冬の傷心 Valentine's Day 【cacao70%】@大和麻也
[From: さーや]
[To: ひとみ]
[Date: 09 February 2013]
[Subject: Re]
第一志望合格おめでとう!
今度遊びに行こうよ。久しぶりに会いたいな
[From: ひとみ]
[To: さーや]
[Date: 09 February 2013]
[Subject: RE:Re]
ありがと(^^) 直前までギリだった! 調子良かったみたい(笑)
そうだね、会いたいね。来週の日曜日じゃまずいかな?
[From: さーや]
[To: ひとみ]
[Date: 09 February 2013]
[Subject: Re:RE:Re]
17日だよね。全然平気!
ひとみのほうこそ手続きとか残ってないの? 早くない?
[From: ひとみ]
[To: さーや]
[Date: 09 February 2013]
[Subject: RE:Re:RE:Re]
手続きはあさってにはおわっちゃうから平気だよー
そうじゃなくて、バレンタイン終わって最初の週末だから
今年こそじゃないの?
[From: さーや]
[To: ひとみ]
[Date: 09 February 2013]
[Subject: Re:RE:Re:RE:Re]
からかわないで。確かにうちは受験がないから、学校中そういう空気笑 困る笑
[From: ひとみ]
[To: さーや]
[Date: 09 February 2013]
[Subject: RE:Re:RE:Re:RE:Re]
てことは今年チャンスなんじゃない?
椎葉くん待ってるんじゃない?
沙綾もその気にならないと出遅れるよ?
ケーキとか生チョコの作り方教えてあげようか?
[From: さーや]
[To: ひとみ]
[Date: 09 February 2013]
[Subject: Re:RE:Re:RE:Re:RE:Re]
ああうるさい(;・∀・)
ひとみも人のこと言ってられないんだからね!
[From: ひとみ]
[To: さーや]
[Date: 09 February 2013]
[Subject: RE:Re:RE:Re:RE:Re:RE:Re]
受験生なので恋愛なんかできませーん(笑)
そうだねー高校生になるんだから恋愛のひとつくらいねー
そっかぁ沙綾はその気だったんだね( *´艸`)
[From: さーや]
[To: ひとみ]
[Date: 09 February 2013]
[Subject: Re:RE:Re:RE:Re:RE:Re:RE:Re]
はいはい! もう終わり! 17日楽しみにしてるからね。おやすみ
***
パソコンの電源を落とし、就寝の支度をする。
ひとみのやつ、かわいい顔してグイグイ来るんだから隅に置けないよな、などと悪態をつきながらベッドに入った。空気が冷たいと胸の奥がきゅっとするのが気になって、あまり眠れない。でも暖房を点けたまま眠るのもダメ。朝布団から出るのが嫌なのも相俟って、冬は概ね寝不足気味になる。
そんなときに持ち込まれる不眠のタネ――春との関係。
アイツはわたしのことを平気で「幼馴染」と言う。間違いではない。変でもない。近所に住んでいるうえに親同士が親しいから、小学校に入る前からよく一緒にいたし、小学校には一緒に通い、受験して入学した中学ですら一緒になった。だから「幼馴染」なのは事実。でも、その呼び方は「特別扱い」の象徴とも解釈される。友達にどう言われてからかわれるかわからないから、わたしは「友達」と呼ぶようにしている。中学に入ってからは。
わたしがどんなに「友達」として強調しようと、春のほうは特別扱いする呼び方を続けるものだから、結局同級生たちにはわたしたちが好き合っているものと思われている。取り繕った呼び方でモジモジと関係の進展を躊躇っている、と。
確かに春のことは好き。好きか嫌いかで訊かれたとして、嫌いと言えるわけがない。けれども、それは恋仲になりたいとかそういうことなのかは、まだ微妙。残念ながらおそらくそういうことなのだけれど、認めるのは悔しい。
