第十話「消えた魔術師達を追え」
窓から差し込む強い日差しに瞼を刺激され小妻光は目を覚ました。
ゆっくりと上体を起こし首を左右に軽く捻ってみると、パキパキと乾いた音が鳴る。
ベッドから出て、真っ直ぐに一回の洗面所へ向かい、顔を洗い歯を磨くと
流れる様に食堂へ赴く。
食堂のテーブルには既に起床していたリドとリゼル、それにエルが座っていた。
ゴンザとモヨモトもそれぞれ向かい合う様にエルの隣に座っている。
「やっと起きたか。朝食が終わったらすぐ仕事じゃぞ」
視線を合わせるなりリドが話を切り出してくる。
何でも屋を開店してから一週間と5日。
異世界に転生してからほぼ同じくらいの時間が経過していたが
その数日の間でコウが新たに知りえた事柄が三つあった。
1つ、この世界は一見中世風だがスマホ(こちらの世界ではマスターフォン、略してマスホと呼ばれている)やインターネットなど
現代的な要素が存在する。
と言ってもマスホを始めとした電子機器類は、スマホの様なバッテリー駆動ではなく魔法石と言う微弱な魔力を放ち続ける石を動力としているらしいが。
2つ、この世界には映画館やボウリング場など娯楽施設も数多く存在している。
そして3つ、ダー〇ベイダーはただ単にリゼルがその存在を知らなかっただけだった。
ゴレゴンでの怪物退治以後仕事も大きい物は無いがちょくちょく入っては来ている。
コウは椅子に座り、目の前に出されたミルクティーを一口すすると、
「こんな朝早くからか?」
「開店以来初めての大仕事になりそうじゃ。何せ依頼主がこの国の大臣だからのぅ」
「大臣がわざわざ…騎士団にすら頼めない大事か?」
「おそらくは」
只事ではない事態が起きている。
そう予感したコウは早々に朝食を済ませ、
仕事用の服に着替えると大臣に会いに行こうとする。のだが…
「…何処で待ち合わせなんだっけ」
一番大事な事を聞くのを忘れていた。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
大臣との電話による打ち合わせの結果ルプシカ内にあるレストラン「ジョリーン」で大臣と落ち合う事になった。
このレストランはルトヴァーニャ領内全域にチェーンを展開しており、
メニューも幅広い客層に対応できる様多岐に渡り、その総数は実に300を超える(うち季節限定メニューが80種)。
コウも一度昼食を取りに立ち寄った事があり、その時食べたチーズinハンバーグがなかなか美味だったと回想している。
だが今は食事をしにジョリーンに来た訳ではない。
コウとリゼルは窓際の席に座る大臣を見つけるとその席へ向かい、大臣の反対側の席に腰を下ろす。
「300万アルバを受け取って以来、ですか大臣。ご無沙汰してます」
「店の方は、それなりに儲かってるようだな」
「ええ。今みたいに小さめの仕事をこなし続けられたら言う事はないんですが、そうも言ってられないようですね」
「まぁ、そうだな」
含み笑いを浮かべながら話すコウとは対照的に大臣の顔はかなり真剣だ。
事の重大さを再認識させられると同時に申し訳ない気持ちになりコウは咳ばらいをしながら襟首を直す。
するとリゼルが、
「それで用件と言うのは?」
「王宮魔術師…と言ってもコウ殿には解らないか。」
「恐縮ながら」
「そっか、コウは王宮魔術師の事は聞いてなかったのね。
王宮魔術師って言うのはその名の通り王宮に仕え王国に奉仕する魔術師の事よ。
例えば、燭台に火を灯したり触れる事なく荷物を運んだり、結界を張って魔物が待ちに侵入するのを防いだりもしてるわね」
「その…王宮魔術師がなにか?」
「実はな、ここ数日の間に6人もの王宮魔術師が行方不明になっておるんだ」
「それってかなり大事じゃ…!」
コウは思わず飛び跳ねそうになるが、リゼルに制止され、椅子に座りなおす。
「…もう6人もいなくなってるんですか?」
「給料も待遇も悪くない役職、失踪する理由が私には全く解らん…」
「解らんとは言うけど、それってもう誘拐なんじゃないの?」
「そうかも知れん。とにかくコウ殿、姫様、お二方には残る王宮魔術師の警護と、可能ならば消えた王宮魔術師たちの捜索を願いたい。
これは国家の安全に大きく関わる事態なのだ。今私の懐に50万アルバある。それを前金として渡し、
王宮魔導士たちの警護と救出が成功したら更に50万支払おう。この仕事、引き受けてくれるな」
「もちろん。人が大勢消えてるんだ、たとえタダでもやってやりますよ」
「そう言ってくれると助かる」
こうしてコウを始めとする何でも屋オズマは、創業以来初となる国防に関わるレベルの仕事を受ける運びとなった。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
ルプシカ内で最も広い面積を持つ大広場に多くの人が集められている。
この大広場で大きな集会が開かれると言う訳ではないし、そもそもここに集められているのは普通の人ではない。
この場にいるのはコウとリゼルをはじめ何でも屋オズマのメンバー以外は全て王宮魔術師だ。
彼等は何故大広場に集まっているのか?それはコウの提案によるものであった。
ひとえに王宮魔術師と言ってもざっと30人以上はいる。
しかもこれはさらわれた者を除いた上での数値なのだから驚きだ。
王宮魔術師だけでサッカーチームを作ってもまだ余る。余った面子は補欠か観客に回すか?
