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オズマ戦記  作者: 葱龍
一章「消えた聖剣と呪われし王女」
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第九話「異世界から来た勇者は何でも屋として生きていく」

2018/5/23/追記

一部キャラの台詞が後続のエピソードと矛盾していた為修正しました。

夜が明け、柔らかい陽の光がルプシカの街並みを照らし、街が再び活気づく。

殺人事件と聖剣強奪騒動のあった昨日までの物々しい雰囲気はまるで感じられず、

行き交う人々の表情はまるで何事もなかったかのように穏やかだ。



ルトヴァーニャの王宮は大理石に似た鉱石「ルコゥラ」を加工して作り上げたタイルを床に敷き詰め

1ルア(1ミリ)の隙間も段差もない仕上がりで、

その上に敷き詰められた真っ赤な絨毯がコウ達のいる謁見の間全体の荘厳さを一層際立てている。


ルコゥラ製の階段の手前でコウ達は片膝をつき、頭を垂れたまま待機。すると大臣が


「国王陛下の、おなーりー!!」


大臣の宮殿内に響き渡る声に後押しされ、ルトヴァーニャの国王が悠然とした面持ちでコウ達の前に歩み出る。

リゼルとリドにとっては久方ぶりの、カイルにとっては何日かぶりの、そしてコウとエルを始めとする盗賊団にとっては初の対面だ。


「各々方、面を上げい」


国王に言われるがままコウ達は顔を上げ国王の方を見やる。

老齢ながら全く衰えを感じさせない眼差し。

凛とした佇まいは流石騎士の国の王様と言ったところか。


「私はルトヴァーニャ国王ジーベン・ダン・ルトヴァーニャ。諸君、聖剣奪還の件、ご苦労であった」

「あり難きお言葉。主犯格の男を逃がしてしまったのは残念でなりませんが」


コウは頭を垂れながら答える。


「良い良い。今はこうして聖剣と、お前たちが無事戻ってこれた事を喜ぼう。

 して報酬の方だが、お主は300万アルバの他に何を望む?」

「それは…」


コウは悩み、考えた。

賞金が別に得られる以上叶えてもらう望みは金以外の物が望ましいが…。

否、悩む必要はないだろう。

答えはこの謁見の間にたどり着く前から既に決まっている……。


「陛下、どうか姫様の…リゼルの罪を赦してはいただけませんか!」


コウの望みを聞くや大臣が「なんと!?」と驚きの声を上げカイルとリゼルの動揺した様子を見せる。

リゼルの、戒めの鎧を纏っていた者の罪を赦す事はそれほどの大事らしい。


「正気か!リゼル様はまだ刑期を全うしてはおらんのだぞ!!?」


憤慨する大臣に臆せずコウは、


「彼女の過去に何があったのかは存じません。だが彼女は自分より弱い者を命がけで守ったし、

 あの様な禍々しい鎧で覆い隠すのは可哀そうかと…」


国王は一拍程間を置き、


「本当に、何も知らないのだな…リゼルの過去に何があったのか」

「ご迷惑でなくばお教えください。彼女に何があったのか…」

「…もう5年も前になるか。まだ幼かったリゼルは聖剣を無断で持ち出したのだ」


酷く動揺した様子を見せるコウだが、国王は意に介さずに続ける。


「当時の彼女にしてみればほんの遊びのつもりだったのだろう。

 しかし山奥で彼女が聖剣を振るうと大地が揺れ、森が割れた。

 彼女はその力に怯えていた様子だったが、それ以上に一歩間違えれば街に壊滅的な被害が出ていたやも知れない状況。

 私は心を鬼にし、彼女に戒めの鎧を付けさせ、指南役のリドと共に外の世界へ修行に赴かせた。

 いや…殆ど追放したようなものだったな」


リゼルは自嘲しながら


「あの頃の私は愚かで、何も解っていませんでした。

 自分はもう一人前だと勝手に思い込んで、結果的に大勢の人に迷惑をかけてしまった。

 戒めの鎧は失われはしたけど、私の罪は、まだ消えては……」

「だからこそ、陛下に頼んで罪を帳消しにしてもらう。良いですよね?」


国王は少しの沈黙の後、


「むぅ…。約束は約束だからな。よかろう。リゼルの罪は赦す事にする。

 して次は…」


国王はエルと盗賊たちを指さし、


「この者たちの処分だが」

「極刑に処すと言うのなら考え直してください。彼らはただ利用されていただけなんです!」


国王に打診するコウだが、この歯に衣着せぬ態度が良くなかったのか


「口が過ぎるぞ小僧!!聖剣を取り戻したからと言って調子に乗るな!!」


大臣の怒りを買ってしまった。

更に大臣は畳みかける様に、


「その者達の罪を取り消せと言うのなら聞かんぞ!?貴様の望みはもう果たされたのだからな!!」


しばしの沈黙の後、コウは静かに口を開く。


「…王女であるリゼルでさえ王都を追われる程、聖剣を盗む事が重い罪ならば、

 そこの盗賊達がこれから受ける罰もそれ相応と言うのは解ります。

 ですが彼らはスラムの育ちとは言え人の子。怪物とは違い更生はできる筈なんです!

