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オズマ戦記  作者: 葱龍
二章「光と影の魔術師」
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第二十一話「夢から醒める日」

「許しはしませんよ小妻光…貴方だけは!!」


モアザが左手を振るうと彼女の足元を中心に地面が音を立てて凍り付いていく。


領域凍結(フリージングゾーン)

任意の範囲の気温を瞬時に下げ、凍結させる魔法だ。

有効範囲は発動時に消費する魔力量により異なり、

同じ氷属性魔法の氷惨(スプラッターバーグ)が点を攻めるならこちらは面を攻める魔法。

単独で複数の敵と戦う場合に威力を発揮する、解りやすく言えば「全体魔法」だ。


「飛んで!!」


リゼルに促されシャイン達は跳躍。

刹那、シャイン達が数刻前までいた箇所が凍り付く。

ほんの一瞬でも飛ぶのが遅れていたら、足元から腰、腰から胸、胸から腕と頭が瞬く間に凍り付いていた事だろう。

しかし、


「しまっ…!?」


コウは跳躍するのが僅かに遅れ、左足のスネから先が凍り付いてしまう。

そして、モアザはコウの隙を見逃すほど寛大ではない。


空中で体勢を崩したコウ目掛けて炎の球が投げつけられる。


「さしもの聖剣を以てしても、この一撃を防ぐ手立てはないでしょう!!」


コウは咄嗟に聖剣を構え防御態勢を取る。

聖剣の力で炎の球を吸収、一度着地してから反撃に出る算段であったが、

現実はそう上手くはいかなかった。

炎の球は聖剣に吸収される事なくコウの身を焼き、火達磨になりながらコウは凍り付いた地面に激突する。


「うぐぅぁっ!!なん…でだ?なんで…吸収できない…!?」

『コウ、言い忘れていたが相手の魔法を吸収できる回数には限りがある。

 許容量は相手の魔力によってまちまちだが、モアザ・バルバレベルとなると吸収できるのは二回が限度と考えた方が良い』

「無限に吸収できるんじゃないのかよ!」

『コップに容量以上の水を入れると水が溢れるだろ?それと同じ理屈だ。』

「つまり魔法による攻撃はもうかわすしか…待てよ?お前が、聖剣ペンドラゴンをコップとして、魔法を水とするなら…

 聖剣に溜め込んだ魔法のエネルギーを放出することも出来るんじゃないのか?」

『ふむ…確かに吸収した魔力を外気へ放出すれば蓄積された魔力は0に出来る上、上手く応用すれば攻撃に転用する事も可能だ。

 だが…』


そこから先の言葉は何となく想像できた。

魔力放出などと言う単純明快な攻撃を易々と喰らってくれるほどモアザは甘い相手ではない。

軽々と避けられ手痛い反撃を喰らうのがオチだろう。

しかもモアザが魔法で攻撃せず、常備しているであろう魔道具を用いての攻撃に転じるのは明白だ。

しかしコウは少しよろめきながらも立ち上がり、


「お前の不安は解る。だが一つ見落としている事があるぞ」

『なんだ?』

「俺達は一人で戦ってるんじゃない。みんな!」


コウの一声にリゼルが、エルが、シャインが、シャッテが一斉にコウの方を振り向く。


「動きを抑えておいてくれ!とびきりデカいの用意するから!!」


リゼルは何も言わず、首を縦に振るとあらかじめ髪飾りに戻していたブーメランの一つを再び剣の姿に変え右手に握ると、頭上高く剣を掲げる。

するとどうだろうか。稲妻がリゼルの剣目掛け降り注ぎ、


「フュリューガ・テール……ストライク!!」


リゼルが剣を振るうと同時に刀身から稲妻がモアザ目掛け放たれる。

フュリューガとはアーサレナの伝承に伝えられる雷を司るドラゴンであり、尻尾を振るうと稲妻が迸り、

悪徳に満ちた街ヤドゥんを一夜の内に塵に変えたと語り継がれている。

