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蒼穹の神滅者(シルヴァリオ)  作者: 1
第2章 堕ちる世界
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第76話 魔導生命編〜黒星〜

 水女神の神殿。

 その名称通り水の女神である女神ラーカニアを信仰する神殿ではあるが総本山ではなく、神教の一神殿という扱いなのだが観光地であるラーセンでは熱狂的な水女神の信徒達が足しげく向かう地でもあった。

 またラーセンは土地柄的に宿場町という意味合いもある為に旅の無事を祈る多くの旅人たちが必ず足を向ける。

 それとは別にもう一つこのラーセンの神殿にはいま耳目を集めている存在があった。

 水の巫女。

 その土地の神殿からの託宣で選ばれる水の巫女は神使並の崇拝の対象となり一神殿に一人存在する事が認められている。

 それは神使は神の使徒だが水の巫女は「人」として神殿の象徴故の人気を集めるのが容易だからであるのはラーカニア神教総本山暗黙の了解であった。

 そしてここ数ヶ月内でこのラーセンにも水の巫女として認定された少女が現れたと発表されて以来、水女神の神殿には多くの信者たちが日毎訪れるようになった。


「水の巫女は人間である為貴方の標的にはなり得ませんね。やれやれ一安心です」


 何か言いたげな口調で足元を歩く黒い幼魔獣が主人に聞こえるように一人ごつ。


「お前は俺のなんなんだ、保護者か?」

「そんなまさか。かの伝説の存在の保護者とか最強じゃないですか」

「俺の目的を邪魔するならば誰であろうと排除しているだけだ。それがたとえお前たちの主人であろうともな」

「リカード様ですか?それともシェルファニール陛下ですか?」

「言っただろう、誰であろうと、だ」

「……陛下はともかくリカード様には手は出させません」


 なるほど、流石はリカードの私兵とも言える十星将らしい物言いだとラドルは思う。

 だが。

 小さな違和感を感じたのは間違いではなかった。

 リカードの摂政位とは女帝であるシェルファニールあっての立場だ。そのシェルファニールを害されればリカードも大きなダメージを負う。

 少なくとも国政には二度と関与出来ない程度には失墜するであろう。

 互いに互いがあってこその立場。

 それを無視したこの発言には違和感を感じてしまう。


「主君よりも上司を選ぶとはとんだ公務員がいたものだ」

「まぁリカード様も『人間』ですからね、貴方の標的にはなり得ませんし、陛下程の戦闘力はありませんから。貴方に狙われては命がいくつあっても足りませんよ」

「それを守るのがお前たち十星将か」

「まぁそうなんですがね、中には剣呑な考えを持つ輩もいるんです」


 リカードに対して剣呑な考えを持つ十星将。

 一人だけ思い当たる。

 もちろん火の龍を自称する爆弾娘だがどうもローグの言う人物は別にいるような口ぶりだ。


「……誰の事だ?」

「序列第三位、黒星のアルファスですよ」

「……ヤツか」


 情報秘匿された十星将上位の三人。

 白星のノヴァ。

 紅星のダルタニア。

 そして件の黒星のアルファス。

 この三人はその能力はもちろんだがリカードに対して完璧な忠誠を誓っているという存在ではないのはラドルも承知していた。

 あくまでリカードの用意するその立場を甘受したい為に付き従っているという見方が最も適した解答であると認識していた。

 かつてラドルもグルトミア帝国に世話になった経歴があるがその中でただ一度だけ。

 ラドル自身もリカードの配下という形で世に出た事があった。

 無論偽名を使ってだ。

 その偽名というのが「アルファス」だった。

 アレスフィアという家名をもじった名だったのだがまさか後任の者に継続して使われるとは思わなかった、とラドルはその名前を使った事に少しだけ後悔していたという。

 故にその名前はラドルの実力と伍する程度の力を持つ者に与えられるいわば名誉称号にも近い性質がある。

 無論それはグルトミア内部でも十星将や一部の高官しか知らない事実であったのだが。


「そういえば俺も奴の事はよく知らんな、どういう奴なんだ?」

「そうですね、一言で言えば道楽人、でしょうか」

「道楽、ね……」


 人生を道楽として考えられるのはニ種類の人間であると聞いた事がある。

 つまり人生に余裕のある趣味人。富裕人。

 そしてもう一つは。

 その思考特性が破綻してしまった狂楽人。

 あのダルタニアと肩を並べる存在が常識人である筈がない。

 自然と後者かと思い至る。


「また厄介そうな奴だな、それは」

「ラドルは彼と面識が?」

「まぁ2、3回顔を突き合わせた程度だがな、第一印象としてはよく笑うが本質を見抜けない、まるで闇の中で手を握ってもその感覚が掴めない。実体が無い。そんな感じを受ける男だったな」