 教養と真っ当な働き口さえ与えればきっと…」

「だから極刑に処するのはやめて教育を受けさせろと?下らん、盗賊は所詮何処まで行っても盗賊ではないか!!」


コウの盗賊に対する弁護を聞いても尚一歩も引かない大臣に国王は


「よせチャック。その様な物言いは騎士道に反する」

「も、申し訳ありません陛下」

「つまり、教養を受けさせちゃんとした職に就かせればその者達はもう盗みを働く事はないと、そう言いたいのだな?」

「ええ。俺が思うに、盗賊になるのは貧しい暮らしを強いられている者だけなんです。

 裕福な家庭だったり、安定した収入が約束されている職業なら物を盗む必要はありませんからね」

「なるほど、一理ある。だが、誰がその者達を教育すると言うのだ?

 見た所お主はまだ若い。人に物を教えられるほどの学を有してはいない筈だが…」


なかなか痛い所を突いてくる王様だ。

コウの学力はせいぜい中学生レベル。

あとネットである程度の雑学を見知ったくらいで教員の資格を得るには程遠い。

万事休すかと思った時だった。


「ワシで良ければ力になるが?」


そう切り出したのはリドだった。

それに対しカイルがやや不安げに、


「良いのですかマスター・リド。既にリゼル様の世話を任されているのに更に三人も…」

「カッカッカ。一人や二人増えた所でやる事は何も変わらんよ。むしろ教え子が増えて楽しくなるくらいじゃ」


こうしてリゼルは過去に犯した罪を無事清算、エルと二人の盗賊はリドが面倒を見る事となり、

コウは礼金300万アルバを手に入れた。

このまま悠々自適な暮らしを満喫…と言いたい所だが如何せん住む家がないし、

グータラし続けていたら300万はあっと言う間に雲散霧消。

そこでコウが出した答えは………。


「みんな、俺はここで店を開く事にした!!」


そう、ルプシカ内にある空き家(二階建ての街中で一番安い物件)を買い店を経営する事だった。


「…そう、働く事にしたのね。で、従業員は?何をする店なの?」


リゼルが率直に質問。


「従業員は俺が社長をやるとして、エルと…そこの二人名前は?」

「ゴンザです」と恰幅の良い男。

「俺はモヨモトです」と筋肉質な男。


「エル、ゴンザ、モヨモトにリドも加えたいんだけど良いかな?」

「ワシは構わんよ。新しい弟子たちの社会勉強になるし」

「ありがとう」


「その…リゼル、さん?」


エルがやや躊躇いながらも口を開いた。


「なに?」

「一つ、お願いしてもよろしいでしょうか?」

「お願いって?」

「その、リゼルさん…いえ、お姉様と、呼ばせてもらっても…良いでしょうか?」

「な、なんでまた」

「私がクドーに殺されそうになった時、貴方は身寄りのない私を命を懸けて守ってくれた。

 私はこの人の為なら何だってできる。お姉様の為なら命だってかけられる!だから……!」


エルのリゼルを見る目が徐々に色を帯びていくのを見てコウは背筋がゾッとるのを感じた。

ああ、こいつガチだ。



「でリゼルは?良いんだよ、王宮に戻っても」

「私は…私はここで働きたい。」


リゼルの出した答えにコウは思わず目を丸くする。

てっきりそうさせてもらうと思っていたが、まさか逆の答えが飛び出すとは。


「私はずっと、あの鎧を着て、二度と街や城に戻れないんじゃないかと思ってた。

 でもコウと出会って、コウが父様に私を赦させてくれて…。

 コウがいたから私は変わる事が出来たの。だから私、貴方にこの恩を返したい!

