ープロローグー 絶望
はじめまして!
今回初投稿させていただきます。
拙い文章ですが努力と根性で更新し続けますので、ご一読くだされば幸いです。
「ーーおれ……が、たす、け」
真紅に広がった血海を、原形をとどめていない肉塊たちを、凍てつくような暗闇の中で這いずる残響だけがしていた。ズシリ、ズシリと重くのしかかる強い意志で。
「こん、ど、こそ……った、す、け、てーー」
喉の奥をひねり潰した悲痛な叫びが溢れ出てくる。それは声にならないほど小さなもので、投げ掛けた相手には届いていない。それでも彼は諦めず腕を、指先を少しでも先へと伸ばし続けた。その向こうにあるもはーー残忍にも斬り刻まれた何か、残虐にも叩きつけられた何かの物体。
一体どれだけの時間が過ぎたのか、もう彼には考える余裕も時間もない。もしかすれば悪夢かもしれない、そうだったらどんなに良かっただろうと枯れたはずの紅涙が溢れ落ちる。自分一人だけが生きていることが許せない。今まで適当に人生を貪ってきた自分が死ぬべきだったんだ。
その彼も全身の数カ所に大きな裂傷があり、致命的にも左下肢が千切れ飛んでいた。
眼前に黒々とそびえ立つ半壊した要塞がある。その周辺一帯には激しい死闘が繰り広げられた痕があった。接戦などではない。一方的に嬲り殺された肉塊たちが死臭を漂わせながらーーバラバラに転がっている。
ーーやっと見つけた。見つけた見つけた。
引きずり回した腕でようやく『なにか』を掴むことができた。散りばめられた何かを大事に手繰り寄せ、失った大切な『なにか』を必死に抱きしめるが、むせかえる血の臭いで吐き気が波のようにやってきては頭がくらくらする。不甲斐ない自分の無力さに今にも押し潰されそうだ。あの時どうしていれば回避できたのか今更考えても仕方のないことだが、何度も後悔と絶望を感じずにはいられない。
夜空には流れ星が幾筋も輝きを見せ、雲の隙間がら覗く青い月が荒廃した地上を照らしている。息も耐え耐えの彼らを冷ややかに青白くスポットしている様は、まるで劇場でいよいよ佳境に差し掛かる場面のようだ。凄惨にして目を覆いたくなる場景は、皮肉にも世界でもっとも悲しく、もっとも美しい物語を綴っているようだ。
だが冷たくも肌に剣が突き刺さるような寒さが、余計に彼の体力を根こそぎ奪っていく。
ーー死にたくない死にたくない生きたい生きたい生きたい。
命の灯火が揺らめく寸前で後悔や怒りよりも己の生への執着心がどんどん強まっていくことを止めることはできなかった。やがて胸に抱きしめていた『なにか』あるいは肉塊を落としていく。頭の中がぐちゃぐちゃに掻き混ざり朦朧とする意識を、途切れそうな感覚を、他人事のように俯瞰しているみたいでどうでもよくなる。嗚咽する、吐瀉物を撒き散らしながら餓鬼のように狂ってしまったのかもしれない。
既に回復不可能なほどの深傷も痛みを感じなくなっている。終焉が近づけば、不思議と冷静さを取り戻してくる。いや、もう冷静などではないーーきっと既に自分は壊れてしまったのだろう。
もう十分に頑張った。ああ、もういいではないか。これ以上何ができようか。自分は疲れたんだ。あれをやってもこれをしても全て無駄。これ以上無駄を重ねるなんて馬鹿げている。本来なら褒められてもいいはずだーーよく頑張ったね、と。
違う、否、否、否。彼女を笑顔を見たいから、心の底から笑ってほしいと望んだからやり遂げないといけない。たとえどんなに辛い未来になっても、今よりもどうしようもない結果になろうとも逃げることだけは自分自身が許さない。足が捥がれたなら腕を使え、腕が捥がれたなら地べたを這いつくばってでもーー