今週末にはもうバレンタインか――春のやつ、テニス部で目立つ割には案外モテないんだよね。性格が悪いからか。昔はそうでもなかったのに、もったいないやつ。今年も義理チョコしかもらえないんだろうな。一個くらい恵んでやろうとは思うけど、友達に持っていくのと一緒でもいいよね。わたしからもらうこと自体もったいないくらい。
「……ああ、ダメだ」
わたし、ほとんどその気になってる。
***
サイコーに憂鬱な朝。
太陽が雲に隠れ、日中でも六度という低い気温。玄関を出た瞬間に冷たい空気を吸い込んでしまい、しばらく息苦しかった。マフラーで口を覆って歩いた。
一五分もあれば着いてしまうすぐ近くの中学校。わたしの家から近いということは、春にとっても徒歩圏内だということ。わたしが通学するのに唯一渡る横断歩道のところで、毎日顔を見ることになる。
きょうも例外ではなかった。
「おはよう」
昨晩考えていた朝一番に会ったときの話題はすべて忘れてしまった。最低限あいさつを振り絞ったが、
「おう」
と春はそれだけ。いつものことだ。春はどうやらわたしとの関係に形式ばったものは必要ないとでも思っているのか、朝会おうと夕方別れようとあいさつすることはめったにない。お礼や謝罪すら気持ちの入らない最低限のものしかなく、こうした態度もまた何人かのクラスメイトが「特別扱い」だと目ざとく見つけてはニヤニヤと笑って指摘してくる。
実際、春に対してあいさつが必要ないような気持ちは自分にもある。ほとんど毎日顔を見るのだから、いちいち日ごとにあいさつして気分を改めなくてもいい気がする。昨日のおはようで会話がはじまり、それはいつかおやすみを言うまで残るような――そのおやすみのことばも、いつ言うのかわからないくらい。
それくらいになると、「友達」とも思わなくなる。「家族」「きょうだい」などの認識へと向かっていく。春にとってわたしはそういう存在なのかもしない。だとしたら、それはそれで納得がいかないわたしがいる。
わたしの悩みを知らない春は、いつも通りである。
「なあ、数学の宿題見せてくれない?」
「ええ、また忘れたの?」
「忘れてないけど、わからなかった」
小学校のころは頭がいいと褒められていた春も、現在の成績では下から数えたほうが早い。宿題だってろくすっぽやって来ない。テニスのしすぎか。
「先週の水曜日に配られたプリントだよね……持ってないかも」
嫌な予感がして鞄の中のファイルを調べたが、入っていない。焦りながらも先週自分がいつ宿題をやって、どこに片づけたかを思い出そうとするが……わからない。
「また捨てた?」
「……そうかも」
我ながら整理整頓が下手だ。おそらく金曜日に捨てたプリントの中に間違えて宿題を混ぜてしまったのだろう。あの日は母と軽く口喧嘩をしたのだった。昔からカッとなるとすぐモノを捨てはじめるのは悪い癖だ。
「おれのを提出すればいいよ、まだ名前も書いてないから」
春はわたしがしょっちゅうモノを紛失すると知っているから、こういうことを平気で提案する。叱られるのは自分なのに。
「さすがにそれはできないよ」
「いいよ、おれが宿題を忘れるのはいつものことだし、沙綾がモノを失くすのもいつものことだから」
何かを悟っているかのように微笑む春。
そういうことをされるから、好きになっちゃうんだよ。
「もう、それでいいか……」
春のプリントをもらうのと、春が好きだと認めるのと、両方とも。
わたしたちの前を歩く中学生の中に、わたしや春の知り合いはいない。
背後を見る。誰もいない。わたしたちは比較的登校時間が早いのだ。
これなら、いいかな。
「話は変わるけどさ、アズ」
幼少のころから変わらない愛称で呼びかけても、春は前を向いたまま。返事はしなくても聞いているから続けていい、わたしの前ではいつもそういう態度なのだ。
小さくため息。たぶん気が付かれていない。このため息も、わたしが緊張していることも。
「今年も友チョコをたくさん作ることになると思うんだ。ひとみも受験が終わって、張り切っていろいろ教えてくれるんだよね。アズにも何か恵んであげるよ、どうせ今年も誰からももらえないでしょ」
変に饒舌になってしまった――小さな後悔が芽生える。
ところが春はのんきなものだ。
「ああ、そうか。今年ももうバレンタインか」
本当にのんきなのかもしれないけれど、あまりにも白々しいからわざとではないかと疑ってしまう。
「毎年お前からもらってるじゃん」
「それは友チョコの毒見でしょ」
今年は違うの?
