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オズマ戦記  作者: 葱龍
三章「熱闘!ルトヴァーニャ大武闘会」
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第二十二話「激闘へ誘う声」

柔らかい陽光が窓辺から差し、部屋に設えられたベッドとその上で眠る男を照らしている。

男は人前では見せられないようなだらしのない表情を浮かべながらいまだ眠りこけており、目を覚ますような素振りは一切見せない。


部屋の扉が乱暴に開け放たれ、2人の子供が駆け足で部屋の中に入ってくると、


「にーちゃん起っきろ───!!」

「起っきろ───」


男の腹目掛けてダブルフライングボディプレスをお見舞いした。

男はボディプレスの反動で体をくの字に曲げ、「うげぇっ」と悲鳴を漏らしながら両目を大きく見開く。

三週間ほど前から男の─小妻光の朝はいつもこんな感じで始まる。


「こら二人とも!起こす時はもっと優しく起こせって言っただろ!!」


ベッドから跳ね起きるやコウは部屋の出入口へキャーキャー言いながら駆け出す2人の子供─シャインとシャッテに怒鳴り散らす。

寝ている所にいきなりボディプレスなんてやられた以上彼が怒るのも無理はないのだが、


「良いじゃないのよ、まだ子供なんだから」


出入口の前に立つ寝間着姿の美少女─リゼルに窘められる。

シャインとシャッテが彼女の後ろに隠れてる辺り2人がコウよりリゼルの方に懐いているのが伺える。


デストラでの戦いから3週間、コウがアーサレナに転生してきてからおよそ1か月が経過した。

シャインとシャッテが何でも屋オズマに寝泊まりする様になったが、

部屋数が足りず自室を確保できなかった為仕方なくリゼルと部屋を共有する事になった。


2人は年少者と言う事もあってか何でも屋メンバーの皆から妹の様に可愛がられるなど(リドの場合妹と言うより孫なのだが)、

周囲との関係は良好な一方、家族の話になると途端に表情に陰りを見せるなど彼女らなりに自らの境遇を気にしている節が垣間見えた。




朝食を終え朝の身支度も終えるとコウとリゼルは応接室で依頼人を待つ。

今のところ溜まっている依頼は無いので場合によっては依頼を待っているだけで一日が終わる時も珍しくない。

以前は山のように依頼が来ていたが今は依頼の数もだいぶ落ち着いてきて、デストラに行った時の様な大規模な依頼も来ていない。

来る依頼も最近では猫探しとか棚卸の手伝いとか短時間で終わる物ばかりだ。

街の何でも屋としてはこれが正しいのだろうけれど、コウはどこか物足りなさを感じていた。


「…暇だな」


テーブルに頬杖をつき憂鬱な表情で呟く。

これが今のコウの本音であった。


「どうしたのよ急に。開いたばかりの頃と違って大なり小なりちゃんと依頼は来てるじゃない」


コウの隣に立ち腕を組むリゼルは怪訝そうな視線をコウに送る。


「そう。そうなんだけど…」


コウは頬杖を解くと自らの右手を見つめ、


「この街で身の危険に晒される心配のない仕事をやってると、身体が疼いてしょうがないんだ…。

 もっと刺激が欲しい、戦いたい、強い奴は何処にいるって……」


リゼルは半ば呆れ顔で額に手を当てると、


「はぁ…。コウそれもう病気じゃない。戦いたくてしょうがなくなる病気」

「…病名は?」

「解らないけど、ルプシカには大きい病院があるからそこなら解るんじゃない?」


2人の会話に割って入る様に玄関のドアがノックされる。

コウは慌てて姿勢を正すと、


「ど、どうぞ」


扉を開き現れたのは、青髪の青年。

コウは、リゼルは、その顔を知っている。


「久しぶりだな」

「カイルさん!久しぶりです!!聖剣奪還以来ですか!」


コウと一月ぶりに見せる騎士団員は互いに右手を突き出し、固い握手を交わす。


「お前こそ、元気そうで何よりだ!」

「仲間も仕事も増えてね。毎日賑やかにやってますよ!」


しかし騎士団のカイルがわざわざ何でも屋を訪れたからには、何か大きなヤマを抱えてきているのでは?

