第二十話「聖剣、再び」
小妻光が発動させたのは光属性の魔法。
宿屋で垣間見た白い光はその証である事をリゼルは理解した。
光属性。
アーサレナの歴史上伝説の勇者のみが使えたとされる属性で、
数多の魔術師が、歴戦の勇士達が会得を試みて果たせなかった幻の魔法。
リゼルの師マスター・リドも1000年以上生きていながら遂に会得出来なかった魔法を、
今目の前にいる自分と殆ど年の変わらない少年が使っている。
だとしたら、コウはアルバスが言っていた通り伝説の勇者なのでは?
「何ですか今のは…!?貴方、魔法を使えるのを隠していたのですか!?」
突然の出来事にさしものモアザも狼狽している。
対してコウは、
「隠してはいないさ。ただ単に使い方を知らなかった、解らなかっただけだ。だが今なら…!」
コウは左の掌腕を頭上に掲げ念じる。
するとコウの左掌が光り輝いた。
「…まだ球作るには至らないか」
輝く左手を握るとコウはモアザではなくシャインの方へと疾走。
彼女めがけ輝く左ストレートを放つが、軌道があまりに単調すぎた。
シャインはコウの左ストレートを軽めのステップであっさりと回避する。
「シャイニングナックル…名前は考えてみたが当たらないんじゃ締まらないな」
アーサレナに来て初めて魔法が使える様になったせいもあってかコウの気持ちは徐々に昂り、そして口数も増えていく。
「腹立たしい物言いだ。光の魔法が使える事がそんなに嬉しいか?」
コウの解釈によっては挑発とも嫌味ともとれる物言いに苛立ってかシャインが自らの頭上に直径5マルールはあろう氷塊を作り出し、コウ目掛け投げつける。
しかしコウは身じろぎもせず、
「嬉しいさ。光の魔法だからじゃなく、自分も魔法が使える事がな!
お前だって、初めて魔法が使える様になった時は嬉しかった筈だ。そうだろ?シャッテ!!」
コウ目掛け飛来する氷塊は遅れて飛翔した炎の球とぶつかり、弾け飛び、炎と氷の雨になって辺りに舞い落ちる。
シャインが空とコウの方を交互に見やると、コウの近くにはこちらへ両手を伸ばすシャッテの姿が。
シャッテはシャインに悲し気な視線を向け、
「…もうやめよう。お姉ちゃんも母様も。こんな事続けたところで、父様は絶対喜ばない。むしろ悲しむだけ」
コウもシャッテとモアザを交互に見やると、
「娘さんもこう言ってるんだ。誰かにそう言えと命令されたからじゃなく、心からこう言ってる…。
俺だってこの国の、マウザンディアって人のやり方は間違ってると思ってる。
でも、だからと言って武力行使に出たら自分の国の魔術師を殺したマウザンディアと一緒じゃないか。
今からでも遅くはない。こんな不必要に悲しみを広げる戦いは、終わりにしましょう」
しかしモアザの出した答えは、決してコウの期待した物とはならなかった。
モアザは歯噛みし、拳を握り、
「…遅くはない?何を言っているの…私は革命を起こすと言う大義名分の下ルトヴァーニャから多くの魔術師達を攫ってきたのですよ?
今からでもどころか、今更なんですよ。既に被害を被っている以上もはや革命を成し遂げるか死ぬか、そのどちらかしか道は無いのですよ!!」
「母様!そうやって自分を追い詰めるのはやめて!!」
「親に口答え…」
モアザは右手に炎の球、左手に氷塊を作り出すと、それを自らの胸の前で合わせる。
炎の球と氷塊は混ぜこぜになり、巨大なエネルギーの塊となり、
「するんじゃないの!!!!」
それをシャッテ目掛けて放射した。
その場に居合わせた誰もが、シャッテがエネルギーの奔流に呑まれ死ぬ展開を想像した。
ただ一人を除いては。
コウがシャッテとモアザの間に割って入り、両腕を大の字に広げエネルギーの奔流を受け止めんと立ちはだかる。
「!?」
「母親が!実の子を焼き殺すのかぁぁぁぁぁ!!!!!!」
迫るエネルギーの奔流を前にコウは自らの死さえも覚悟したが、現実はそうはならなかった。
コウとエネルギーの奔流の前に更に稲妻が落ち、エネルギーの奔流を吸い込んだのだ。
何事かと思い、誰しもが目を丸くした。
稲妻が晴れると、そこには地に突き刺さった一本の剣。
龍を連想させる鍔と真っ直ぐな刀身の剣を、コウは、リゼルは、エルは知っている。
「聖剣…ペンドラゴン?」
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信じられないような光景がそこに広がっていた。
遥か東方にあるルトヴァーニャの王宮で大切に保管されている筈の聖剣が、今、コウの目の前に存在する。
「なんで…聖剣がここに?」
するとコウの頭に声が聞こえてきた。威厳を感じさせる男性の声…。
『私の力が必要になると判断したからだ。お主の危機とあらば、世界中何処にいようと私は駆けつける』
「この声まさか…そんなまさか!!」
呟きながらコウは聖剣を掴む。
モアザは気でも狂ったかと言わんばかりの眼でコウを睨む。
『そうだ。私は、聖剣ペンドラゴンはただの剣にあらず。己が自我を持ち、考え、助言できる。
そして私の声を聴けるのは私が聖剣を使う資格があると見定めた者のみ』