 闇を握る。

 確かに握ったその手の中には闇が出来る。

 しかしその感覚は感じない。

 そんな感覚を内包したその男が今の序列第三位だと言う。


「実体がない、ですか。言い得て妙ですね」

「どんな力を持つかもどんな目的を持っているかも測れない、そんな奴はそういないが……その貴重な例だな、アレは」

「……まぁ色々あるのですよ、彼にも」


 そこまで話したところで水の女神神殿の正面階段の足元まで来ていた。

 周りを見れば老若男女問わず多くの信徒たちが今日も祈りを捧げに来殿している。

 その中に紛れてラドルは魔獣と共に神殿に入ろうとしたその時。

 一人の女神官が声を掛けてきた。


「あの、ここは聖なる光に溢れる神殿。貴方様がお連れするその黒い、なんと申しましょうか、ペット、のような動物は中に入れてはいけないのですが……」


 ついにラドルのみならず他人からもペットだと言われて不満を顔にありありと滲ませているローグ。

 確かに魔獣や魔物といった闇に属する生物は光側の神殿に入ればそれだけで過度なストレスやあるいは直接的なダメージを負うのだがこの魔獣は厳密には生物ではなく、ましてや命あるものでもない。その為その懸念はいらぬ心配と切り捨てられるのだが。

 光側の水の神殿に汚れた存在を入れては問題になる、という事を暗に言ってきているのだ、とラドルは察する。


「これは失礼した。だがこの魔獣は俺が調教(テイム)した相棒なんだ。光の水神殿は多くの信徒を集める門戸の広い神教だと思っていたが違ったかな?」


 多少丁寧に反論するラドルにローグはポカン、と口を半開きにして主人を見上げる。

 自分に対してこんな語り口、今までになかった、と呆然とした。

 その目の前の女神官も困り気味な面持ちでラドルに対する。


「それはそうなのですが……他の信者たちの目もありますし、何とかご再考いただきたいのです」

「ふむ……ここの水の巫女様に一度この魔獣の洗礼をしていただきたかったのだが……」

「あの、水の巫女様はただ今、瞑想期間中でして……ここ数日は誰ともお会いしない決まりとなっております」


 瞑想期間とはまた間が悪い、と言って簡単に引き下がる事はないラドルは次の手を出す。


「そうか、ならばあまり見せたくはなかったのだが……」


 そう言って懐からかのリゼリアからの書状を封した封蝋の印を見せると女神官は驚きの表情と共に目を丸くした。


「正道神教会の……特務印の封蝋……?!」


 実際にはこの書状を持ってきたフェルドに対して出された印なのだがこの場合、ラドルに接触する特務を認められたフェルド本人であるかどうかが重要なのではなく、この印を持つ者自体が特別な存在である事を意味している。

 それはどんな経緯であれ、それを持つ者は善悪関係なく正道神教会の高位者との縁故ある者をである事を如実に表しているからである。

 ちなみにこの封蝋は魔術式を封じられており関係ない者が手にすれば即座に焼却処分されるようになっている為偽造も不可能であることもこの女神官は知っていた。

 しかしそれでも未だ難色を示す女神官に対してラドルは最後の妥協案を提案する。


「俺は何も神官殿を困らせたいわけではない。どうだろう、この魔獣をこの袋に入れておく。決して暴れさせたりはしない。約束しよう。それでも駄目ならば俺は仕方なくだが出る所に出るしかなくなるが……どうする?」


 出る所。

 それは当然正道神教会本部であろうと察した女神官は仕方なくこの提案を飲む。

 代わりに女神官が神殿内部を案内しつつ監視する事を条件を出してきた。


(まぁそれくらいの事は言うだろう。ローグ、悪いが念話でコンタクトするぞ)

(了解です、で?ここで何を調べるのですか?)

