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オズマ戦記  作者: 葱龍
一章「消えた聖剣と呪われし王女」
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プロローグ「残念!俺の人生はここで終わってしまった」

2018/6/17 微修正しました

降り注ぐ雨が叩く音が響き渡るアスファルトの上に少年が一人倒れていた。

少年の近くにはボンネットに血を塗りつけたワンボックスカーとパトカーが数台止まり、

数メートル先には山の様な人だかりが出来ていた。


野次馬だろうか。

皆少年やワンボックスカーをキョロキョロと見まわすだけで少年を助け出そうと言う素振りすら見せようとしない。


「───から!危──から────て!!」


少年は身長174cmほど。体格はやや細め。髪は黒。

服装は上下共に紺色のジャージ。

強打したであろう頭からはおびただしい量の血が流れその瞳は既に生気を無くしている。


ああ。俺死んじゃうのか。


少年=小妻光(オズマ・コウ)は薄れゆく意識の中自身の運命を悟った。

彼の人生の半分以上は自室でパソコンのモニターと睨めっこ。

食事はネットサーフィンをやりながら、排尿は誰にも見つからない様こっそりと・・・

要するに、彼は引きこもりである。


輝かしい未来を生きられる様に、と言う想いを込め(コウ)と名付けられたのに

現実は中学の時ほんの些細な行き違いが原因でクラスメイトから疎まれ、

他人とコミュニケーションをとる事に嫌気がさし、

やがて外に出ろ、学校に行けとうるさく怒鳴りつける親の顔すら見ないで一日を部屋とトイレの二か所だけで過ごす様になっていた


部屋で大人しくしてれば良かったのに、なんでこんな事になったんだろう・・・。


事の発端はほんの気まぐれだった。

目ぼしい動画もチェックし終え、お気に入り登録しているサイトも一通り周り、

部屋にある漫画にもゲームにも飽きていたコウは外の世界に刺激を求めた。

行先は自宅から歩いて数分もかからないコンビニだが、引きこもりのコウにとっては遠出も同然。

店に入り、商品を選び、会計を済ませると言うごく普通の行動ですらかなりの勇気を必要としていた。


週刊漫画誌とスナック菓子、なまこカレー味と言う美味いのか不味いのか良く解らないカップラーメンを詰めた袋を手にコンビニを後にするコウ。

信号が青になるのを見計らい横断歩道を渡ろうとした瞬間、コウの目の前を猛スピードで突っ切るバイクが一台。

「危ねーな」と独りごちたその瞬間、目の前にワンボックスカーが迫ってきて・・・


思えば面白くもない人生だった。人に褒められるような事も、誇れるような事も殆どしてこなかった・・・。


死にゆくコウの胸中にあるのは後悔の想いだった。

どうしてこうなってしまったのか。どこで進む道を間違えてしまったのか。

こんな事だったらもっと学校に行ってれば・・・こんな事だったらもっと人と接していれば・・・

自分が思わぬ形で死んで父さんと母さんは悲しむだろうか。いや、引きこもるようになった時点ですでに悲しんでるか。


父さん、母さん、本当に・・・ごめん・・・・


風の音にすらかき消されるほど小さく掠れた声で両親への詫びの言葉を口にしながら、コウは17年と言う短い生涯を終えた。



■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■



コウが目を開けるとそこには真っ白な空間が広がっていた。

床はもちろん壁も天井も真っ白。いや今自分がいるこの空間に壁や天井はあるのか?

そう思いたくなる程その空間は広い。

広大な空間の中心だろうか、宙に浮いてるのか地に足をつけてるのかも解らず、上も下も解らない。

幽体離脱と言うやつだろうか?。


強打したであろう頭の痛みが無くなっている事に気づく。大量に流れ出ていた血もピタリと止まり傷口も綺麗に無くなっているのだろう。

誰かが自分のケガを治したのであれば、誰が・・・?


「!?・・・何処・・・・・だ?ここ・・・」


「ここは無念や後悔の念を残し死んでいった者が行きつく場所……」


コウの疑問に答えたのは聞き覚えのない女性の声。

声のした方へコウは首を巡らせるがそこには誰もいない。


「だ、誰なんだよアンタ。俺をどうしようって言うんだ?」


コウは頭に響くような声に問いかけた。



「私は大宇宙の意志。幸無き人よ。

 貴方にチャンスを与えてあげましょう。」


「チャンス?」


「貴方を別の世界へ召喚します」


大宇宙の意志の話を聞きコウは話の趣旨を理解した。


異世界転生。

不慮の事故で死んだ少年(場合によっては青年や少女だったりもする)が

ファンタジックな世界で超絶パワーを身に着け獅子奮迅の大活躍。

現地の異性にもモテモテと言うアレだ。

現代社会に適応できなかった非リア充達にとってこれ以上夢のある話はそうそう無い。


「してその別世界に召喚された際、俺は特殊な能力を得られるのか?」


まだ見ぬ異世界に期待を膨らませコウは大宇宙の意志を問い詰める。


「得られます」


「どんな能力なんだ?全属性の魔法使い放題?それとも超強力な装備をプレゼント?」


「解りません」


予想とは裏腹に大宇宙の意志の口から飛び出したのは説明をする役割には似つかわしくない、あまりに曖昧な言葉だった。

自分のこれからがかかっていると言うのに肝心な所が不明瞭なままじゃ溜まった物じゃない。

コウは右の拳をテーブルに叩きつけ、


「解らないって・・・能力貰えると言うのに解らないってどういう事だよ!?」


「異世界に飛ばされた貴方が如何なる力を得られるか、それは貴方自身にしか解りません。

 全ては貴方の心の中に」


凄い曖昧な回答だ。

自分のこれからは自らの心の中にあるとこの良く解んない声は言うのだ。

何と無責任な。


「随分と面白くなさそうな顔をしますね。自分で得られる力を選べないのは不服だと言いたげな…。良いのですよ、このまま貴方の魂を冥府に送っても」


魂を冥府、すなわち地獄に送る。

そんな言葉を聞かされた途端コウは血相を変え、


「いやいやいやいやいやいやいやいや!!俺行かないなんて一言も言ってないですって!行きます行きますよ!!」


「素直な奴よ」


「素直なだけが俺の良い所と言われてますから」


コウの返答に気を良くしたのか大宇宙の意志、


「小妻光よ。貴方がこれから行く世界は決して平和とは言えない世界。混迷の只中にある世界で

人々の不安と争いの火種を払い英雄になるも、恐怖で支配する魔王になるも全ては貴方次第。

 さぁ行きなさいオズマ・コウよ。貴方の進む未来に…光、あれ」


その言葉を最後まで聞く事もなく、コウの目の前は再び光に包まれ、コウは再び意識を失った。

そしてコウは知る由もなかった。

異世界へと召喚された者が自分一人では無かったという事を・・・・。



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