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オズマ戦記  作者: 葱龍
二章「光と影の魔術師」
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第十六話「西の大地は何色に燃ゆるか」

シャオハーン。

大国デストラ共和国に隣接するこの国は

かつて独裁国家の領土下にあったが42年前に独立。

以後岩塩の輸出で栄えるが、デストラとルトヴァーニャ、反目する二大国家に板挟みにされている現状故

一度両国間に火が付いたら最後、戦闘の煽りを受け壊滅的被害を被る事は免れず、

一切の予断を許さぬ状況が続く言わば不発弾がそこいらに転げまわっているような危険を孕んでいた。


気候の方はと言うと、ルトヴァーニャが春夏秋冬どの季節も穏やかで過ごしやすいのに対し

シャオハーンは夏場においても暖かくなりづらく、最高気温が25℃を越える日は一年を通して1日あるかどうかと言う程度には寒い。

なのでリゼルは下船前にコウに防寒用のコートを与え自身も同じ物を着用。

シャオハーンの寒気に備えて下船するのだった。


だがコウ達にとってシャオハーンはあくまで通過点。

ルトヴァーニャからデストラへ直接行けるルートが無い為仕方なくこの国を経由しているだけだ。

しかしここに差し当たってコウはある一つの問題を抱えていた。


「……この国の人達何語で話してるんだ?」


言語が解らないのだ。

自分が意図せずルトヴァーニャの言語を使っていたか、

それともルトヴァーニャで使われてる言語がたまたま日本語だったのかは知らないが

明らかに今まで聞いた言語とは違う物をシャオハーンの人達は日常的に使っている。

困惑するコウに助け船を渡すのはリゼル。彼女はコウに耳打ちし、


「ルトヴァーニャではヴァーニャ語が主流だったけれど、シャオハーンはガザン語が主流なの。

 このガザン語が主流なのはデストラでも同じだけどデストラでヴァーニャ語を使おうものなら即スパイと疑われるから気を付けて」

「じゃ俺にどうしろと。俺ガザン語なんて単語1つすら知らないぞ」

「黙っていた方が賢明ね。けど会話する必要がある場合は、代わりに私が喋るから安心して。ある程度なら私もガザン語は話せるから」


そうしてコウとリゼルは国境越えに必要な通行証を購入し、

国境沿いにある関所を目指す。

言語同様に通貨もルトヴァーニャとは違う物が使われていたが、

リゼルがあらかじめ用意していたらしく思いのほかスムーズに事が運んだ。



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廃教会に集められてどれ程経過しただろうか。

王宮魔術師達の洗脳は今だ解ける気配を見せず、依然片膝立ちの姿勢で待機し続けている。

仮面の子供とその母親も全く姿を見せない。

店長とお姉様が来てないから3日以上は経ってないのは解るけれど…。


エルは周りに悟られぬよう片膝立ち姿勢を維持しながら不安に駆られていた。

いつまで雌伏の時を過ごせば良い、いつ行動に移る、いつになったら奴らがやろうとしている事を伝える事が出来る?

エルが焦る気持ちを必死に抑えていると、


王宮魔術師達の前に仮面の子供二人とその母親が悠然とした面持ちで歩いてきた。

ついに来た!とエルは感じ取る。

そして王宮魔術師達とエルの方を向くと、母親の方が口を開いた。


「機は熟した!古きよりこの凍てつく大地に根付き繁栄を支えてきた魔術を軽んじ、

 化学などと言う文明の利器に傾倒する愚かな国家に裁きの鉄槌を下す時だ!!

 だがその前にやらねばならない事がある!」


やらねばならない事?デストラへの攻撃の前に何をやるつもり?

そんな事をエルが考えていると、


「我々の中に狡猾にも忠誠を誓ったフリをして、我々の内情を探らんとしている。」


エルは衝撃的な言葉とそれに伴う恐怖に顔を伏せた状態のまま目を見開いた。

自分の事が…バレている!!?

そして母親は冷酷に告げる。


「そこのネズミを始末せよ!!」


母親がエルを指さすと操られた王宮魔術師達が一斉にエルの方を向き、同時に仮面の子供が跳躍。黒い方も白い方も、両方跳んだ。

エルは腰に帯刀していたナイフ二本を両手に一本ずつ構え防御姿勢をとる。

黒い方が右、白い方が左…


仮面の子供が同時に右腕を突き出した。

爪の先端がエルのナイフと激突し、甲高い音が教会内に響く。


見立てでは仮面の子供の年齢は推定で10歳から12歳程度。

腕力においてはエルの方にやや分がある。

しかし!