(まずは巫女に会ってからだ。この神殿を司る人間にな)


 そのままメイと名乗る女神官の案内で神殿奥に進む。

 奥に行くにつれて肌にヒヤッとした空気がまとわりつく感じが強まる。

 湿度が急激に高くなっていくのが分かる。

 だが不快な感じはしない。サラッと頬を撫でるかのような水気がむしろ心地よく感じる。

 これは神殿の持つ聖域領域の効果なのだろうか。


「これは水の巫女様の御力によるものです。巫女様の祈りが聖域化を強化しているのです」

「……水の巫女はどんな選定をされて選ばれる?」

「……詳細は申し上げられませんが一つ言えるとすれば神と精霊と、そして水そのものに好かれた方でなくてはなりません」


 水に好かれるとはまた曖昧な表現をするものだ、とラドルは思う。

 しかしこの水気を含む空気が個人の祈りで生しているならば確かにそれは水に好かれていると言うのも分かる。

 そう思案していくと中庭を横切るかのような回廊に出る。

 そこは大きな、少なくとも貴族の邸宅程度の敷地面積くらいの池があった。

 どこまでも透明な水面はまるで境界が無い様に見える。

 それほどまでに美しく作られたその池の中央に。

 一つの祭壇が設けられている。

 その祭壇は上部から止め度もなく池に流れ落ちる聖水の如き清水が大小の滝のような形をしていて、そしてその水が中央でまた集まるその位置に。

 一人の少女が目を閉じて眠るかのようにそこにいた。

 水の神秘性を高める為かまるでその少女はオブジェのように身動き一つせず薄絹の神衣をまとい落ちる水をただ受けていたのだ。


「……!あれは……!?」

「水の巫女様です」


 メイがその少女をそう紹介したその前に。

 ラドルはその足を止めてしまっていた。

 ラドルの普段見せないその声には明らかに狼狽の色が見えている、そう感じたローグはひょこっと袋からラドルの顔を見やると目を疑うような表情で固まっていた。

 その視線の先には先程の紹介にあった水の巫女。

 だがその顔には。

 どこかで見た覚えがある。

 まるで既視感に襲われたかのような感覚。

 だが確かに覚えのある顔。

 そうだ、思い出した。

 確かあの少女の名はーー。


「カティナ……!?」


 ラドルが口にしたその名はかつて還らずの森の村で出会った少女のもの。

 その少女が何を迷ったかそこでまるで御神体のように祭壇で鎮座していた。



 ーーーーーーーーーー



 ラドルが水女神の神殿で水の巫女と対面していたその時。

 ラドルが拠点とした虹の橋亭の女中、シアは一人で店の汚れと格闘していた。


「もう、兄ちゃんたち全然帰ってこないなぁ。ねぇお姉ちゃん?」


 厨房で店の仕込みをしている筈のクリスに声を投げかけるも返ってこない。

 不審に思い床の汚れとの戦いを中断しちょいと厨房に顔を覗かせるとそこには。


「お姉ちゃん……?どうかした……」


 まるで彫像のように微動だにしない姉が水場の桶に張った水を見つめていた。


「お姉ちゃん?お姉ちゃんってば!どうしたの?!」

「……え?シア……?」


 身体を強く揺すってようやくクリスは我に返ったかのように正気を取り戻す。

 見るとその表情は憔悴しきっている。

 健康的な肌が青く、冷や汗が滝のように流れていた。


「お姉ちゃん……?体調が良くないの?今日は休んだら?」

「……そう言うわけにもいかないよ、お客さんが待ってるんだから……」

「でも……顔が真っ青だよ?無理しちゃダメだよ」

「いいから!ラドルたちが帰って来たら……絶品のヴルストを……振る舞うんだ……から……」


 そこまでだった。

 クリスの身体が乾いた床に横たわるかのように音を立てて倒れた。


「お姉ちゃん!?」



 ーーーーーーーーーー



 再び水女神の神殿では。

 ラドルは信じられないモノを見るかのような表情で視線の先の水の巫女と呼ばれる少女を凝視していた。


「カティナが何故ここに……?!」


 カティナ。

 それは半年前。魔神アルテズという闇側の神を復活する為に何百年もの間閉鎖空間でその魂を供物として捧げられていた少女の名前であった。

 ラドルとの邂逅にてそのアルテズの復活は阻止されカティナという少女の魂は輪廻の回廊を渡る為に光となって昇天した筈だったのだが。

 その少女が目の前の祭壇に囚われた乙女のように目を開けることなくそのままの姿でラドルの前に姿を現した。


「あの方は水の巫女、ターニャ様です、どなたかと勘違いされたのでは?」


 女神官メイは水の巫女の名を告げたその瞬間。

 キラッと光が瞬いたと思ったメイの首筋にラドルの宝剣が添えられていた。


「ひっ……」

「答えろ。何故あの子がここにいる?あの子は半年も前にこの世の鎖から解き放たれた筈だ。一体何を以って。何の因果があって安らかに眠っていた筈のあの子の魂を呼び戻した?」


