっちが勝つと思う?」

「ジン・ハウロンは前大会で準優勝を収めた実力者だが、そのジンに肉薄しているのが今のコウだ。

 お互い決め手となりうる技をまだ出していない以上、どちらに転んでもおかしくはない」

「じゃ俺ジンが勝つ方に80アルバ」

「…金欠になっても俺は知らんぞ」


試合を賭け事のダシに使うスタンをカイルは呆れ顔で窘めた。



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「やはり、小手先の技だけでは勝負を決するのは難しいか」


ジン・ホウロンが右手を腰だめに構えると、その右手に青い炎が宿る。

自然発火や摩擦熱ではない。これは魔法の炎だ。


「…貴方、魔法が使えたんですね」

「アーレンバーグ流は武術と魔法を組み合わせ最大最適の攻撃を以て相手に勝利する流派。

 それはお前自身も良く存じている筈だ」

「そりゃ、まぁ…ね」

「行くぞ」


コウが身構えると同時にジン・ハウロンは突進。

右掌底をコウの腹に当てると、そこから炎が噴き上がりコウを大きく吹き飛ばした。


「紅蓮掌…!続けて!」


ジン・ハウロンは再び疾走し吹き飛ばされるコウを追い抜くと、

その無防備な背中目掛け炎を纏った回し蹴りを三連続で叩きつける。


「焔舞!そして!!」


ジン・ハウロンはコウの左脚を掴むと一回転してコウを上空へと放り投げた。

空高く舞い上がるコウを追う様にジン・ハウロンは跳躍。

コウの首と脚を両手で掴み、頭を背中に押し付けるとそのまま上下逆さまの姿勢で急降下。

爆音と土煙を上げながら闘技場の石畳の上に激突した。


土煙が晴れるとブリッジ姿勢のまま静止したジン・ハウロン。

その真下には砕けた石畳と露わになった土にめり込んだコウの姿。

ジン・ハウロンはブリッジ姿勢を解き、ゆっくりと立ち上がると、


「これが…桜火だ!」


沸き上がる歓声。動かぬコウ。

もはやジン・ハウロンの勝利は誰の目にも明らかと思われた。

だが!!


「い…てて……」


砕けた石畳を押しのけゆっくりと立ち上がるコウ。

彼の額からは血がしたたり落ちている。

無事ではない事は明白だが、コウは笑っていた。


「何を、笑っている?気でも違ったか?」

「いいや。これはとち狂った笑いなんかじゃあない。勝利を確信した時に見せる笑いさ。

 アンタが今放った三連コンボは確かに強力だ。だが俺はそれに耐え、そして全て見切った!だからこの勝負…俺の勝ちだ!!」

「見切った…だと?俺の勝ちだと?驕るんじゃあない!!」


怒り、右手に炎を宿し再度突進するジン・ハウロン。

しかしコウはジン・ハウロンの右掌底が自らの腹を捉えるより先に己の両手でジンの右腕をいなす。


「なっ!?」

「これが紅蓮掌の弱点、燃えているのは右手だけな上軌道が直線的故読まれやすい」

「くっ!ならこれはどうする!!?」


ジン・ハウロンは二度のバックステップで一度距離を取り、炎を纏った回転蹴りを繰り出そうとする。

しかし、コウもステップでジン・ハウロンとの距離をワンインチに保ち続ける。


「焔舞の弱点は、技を放つには距離を保たなければならない事…!そして桜火の弱点は!


コウはジン・ハウロンの両手首を掴み、


「 技に入る為にはまず!相手を投げ飛ばさなくてはならない事だ!!」


掴んだ両手首を締め上げようとするが、ジン・ハウロンの手首はあまりに太く、

すぐに振りほどかれてしまう。


「一度の内に私が繰り出した技全てを見切ったのは流石だ。だがそれだけで勝敗を決する事は出来ない」

「その通りだ。このまま試合を長引かせると後々響いてくる。だから…」


コウは右手を腰にため身構えると、


「この一撃で、決着をつける」


ジン・ハウロンもやや長めの演舞を舞い、左手を腰にためて身構え、


「…望むところだ」


お互い微動だにせず、水を討ったかのような静寂が辺りを包む。

先程までワイワイと騒ぎ立てていた観客もこの時ばかりは物音一つ立てずただジッと2人の様子を見守るばかり。


誰かの流した汗が頬を伝い、顎に辿りつき、一筋の雫となって床の上に零れ落ちた。

ぴちょん、と音が鳴ったかは定かではないが、それを合図にし一直線に走り出すコウとジン・ハウロン。

コウが右腕を光り輝かせながら突き出し、ジン・ハウロンが左腕に炎を纏わせながら突き出し、一瞬交差。

互いに相手に背を向けながら静止した。

二呼吸、三呼吸ほどの静寂の後、


「……グッ!」


右胸を抑え片膝をつくコウ。

そして、


「………見事だ、小妻コウ…!!」


ジン・ハウロンはそう言うと一瞬ぐらつき、そして前のめりに倒れた。

審判が舞台に上がり、ジン・ハウロンが気絶したのを確認すると、コウの右腕をとり、


「勝者、小妻コウ!!!!」


沸き上がる歓声。

コウもそれを聞き思わず空いていた左腕を上げ喜びを表現する。


「やりました!決勝トーナメント第一回戦!激闘を制したのはなんと!!今大会初参加の新人!

 小妻コウです!!!皆さん、期待の新星に今一度盛大な拍手を!!!!」


決勝トーナメント第一試合、いきなりの大勝負を制したのは、小妻コウの方であった。



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