第十八話「魔術師親子との対決」
2018/10/30微修正しました
前回とは対照的にシャオハーンとデストラの国境沿いの検問は
特に問題も起こらずスムーズに突破する事が出来た。
心なしか、国境を抜けるコウ達を見送る番兵の目が「あの子達を止めてくれ」と訴えかけている様にコウは感じていた。
「やっぱ、シャオハーンの人達も思ってるのかな。ああ言うのは良くないって」
コウはふと思った事を口にしてみた。
「そうね。隣国がテロ被害に遭ったとなれば、そのとばっちりを受ける可能性だって…」
リゼルはそう答えるがコウは、
「それもある。それもあるけど、俺が言いたいのは、こう言う事を子供にやらせるべきじゃないと、そういう事なんだよ」
そう。やらせるべきではない。
人さらいもテロも破壊行為も。
あのシャインとシャッテ、仮面で顔を隠してはいるが背格好からして幼い子供である事は明白。
何とかしてやめさせないといけない。
もし2人が本心から行っているのではなく、母と呼ぶ者がやらせているのであれば、
その母をも止めなければならない。
国の為にも、そして彼ら自身の為にも。
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デストラ領に入り、深い山道を抜けると最初の町「ブリャトーバ」がコウ達を迎え入れた。
建造物にこれと言った特徴は無いが…もとい、特徴が無さすぎるのが特徴か。
目に映る物全て飾り気がなさすぎる。街路樹や花と言った植物も一本も植えられていない。
道行く人々の表情も何処か虚ろに見え、同時にコウ達へ向けられる視線は何処か冷たい。
「なんか、みんなあまり楽しくなさそうだな」
「そうね。私も、これ程寂しい街とは思いもしなかった」
コウ達は適当な馬車を見つけるとそれに乗り、王宮魔術師が捕らえられていると思しき廃教会を目指す。
ブリャトーバがどんな環境であったにしろ構っている暇はないし、あったとしてもどうしようもない。
馬車に揺られながらコウはそう自分に言い聞かせていた。
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馬車で移動する事およそ90分弱。
コウ達一行はデストラ共和国の首都「ムルスク」に到着した。
視線の遥か彼方にそびえ立つやたらに巨大な城(超時空要塞ムルスクと言うらしい)が一際目を引くが、
目的はあくまで廃教会。観光に来たわけじゃないのだ。
エルの記憶を頼りにコウ達は一路廃教会を目指す。
彼女曰く、一度見たり歩いた道すじはしっかりと覚える事が出来るらしく、
どの道を行ったか思い出せず結局迷ってしまう、と言った事態に陥る事無く一行は目的の廃教会前にたどり着く事が出来た。
朽ち果て、取り除かれる事なく残ったツタが絡みついた廃教会を前にコウは、
「エル、お前地味にチートな能力持ってんな」
エルの凄まじい記憶力に改めて感銘を受けていた。
当のエルは平たい胸を張り、得意げに鼻を鳴らしながら
「フフンッ盗賊たる者一度来た道はちゃーんと覚えとかないとね!」
「あぁ、逃げ道の確保とか大事だもんな」
「感心してる暇は無いわよ、コウ。あの二人…」
リゼルに促され廃教会の入り口に視線を向けるコウ。
その視線の先には、仮面で素顔を覆い隠したローブ姿の子供二人─シャインとシャッテ。
まるでお寺の出入口にそびえ立つ阿吽の金剛力士像の如く左右対称になる様な腕組み姿勢でコウ達の前に立ちはだかる。
その小柄ながらも雄々しさを感じさせる二人の佇まいにコウは、
「…何処からでもかかってこいってか」
「肯定」
「だが2対3と言うのはいささか卑怯だと我々は思う」
「「だからもう1人加えて3対3とさせてもらう」」
シャインとシャッテの間を割る様に1人の女性がカツカツとヒールを鳴らしながら歩み出る。
濃いめの紫のロングヘアーに胸元が開けスリットの入ったロングスカートのドレスを纏った妖艶な美女。
健全な男子高校生ならば鼻の下を伸ばしデレデレするのが普通だろうが、彼女が醸し出す殺気に気圧されてか
コウはそういった気分にはなれなかった。
エルは彼女を指さし、
「あいつです。あの仮面の子が母と呼んでいたのは…」
美女はエルを見るなり視線はエルに向けたまま顎をくいと上げ、
「顔を見るなり人を指さしあいつ呼ばわり…。全くしつけがなっていませんねぇ」
「彼女スラム育ちでな。俺が代わりにお詫びします」
「良いのですよ。私もさほど気にはしていませんから。あぁ申し遅れました。私はモアザ・バルバ。この子達の母です」
モアザは自己紹介すると共に丁寧にお辞儀する。
コウもお辞儀を返しながら、
「どうもお母さま。お子さんが大変お世話になっています。……もうここらで止めにしてもらえませんか?」
「やめにする?何を?」
「俺達は知ってるんですよ。貴女が誰を巻き込んで何をしようとしているか。
本当に子供の事を想っているなら、今すぐ考え直してください。今ならまだ間に合う」
コウがモアザを嗜めようとするが、モアザの表情が次第に怒気を帯びた物へ変わっていく。
「…何なの貴方?まるで当事者であるかの様な口ぶりだけど、貴方は私達の何を知っているの?