 ラドルの鬼気迫る迫力にメイは腰が砕けてしまい答える事など出来なくなっていたがそれでも答えを強要しようとする神滅者に魔獣は待ったをかける。


(ラドル!落ち着いてください!こんな神官一人を詰問した所で答えが出る筈もありません!)


 ローグの諫言に冷静さを取り戻したのか一つ大きく息を吐く。

 今にも失禁しそうなメイに向けた剣を納めて改めて祭壇に眠る少女の事を問いただす。


「……すまない。あの巫女と本当にそっくりな子が以前神の御前に召されたのにここでこうして眠っているからつい声を荒げてしまった。彼女は、ターニャ、と言うんだな?」

「は、はい……」

「いったい何処からあの巫女を選定されて連れてきた?」

「そ、それは……」


 そこまで聞いた時。

 世界が暗くなった。

 まるで太陽が光を失ったかのように。

 全てが闇色に染まってしまったのだ。


「これは?!」

「ちいっ!」


 反射的に燐光の魔法を唱える。


『迸れ 光の聖霊よ 白の世界に満ち溢れよ 燐光(リリール)


 不意の闇がラドルの放った魔法により斬り裂かれる。

 時間にしてほんの数秒。

 その僅かな間に。

 一つの異変にすぐに気付いた。


「ラドル!水の巫女がいません!」


 ローグの言葉通り目の前の祭壇に鎮座していた筈のターニャと呼ばれた巫女がその姿を消していたのだ。

 周囲を見ても誰もいない。

 いるのは変わらず腰を砕けているメイだけだった。

 だが僅かな魔力の揺らぎが空間を撓ませていることにラドルはその鋭敏な察知能力で探り当てるとローグに指示を出す。


「ローグ!祭壇左脇の噴水だ!やれ!」


 その指示が出た瞬間、黒い魔獣の身体から無数の鋼糸がラドルの指定した座標に飛び交う。

 しかし。

 その鋼の糸は全て尽く見えない力場のようなもので弾かれてしまった。


「斥力力場だと?」


 全てを弾くその力場を確認するとラドルが改めて宝剣を抜き放つ。

 すると。


「待ってくださいよ、先輩。今はまだこの巫女を貴方に会わせる訳には行かないんです」


 ゆっくりとした敵意のない声が掛かる。

 その斥力の力場の向こうから現れたのは優しく微笑みを見せる黒髪の青年。

 そしてその腕の中には巫女ターニャを抱えている。

 柔らかな声音とは対照的に未だその力場を解かないその青年は神滅者と魔獣の二人は見覚えがあった。


「な、何故貴方がここに?」

「お前か……!十星将序列三位、黒星のアルファス・ヴァルター……!」


 そう名を呼ばれてますますその端正な顔立ちが柔らかく微笑みを見せる。

 だがその微笑みにはどこまで深く、どこまでも昏い歪みがラドルにはダブって見えていたーー。


最新話更新します!

世間ではまたコロナウイルス の猛威に晒されておりますが皆さまお体の方はいかがでしょうか?

さてとうとう出てきました、序列3位のアルファス。

彼は以前から出そう出そうと考えていたキャラなのですがなかなかその場を与えられずにいました。

これであと出てきてない十星将は第10位のセリカだけとなりますが彼女も早く出番を作ってあげたいです。

アルファスにはダルタニアに負けない程のチートな力を設定しておりますがそれはまた次回以降となります。

すいません、ここで続きを書くとまた1万字を超えそうなので…汗

そして再登場しました、カティナ。ラドルの手によって救われた筈の彼女こそが今回の最重要人物です。

次回はアルファスとラドルの因縁を軽く触れていけたらなと思ってますのでぜひお待ち下さいませ!

感想評価もお待ちしております!

ではまた次回☆

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