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蒼穹の神滅者(シルヴァリオ)  作者: 1
第2章 堕ちる世界
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第82話 魔導生命編〜回帰〜  

「しかし凄いですね、水の巫女は」


 神滅者ラドルと対峙しながらも若手議員に扮したレザースは水の龍と化した水精たちを従える水の巫女ターニャを称賛する。

 対峙して尚、未だに激突しないターニャとアルファス。

 何か言い争いをしている様だがそれを見てレザースは口端を釣り上げる。

 その様子を見てラドルは視線を鋭くして目の前の男を威圧する。

 凄まじいその威圧にも動じずレザースはちらとラドルに視線を移す。


「……貴方も流石ですね。こんな威圧感受けた事ないですよ」

「聞きたい事が沢山あるが……先ずはお前は何者だ?」

「僕ですか?見ての通り魔族の男ですよ、レザース・フェルムというね」

「……という事は貴様はその素性を隠してこの街の評議員に就任したというのか?議員になるのはそんなに簡単なのか?」


 普通に考えれば議員などの政治家は当然ながらその国の国籍が無くては始まらない。

 更にその出自を示すような履歴。

 血筋を示す家系図。

 最終学歴を示す証明書など必要な要素は多岐に渡る。

 だがこの国どころかこの大陸の人間でもないレザースが評議員という政治活動は行えないのは常識な筈……なのだが。


「世の中にはどんな世界であろうとも裏道というものが存在するんですよ、神滅者(シルヴァリオ)

「その様だな、で?貴様の目的はなんだ?」


 未だに対照的な表情の2人。

 だがその口からは意外にも想定していたものとは違っていた。


「……魔族と人類の国をこのベラシアス大陸に作り上げる。それが至上の目的ですよ」

「魔族と人類の国を?」

「そう。僕はこの歳まで天涯孤独でした。父もなく。母もなく。この身に流れる血さえも誰から与えられたかすら分からない。気づいた時にはこの大陸にいました。そしてそんな僕を育てた司祭は魔神の信奉者。特にこれと言って信心深い訳でもなかったのですがね、生きていく為にこの身と信仰を魔神に捧げたのですよ」

「それ故の変革、か」

「まぁそれはついでですね。だけど隠れて生きていくのはもう御免です。このベラシアス大陸には隠れ神教者が多くいるのはご存知でしょう?」

「……その出自には同情もできようが魔族がこの大陸で暗躍する事を良しとはしない連中によく見つからなかったものだ」

「貴方は?」

「……俺か?特段何とも思わない。俺の邪魔さえしなければ誰がどこで何をしようが興味は無い」

「今の僕は貴方の障害であると?」

「ターニャ……いやカティナの元へ素直に行けるならばな。だが貴様はこの無間空間を解くつもりはないのだろう?」

「……僕自身はカティナという人間個体は何も知らないです。ですが彼……アルファスの研究は僕に大きな利益を齎してくれる。それ故にここは時間稼ぎさせてもらいますよ」


 そういうと禍々しさを孕んだ短剣を手にする。

 その刃は鋭くもギザギザに稲妻形をし切りつけたものの創傷面を悪化させなおその刀身に含む毒によって腐食させる正に一撃必死の凶器であった。

 その短剣を逆手に持ちながらも姿勢は直立するレザース。

 顔の前にその短剣を構える。

 対面の神滅者を凝視しその内に戦意を高めていく。

 頬に一つ汗が流れる。

 戦う意思を固めた途端に目の前の男から感じるその力量に心胆を寒からしめていた。

 だがその表情には出さない。

 いつでも薄い笑みを見せて余裕を振りまく。


「いつでもどうぞーー」


 刹那。

 目の前にいた神滅者が消えた。

 その事実を脳が認識するその時既にラドルはレザースの背後に廻りその宝剣をレザースの頭頂部目掛けて振りおろしていた。

 だが。

 その剣がレザースを唐竹割りになる前に。

 空間が撓みそこから何かが噴出した。


「な?!」


 さしものラドルもここまで距離を詰めて攻撃停止するのは難しく瞬間的に跳ね退く。

 噴出した何か。毒霧のような魔素を含んだ煙。

 それを少量なりとも吸い込んでしまった、とラドルはすぐにレザースに問う。


「これは何だ……?」

「……吸い込みましたか?吸っちゃいましたか?吸ってしまいましたね!?これは重畳重畳。フフフ」

「答えろ、これは何だ!普通の毒ではない、この気体は……すごく……不快だ……!」

「ご安心を。特別貴方の存在構成を害するものではありませんから」

「ならばなんだ……俺の意識を刈り取ろうとしているこれは……」

「ふむ、常時瞬間復元の加護を持つ貴方にも効果がある。これは一つの成果ですね、アルファスにも報告しましょうか」

「アルファスの研究物質か……?」

「御名答。これはそうですね、まだ名称は無いのですが敢えて名付けるならば……『回帰煙霧』とでも名付けましょうか」

「回帰……?まさか貴様……これは……」

「お察しの通り。この霧には吸い込んだ者の人生の転機となる、とりわけ印象強い過去の記憶にまで精神を「回帰」させるアルファスの傑作品です。さあ貴方のその不死身の身体、聞き出させて貰いますよ、この僕の為に」

