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蒼穹の神滅者(シルヴァリオ)  作者: 1
第2章 堕ちる世界
80/85

第80話 魔導生命編〜咆哮〜

あけましておめでとうございます!

また期間が空いてしまい申し訳ありません。

言い訳は後書きにて。

 時は遡る。

 水の神殿にてターニャが一人、水の女神ラーカニアに祈りを捧げていた。

 愉快犯によって拉致されたと言われていた水の巫女がつい先ほど無事保護されて戻ったきたと聞かされた人々は胸を撫で下ろし安堵していた。

 それが真実は自分の与り知らぬところで起きた茶番だと知った時にはターニャは怒りよりも戸惑いが先行していた。

 気付いたら瞑想期として自分は眠らされていたのだ。

 何ゆえのことなのかと自分の保護者かつ後見人たるレザースに問い詰めるも危険人物が接触しようとしていたからだと聞かされたが今ひとつ納得できなかった。

 護衛してくれるのならば自分が眠る必要などないではないか。

 目が覚めた時自分は最も古い記憶と同様の場所にいた。

 古い石壁と饐えたような匂いのする埃っぽいベッドの上。

 気分も気持ちも最悪。

 身体は重く倦怠感に包まれている。

 横にいたのはレザースとそれから自分をラーセンにまで連れてきたアルファスという男。

 何を考えているのかは知らないが底の知れない男。

 ただ記憶の無い自分にとって過去を知る手がかりとなる人物。

 そう思っているターニャにとってアルファスに強く出れなかった。

 だが今度の件は度が過ぎている。

 説明を聞かせてもらわなくては腑に落ちない。


「いつにも増して熱心に祈っているね」


 そこまで思索に耽っていると背後から声が掛かる。

 気配を消して近づいてきたその男は今し方まで脳裏にいた人物。


「アルファス……説明してくれるのでしょうね?」

「聞きたいのかい?」

「当たり前です、数日前から勝手に眠らされて気付いたら拉致されたと聞かされ一体全体何が起きているのですか!?」

「まあまあそんなに昂っては君の身体に響く。説明はするさ」


 両手を軽く上げてやれやれのポーズ。

 その態度に苛立ちを覚えるも我慢するターニャは続ける。


「一体……何がおきているのです?」

「……世界の大罪人が君に会いに来た」

「……神滅者(シルヴァリオ)ラドル・アレスフィアが?私に何用で?」

「さあね、だが彼と君を会わせるわけにはいかなかったんだ」

「何故?」

「水の巫女は水の女神の代弁者。それに対して神滅者の目的。それを鑑みれば当たり前じゃないかな?」

「……嘘ですね」


 そこまで話してアルファスは気づいた。

 ターニャの瞳に力が宿り始めている事を。


「貴方が何を考えているのかはわからないですが……神滅者が私に会って私を害する事があるのか。それは無いのではないかと思います」

「何を根拠に?彼はすでに神聖王国バルカードの聖王女アルメアをその手に掛けているんだよ?」

「……それも分かりません。ですが……まだ見た事も会った事もましてや話した事もない彼の者に……不思議と信じられるのです」

「そうかい」

「それと。貴方は神滅者を『彼』と呼びましたね。貴方の知り合いなのですか?」

「これは迂闊だったかな、まぁ知らない仲ではないね」


 その言葉に僅かに反応するターニャ。


「……貴方は一体何者なのですか?」

「ん?僕かい?」


 しれっと首を傾げるアルファス。


「貴方は記憶のない私をどこから連れて来たのですか?辺境の村で私を保護したと言いましたが私はこの国の事を何も知らなさすぎる。自分のことは当然、聞いた村の名前も覚えがないし明らかにこの国の言葉の訛りに馴染みがない。それなのに私はこの国の人間なのですか?」