悪を討つ雷撃、とはよく言った物とモアザなら言うだろうか。

コウにとっては何となくカッコいい名前つけただけだろうけれど。


モアザは6歩分後方へ跳ねてこれを回避。モアザの目の前の地面が稲妻に大きく抉り取られ、土塊や小石を弾き飛ばしながら小さなクレーターを作り出す。

リゼルの放ったフュリューガ・テール・ストライクのその威力にモアザは驚愕したが、


「やっ!」

「ていっ!」

「りゃぁーっ!!」


そこへエルの投げナイフ、シャインの竜巻、シャッテの岩塊が同時にモアザへ殺到する。

しかしモアザを狙ったはずのそれらはモアザから大きく逸れ、まるで網目を縫うかの様にモアザの周囲をすり抜けた。



何故。モアザがその意図を考え、コウの言葉を思い出した頃には時すでに遅し。

モアザに肉薄したコウが彼女の背中に聖剣を突き立て、


「すっげぇ痛いから覚悟しな」


聖剣に蓄えられていた魔力を一気に解き放つ。

解き放たれた魔力は真白なエネルギーの奔流となって瞬く間にモアザを呑み込み、彼女の視界にあったであろう木々や建物を消し去っていく。

コウは一瞬、建物の中や近くにいた人達が遠くへ避難している事を願った。


魔力の放出は数秒ほど続き、エネルギーの奔流が止むとそこには大きく抉られた地面と一部分が円形に削り取られた建物と木々、そしてうつ伏せに倒れたモアザの姿があった。

魔力放出の衝撃を受けてか先程は密接していたモアザとコウとの距離は30マルト(約45m)も離れていた。


「……お前どれだけ魔力溜め込んでたんだよ」

『それだけモアザの魔力が凄まじいと言う事だ。今の魔力を一気に放出する技だが、「チカヅイテ・ドーン」と名付けるのはどうだ?』

「…ダサすぎるから却下」


常軌を逸した魔力とそれがもたらした破壊、そして壊滅的な聖剣のネーミングセンスにコウはやや自嘲気味に笑う。

これをクドーに奪われたまま放置していたら世にも恐ろしい結果になる事は容易に想像できる。

この力があるからこそ聖剣は自我を持ち、己を振るうに相応しい戦士を自らの意思で選ぶのだと言う事も。


「ところで…死んだのか?あれ」

『もしそうだったとしても、君に落ち度はない。これはね仕方のない事だったのだ』

「けどよ……。」


と、目の前でモアザが身じろぎし、そしてよろめきながら立ち上がった。

衣服の端々が擦れてボロボロになり、息も絶え絶え。見るからに満身創痍と言う様相だ。


「ま、まだ……!」


振り向いたモアザの顔は土埃にまみれ、髪もボサボサ。口の端からは血も滲み出ている。

立つこともままならない筈のモアザを見たコウは、悲しげな表情を浮かべ、


「もう、やめてくれ。立たないでくれ…。今のアンタとは戦えない……!」

「まだ…倒れる訳には……!」


コウの制止も聞かず尚も立ち向かおうとするモアザ。


「母様!」

「もうやめて!!」


一歩前に歩み出たシャインとシャッテが身構えるが、コウが2人を左の手で制し、


「止めたい気持ちは痛いほど解る。けど、それでもお前達2人は手を出しちゃいけないと思う。

 だから…」


コウは聖剣を逆手に持つと、近場に突き刺した。


「俺がやる」


コウは深呼吸した後、両手を右腰に据え魔力を両掌に集中させる。

魔力エネルギー体が眩い光と共に精製され、辺りが青白い光に照らし出された。


「物凄い魔力の質量…!一体どんな魔法を使おうと言うの?」


コウの両掌に収束される魔力エネルギー体の質量とあまりに眩い閃光に目を伏せながらリゼルが驚愕する。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ────────────────────────────────────ッッッ!!!!!!」