「止めろ……どうなっても……知らんぞ……」

「多少のイレギュラーは想定してます。さぁーー話しーーさいーー」


 声が遠くなるのを感じながらラドルの意識は深淵に溶けていったーー。



 ラドルの身体は膝から落ち、まるで人形の様に顔に感情はなく下を俯きその瞳には光が無くなっていた。

 かつてティラーニア王国のファーナの時も似たような不覚を取った。しかし今回は完全に意識を奪われてしまっている。

 最強不敗と言わしめた伝説の男が自分の目の前で静かに隙を露わにしている。

 それを見て一人ほくそ笑むレザースはこんなものか、と満悦していた。

 だが掌に滲む汗に気付くと再び気を引き締める。


「あれが噂の瞬斬……か。なるほど気付いた時には既に死んでいると言うのはあながちホラでもないな、予め自動防御の空間術式を組んで正解だった」


 汗が一つ滴る。

 それだけの危険があったのだ。

 しかし意識を奪いもはや傀儡のごと俯き黙る神滅者に向けて歩を進める。

 そして物言わぬラドルの目の前で膝を折り問いかける。


「さぁ貴方のその力……不老不死と邪神の加護とは何か?その秘密を答えなさい……」

「……邪神……?」


 質問の意図が分からないと言う様なニュアンスで呟く。


「ああ、ラドル本人は邪神とは認識していないという事か。仮にも信仰する神。その正しい名を呼ばなくてはいけない。確か邪神の名は……」


 かつて古に正道神教会が正統神教として認めず追放された神の一柱。

 その名は既に隠匿され口に出す事はおろか知る事さえ困難になっていたそれをレザースはとある筋から情報を得ていた。

 顎に手を当て記憶の糸を手繰るかのようにその名を思い出す。

 そう、確かーー。


「……女神リィンティースだったか」


 その邪神の名を呼んだその時。

 ラドルにほんの僅かな反応があった。


「リィン……ティース……」


 その名を口にしたラドルはその脳裏にかつて信奉していた神の記憶を思い起こしていたーー。




 ラドルは夢見心地でいた。

 その夢をただ甘受していたいと目を空けるのも億劫な感覚。

 だが外からの刺激で起きざるを得ない。

 刺激。

 それは誰かが自分を呼ぶ声。


「ラドル!こんなところにいたのですか?」


 若く高い、しかし柔らかな声の主は年若い女性。

 いや女性というには些か若すぎる。

 少女とも言えるその容姿は美しく可憐という形容詞が似合う。

 長い髪を腰あたりで纏め、その衣装はゆったりとした儀装束のようだ。

 いつの間にか自分の傍に座り込んでいるその少女は声に似合う朗らかな笑顔をラドルに向けていた。


「もう!早く起きて下さい!今日は待ちに待った儀式本番の日なんですよ?」


 頬を少し膨らませて怒ったフリを見せる少女。

 前屈みでラドルの顔を覗き込む様な体勢で問い詰める。

 すると装束の下は何もつけていないのか胸元から少し膨らみかけた双丘が見え隠れする。


「おい……もう俺は貴女の従者じゃないんだけど?」

「ふふ。そう言いながら私の胸元を凝視しているのは気づいてますよ?もぅエッチなんですね、意外と」


 からかわれたと思いながら事実行動を誤魔化すようにムクリと身体を起こす。


「俺は……自分の意思で前線に赴く、もう貴女の……騎士じゃ……ないんだ」

「嘘」

「嘘じゃない」

「嘘です、そんなの」

「どう言えば良いんだ……とにかく俺は貴女に相応しくないんだ」

「……口調が変わっても立場が変わっても貴方は昔からその心は変わってない。私と語らったあの日の夕焼け。それを覚えてさえいてくれれば……貴方は世界の誰よりも私に相応しいの」