そう思ったコウは椅子に座り直し、


「何用で?騎士団じゃ対応しきれない程の厄介事?」

「いやそうじゃない。今日は仕事の話をしに来たんじゃないんだ」


仕事じゃないのか、と言わんばかりに残念そうな顔をするコウを見たカイルは、


「そう落ち込むな。俺が言いたいのは三週間後に行われるある行事の事だ。

 ルプシカに住んでる以上お前の耳にも入れておきたくてね」

「三週間後…もしかしてルトヴァーニャ大武闘会の事!!?」


リゼルが目を丸くして驚く。

ルトヴァーニャ大武闘会。名前からして格闘技の大会らしいが、リゼルの反応から察するにとてつもないイベントらしいが…。


「ルトヴァーニャ…大武闘会って?」

「ルトヴァーニャ大武闘会は、3年に一度ルプシカから西に12マルール(およそ1キロと200メートル)進んだ先にある国立大闘技場で開かれる武闘大会の事で、

 騎士の国であるルトヴァーニャにとっては経済効果の面でも重要な行事だ。」

「毎回世界中から強豪たちが集って日頃鍛え上げた力と技を競い合い、優勝者には国から名誉騎士の称号と賞金100万アルバが贈られるのよ。

 今のコウにはピッタリじゃない?」


一理ある話だった。

大武闘会に出れば日増しに強くなるコウの戦闘欲求も発散できるだろうし、

優勝すればコウはルトヴァーニャの名誉騎士となり、聖剣奪回の時ほどでは無いが大金も手に入る。

参加しない理由など何処にあろうものか…。


「出るつもりなのね?大武闘会に…」


コウが大武闘会に出ると口にするより先にリゼルが口を開いた。

まるで心の内を見透かされている様である。


「……あぁ。優勝すれば富も名声も手に入るし、出来なくとも実力を見せつける事が出来ればより大きな依頼が舞い込む事だってある。

 参加しない理由なんて無いだろう?」

「そうね。参加しない理由は…確かに無いわね」


そう言うとリゼルは何でも屋の玄関まで歩き出す。


「!?どこ行くんだよッ!!」


コウに問われるとリゼルは振り返り、


「ついて来なさいコウ。貴方が自分が何を言ってるか思い知らせてあげる」



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リゼルに促されるがままコウはルプシカの外側、自らが転生した際最初に降り立った場所によく似た草原に連れてこられた。

彼女の手にはカイルに持って来させた訓練用の木剣が左右の手にそれぞれ一本ずつ握られている。

コウも同様だがこちらは一本だけ。

リゼルがコウに提案したのは模擬戦だ。彼女曰く「身の程を解らせる」為らしいが。


「良い?お互い相手の身体に一発でも攻撃を当てられたら勝ち。仕切り直し無しの一本勝負。」

「わ、解った…」


やや自信なさげに応えるコウに審判役を任されたカイルが、


「コウ!」

「はい!」

「相手は女でしかも美人だがかなり強い。手加減しようなんて一切考えるな」

「解りました。」


リゼルは左手を頭上に掲げ両手の剣の切っ先を相手に向ける二刀流特有の構えを取り、

コウもまた両手で木剣を構えなおす。

数刻ほどの静寂。

カイルがゆっくりと右手を掲げ…


「はじめ!」


一気に腰の高さまで振り下ろす。

模擬戦開始の合図。

刹那リゼルがワンステップで一気にコウとの距離を詰めると、右手の木剣をコウの左胸目掛けて突き出した。


「ッ!?」


コウは咄嗟に木剣をかち合わせ突きつけられたリゼルの木剣の軌道を逸らす。

相手の剣劇を装備している武器で受け流し回避するこの技はパリィと呼ばれる物だが、

コウが使ったそれはかなり粗雑で、リゼルの刺突を受けきれず、コウの左肩に直撃し、そのまま後方へ吹き飛ばされた。


「ガッ!!」


うなじから地面に激突する様に墜落し嗚咽するコウ。

勝負あり。…コウの負けだ。


「し、勝者…リゼル・ミァン・ルトヴァーニャ…」


カイルが右手でリゼルの方を指し、彼女の勝利を告げる。

リゼルは吹き飛ばされたコウの下へ歩み寄ると、


「…これで少しは身の程って物が理解できた?」

「ああ…。」

「貴方は幾多の戦いを得て成長したと思ってるみたいだけれど、それはあくまで力が増したってだけで

 戦い方も単調な力押しばかり。大武闘会の予選を通過できるレベルの相手にはそんな物は全く通用しないわよ」

「…だから参加は諦めろ。と言いたいんだろうけど、そればっかりは聞けないな。

 力押しじゃ勝てないって言うなら、技を身に着けるまでの話だ。

 俺は自分の力を知り、それを示し高めたい…!」

「…やれやれね。諦めさせるつもりで模擬戦をやったのに、逆にやる気にさせちゃうなんて…。

 解ったわ。鍛えてあげる。その代わり、かなり厳しく行くから覚悟なさい」


そう言ってリゼルは木剣を右手で束ねる様に持ち直すと空いた左手をコウに差し出す。

その表情は先程までの厳しい物ではない。普段シャインやシャッテの前で見せる様な穏やかな表情だ。

コウはフッと笑みを浮かべてみせると、


「よろしく頼んだぜ」


リゼルの手を取り立ち上がった。


「これから大会までは臨時休暇取らないとな」

「じゃ、本業の方はエル達任せになるわね。みんなにも趣旨を伝えないと」


こうして、コウの修行の日々は始まった。


ルトヴァーニャ大武闘会開催まで、あと21日。


長らくお待たせしました。

今回より第三章開始です。

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