「それってつまり…」
『お前には私を使う資格がある。彼女たちを救ってやりたいのだろう?私とお前が力を合わせれば可能だ』
聖剣の言葉に吹っ切れてか、コウは聖剣を引き抜き純手に構える。
「さっきから何をブツブツと…。それにそんな剣一本で私たち親子の魔法に叶うとでも?」
『可能だよ。さっき私が彼女の魔法を吸収したのを見ただろう?』
「…叶うかどうか、やってみれば良いさ」
「言いましたね!」
モアザは右手から炎の球をコウ目掛け発射。
コウは聖剣を大きく掲げ、振り下ろす。
すると炎の球は真っ二つに裂けコウの真後ろで二つの爆発が巻き起こった。
「なっ…!?」
「どうやら、叶うみたいだな。だがアンタの相手は後だ。」
コウはシャインの方を見やり、
「まずはそいつを何とかしないと。お姉ちゃんもお母さんも、助けてやりたいだろ?」
「うん…」
「…行くぞ!」
シャッテに、シャインとモアザに、そして自分自身にそう言い聞かせるように叫ぶとコウは走り出した。
目標は、双子のまだ洗脳が解けていない方シャイン。
しかしそうはさせまいとモアザとシャイン自身が両の手には収まりきらないほどおびただしい数の魔力エネルギー体を精製。
それらは瞬時に炎の球、水の球、岩塊、氷塊、雷光球、そして竜巻へと姿を変えて殺到する。
「うっ!?」
だが二人の放った魔法はコウには命中せず、その周囲で爆発、轟音と共に土煙を巻き上げるばかり。
無論、熟練の魔術師たるモアザや類いまれなる魔法の才を持つシャインが目標に当てられないなどと言う初歩的なミスをする筈がない。
彼女たちは聖剣ペンドラゴンの特性である「魔法の吸収」を警戒し、直接魔法でダメージを与えるのではなく、
魔法の余波で起こった衝撃を用いてダメージを与える作戦に出たのだ。
いくら聖剣でも魔法では無い衝撃波まで吸収するのは不可能だ。
依然起こり続ける爆発と衝撃は中聖剣ペンドラゴンが、
『マズいな。これではこちらが不利になる一方だ』
「どうする?このままじっとしてる訳にもいかないぞ」
コウが打開できそうにない現状を嘆いていると、
「私達がいるって事を!」
「忘れてるでしょ!」
光り輝く刃が4つ、回転しながらモアザとシャインの方へと飛んでいく。
刹那、モアザの手甲から血が噴き出し、一瞬彼女による魔法攻撃の手が止まった。
シャインは紙一重でかわしたが、やはり魔法攻撃の手が止まる。
リゼルとエルだ。
リゼルが一度髪飾りの状態に戻した後、今度はブーメラン状に変えて剣を飛ばし、
エルが二本の投げナイフを投擲したのだ。
「ヅッ!!」
「母様!!」
『今だコウ!!』
聖剣に促されコウは、内心リゼルに感謝しつつ再び駆け出した。
「これであのシャッテにやった様に、シャインの方の洗脳も解ければ!!しかし…」
洗脳を解いたあの魔法は無我夢中でやっていた為コウにはどうすれば洗脳を解く魔法が発動できるかが解らなかった。
ゲームだったらコマンドから使いたい魔法を選択し決定ボタンを押せば良いだけなのだが、現実はそうはいかない。
魔法を発動するのに必要な『使いたい魔法のイメージ』が出来ない、そもそもどんな魔法だったか理解できないのだ。
すると聖剣が、
『コウ、ここで一つお前に指導してやろう。そのシャッテとやらの洗脳を解いた時、お前は何を想った?』
「…彼女を、救いたいと」
『ならばその想いをシャインにもぶつけろ。この世界での魔法とは祈りだ。願いだ。こうしたいと望む心の表れだ。
彼女を救いたいと言うお前の意思が、お前に力を与える』
「解った!」
ほんの一瞬のやり取りの内にコウはシャインに肉薄し、彼女の額へと左手を伸ばす。
コウの左手がシャインの額に触れると、左手は再び光り輝き、甲の部分に獅子の痣が浮かび上がる。
自分の輝く左手を見て、これで救えると確信したコウは叫んだ。
「祓いたまえ。清めたまえ。そして、救いたまえ!解呪!!」
コウの左手から放たれる光が弾け、同時にシャインの瞳に輝きが宿る。
それこそが、シャインにかけられていた洗脳が解けた証であった。
「お姉ちゃん!!」
シャッテが弾けるようにシャインの下に駆け寄る。
「シャッテ…なんで、泣いてるの?」
「だって……だって…!」
シャインに抱きつき言葉がしどろもどろになりながら泣きだすシャッテ。
その光景にコウも思わずもらい泣きしそうになる。
『…悲しくない、むしろ嬉しい時においても涙を流す。人間と言う物はつくづく理解に苦しむ節がある。
それに、まだ戦いは終わってない』
コウはモアザの方を見やり静かに頷く。
泣き終えたシャインとシャッテが立ち上がるとモアザが、
「やってくれましたね。私の娘を2人も奪うとは…正直言って不愉快です」
「今度はアンタの番だ。今度はアンタの性根を叩きなおしてやる!2人とも良いな、お前らの母さんの目を覚まさせてやるんだ!」
「「解った!」」
シャインとシャッテは双子らしいハモリを聞かせた声音で同時に応じる。
3対3から転じて5対1。
コウは勝利を確信するのだった。