剛腕(ジ・アグレッシブ)


白い方がそう呟いた瞬間、黒い方の腕が盛り上がり、エルを押し始めた。

仮面の子供と組み合ったまま後ずさるエル。

白い方が呟いたのは魔法。対象の腕力を増強させる魔法だ。

そして、力負けしたエルが膝から崩れ落ちた瞬間、白い方の左足が飛び、エルは大きくバランスを崩す。

更にそこへダメ押しと言わんばかりに黒い方の左手がエルの顔を覆い隠し、そのまま床へと叩きつける。


「まだ殺しはしない」


黒い方なのか白い方なのか、どちらが喋っているのかは解らないがとにかく抑揚のない声がそう告げ、


「貴様には人質になってもらう」


エルの顔を覆う手が激しい光を発し、エルは意識を失った。



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シャオハーンとデストラの国境は直径500マルールにも及ぶ分厚い壁で囲まれており、

関所を通さず越えようものなら即座に処刑される程の重い刑が課せられている。

コウも元いた世界で不法入国が問題になっていると言うニュースは聞いた事があるので難民や不法入国者に対して厳罰を与えると言う理屈は何となくだが理解できた。

それでも即処刑、と言うのは納得しきれないが。


リゼルが番兵と何かを話し合っている。

どんな会話をしてるかは理解できない。ガザン語で話しているのは確かなのだが。

するとリゼルがこちらを振り向き、


「通って良いって」


番兵が脇にどけ、デストラへと続く数少ない重たげな扉が音を立てゆっくりと開いていく。

この門をくぐればそこはもうデストラ。エル、無事でいてくれ。

とコウは考えたが、そんな思考はすぐに隅に追いやらなければならなくなった。


扉が開ききった、その向こうに二つの小さな人影。

それぞれ黒と白のローブを羽織り、素顔を仮面で隠したその人影、

黒い方の右手は何かを掴み引きずっている。それは黒い人影の倍の丈はある。


「貴様ら、あの時の!!」

「不適切極まりない呼び名だ。」

「もっとも、名乗っていなかったのだから致し方ないか」


黒い方、白い方の順で応じてきた。

抑揚の無い声音だが、台詞から察するに腹が立っているのだろうか。


「名前を知らないと言うのも互いに不便だろうから名乗らせてもらう。貴様たちから見て黒いローブを着ている私はシャッテ」

「そして貴様たちから見て白いローブを着ている私が、シャインだ」


親切丁寧な自己紹介にコウは感銘を受けるが、相手は敵。

感銘はすぐ警戒に切り替えなければならない。

シャッテは右手に掴んだ何かを突き出す。

嗚呼、なんと言う事だ。右手に掴んでいたのは変わり果てた姿と化したエルだった!!


「エル!!」


コウが目を見開き叫ぶ。出来る限り考えないようにしていた最悪の事態が現実の物になったのか?