違う。
面倒だから義理チョコは作らないっていつも言ってたろ?
…………。
「義理チョコならわざわざいらないよ」
じゃあ本命なら欲しいのか、と訊いてしまいたくなった。喉まで出かかって我慢。こっちからその気のある態度を見せるなんて、その時が来るまではできない。
「義理チョコだけど……特別なやつ。恵んでやるって言ってるんだから、ありがたくもらいなさい。ちょっとは喜べ」
面倒くさいからいいのに、と欠伸をした春は肩から滑り落ちそうになったラケットケースをかけなおした。
教室の机に鞄を置いたとたん、つい数分前の自分が恥ずかしくなって、一日春とは口をきく気になれなかった。
***
おかしい、と気が付いたのは、夕方材料をスーパーで買って帰って来たあとだった。
妙に息苦しい。変に興奮した気持ちで、寒空の下自転車で買い物に出かけたせいでもあるだろうけれど、それ以上だ。週末までに低気圧が発達していくと天気予報で聞いたかもしれないが、まだ週のはじめ。
発作用の薬を吸入する。これで五分もすれば落ち着くはず。
気象情報を確認しよう。リビングへ行ってテレビか新聞を見ればすぐにわかる。でもその足が重い。膝に力が入らない。足の裏で床を踏む感覚が弱い。
「あれ、沙綾が新聞? 珍しいね」
お母さんの感心は放っておき、天気図を見る。まだ気圧は下がり切っていない。経験上、このくらいなら発作が出るなんてことはまずないはずだ。つまり、わたしは別の何かの病気をもらってしまったのか。
「沙綾、顔が赤くない? 熱?」
ああ、言われてみれば熱っぽいかもしれない。頭がぐらぐらする。
そのとき、紙面の端に書かれていた家庭欄のトピックが目に入った。それでふと思い出す。
中高一貫校には受験の心配が少ない。ということは、体調への心配も受験生に比べれば必要ないということ。だから、わたしもクラスメイトも――予防接種を受けていない。
***
[From: さーや]
[To: ひとみ]
[Date: 13 February 2013]
[Subject: ごめん]
インフルエンザにかかった。本当にごめん。遊びに行く話はなしで。
[From: ひとみ]
[To: さーや]
[Date: 13 February 2013]
[Subject: RE:ごめん]
大変! お大事に。喘息だとひどくなるらしいから、気を付けてね。
安静にしてゆっくり休んでね。治って元気になったら遊びに行こう。
ごめん、読んでる余裕ないか! 返信いらないからね!
***
三時半を回り、下の道から帰宅する中高生の話し声がちらほら聞こえはじめた。
きのうの夕方閉院間近のかかりつけの病院でインフルエンザ感染が確認されてから、夕飯も食べられないまま気絶するように眠り、今朝起きたときには学校がとっくに始まっている時間だった。そしてまた眠り、いまようやく遅い昼食代わりにヨーグルトを口にした。症状が出てから一日、ヨーグルトでも飲み込むと息が止まりそうになる。
熱っぽさや頭痛は、辛いけれど慣れてきた。それよりも、息を吸い込むたびに胸が焼けるように痛むのが苦しい。幼いころ夜中の発作で息を吸えなくなって、酸素吸入をしてもらったのを思い出す。そのころに比べれば体も丈夫になったし喘息も治まってはきた。でも、息を吸えない辛さ苦しさ自体は改善されることがない。吸うと咳が出る。咳が出ると息苦しくなってもっと吸わなくてはならなくなる。だからといって深く息を吸うと、さらにひどい咳が喉を傷めつける。その間ずっと痰や唾の不快感と闘うことになり、口からこぼれるのも止められない。心身の痛みに涙が流れる。
封筒を持ったお母さんが玄関から戻って来た。誰かがうちを訪ねて来ていたことにも気が付かなかった。
「クラスの子がプリントを届けてくれたよ」
学校と家が近いから、小学校のころのように学校で配られたものはクラスメイトが届けてくれる。遠方から通う子にはできないが、喘息のせいで月に一、二度は欠席してしまうわたしの場合、先生がそういう配慮もしてくれる。
その役目はだいたい春が引き受ける。近所だし、親しいから。
「じゃあ、アズが来たの?」