雄叫びと共にコウが両掌を真正面に突き出すと同時に、閃光となった魔力エネルギー体が空気の爆ぜる音と共に発射された。

閃光が再びモアザを呑み込むが、先程聖剣が吸収した魔力を放出するのとは何かが違う。

光が消え去った先にモアザの姿はある。倒れている。だが別段ダメージを受けた様子はない。

その事を不思議に思ったシャインが、


「…何をやったの?」


コウは膝から崩れ落ち、肩を上下させて荒い息を吸っては吐き、吸っては吐きを繰り返す。

先程放った魔法はそれほど魔力の消費が激しいのだろう。


「やっつけたのさ…。お前達のお母さんそのものでなく…その奥底に潜んでる悪い心を…ね。」

「そんな魔法、教わるどころか聞いた事ない…」

「当り前さ。今俺が…考えたんだからな…。獅子の叫びにて、悪しき心を討つ。名付けて…「獅子咆哮波(リオローア)」。

 ・・・さて、と」


コウはゆっくりと立ち上がり、モアザの傍まで近づくと、


「立てるか?」

「…完敗ですね。やはり私が間違ってました…」

「いや、無理矢理な政策で国民を苦しめているデストラを何とかしようと言うアンタの思いは間違っちゃいない。

 間違ってるのは娘を利用し、濡れ衣を着せる為他国から魔術師達を攫うそのやり方なんだ。結果を急いで武力なんて手段に出るんじゃなくて、

 自分と同じ思いを持った人達と共に少しずつこの国を良くしていく方法を模索すれば、きっとこの国のお偉方だって解ってくれる」

「私の夫ザルディンも同じ様に同志を集めました。けど国側は聞き入れるどころか暴力で主張をねじ伏せると言う暴挙に出てしまった…。」

「だからと言って力で解決したらデストラと同じだ。ザルディンさんだって、アンタや娘達が自分の復讐をする事は望んでないだろう。」

「だが私は既に……」

「償いましょう。余生を費やす事になってでも」

「…そうですね。それが、過ちを犯した私が、最後の最後に出来る事……」



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モアザ・バルバは誘拐とテロ等準備罪、それに洗脳魔法を内包した魔宝石の所持と使用に伴う「魔道具管理法違反」でデストラの軍警察に逮捕された。