「安心しろ。まだ殺してはいない。もっとも、こいつが助かるかどうかはお前の選択次第だがな」

「なに?」

「この一件から手を引け。そうすればこの女は解放してやる。

 が、返答次第ではこの女を殺す」


エルの命を取るか、王宮魔術師達の解放を取るか。

この二択、普通なら悩む所だが…。


「本当に、今回の件から引けばエルの命は助けてくれるんだな?」

「検討する」


しばしの沈黙。そしてコウが出した返答は、


「…なら断る」

「コウ!?」


予想の斜め上を行く発現に動揺するリゼル。

シャイン、シャッテは反対に微塵も驚いた様子を見せない。


「何言ってんのコウ!貴方エルの命が惜しくないの!?」

「惜しくない訳はない。だが三つだ。こいつ等の要求に応じられない理由が三つある。

 一つ、命を天秤にかけた二択をしてくる場合、言う通りにしてもこちら側の望んだとおりの展開になると言う保証は無い。

    要求を呑んだ途端人質も俺達も殺されると言うのが関の山だ。さっきの質問に、検討すると言っただけで

 二つ、今回の一件は金をもらい仕事として受けている。引けと言われてはいそうですかとやめたら、依頼主に申し訳が立たない。

 三つ、言う通りにしたところで助かるのはエルだけ。ゴンザと、モヨモトと、いなくなった魔術師の人達は

 俺達が何とかしない限り戻ってこない。」

「コウ…」


リゼルが安堵の声を上げると、シャインとシャッテが、


「つまり交渉は決裂と言う事か」

「残念だ、我々は信用されていないらしい」


シャッテがエルを突き飛ばし、その左手に光が灯る。

シャッテが何をするつもりか理解した瞬間、コウはエル目掛け一直線に全力疾走。

崩れ落ちるエルの身体をコウが抱き留めた瞬間、コウとエルの身を炎が焼く。


「ぐはぁぅっ!!」


「理解に苦しむな。その女が焼かれる様を指をくわえて見ていればそう苦しまずに済んだものを」

「そう言うお前は冷たい奴だな。そっちの白いのが同じような目に遭ったら、お前は平然としていられるのか?」


エルを傍らに寝せながらコウに問いかけられると、

シャッテは言葉を失ったかの様に黙り込んだ。


「…その反応を見て安心したよ。お前、まだ人の心を捨てきっちゃいない!」

「世迷言を。」


シャッテはシャインの方を見るや右手に炎の球を作り出す。

そのままコウにぶつけると思いきや、更に左手に作り出した岩の塊と組み合わせた。

炎の球と岩の塊は複雑に混ざり合い、爆発。

溶岩の龍となってコウめがけ襲い掛かった。

リゼルがさえぎらんと前に出ようとするが、

その周囲の土がリゼルの両足を覆い隠すように隆起し、リゼルの動きを大きく阻害する。


「なんだ…?炎の……いやマグマの龍!?」

「これは、合成魔法!!?」


合成魔法。

二種以上の属性の魔法を組み合わせより強力な魔法を発動する技術である。


まず魔法には炎・水・土・風・土・光・闇の六つの基礎属性と

雷、氷の二つの派生属性が存在する。

この内光属性は会得が極めて困難で2000年に及ぶアーサレナの歴史の中でも光魔法の使い手は数えるほどしかおらず、

闇属性は人心を惑わす

炎属性と地属性を合わせれば溶岩に、風属性と氷属性を合わせれば吹雪にと言った具合に

威力も効果範囲も大幅に増強される。

アーサレナにおいて二つ以上の属性の魔法を扱える魔術師はそう珍しくはないが、

異なる二つの属性の魔法を同時に唱えるのは相当な技術が必要な芸当であった。

それを2人が息を合わせるどころかたった1人で、しかも拘束魔法をかけながらやってのけるシャッテの魔法のセンスは相当な物である。


そしてシャインも、右手に氷の塊、左手に風の球を作り出し、組み合わせる。

氷の塊は砕け、風の球と混ざり合い吹雪となりリゼルに襲い掛かった。


「リゼル!!」


コウは溶岩の龍を避けるとリゼルへと迫る吹雪目掛け全力疾走。

溶岩の龍を吹雪にぶつけて凍らせ、無力化させる魂胆であったが、それが甘い判断だったと思い知らされるのにそう時間は要さなかった。


溶岩の龍が吹雪を受けると、溶岩の龍は激しい光を放ち、爆発。

地を揺るがすほどの轟音は1000マルール離れた場所にまで届き、

凄まじい爆風と熱波がその場に居合わせた者全てを吹き飛ばした!


「リゼル!エル!!」


溜まらずコウは叫ぶがその叫びは爆音にかき消され聞こえない。


爆風と轟音が止み、土煙が晴れたのを確認するとコウは右へ左へ視界を巡らせリゼルとエルの姿を探す。

右手の方向にリゼル、左手の方向にエルがいる。かなりのダメージを受けているようだが、果たして生きているだろうか。

コウはすぐにリゼルの方へ駆け寄り、


「無事かリゼル!」

「うぅ…コウ?」


リゼルは意識を取り戻すやコウの顔を見据える。

しかしコウは再びリゼルを寝かせ、すぐにエルの方へ駆け寄った。


「エル!生きてるかエル!!」

「んっ…くっ……!!」


エルは顔を抑えながらゆっくりと上体を起こす。

良かった。二人とも無事そうだ。


「!?店長、お姉様!大変なんです!!」

「あいつ等は!?あいつ等はどこ行ったの!!?」


エルとリゼルは同時にコウに話しかけてきた。


「話は一人ずつにしてくれ。まずはリゼルの方。だが…」


コウが上を見やり、追随する様にエルとリゼルが上へ視線を向けると、

なんと、シャインとシャッテが宙に浮かんでいる。


「飛んでる!?」

飛翔(フライ・ハイ)。風属性の魔法よ。あの白い方はまだしも黒い方、3属性も使いこなすなんて…」


リゼルが驚くのも無理はない。

アーサレナの魔術師が2つ以上の属性を扱えるのが珍しくないとは先にも記述したとおりだが、

3つ以上、となると話が違う。

2属性使えて当然、ではなく、努力を重ねようやく2属性使えるようになったと言うのが普通と言えば解るだろうか。


シャインとシャッテは、コウ達を一瞥すると、


「デストラに来たいのであれば勝手にするがいい」

「ただし、その時は敵同士、容赦はしない」


そう言い残してデストラの方へと飛び去って行くシャインとシャッテ。


「凄い速さだ…。まるで弾丸だな」

「感心してる場合じゃないでしょ。どうすんの?追いかける?」


リゼルが身じろぎしながら立ち上がり、コウに問いかける。

出来る事ならリゼルの言う通り追いかけたい所だが、当のリゼルもエルも、そしてコウ自身もボロボロだ。


「…追いかけたいのも山々だが、今行っても返り討ちに遭うのがオチだろうし、状況の整理もしたい。

 一度宿屋を借りよう。そこで体勢を立て直す」

長らくお待たせしてしまい申し訳ありません。

不定期ではありますが執筆自体は続けていきたいのでどうか長い目で見守っていてください。

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