私達デストラの魔術師の怒りが、屈辱が、解るとでも言うの?」
コウはやや俯き、
「…解りません。デストラの情勢が大きく揺れ動いた時、俺はデストラにいなかったから、見当もつきません…」
「だったら!」
コウは拳を強く握りモアザの方を見やり、
「けど!!けどこんな事やったって誰も喜ばない事ぐらい赤の他人である俺にだって解る!!
力ずくでもアンタを止める!止めてみせる!!」
コウは腰に帯刀した剣を引き抜き身構える。
「ヒーロー気取りか、反吐が出るッッ!!」
モアザが両手を広げると、それを合図にシャインとシャッテが散開。
シャインがリゼル、シャッテがエル目掛け飛び掛かる。
「反吐が出ると言うなら、いっそ憎しみも一緒に吐き出せ!!」
コウはそう叫ぶと懐から魔宝石を一個取り出し、空高く放り投げた。
魔宝石は空中でキィンッ、と言う甲高い音と共に弾け、光の雨となってコウやモアザ等の下に降り注ぐ。
同時に、シャインは右掌に水の球、シャッテは左掌に炎の球を作り出そうとするが、それらはすぐに霧状になり、雲散霧消する。
この世界における魔法は6つの基礎属性と2つの派生属性に分かれている事は前回説明したとおりだが、
ここでシャインとシャッテの作った魔法の球が消えたか説明する為、まずこの世界、アーサレナにおける魔法発動の原理を説明しよう。
まず使いたい魔法をイメージし、掌などの末端器官から任意の属性の魔力を放出する。
ここで放出された魔力は大気と混ざり合う事で魔法エネルギー体となり、
この魔法エネルギー体を精製した状態で対象を指定し放つ。
アーサレナではこの一連の動作を纏めて『魔法』と呼んでいるのだ。
最初の段階で放出する魔力の量と精製される魔法エネルギー体の質量、そして魔法の威力はいずれも比例し、
放出する魔力が多ければ多い程強力な魔法が放てるが、
一度に魔力を大量に消費すると急な疲労感や倦怠感に見舞われ、思考能力も低下すると言うリスクが存在する。
コウが投げた「魔法を無効化する魔法」を内包した魔宝石は、
放出された魔力と大気の結合を阻害し、魔法エネルギー体が精製されない状態にする魔法「魔力妨害」を内包している。
そしてその効果が及ぶのは1人だけではなく、魔法石が弾けた箇所を中心に半径10キロメートル以内にいた者全員。
魔法の使い方を知らないコウ、そもそも魔法を使えないエルを除く全員が魔法を使えなくなった。
モアザの一瞬狼狽したのを見計らい、コウはモアザ目掛け斬りかかった。
コウの放った斬撃をモアザは白刃取りで受け止める。
「!?白刃取り…」
「魔術師とて魔法を封じられれば何もできない訳ではない。このモアザ・バルバ、見くびってもらっては困る!!」
一方のシャッテはモアザと組み合うコウを見やり、
「姑息な真似を」
そう苦言するとエルのいる方へ左腕を突き出す。
するとその左腕からガスの噴き出す音と共に何かが射出される。
菱形で、先が鋭く尖った振り子。左腕とはワイヤーで繋がっていた。
エル目掛け一直線に飛翔する振り子。エルはそれを左へ回避するが、その直後奇妙な事が起こった。
なんと振り子が突然軌道を変え、エルの右肩へと突き刺さったのだ。
「ッ!なん…で…!?」
シャッテはエルの右肩に刺さる振り子を引き抜き、手元に舞い戻らせ、
「愚かだな。我々が魔法を使えなくなった時の対策をしていないとでも思ったか?