魔道具管理法とは、アーサレナに存在する数多くの魔道具に関する法律であり、

洗脳魔法などタブー視されている闇属性の魔法を内包する魔宝石や、島1つ分以上の範囲を破壊する威力を持った魔法を放つ兵器などがこの法律の適用内となっている。

この魔道具管理法に違反した場合良くても懲役、最悪の場合極刑もあり得る程の重い罪であり、

それは同時に魔道具の持つ危険性の照明ともなっているのだ。


娘のシャインとシャッテについては自身の意思で犯行を行っていないのと、そもそも未成年であった事から罪に問われる事は無かった。

操られ、攫われたルトヴァーニャの王宮魔術師達はコウの覚えたての魔法「解呪(ディスペル)」により無事元に戻り、

ルトヴァーニャへ帰国する為の交通手段も商談の末デストラ側が特別に用意してくれる事になった。


通報により廃教会前に集まった軍警察は統制の取れた動きで迅速に野次馬を追いやり、現場の実況見分とコウ達への事情聴取、

証拠品の押収に乗り出していた。

無駄のない立ち回りにコウは流石プロフェッショナルと感銘する反面、何故もっと早く来ないのかと言う不満も感じていた。


そんな事を考えるコウの前に、男が一人近づいてきた。

初老特有の目元と頬に皺の寄った顔にゴワゴワとした感じの顎髭。

過剰なまでに装飾の施された白いコートから男がこの国の、デストラの高い位に立つ者である事はデストラの御家事情に疎いコウの目にも明白であった。


「君か。我が国に潜むテロリストを退治してくれたと言う少年は」

「貴方は?」

「私はデストラ共和国の大統領、マウザンディアだ」


マウザンディア。男がそう名乗った途端コウの彼を見る目は懐疑から嫌疑へ変わる。

こいつがモアザさんを間違わせたデストラの現大統領。

こいつがいなければ、一連の事件も起きずに済んだ…。

今すぐに殴りたくなる衝動を抑え、コウはやや皮肉交じりに、


「…良いんですか?大統領ともあろう方がこんな所でお茶を濁したりして」

「何を言う。国の危機を救ってくれたんだ。君にお礼がしたい。さ、望む物があったら何でも言ってくれたまえ」

「…俺はこの国の為に戦ったんじゃありません。ただ攫われた人を助けてほしいって依頼され、それから一組の家族を助けたかっただけです。

 望む物があるなら…そうですね、今回の事件の事、公にはしないで下さい。色々と面倒ごとに巻き込まれそうなんで」


マウザンディアに辛辣に告げるとコウは踵を返し仲間たちの下へ歩いていく。


「なんなんですかあの小僧は。まるで礼儀がなっていない」


コウの背中を見やり護衛の兵士は毒づくが、マウザンディアは、


「良いではないか。羽虫一匹の無礼で私の地位が揺らぐわけではないし、今回の事件で軍備を増強するための大義名分もできた。

 それに噂ではあの小童は、伝説の勇者の生まれ変わりと言われてるそうじゃないか」

「はい。」

「その勇者の力をルトヴァーニャが有してるとなればこちらとて対抗手段を用意せねばなるまい」

「ええ。全く、その通りです」


これから行われるであろう軍拡は凶行ではなく正当防衛の一環だ、とでも言わんばかりの態度を示すマウザンディアに護衛の兵士がニヤリと笑う。



一方コウはマウザンディアの悪意を感じ取ってか後ろを振り返るが、


「どうしたの?」

「いや、なんでもない。多分気のせい…」


リゼルが不安そうな顔を浮かべたため心配ないとリゼルに、そして自分自身に言い聞かせリゼルの方へ向き直る。


「シャインとシャッテの措置は?」

「本来なら父母の親か兄弟、つまり親族に引き取られるんだけれど、生憎2人の両親は共に兄弟がいないみたいで…」


シャインとシャッテ、2人を路頭に彷徨わせると言う選択肢が一瞬コウの脳裏をよぎったが、そんな残酷な選択をする冷酷さはコウにはなかった。

いくら魔法の才能に恵まれているとはいえ彼女たちはまだ子供。親となってくれる人が必要だ。

2人を養子にしてくれる人を探すか、それとも…。

コウはその場にしゃがみ、リゼルの隣で不安そうな視線を向けるシャインとシャッテに目線を合わせると、


「シャイン、シャッテ。お前たちはどうしたい?自分たちのこれからについてだ。よーく考えてくれ」

「私は…にーちゃん達と一緒に行きたい。にーちゃんすっごく優しそうだし」

「私も」


コウはシャインとシャッテの後方、両手首に手枷を嵌められ憲兵に連れられたモアザを見やり、


「…貴方のお子さんはこう言ってますが」

「貴様、容疑者へ話しかける事は禁止されて…」

「待ってください。彼等と…話をさせて」

「……五分だけ待つ」

「ありがとう。…オズマ・コウと言いましたね?」

「はい…」

「貴方は私のしてきた事、それを実行するに至った経緯について、どう思いますか?」

