第百五十四話「我が全力を以て」
長らくお待たせしてしまい本当に申し訳ありません。
更新頻度は目に見えて減ってマスが執筆自体を辞めている訳ではありませんので悪しからず
異様な事態が起きている事は誰かに言われるまでも無く理解できた。
「揺れがどんどん大きくなってる!?」
「このままだと確実に魔界が崩壊しちゃうよ!!」
「俺が奴と同等の力で…いや、俺が目覚めなかったら俺たち全員皆殺しにされていたから
状況は今より酷くなっていたか…」
「それだけじゃないぞコウ。奴はお前と違い自身の力で他者が傷つくことを一切躊躇しない。
たとえそれが同じ魔族であってもな。
お前だって見たろう?奴にとって同族も親もない、邪魔だと判断したら迷わず消す。ただそれだけなんだよ」
「…!!」
コウは魔王の理不尽極まる精神構造に歯噛みし、魔王の方を向き直った。
「魔王!いやゼラチノ・ゼラチーネ!!
このまま俺達と戦えば俺たち諸共この世界が消えてなくなるぞ!?
ここはお前にとって故郷じゃないのか!
お前はここでのいい思い出は無いかもしれない、
けどだからと言って滅ぼしていい理由にはならないだろ!!?」
コウの必死の訴えにも関わらず、魔王の表情は依然として冷ややかなままだった。
「だから?」
「!?だからって…!」
「生まれ出た場所が無くなるからなんだ。そんなもの『そうなったものは仕方ない』と割り切れば良いだけの事。
自分の領土をどうしようと他人にどうこう言われる筋合いは…無い」
「…それが一指導者の吐く言葉か?」
「貴様らの国がどうかは知らん。だが魔界では魔王こそが方であり真理。
我が正しいと思った事が正しい事となり我が間違っていると思った事が間違っている事となるのだ」
「………リゼル、作戦変更だ」
「変更?」
「各自で分かれて魔族の村や町に行き残った人を連れて地上へ脱出しろ」
「脱出って…コウはどうするの?」
「この場で野郎を…魔王を食い止める!」
コウの言う事はリゼルにはなんとなく理解できた。
今自分たちのいる魔界は崩壊の危機に瀕している。
そこに住む魔王と関係のない人々も諸共に。
にも関わらず魔王は自分たちと戦う事を決してやめようとしない。
もはや今の魔王は破壊衝動の赴くままに暴れまわる破壊者だ。
そんな奴の壊したい、暴れたいと言う欲望に関係のない人々を巻き込むわけにはいかない。
ならばできるだけ多くの人を、できるだけ遠くへ逃がさなくては。
「…解ったわ。けど一つだけ約束して」
「何をだ?」
「絶対死なないって」
コウは何も言わずに頷いた。
多くを語らずとも理解できると判断したためだ。
「よし、全員散開!!」
コウの号令を受けリゼル達が四方に散る。
「このまま見逃すと思ってか人間共!!」
背を向けるリゼルに右手を突き出し魔導を放たんとする魔王だが、
それを遮らんとコウが魔王の右腕を掴み上げる。
「無節操に人を傷つけようとしやがって…!
やっていい事とやっちゃいけない事の区別もつかんのか?」
魔王は掴まれた右腕を払いのけながら、
「…やはり真の勇者の前となると、思い通りにはいかんか」
「遊び相手が欲しいなら、俺がいくらでも相手してやる」
魔王は不敵な笑みを浮かべていた。
力の差は歴然なのは既に知っているはずなのに、魔王の子の余裕はなんだ?
「フッ…ハハハハハハ!!我に勝てると踏んでの物言いだろうが残念だったな!!
我にはまだ切り札が残されている!これまで一度たりとも誰にも見せた事のない切り札がな!!!」
「今この状況で見せる切り札…。読めたぞ魔王。自身が秘めた力を余すことなく解き放つつもりか!」
「そこまで読んでいるなら話は早い!!
我が全力を以てこの世界より先に貴様を塵に変えてくれようぞ!!!!」
魔王がその場に留まり力を溜め始める。
フルパワーの魔王を相手にするよりは隙だらけな今の魔王を倒す方がはるかに合理的だろう。
卑怯かもしれないがゲームやスポーツをやっている訳じゃない。
ここでトドメを刺さなければその暴威は地上に、アーサレナで平和に生きる人々に向けられる事になる。
自分のプライドではなく、罪のない人々のためにもやるしかない。
コウは自分にそう言い聞かせながらヴォルローアを放つが、
コウの放った一撃は魔王の目と鼻の先で霧散した。
「なにっ!?」
「おおおおおお………!!!」
コウは、目の前で何が起きたのかを瞬時に理解できた。
魔王が力を蓄えている最中魔王から発せられる気が言わばバリアの役割を担っており
それがコウの魔法攻撃を無効化されているのだ。
おそらく物理攻撃も無碍と化すだろう。
「…待つしか、ないのか………!!」
みるみるうちに力を増大させていく魔王に対しコウが出来る事は、ただ黙ってみているだけ…。
力を得ながら何もできない現実にコウは歯噛みするのだった。