 コウ!私をここで働かせて!!」


コウのハトが豆鉄砲を食らったような表情は、やがて笑顔に変わっていき、


「…あぁ勿論だ!今日からお前はルトヴァーニャ王国王妃、兼副店長リゼル・ミァン・ルトヴァーニャだ!!」

「して、何をする店かはもう決まっておるんじゃろうな?」

「何をする店、じゃないですよリドさん。俺が開く店は『何でもやる店』…『何でも屋』さ!」


時に真龍暦2017年黄の月19日、放浪者小妻コウ、王都ルプシカに何でも屋を開く。

その名『何でも屋オズマ』。

この小さな店が後に世界の命運を左右する数々の大事件に巻き込まれる事をこの時の彼らはまだ知らない。



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「…良かったのか?ペンドラゴンよ。彼の元へ行かなくて」


コウ達が立ち去り、大臣もいなくなった謁見の間の玉座に腰を下ろし国王は独り聖剣に語り掛ける。

傍から見れば異常な光景ではあるが、さらに驚くべきは


『彼は自らの技量を弁えている。自分はまだ聖剣に相応しい戦士でない事に、

 そしていつか聖剣を振るうに相応しい戦士になってみせようと思っている。今はその時が来るのを待つ事にした』


そう。聖剣ペンドラゴンはただ凄まじい威力を持った武器ではない。自らの意思を持った剣なのだ。


「なるほど。なら信じるとしよう。彼の持つ可能性とやらを…。」


国王は天井を仰ぎ、瞬きを一度すると、


「…戦乱尾を引き混迷極まり、人々が苦しみ喘ぐ時、天より真龍の使いが舞い降り世に光をもたらす……」


国王が呟いたのはアーサレナに古来より伝わる伝承であった。

アーサレナには過去に何度か出所不明の戦士が驚異的な力を以て世に平和をもたらしたと言う伝説が幾つも残っており、

その戦士たちに敬意を表し真龍の使い、『勇者』と呼ぶ風習が残っている。

コウもかつての勇者の様に出所が不明と言う点が共通していたが、その力はまだ脅威と呼ぶには程遠い。

もしかしたら本物の勇者は別にいて、コウはたまたま勇者と似ている点があっただけかも知れないが、国王はその可能性を極力考えないようにした。


「ペンドラゴンを奪い去ろうとする輩が、勇者の筈はない。そうだろう?」

「あぁ。だから私はクドーと言う男を拒絶し、あの少年に…コウに力を貸した。護る為に生まれた私が破壊の為に使われるのは心外だからな」

「そうか」


国王は静かに目を閉じ瞑想にふける。

明日の世界の平和を願いながら…。



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暗い。見えない。全くの闇だ。

自分が何処にいるのか、生きてるのか死んでいるのかさえ解らない。

解っているのは…自分が『敗北』した事。

そして自分を負かしたのは、『無敵の刃』を見る事が出来るあの男───


「小妻コウ!!!!」


クドーが意識を取り戻し目を見開くと、自分が薄暗い空間に拵えられたベッドの上に寝かせられている事に気が付いた。

何処までが壁で何処までが天井かさえ解らぬ闇。まるでクドーの心の様である。


「目を覚ましたか」


そう言いながらクドーの元に歩み寄ってきたのは赤い髪に黒い鎧を纏った男。


「誰だてめ…ッッ!!」


クドーは上体を起こそうとするが全身に走る激痛に止められ、ベッドに後頭部を打ち付ける結果となった。


「まだ安静にしてろ。右腕切り落とされた上肋骨も肺も損傷して、生きてる事がおかしい程の重傷だったんだからな」

「なら…何故今こうしてお前の話が聞ける?」

「貴様のその能力だろうな。貴様の生存本能がその糸の能力に作用し内臓や肋骨、それに皮膚を縫合したんだろう。

 今まで通り動けるまでに回復するのには、まだまだ時間がかかるがな」

「そうか…。無敵の刃様様だな。あの嬢ちゃんにはデスストリングに改名した方が良いと言われたが」

「はっはっは。彼女は良いネーミングセンスを持っているな。死を呼ぶ糸…デスストリング。災いを撒いて回るのが得意な貴様に相応しい。」

「…お前、誰だ?」

「おっと、自己紹介が遅れていたな。私の名はアルバス。アルバス・ロア。この世界を陰から管理する組織の一員だ。

 貴様にはこれから私の下で働いてもらう」

「ふざけんな。俺は誰の指図も受けねぇ…。やりたい事をやりたいだけやって生きていくんだ…」

「残念だが貴様に拒否権などと言う物は初めから存在しない」


アルバスが右手の指を鳴らすとクドーの首から電撃が迸りクドー自身に襲い掛かる。


「ガアァァァァァァ!!?」

「貴様の首に取り付けてある首輪は、私の意志1つで電流が流れる様になっている。言わば孫悟空が頭にはめている金の輪と言う訳だ。

 外そうとしても無駄だぞ、そいつは外部からの干渉を完全に防ぐ術式が施されていて、解除し外す事は私にしかできない」

「…解ったよ。従うしかないなら従うまでだ。だが一つだけ、質問させろ」

「なんだ?」

「俺を倒したあの男とお前達は、敵対しているのか?」

「今はまだ何とも言えないが、確率としては敵対する可能性の方が高い。貴様は、あの男をどうしたい?」

「そんなの決まってるだろ?」


クドーは無理矢理上体を起こすと右腕のあった切断面から糸を出し、暗闇の中から切り落とされ持ち運ばれた右腕を探し当てると、

切断面同士を糸で繋ぎ合わせ、糸を引き戻しつつ結合。

握っては開いてを繰り返し具合を確かめると、唇の端をクッと吊り上げ、右手の指先を鋭利な鉤爪の形に変形させ、


「復讐するんだよ、俺自身のな!!」


これで第一章は完結です。

以後間話を挟み第二章に移行します。

第二章の方もよろしくお願いします。


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