第九十二話「王都陥落」
デストラ兵が剣を抜くよりも早くコウの手刀がデストラ兵の心臓を捉え、抉り取った。
コウがフッと唇の端を吊り上げ、心臓を握りつぶすとデストラ兵は一瞬ビクリと肩を震わせてから糸の切れた操り人形の如く倒れ絶命した。
コウが心臓の手放した瞬間、コウは二人目のデストラ兵の後ろに回り込み、頭を羽交い絞めにすると
そのまま捻じる様にデストラ兵の首をへし折る。
「ま…待て!待ってくれ!!俺が悪かった…もうお前を馬鹿にするような態度はとらないから……」
一瞬の内に2人を始末するコウの圧倒的な力量に血相を変え、必死の形相で命乞いをするデストラ兵だが、
コウは冷ややかな目を向け、
「命だけはとらないでくれ、とでも言いたいのか?」
「そ、そうだ。助けてくれ…!」
「俺にお前を見逃す理由が、一つとして思い浮かばない」
そう言ってコウが右手をかざすと、最後に残ったデストラ兵が黒い炎に包まれる。
黒い炎は瞬く間にデストラ兵を呑み込み、デストラ兵諸共跡形も残さず消え去った。
一番最後に斃したデストラ兵のいた場所をコウが無感動に見下ろしていると、
その場を去ったと思われたアルバスが拍手しながら歩み寄ってきた。
「あめでとう勇者小妻コウ。」
「!!アァルバスゥ!!」
アルバスの姿を見るや声を荒げ彼に襲い掛かろうとするコウ。
しかしシドとツバキが二人がかりでコウを制す。
「離せよ!あいつのせいでみんな滅茶苦茶にされちまったんだろうが!!」
「だからってコウさんが向かっていってもどうしようもないでしょ!!」
「それに今怒ったってあいつの思う壺でしょ!?」
「君は絶望的状況から激しい憎しみを抱き、闇の勇者の力に目覚める事に成功した。」
「闇の…勇者?」
冷静さを失ったコウに代わりシドが問う。
「君たちは勇者を光の力を用いて世界の平和を守る者だと思っているようだが、実際は違う。
この世界に転生してきた勇者たちは皆光と闇、相反する二つの力を内包し、いずれ選択を強いられる。
光の勇者として生きるか、闇の勇者として生きるかをな…」
「そんなの簡単じゃないですか!今コウさんが目覚めている闇の力を捨てて再び光の勇者として生きれば良い!!」
「簡単だと思うのは君たちが何も理解していないからだ。
この世界の、アーサレナの起源は200万年前。文明が生まれたのは12万年前。
今の暦が施行されたのは2000年と17年前で現在に至るまで100人以上にも及ぶ勇者が現れたが、
闇の力を捨てる事が出来たのはその1/10に過ぎない。それほどまでに闇の力は強大なのだよ」
「それでも…それでもコウは闇の力に屈する事はない!再び光の力を取り戻せると、私たちは信じる!」
「君たちが信じるかどうかじゃない。全ては小妻コウがどうするかだ。で、どうするんだね?小妻コウ…」
「……!どういう…意味だ……!!」
コウは何とか呼吸を整え冷静さを取り戻しながらアルバスの問いに答える。
コウの怒りや憎しみといった負の感情は今アルバスに向けられており、
今すぐにでも殴りかかりたい衝動を抑えるのに必至だった。
「私の下で世界を変える為戦わないか?」
「!!?」
「私の下には君の最愛の人も君の親友であったと言う者もいる…。
悪い条件ではあるまい」
アルバスが如何にしてリゼルや正嗣とコウとの関係性を知るに至ったかは皆目見当がつかない。
だが彼の言う事も一理ある。
2人ともいつ元に戻るかも、どうやって元に戻すかも全く解らない。
ならば自分から二人の所に行ってやれば良い。
そうする事で得られる幸せも、もしかしたらあるのかも知れない。
だがコウの答えは…。
「………クソくらえだ。このイカレた独裁者が」
「なに?」
「俺はお前の軍門には絶対に下らない。お前の手下の一人になるくらいなら死を選ぶ!!」
「正気か!?闇の力は破壊の力!百人を傷つける事はできても百人の命を救う事はできん。」
「破壊にしか使えない力だと言うのなら、この力でお前たちを破壊する!!」
「…お前のそのゆるぎない信念、闇に堕ちてもなお変わる事なしか…。
よかろう。今日の所はこのくらいにしてやろう。」
「逃げるなよクソが!」
「そういきり立つな。昔から言うだろう?楽しみは最後まで取っておくものだって」
「…なら最後に一つだけ言っておく。
覚悟してろよ。必ずお前を殺してこんな馬鹿げた戦争を終わらせてやる。」
アルバスは何も答えずフッと鼻で笑うと踵を返し、
目の前に現れた空間の歪みの中へと消えていった。
「……これで良かったんだろ?」
尻もちをつくように崩れ落ちコウは仲間たちに問う。
「最善とは言えませんが…」
「今向かって行ったところで、返り討ちが良いところでしょうしね」
すると何処かからルトヴァーニャの騎士と思しき男がコウ達のもとに駆け寄ってきた。
「オヅマ・コウさんにツバキ・カタクラ、エル・ジンティアにシド王子ですね?」
「ああ…」
「女王陛下より通達です。国王陛下の戦死に伴い戦線は崩壊。全軍市民を連れてルプシカより離脱せよとの事。」
耳を疑うような話だった。
それはルトヴァーニャがデストラに敗北した事を意味する。
まさか…本当に……?
「…本当なのか?」
コウははやる気持ちを必死に抑えながら問うた。
「ええ…陛下の遺体を……この目で確認しました」
シドは目を伏せ黙りこくっていた。
無理もない。実の父であり国を治める王の死はそれだけで甚大な影響を与える。
ましてや戦死したとあらば尚更ショックは大きい。
王族とはいえシドはまだ齢14。
親の死を冷静に受け入れられる程大人ではない筈だ。
「…泣きたいなら、泣いてもいいのよ?」
シドの心情を案じてかツバキが語り掛けるが、シドは顔を上げ、
「泣きませんよ…。泣いたって父上は喜びませんから。
今は泣いて時間を費やすより、やるべき事をやりましょう」
「…強いんだね王子様は」
絶望的ともいえる状況下でもなお毅然とした態度を崩さないシドにツバキは安堵した。
「父上が死に、姉さんが敵方に回った、こんな状況だからこそ、立ち止まっていられないですから…。
まずはこの場を離脱して、騎士団や母上たちと合流しないと」