それにその口ぶり、魔道具を知らないと見える」
魔道具。
魔力を注入する事で多種多様な効果を発揮する武器や防具の総称で、
魔法より威力は大きく劣るものの魔力と大気を結合させると言う手順を踏まない為魔力妨害の影響を受けず、
今現在の状況の様に魔法が使えなくなっても使用できると言う利点がある。
シャッテが使用したのは自動巻取り機構付きペンデュラム「アンディー66」。
先程の様に魔力を注入し軌道を変更できる他にも振り子の部分に魔力を込めるなど
威力自体は針を刺す程度でしか無いが汎用性に富んだ魔道具だ。
そして、シャッテと同じ物をシャインも装備していた。
「くぅっ!」
迫る振り子を細剣で弾くリゼル。
迫っては弾き、迫っては弾きを僅か一分に満たない時間の間に何十回と繰り返している故リゼルの顔には次第に焦りの色が見え始めている。
このまま持久戦に持ち込まれたら圧倒的に不利。そう判断したリゼルは一か八かの勝負に出た。
「ハァァァーッ!!」
リゼルは叫びながらシャイン目掛け突進。
左手に握られた剣をシャインに投げつけた。
「バカめ。そんな自棄同然の攻撃など」
シャインは僅かに身をよじらせて投げつけられた剣を回避。
しかしそれは相手の注意をそらす為のフェイントだった。
リゼルは飛び膝蹴りをシャインの仮面に覆われた顔を直撃させ、
すぐに投げ放った剣を掴み、振り向きざま横薙ぎにシャインを斬りつける。
ローブが横一文字に裂け、露になった白い肌から鮮血が噴き出す。
そして、
「………」
「思ってたより脆かったわね、その面」
シャインの仮面に亀裂が走り、ボロボロと崩れ白い頬がチラリと覗き始める。
「…もはや、この仮面を付けている意味も無い。か…」
シャインはコウの剣をへし折り、コウを膝蹴りで吹き飛ばしたモアザの方を見やり、
「母様」
「素性を隠すのと貴方達の魔力を抑える目的でその仮面を付けさせたのですが、相手はそれ相応の手練と言う事ですか…。
良いでしょう。仮面を外し全力で戦う事を赦します。ただし、勝ちなさい」
「ありがとうございます」
「そのお言葉通り、全力でやらせていただきます」
シャインとシャッテは同時に仮面に手を当て、外す。
透き通るような白い肌と端正な顔立ちの美しい顔つきの2人の少女がそこにいた。
しかも少女の顔はまるで鏡に映したかのように瓜二つだ。
服装以外で違う所と言えば、シャインと呼ばれていた白いローブの少女は右目が赤く左目が緑色、
シャッテと呼ばれていた黒いローブの少女は逆に右目が緑色で左目が赤のオッドアイと言う事くらいか。
仮面の子供2人の素顔を垣間見たコウは、
「美しいか醜いかで言えば間違いなく前者なんだろうけど、なんだ…?どうしても恐れの方が先に来てしまう」
「そっちの男は感じ取ったようだな。我々が素顔を晒した以上、先程までの様に易しくはない事を」
「そして男が使った魔宝石の効力は間もなく失われる」
「!?」
「どういう…事……?」
状況が呑み込めず首を右往左往させながらコウとリゼルに応えを求めるエル。
「国境沿いで起こった爆発を覚えてる?あれ以上にヤバいのが来る事だけは覚悟しておきなさい」
リゼルの返答はエルの戦意を大きく失わせるのに十分な威力があった。
エルは思った。自分の人生は、ここで終わるかもしれないと。