「……それは何の根拠もない君の感覚だけど。とは言え君のその違和感は確かにあるだろうね」

「それは何故なのですか?」

「……君のその魂が身体に定着しきってないからさ」

「……え?」


 何を言っているのか一瞬理解できなかった。


「僕が何者かと聞いたね?今まで黙っていてすまなかったね、僕はグルトミア帝国特務武官十星将序列3位黒星のアルファス・ヴァルター。以後よろしく」

「グルトミア……?十星……?」


 聞いた事の無い単語を並べられて目を瞬かせる。


「君にはこの国の最低限の知識だけ植え込んである。君の水の巫女としての才覚に目をつけて僕がレザースに紹介したんだ」

「植え込んでいる?どういう事なの?」

「混乱しているね?大丈夫、今の君には不必要な情報だから徐々に慣れていけばいい」

「私は!!一体何者なのですか?!」

「今はまだ知る必要がない」

「答えなさい!!」


 その時。

 ターニャの瞳に力が宿る。

 両の瞳に炎を纏ったかのように魔力が宿り揺らめく。


「……従精の神眼か。ここに来て覚醒したか」


 神殿中庭に存在する水の精霊たちがその姿を見せる程に濃い魔力がターニャの瞳を起点に満ち溢れる。


「まあいい、ここで僕の正体と君の今の状態を明示したのはかの神滅者が君に接触しようとしたからだ。彼に会わせるのは今はまだまずいのさ」

「答えになってない……!これ以上私に対して虚言を弄するならば手加減はしませんよ!?」

「手加減、か」


 ふぅ、と一つため息を吐くと。

 その目に鋭さが増す。


「言うことを聞かない子供を躾けるのは大人の役目だな」


 瞬間、アルファスから放たれた衝撃に身体の小さいターニャは吹き飛ばされる。

 十歩ほど後方に吹き飛ばされるも水の精霊たちが水流の壁を作りその衝撃を和らげ事なきを得ると。

 目の前にいたはずのアルファスが消えた。

 強大な力を持つ水の巫女と言えど戦闘の経験がまるで無いターニャにはアルファスの動きを察知する事ができなかった。

 その為両者の間にはすでに勝敗は決していた、筈だったのだが。

 彼女に付き従う水の精霊がアルファスの存在をターニャに教え、そして精霊たちが自立的に攻撃を仕掛けていった。


「なに?」

「そこですか!」


 完全に実力は自分の方が圧倒的に上ではあるが地の利を完璧に掌握しているターニャに瞠目するアルファス。

 精霊たちの力と彼女の魔力でその圧倒的な差を埋めている。

 水の精霊たちがその姿を水の槍に変えてアルファスに向かって飛んでいく。

 無数の槍を全て自らが生み出した黒玉の重量球でいなしながらもさてどうしようか、と思考を巡らせる。


(戦えば間違いなく彼がやってくる。そう間違いなくだ。こんな小競り合い程度ならば問題ないかもだが彼女の興奮を鎮めなくては小競り合いで済まなくなる。無理矢理制圧するのがとりあえずは吉か?)


 見ればターニャは余裕のない表情でただアルファスを睨んでくる。


(まぁいいか、手足が無くなれば大人しくなるだろう)


 冷徹に無表情で、心に剣呑な思いを胸に仕舞い込んでターニャを見やるアルファス。

 対して必死の形相で大量の水を獲物に攻撃を仕掛けターニャ。

 戦闘の熟練者で世界に名だたるグルトミア十星将であるアルファスと水の巫女ではあるが戦闘には全く縁のなかったターニャ。

 あるゆる意味で対照的な両者の衝突が水の神殿を揺らす。

 アルファスが現出させた黒玉がターニャを襲う。

 その黒玉をターニャを守る精霊たちが水を操り相殺しつつさらに水槍を繰り出しアルファスに抗う。

 アルファスが十の黒玉を振り撒くとターニャと精霊が二十の水槍で穿つ。

 すぐに終わるだろうと考えていたアルファスの予想以上にターニャは奮起していた。

 僅かな時間に神殿がすでに悲鳴を上げるかのように軋みだした。


(…思いの外食らいつく。彼女を殺すのは容易いが……それでは僕の計画が大幅の変更を余儀なくされてしまう。仕方ないな……)


 アルファスが不意に攻撃を止める。


「水の巫女。提案がある」

「……何ですか?ようやくその重い口を開く気になりましたか?」


 ターニャは肩で息をしている。

 対してアルファスは未だに余力を残しているのが分かる。


「君の身の上はまだ明らかにはできないが……代わりに君と神滅者との関係を教えよう」

「……それで矛を収めよと?」

「……君は聡い人間だ。このまま戦い続ければどちらが勝つかなど分かっている筈だ。勘違いしないで欲しいがこれは譲歩だ。それでも反抗するというのなら……」


 そこまで言うとアルファスの力が一気に噴き出しターニャを威圧する。

 そしてのその眼光が鋭く光る。


「一方的に強制的に鎮圧する」

「……!!」


 本能的に身体が反応する。

 身体が震える。

 精神が屈する。

 魂が揺れる。

 潜在的に恐怖を引き起こす目の前の青年は紛れもなく化外の存在というべき化物。

 それを改めて知るターニャ。


(……勝てるわけがない……!こんな人外の男に!もういいじゃない、これ以上反抗しても彼の機嫌を損ねるだけだ。それはなによりも避けねばならない筈!こんなの神様だって勝てるわけ……)