コウはそんな事をふと考えてみた。
「しかし魔術師たちを一か所に集めるとは考えましたな社長」とゴンザ。
「簡単な話さ。次に誰がいなくなるか解らない。かと言って全ての王宮魔術師を見張る事は不可能。
ならばその王宮魔術師を一か所に集めれば良いだけの話。皆様方には仕事を休んでもらわざるを得ないがな」
コウがやや自嘲気味に話すと、
「いえ、私達の身を案じての行いだと言う事は承知の上なので、迷惑とは思っていません。
眼鏡をかけた女性がコウをそう称賛する。
「それに騎士団の方も街の安全を守ってくれているので…」
「騎士団か…。」
コウはふとカイルの事を思い出していた。
何でも屋を開いてから一度も会っていない。
彼は元気でいるだろうか。仕事中に大怪我をしたりしてないだろうか…。
言い知れぬ不安がふいに頭をよぎる。
と、
「ちょっと待った。こんな魔術師ルトヴァーニャにいたか!?」
アッシュブロンドの男性魔術師が一方を指さし叫んだ。
他の王宮魔術師たちがそうしている様にコウ達何でも屋が指さされた方に視線を注ぐ。
視線の先にいたのは…子供だ。
白地に青い刺繍が施されたローブを纏い、顔を白いキツネの様な仮面で覆っている子供がそこにいた。
肌の露出が無い服を着ている為性別は全く解らないが、この場に居合わせている以上魔術師と見て間違いはないだろう。
「君、こんな所で何をやっている?」
先程叫んだのとは別の男性魔術師が仮面を付けた子供の身を案じ話しかける。
すると仮面をかぶった子供は懐から何か取り出した。
それは六角形の結晶体で、色は黒と言うよりも闇と形容した方が良い暗い色。
仮面をかぶった子供はそれを大きく振りかぶる。
「!!?みんな伏せて!!」
眼鏡の女性魔術師に言われるがままコウとリゼル、それにエルが目を伏せると
仮面をかぶった子供が握っていた結晶体が空高く舞い上がり、一瞬遅れて辺りに紫色の光が降り注いだ。
光は時間にして3秒ほどで収まった。コウが再び目を開け辺りを見回してみると、仮面をかぶった子供が
「誰かは知らんが助かったぞ。こうやって魔術師たちを一か所に集めてくれたおかげで、こちらの仕事がやりやすくなった」
くぐもってはいたがそう言っている事がコウ達には理解できた。
すると人混みの中から仮面をかぶった子供の方に歩み寄る影が。
黒地に赤い刺繍が施されたローブ、黒いキツネの様な仮面で顔を覆ったそれは仮面をかぶった子供とあまりにもよく似ている。
背格好も服装も。まるで鏡写し、いや格闘ゲームのカラー違いだ。
黒いローブの子供が、
「お前達、片膝を付き頭を垂れてみよ」
と言うとなんと、コウとリゼルとエル以外の全員が言われた通り片膝をつき頭を垂れた。
先程投げられた結晶体は洗脳の魔法が込められた魔宝石だと言う事をコウは瞬時に理解した。
「よし、成功だな。ではお前たちに次の命令を下す。すぐに立ち上がり我々の後についてこい」
そう言うと仮面の子供二人は踵を返して走り出し、他の魔術師も二人の後に続く。
そしてゴンザとモヨモトも。
「ま、待てよ二人とも!!」
後を追おうとするコウだが、ゴンザとモヨモトは気にも留めようとしない。
そればかりか王宮魔術師たちが振り返ると同時に右手をかざす。
すると各々の右手から魔法陣が展開し、炎の球やバレーボール大の氷塊が中空に出現。
弾かれる様にコウの方へと殺到した。
今回から第二章開始です。
更新ペースは一生章の時より落ちるかもしれませんが長い目で応援してください