わたしの言葉には、息継ぎのたびにひゅうひゅうという喘鳴が混じる。
「いや、春くんじゃなかったよ。女の子が三人で」
あ、いつも仲良くしてるあの子たちだ。
「……そっか」
言い終えたそばから、げほげほと咳が出た。お母さんに背中をさすられても落ち着かず、ついにヨーグルトは食べきれなかった。
***
一四日。熱のピークは少しずつ過ぎていき、体はようやく果物くらいなら食べ物を受けつけはじめたが、今度は強力な低気圧の影響もあって喘息のほうがひどくなりはじめた。
学校ではいまごろ、友チョコを交換し合ったり、男子に義理チョコを配ったり、本命を渡すタイミングを考えて悶々としていたり、バレンタイン劇場が色々と繰り広げられているのだろう。
その中でひとり、わたしだけは材料も手つかずのまま、ベッドで横になっている。
春のやつ、学校でどうしているのかな。もしかして、今年は本命をもらうようなことがあるのかもしれない。そうなったら春は、どのように返答するのだろう。そもそも、春はわたしにそのことを話してくれるかわからない。
呼吸すること自体が苦しい、という症状は、生きてはいけない、というメッセージにさえ思えてくる。確実に、わたしを暗い気持ちへと引きずり込んでいく。
「沙綾、きょうもプリントが届いたよ」
お母さんがリンゴのコンポートと一緒に封筒を持ってきた。
「……だれ――」
いまのわたしにはこれくらいの言葉を発するので限界だ。
「きのうと同じ三人」
返事はできなかった。
***
出席停止期間が終わり、お医者さんに登校許可を書いてもらったけれど、インフルエンザはともかく喘息のほうはまだ登校するには辛い様子だから、もう二日休むよう言われた。その欠席を含むと、わたしは丸一週間以上登校できないことになる。
あれから春は一度もうちへ来なかった。
いつもやっていることなのに、どうして?
一瞬、好きじゃないからかな、と脳裏をよぎる。
首を横に振る。でも、自分の中で結論が出ているからこその不安だ。もうインフルエンザにかかった病人ではなく、普段と同じ、喘息で不自由をしているだけの自分に戻った。体は動くのだから、春に贈るチョコレートを作ろう。遅くはなったけれど、作ると宣言したからには作らなくてはならない。
バレンタインを過ぎても春に会えない苛立ちのせいで、何度か材料や道具を捨てそうになった。自分の悪癖を乗り越え、捨てずにこらえることができたのは、きっとわたしが本気だからだ。
友チョコも義理チョコも作らない。それでも作る唯一の「特別」を本命といわないのなら、何を本命といえばいいのか。
***
コートにマフラー、手袋、できるだけの防寒と、ほんの少しのおしゃれをして外に出た。学校を休んだわたしが出かけても、お母さんは何も言わない。ちょっとだけ、と言ったのもそうだけど、中学生になって自分で体調管理ができると認めてくれているのだ。
テニス部の練習が終わる時間帯。春が家に帰るときの最後の曲がり角にあるカーブミラーの下で待った。
痰が絡む気配がして、いくつか咳払い。「あ、あ」と声を出し、かすれていないかチェック。風はそれほど強くもないから、髪形はたぶん大丈夫。洋服の裾も変になっているところはない。心の準備以外は全部できた。
深呼吸をしたいところだけれど、まだ深く息を吸うのは苦しい。ゆっくりと浅い呼吸を繰り返し、自分で自分を忘れるような穏やかな気持ちを保つ。
「あ」
次に顔を上げたときには、春の姿が見えていた。
春はわたしを見てもあいさつはしない。ただ不思議そうな、驚いたような顔をして歩み寄って来るだけだ。
「おかえり、アズ。これ、約束通り」
ささやかなラッピングを施した箱を差し出す。春は呆然と受け取った。
「手作りだから。……それで、その」
話の続きを考えていなかった。雰囲気で伝わっているはずだけれど、いざ言葉にしようにも頭の中が真っ白でどうしようもない。どうにかはっきりと伝えなくては。でも全然浮かんでこない。素直に一言「好き」と言えばいいのに、それを要らない言葉で飾りつけしないと言えそうにない、だからその飾りつけを考えて――!