 そこまで思い至ると不意に引き起こされる記憶。

 それは。


『……神さま……?』

『俺は……人間だった、多分な』


 その言葉を放ったその人は。

 先程遠目に見えた蒼髪の青年。

 微かに呼び起こされる記憶が。

 ターニャの胸に不思議と勇気という火種を灯し始めた。


「……けない」

「……?なんだって?」


 巻き起こる気圧で起きた風音で聞き取れなかったターニャの言葉をもう一度促す。


「負けない!彼に!お兄ちゃんにもう一度話してもらう為に貴方を退ける!!」

「……!記憶を呼び戻された……魂魄が撓み始めたな?時間がない、一気にケリをつける!!」


 そう言って右手を上空に向けて夥しい数の黒玉を現出させると収斂させていく。

 みるみる一つの黒玉が巨大になっていきアルファス自身もその身を中空高くに身を浮かせる。

 それに負けじとターニャもまたその場に存在する精霊を掻き集めその力を借りる。

 その中庭を湛える大量の水を一つに纏めていくとダルタニアの火の龍よろしく水の龍を作り出すとターニャもまたその身を宙を舞うかのように身を躍らせる。


 黒玉と水の龍。

 異形同士が現れた水の街は一気に混乱の渦に巻き込まれていく。

 それを借宿の窓からラドルは眺めていた。


「カティナ!?」


 傍らで静かに寝息を立てているクリスをベッドに横たわらせるとラドルは駆け出す。

 それを見た黒い魔獣は制止する。


「どこへ行く気ですか?」

「あの化物のところだ、ここはお前に任せる」

「……ここでこれから起きる事を分かっていての言葉ですよね?」

「……お前は誰だ?」

「……!」

「俺の監視しかできないでいるというのならただの無能だと知れ」

「……心外な物言いですね、分かりました。ここは俺にお任せを。必ず撤回させてみせますよ」

「それでこそ十星将だ、頼んだぞ」


 その言葉を最後に疾駆するラドル。

 その場に残った黒の魔獣ローグは部屋の外で見ていたシアに声を掛ける。


「シア、貴方は離れていてくださいね。今からここはーー」


 ローグの言葉が終わるのを待たずにクリスの身体に異変が起きる。

 ゆらりと起き上がるその目には邪悪な色味を感じさせた。

 それは明らかに先程までのクリスではない。


「戦場へとその姿を変えますので」


 刹那、クリスの身体からも邪気を膨大に吐き出す。


「神の契約を破棄させられた呪詛はその契約を行使する為に痴れ者を排除する行動を取る。つまり目の前のクリスの中にいる魔神の使徒を倒してこそ初めて彼女は解放される。まぁ呪術の基本的原理ですね」


 クリスのその表情は怒りに満ちている。

 普段見せることのないその表情にシアはその変貌に立ちすくむ。

 そのシアに歯牙にも掛けない様子でローグはそのクリスに向けて醜悪な笑みを浮かべる。

 そして。


「……貴女は本当に運が悪い。ここにいるのがラドルではなく……グルトミア十星将序列7位ローグ・ファルザラックだった事に絶望してください」



 ーーーーーーーーーーーー



 駆けるラドルは目の前の異形たちに向かっていた。

 しかし。

 いつまでも。

 どの道を選んでも。

 その場にたどり着けない。

 この感覚は覚えがある。

 そう、かつてカティナと出会った時の無間空間と似たような感覚。

 幾つかの夜の街角を曲がるとふとその足を止める。


「そうか、かつての還らずの森の無間空間。あれは人間が作ったものかと思っていたが……お前の仕業だったのか」


 その言葉は闇に溶ける。

 しかしラドルは更に続ける。


「隠れているつもりならば……次の瞬きはしない事だ。その瞬間。貴様の首が落ちることになるぞ?」

「……怖いですね、流石は神滅者。ラドル・ファークと言ったところか」

「人間かと思っていたが大した隠行術だな。魔族だったのか、レザース・フェルム」


 闇からトプン、現れたのはこの街の若手議員。

 議員服に身を包んだその男は。

 その身の色を以前よりも褐色にさせてその瞳を赤く滾らせて邪笑を浮かべていた。



 水の巫女ターニャとグルトミア十星将黒星のアルファス。

 グルトミア十星将黄星のローグと魔神の使徒。

 蒼穹の神滅者ラドルと議員魔族レザース。

 同日同時刻同土地にて。

 人ならざる力の持ち主達の三様の戦いが始まろうとしていたーー。

改めてあけましておめでとうございます!

約2ヶ月ぶりの投稿です、お待たせして申し訳ありません…!

この時期はもう一つの副業である脚本家の仕事がありなかなか時間がとれなくて…マジ申し訳ありません。

さて最新話を公開しました!

初の同時別戦を展開させました。

これは前からずっとやりたかったバトル形式なのですが理想の流れではなくてもっとスマートにしたかったのですがやはり物語は生き物ですね。

なかなか上手くいかないものです。

で、次回はまずローグ戦をお送りします。

そしてそれぞれ1話で終わらせる予定なので短く早くお送りする予定です。

皆様のおかげでブクマも50名様を迎え本当に感謝しています!

こんなのんびり作家のお話にいつまでもお付き合いくださり多謝多謝です!

皆様去年は色々と良くない一年でしたが今年もまたよろしくお願いします!

感想評価よろしくお願いしますね!

ではまた次回☆

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