「…決して、許される事ではありません。けど、それは愛する者を理不尽に奪われた故の事と言うのも、理解できます。

 とても…とても悲しい事です」


歯に衣着せぬが、正直に答えたコウにモアザはフッと微笑んで見せた。

互いに敵同士として戦った時には見せなかった表情だ。

かつて夫ザルディンが生きていた頃には、娘達にこの様な表情で接していた事だろう。


「悪しきを悪しきと知りながらも、人の悲しみを理解し共感できる…。貴方は優しい人ですね。

 貴方になら、私の子らを託せます。それと、シャイン、シャッテ、こっちに」


母モアザに言われるがままシャインとシャッテが彼女の下に近づくとモアザが、


「こうして手枷を嵌められていなければ、貴方達を抱きしめてあげられたのに…。

 最後の最後まで、貴方達に母親らしい事をしてあげられなくて…ごめんなさい。」


モアザの目頭から水滴が1つ、また一つと零れ落ちる。

モアザは、泣いていた。そして母につられる様にシャインとシャッテも彼女に抱きつき、同様に泣きじゃくった。


「う…ぅっ‥‥わあぁぁぁぁぁ!!母様!行かないで母様ぁぁぁ!!」

「離れたくない…!母様と離れ離れになるの…やだよぉ……!!!」

「私だって…私だって本当は離れたくない!けど一緒に入られないの!だから…だから!!」


初めて見せるシャインとシャッテの子供らしい態度と、年甲斐もなく泣きじゃくるモアザを見やったリゼルとコウは、


「…やっと、親子らしくなれたな」

「でも今だけよ。時が経てばモアザは牢獄、2人の娘とは…弁護人がどれだけ上手くやったとしても10年以上は会えなくなる」

「解ってる。だからせめて、気が済むまで泣かせてやろう。」


それからモアザ、シャイン、シャッテ親子は指定された時間になるまで泣き続けた。

彼女たちは今日の別れを決して忘れる事は無いだろう。

この様に悲しみを乗り越えて人は大人になっていく物なのかとコウはふと考えてみた。



その後この事件はマスコミを通じて全世界に知られる形となったが、

事件を解決したのはコウではなくデストラ軍の鎮圧部隊と事実からかなり歪曲された為

何でも屋オズマやコウの知名度が変化する事は無かった。

(コウ曰く「マウザンディアに不遜な態度を取ったのに腹を立てその仕返しでやったのでは」との事)

主犯格モアザ・バルバは「子飼いの魔女」と言う二つ名付きで連日バッシングされる事となり、

娘のシャインとシャッテも魔女の子として悪い意味で有名になったが、

同時に彼女らもまた被害者である事が伝えられていた為コウが不安視していた様に市民から罵詈雑言を浴びせられる事は無かった。

それでも母親を批判する声は上がっていた為2人が嫌な思いをするのに変わりはなかったが。


そして1つの戦いを終え、王宮魔術師やゴンザ、モヨモトと共に海路で無事ルトヴァーニャへ帰国したコウ達。

王都ルプシカの正門をくぐり凱旋したコウは、ふと振り返り、


「そう言えば…」

「どうしたの?」とリゼル。

「モアザさんに、洗脳用の魔宝石を渡したのは誰なんだ?それも一つ二つではなく、継続的に誘拐できるだけの数。

 モアザさん個人が用意できたとはとても思えない。」

「言われてみればそうね…」


2人の会話を聞いていたエルが、コウとリゼルの間に割って入り、


「ひょっとしたらこの事件、裏で糸を引いていた黒幕がいるんじゃないんですか?」

「黒幕…あり得ない話じゃないな」


コウが顎に手を当て思考する。

そう、エルの指摘は決して間違った物ではなかった…。



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「はい。…ええ。事はそちらの想定通りに」


暗い執務室の奥に設えられた荘厳な机と椅子に腰かけるゴワゴワとした髭を生やした初老の男。

彼の右手には白地に金の装飾が映える受話器が握られている。

初老の男は電話の向こうの相手に、


「ええ。魔宝石はモアザ・バルバの手に渡り、面白い程上手く動いてくれました。

 これで軍備を増強する為の大義名分も出来たと言う物…。全ては貴方がたのおかげです。感謝しますよ。…エタニティのアルバス・ロア……では。」


短く告げると初老の男は受話器を元の位置に戻し、窓から見える空を見上げる。

雲一つない夜空に月が怪しく輝いている。


「…いずれはあの月すらも手に入れてみせようぞ」


初老の男は月を睨み唇の端を吊り上げる。

その表情は、月の美しさとは反対に恐ろしささえ感じさせる物であった。


今回にて、第二章は完結となります。

第三章の投稿は…しばらく先になりそう。

気長にお待ちください。決して逃げたりはしないので

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