表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻想ノ祭  作者: 竜頭蛇尾
4/5

第一夜ノ後片付け 猫と帽子と兎

「シャアアアアアアアアアアア!!」

 その声が合図となって怒りを心に宿したのか、猫が猛烈な勢いで兎に襲い掛かる。前足を前に出し、爪を立て、後ろ足でまるで100m走のスタートのように床を蹴り、飛び掛った。

「心・・・ありますか」

 兎はそうつぶやくと、ゆらりと流れるように攻撃をかわす。さて、どうしたものか。魔法で攻撃してもいいが、あのすばやい動きではどうにも当たる予感がしない。

「フッ・・・フッフ・・・フッ」

 猫の呼吸が整わない。これはチャンスか、それともピンチか。

「いろいろ試してみる必要がありますね」

 兎は、その両手を前に出し、ゆらゆらと八の字を描かせる。腕の軌跡にはいくつもの光の球が出来上がっていき、兎の掛け声を合図にそれぞれいろいろな方向から猫に襲い掛かる。猫は右上からきた光の球を前に飛んでかわすと、すぐ左から別の光の球が来ていた。そのことに気づいていた猫はそのまま下へしゃがみ、左へ移動する。後ろから来ていた光の球が左に動いた猫の横をものすごい勢いで通り、天井に直撃した。

「なかなかやりますね」

 猫は残る5つの光の球も軽々と避け、兎をにらみつける。凶悪な顔は、人間離れ・・・いや失敬、猫離れした顔を思わせる。さて、どうしたものか。

 動きを止める方法はあるにはあるが・・・。威力の高く、殺傷能力の高いものは使えない。とりあえず幻覚でも見せたいが、自分はそれほど得意じゃない。

 そうだ。『あれ』を使おう。しかし、そこからは――。

「願わくば、その身のこなしで華麗に避けてください。この攻撃は少々ありえない破壊力を持つもので」

 この攻撃でこの猫との闘いに決着が着く。と、兎は思っていた。兎はバックステップで猫との間合いを広げた。かなり広く、居合い切りでも入れない距離だ。

「右手に炎を、左手に雷を」

 兎はなにやら魔法の発動のためのような言葉をつぶやきだした。不審に思った猫は、これが最後、と覚悟し兎に向かって突撃する。

 兎の右手には赤い光、左手には黄色い光が輝きを増し始めた。両手を前に出し兎はさらに声を張り上げる。

「汝ら、この『因幡の白き兎』を核とし、巨大なる砲撃を用意せよ!」

 言い終わった瞬間、両手にまとっていた光が消え、兎の目の前に巨大な砲台のようなものが現れた。兎は砲台を両手で構え、突撃する猫に向ける。

 その姿は異様で、今にも噛み付くかのように開いた砲口。砲口の(ふち)に付けられた鋭い突起。砲台の体を支える三つの鋭く、それでいて平たい突起。その様子はまるで――(さめ)

「二度同じことを言うが、願わくばその身のこなしで華麗に避けよ! 長期戦が嫌いな自分が開発した『威嚇専用巨大鮫型砲台いかくせんようきょだいさめがたほうだい』の力を!」

 感情が最高潮にまで高まっているのか兎が叫べば叫ぶほど、そのかぶっているフードの兎の目がギラリギラリと鈍い輝きを増していく。まるで、捕らえた獲物を駆る狩人か、獣の鋭き目。

 猫が近づいているのを無視して、兎はさらにこう叫ぶ。

「充電開始」

 鮫型砲台の砲口に異様なエネルギーの集合体が集まり始める。具体的に言えば、なにやらパチパチとしたものとメラメラとしたものとバチバチとしたものと、なんとも言葉で表現しにくい異様な音を立てた光が入り混じっている。

 その光の輝きが、音が大きくなると共に増していく――。猫が、その砲台の目の前にまで飛んできた。 

「準備完了! いざ、目の前の全ての獣を絶望、恐怖、憎悪、殺戮、凶悪、最強によって最大限までに脅かさせよ! 超凶悪な砲台の攻撃――」

 兎の掛け声のようなよく分からない声が合図なのか、銃口が震え始め次の一声(ひとこえ)によって、集合したよく分からないエネルギー体が猫に向けて放たれた。

 その一声とは。

「『幻想の如き破壊しろうさぎからのおくりもの』!!」



「すいませんでした。テヒヒ、本当に。いえ、本当ですって・・・。もう、信用してくださいよ〜」

「・・・」

 血まみれの娘が、背中を壁にもたれながらしゃがみこちらを見ている。この娘、少女という体格ではない。なんというか・・・うん、高校生。そして、おかしいだろう、彼女の頭の左上に猫耳が生えている。それが『左上だけに』だ。

 黒髪のショートカット。それでいて、丸顔。さらには、青い瞳。・・・ん? この娘、左目が青く、右目が赤い。どういうことだ・・・? まぁ気になるのはそれだけじゃないのだが。

「それにしても・・・すごいですね・・・アレ」

「炎と雷の集合体を放った。エネルギーが消えるまでは永遠にあぁなっているぞ」

 大広間の壁には、ひびが入り、さらにそのひびに炎やら雷やらよく分からないエネルギー体まで、全部が沿ってひびを埋めている。まぁ、一種の防犯トラップ・・・とは呼べないほどの危険さを持つが。

 そのエネルギー体を猫にぶつけた。まぁ、所詮は『威嚇専用』なのでそこまで威力はない。というか『あるわけがない』。直撃したとしても、かすり傷ぐらいか。

「さて、チェシャ猫。こうなったわけを話してもらいたいな」

 兎は自らの右腕を倒れている娘の顔面の目前に突き出す。威嚇とは言えどもその腕には殺意のようなものがこめられている。

「・・・むぅ」

 娘が顔をしずめて、少し重い雰囲気の中語り始めた。声は少し震えている。恐怖か? それとも悲しみか?

「三ヶ月前くらいかな。この屋敷に私は拾われたの。その辺の道端でニャーニャー鳴いてるときに」

「三ヶ月前・・・」

「まぁ、そこからは普通の猫みたいに暮らしてたんだけどさ。ある日、屋敷の主人が変な帽子を買ってきたのよ」

「帽子!?」

 兎は『帽子』という言葉に強烈な反応を見せた。帽子・・・か。

 少女は少し兎を見つめたが、気にせず話を続けた。

「その日がちょうど一ヶ月前。その日から、帽子を持っている人間が夜中に歩き出して、私を殺そうとしたわ。消えたら消えたで帽子が誰かの部屋に置かれてるのよ。それを気味悪がる人もいたけど、ほとんどの屋敷の人は私のせいだと思ったみたい」

「殺そうとした・・・?」

「えぇ、最初は首を握り締めようとしたりしてきたけど、次第には包丁やら、銃やら。戦闘態勢に入ってからは私の圧勝だったけど」

「それで、お前がこの屋敷に入ってきたアリスと俺に目をつけた」

「そういうことー♪」

「ふむ・・・嫌な予感がする」

 屋敷の外では、蝙蝠がばたばたと羽ばたき、木々の葉を揺らしざわめきを作り出していた。



「ヒヒヒ・・・」

 メインストリートの一角にはまだ謎の声が高らかに響き、こちらはざわめきとどよめきを作り出していた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