「……あのさ」
春のほうが口を開いた。
わたしの頭の中は本格的に空っぽだ。
「インフルエンザだったんでしょ」
世間話? それとも春なりの展開があるの?
「え、まあ……うん」
「喘息だとひどくなるっていうよな」
「そ、そうだね」
「でさ、これ、手作りしたんだ」
「うん」
数秒の沈黙。春の言葉の続きを待つ。
「……ふざけるなよ」
聞き取れなかった。何て言ったの? と訊き返したかったが、その前に春の声がわたしを威嚇した。
「ふざけんな! どれだけ心配したと思ってんだよ! 休むべきときに、こんなもののために自分の体を削ったのかよ? 自分の体を粗末にするな。心配させる時間を増やすな。これを作るあいだに良くなるはずだった体調が悪いままだったかもしれないんだぞ。おれはお前ではないし医者でもないからわからないけどさ、お前が息苦しそうにしてるところは見て知ってるんだよ。想像するだけでも気が気じゃないんだよ!」
――なんで。
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで。
どうしてわたし、責められてるの?
病人は病人らしくおとなしくしていろってこと? 人に心配させるくらいなら何もするなってこと? わたしは自分で自分の体調を判断できるわけがないってこと?
胸の奥がふさがれたような心地。呼吸がだんだんと細くなる。ああ、これは発作だ。まだ病み上がりだから、興奮するとすぐこうだ。薬を使うには家に帰らないと。
恋心なんかじゃない。発作だ。
「なあ、これ……!」
横を通り過ぎて帰ろうとするわたしに、春は箱を突き出してくる。
「返そうだなんて失礼な。もらってよ」
ため息の奥に喘鳴が聞こえる。春もそれを感じ取ったのか、顔が引きつる。
「お、お前――」
「いいから。お願い」
「…………」
鞄に箱を入れるのを見届けてから、一度も振り返らずに帰った。苦しくて苦しくて、一秒でも早く家にたどり着いて薬を使わなければと思うけれど、走って帰ろうとすればほんの四、五メートルで息が詰まって足が動かなくなる。わたしはつってしまいそうなくらいに脚を踏ん張って歩いた。
***
結局、もう一日休む羽目になった。
その一日でかなり反省した。春は春なりにわたしを想ってくれていたのだから、その気持ちだけは感謝しなくてはならない。プリントを一度も届けてくれなかったことには疑問が残る――でも、理由を訊いて失望するのは嫌だった。
わたしを特別に扱ってくれている春を、好きでい続けるだろう。想えば想うほど息苦しいほどに胸が詰まる、発作に似た恋を続けるだろう。ただし、恋する相手はこれからの春ではないかもしれない。わたしが恋をしたのは、あのときより前までの春だから。
土日を含めて七日も休んだのちに訪れる学校は、ほとんど別世界のように思えた。クラスメイトがわたしの姿を見つけては、近寄って来て回復を祝ってくれる。
教室の中でひとり、わたしの好きな人だけは輪から外れていた。仕方がないので立ち上がり、わたしのほうから歩いて行った。何人かのクラスメイトがはやし立てるけれど、どんな冷やかしもいまとなっては的外れだ。顔を覗き込むと、彼は顔を上げる。どこか遠くを見つめ、何かを恐れているような目をしていた。
「ねえ、アズ。お願いがあるんだけど、いいかな? あとでいいんだけどね、休んでたときに配られたプリントを、印刷させてほしいの――間違えて捨てちゃった」
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