「買い被りだよ。人は変わるもんだ」

「でも変わらないものだってある。私は貴方にそう教わった」

「……聖堂騎士の座は返上した。親父や教会の連中は俺と貴女を引き離そうとしている。そしてそれが正しいんだ。多分」

「正しいか正しくないかは私が決めます!それくらいの裁量はある筈です、この降臨の巫女には」

「降臨の巫女……貴女はそれでいいのか?」

「もちろんです。でも……」

「でも?」

「貴方が居なくては自信が……ありません」

「……やれやれ。いつまで子供のままでいるつもりだ」

「貴方だってまだ成人したてじゃないですか」

「だが大人だ。だから……縛られたくないモノにも縛られるしかないんだ」

「大人……私だってあと数年すれば大人になります。それまで待ってはくれないのですか?」

「俺は……弱いから……弱虫だから……だから貴女から逃げるしかできないんだ」

「でも。私の中では貴方しかいない。騎士とは形式や名称ではない。貴方は私の騎士でしょう?だから……私は貴方を好いてあげますよ?」

「どれだけ上からなんだ……まぁでも」

「ん?」

「ありがとう、***……」



 ーーーーーーーーーー



「これは!?」

「ラドル!!」

「***!?待ってろ、今助ける!!」

「ダメ!この力は……人の力じゃ抗えない……!この世界が……変わる……力……!」

「知るか!お前はただ黙って俺に助けられるのを待ってろ!」

「ダメぇぇぇ!!」

「うおおおおおおっ!!」



 ーーーーーーーーーー



「もう……嫌だ……!誰か!!誰か……俺を……助けてくれ……!!誰か……声を……聞かせてくれ……!誰か……動ける奴はいないのか……!」



 ーーーーーーーーーー



「待っていたよ……ラドル」

「***……お前は……俺が助けるよ」

「もう良いよ」

「え?」

「この世界には邪魔が多すぎる。貴方は家族を。父と母と。妹さえもその手に掛けて私の元に来てくれたその事実だけがあれば私は生きていける……だからもういいの」

「……悪いな、お前の言葉はもう聞かない」

「……え?」

「助けるの意味が違うんだ」

「何を……言っているの?ラドル」

「俺はお前を殺してその運命と宿命から助けてみせる」

「……ラドル!!」

「……光になって散華しろ!***!!」



 ーーーーーーーーーー



「リィン……ティース……」


 ラドルは自らが崇めていた女神の名を呟く。

 目の前にいるレザースはそれを黙って観察している。

 この状態になってすでに5分が過ぎようとしてしていた。

 未だにこの状態から変化が見られない。

 これはどんな状態なのか?外からの観察だけではそれを推し量る事しかできない。

 恐らくラドルの精神は過去に回帰しているのは間違いない。

 とは言えそれを言葉に発露できない程度にしか効果が薄いのか、もしくはその過去の内容が強烈すぎてそれを拒絶しているのか、この2点に絞られるだろう。

 すくっと立ち上がるとレザースはこの状態のラドルをアルファスに報告しようとその場を立ち去ろうとしたその時。

 背後からゾワリと悪寒が走った。


「なんだ……?!」


 踵を返すと変わらず腰を落として押し黙るラドル。

 しかし。

 その身体から漏れ出るその力は紛れもなく異質のもの。

 少なくとも人間が放てるものではなかった。

 やがてその異質な気は形を成してそしてそれは人の様な形を象っていく。

 柔らかな丸みを帯びたその気の影は女性のモノであると気付くもその気。神気に当てられたレザースは身震いしながらも動く事はできずにいた。


「これは一体……!この化け物が……!お前は何者だ!!」


 その悲鳴に似た叫びに答えるような声がレザースの脳に直接響いてきた。


『貴様こそ何者よ……我が従僕に行った不遜。神罰が降るものと同義と心得よ……!』

「神罰……ま、まさか貴様は……!邪神……?!」

『だが貴様の行いによってこの世界の閉じられた門の(かんぬき)が緩んだ……忌まわしき神々の(くびき)が弱まった今……我が従僕を使い世界と(うつつ)の神々に讐たらん事を約しようぞ……!』


 神託に近いその文言には凄まじい神気が孕み聞くものを恐慌させる。

 レザースは歯が鳴り身体は震え冷静な思考は出来ずにいた。

 むしろ失禁や気絶しないだけよく踏ん張っていたと言える。

 だがなまじ意識があるだけに神の畏怖を一身に受けて精神崩壊直前まできていた。

 当然その神気の迸りはラーセン全体に及ぶ。

 先日ティラーニア王バレアスの危惧が現実のものになろうとしていた。

 夜の帳が落ちた水上街は今。

 神の罰が降る懺悔の地となろうとしていたーー。

最新話を更新いたします!

さて今回初めてラドルがピンチとも言える状況になりました。これまでラドルは勝って当たり前というパターンできましたがとうとう不覚を取ることになりました。

強さではなく絡め手に弱いというのはよくあるパターンですがやはり王道ですね。

それと夢の中での少女。これはまだ明らかにできないので名前は伏せてあります。

新しい情報も少しずつですがでてきています。邪神の名前とかですね。この辺も次第に明らかになっていきます。お楽しみに!

もう少し更新ペース上げたいのですが自分の状況が少し難しく申し訳ありません。

もう少し早めの更新を心がけていきます。

感想評価お待ちしております!

ではまた次回☆

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