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蒼穹の神滅者(シルヴァリオ)  作者: 1
第2章 堕ちる世界
74/85

第74話 魔導生命編〜誘惑〜

今回ちょっとだけ大人な表現があります笑

苦手な方はお気をつけ下さいませ(*´꒳`*)

 水上街ラーセン。

 巨大な湖ラーカニア大湖のほぼ中央に位置する停泊島としてさほど大きくないものの大湖を横断するのに丁度良い休息地になり島の大きさに比して人口は増加傾向にあった。

 もともと魔道具の発達以前は人力での手漕ぎ船での横断が主であったが多少の魔力で稼働する動力、いわばエンジンのようなモノが開発されて以来は人力船から機械式の魔道船が主流になっていった。

 それと同時にラーセン島は急速に発展拡大の一途を辿る事になり2500人程の人口がわずか島周45キロくらい島に住み着くようになる。島の面積ではそれだけの人口は密集過多として島の外周を埋め立てていくと次第に元の島以上に大きくなり現在の水上街としての様相を見せることになった。

 主に観光、運搬業、宿泊業などが主産業として少なからず賑わいを見せている。

 ラーカニア大湖は東にティラーニア王国、西に水の女神ラーカニアを奉るラクリア王国の国境としてその中心であるラーセンは中立地帯としてどちらの国にも属さない独立地帯しても注目されていた。

 そんな経緯によりラーセンは独自の技術、文化を擁する街として人々の耳目を集める様になったのである。


「ですが確か領有権を巡って二国が争った事もありましたよね?」


 停泊した船から降りて桟橋で足を止めた時、不意に足元に控える小さな黒い魔獣が注釈を入れてくる。

 この景観に感慨に耽ていたところに無粋な物言いだがそのような歴史も確かにあった。

 複雑なのはかつてティラーニア王国がラーカニア大湖を実効支配していたのだがラクリア王国が興されてからその前身の国が支配していたラーセン島の支配権を主張したきたのだ。それまでは現在と同様に湖の中心を国境としていた為一度ラーセン島の領有権は放棄されていたのが現実であった。

 滅びた王国が支配していた島の管理をティラーニアが代行していたのだがその後、後継興隆したラクリアにその管理の権利があるという事がかの国の主張だった。

 しかしティラーニアにもそれを単純に呑み込めない事情があり結果二国はラーセン島を紛争地域とした衝突を繰り返し、やがて治安維持の部隊しかないティラーニア王国に対して宣戦を布告する直前までに至ったラクリア王国だったがある日突然神託が下った。

 女神ラーカニアは大湖が赤い血に染まるのは好まぬ故に対話による解決を試みよという内容のその神託を無視できず、そこで当時のティラーニア王国の国王による提案で正道真教会に間を取り持ってもらいラーセン島を中立地帯としてその交易による利益の一部を両国に還元するという事で一応の収束を見る事になる。

 ラクリア王国は比較的新興の国ながら水の女神ラーカニアを奉る総本山を擁する為発言力や影響力はけして小さくなく伝統あるティラーニア王国にも比肩できる力を持っていた。

 その二国が現在まで争う事なく平和的に交流のある大国となったのは他の国にもその外交力や経済力の模範として扱われて久しい。

 そこまで歴史の復習をしたラドルの胸中にしこりができるのを感じていた。


(……神が仲裁したというのが一番厄介だ。それを発したのが本当に神かどうか確かめる術は無いが神はそのような事に神託を下すのか?人がそう思い至らないのはやはり潜在的に神の支配を受けている。それはつまり……)


「……ラドル?」


 ふと声をかけてきた魔獣ローグになんでもない、と一言だけ言うと止めた歩みを再び進めていく。

 もう日はとっぷりと暮れていたが街の灯りが夜の帳が降りるのを防いでいた。

 それは街のそここしこに魔道灯が設置されているため一種の不夜城のように夜でも昼のように明るい。

 その中を独り歩くも多くの人がすれ違い笑顔を見せている。


「ここに来る度に人が多くなっていく気がするな……」


 そう独りごちた時1人の少女が声をかけてきた。


「お兄さん、もしかして宿を探しているの?」


 見ればエプロン姿で髪を上げている少女は屈託の無い笑顔で対面している。まぁ単純に客引きなのだろう。


「そうだな、とりあえず一泊だけできる宿を探している」


 無難な答えに少女が目を丸くして驚く。


「ええ!?たった一泊なの?近くフェルザン・カナーがあるのに?」

「フェルザン・カナー……ああ、水上バザーの事か。そうか、そんな時期にやって来たのか」

「バザーですか?もう冬も目の前なのに」


 ふとした疑問を声に出したローグを見て少女は驚く。


「ひぇっ!ま、魔獣?しかも喋った……?」

「ああ、驚かせたか、大丈夫だ。コイツは調教(テイム)された俺のペットだ」

「……久しぶりに言われましたけどもういいですよ」


 渋々ペットである事を承知したローグを横目に少女は再びラドルに向き直り交渉を再開する。


「お兄さん調教師(テイマー)なんだ。じゃあ尚更ウチに来ない?ウチは門戸が広いからペット同伴でも問題なし!しかも朝夜には格安で三ッ星のリストランテにも負けない食事が出来てさらに!お風呂までついているんだ!」

「ほう、風呂完備か」


 ラドルは素直に驚く。

 もう十数年前に来たその時は風呂など大衆浴場くらいしかなかったが今では個々の宿にそれぞれ浴場が設置されているとは。

 時間の流れは速く、人間はその流れに敢えて身を任せながらも向上していくものだ、ととある知人に言われ事を思い出す。


「さすが水上街だな、発展が速くて驚きだ」

「お兄さん、前はいつ来たの?浴場完備はもう十年近く経つけど」

「ん?そうだな、30年ほど前くらいか。仕事でな」

「え?お兄さん若く見えるけど……もしかして結構おじさん?」


 おじさんどころかお爺さんを何代繰り返したか分からないくらいの年齢ではあるがそれを言ったところでややこしくなるだけなので敢えて伏せる。


「そうだな、若作りしてるつもりはないがもういい歳だ」

「ふ〜ん……」


 少し品定めをするような視線でジロジロと見てくる。


「まあ悪い人じゃないみたいだし!さぁ我が宿屋にレッツゴー!」


 そう言って手を取り少女の宿屋に向かおうとする。

 まだその宿にするとは一言も言っていないのを無視して話を進めようとするこの少女の肝の強さはなかなかのものだが。


「待ってくれ」


 その前に情報を集める為に酒場などを探したい。

 それを伝えるとそちらもお任せあれ!と自信満々で言い切る少女。

 それならばと仕方なく少女の案内に従う事にする。

 少女が推す件の宿屋は少し歩くと出た大通りから外れた路地にあった。


「虹の橋亭……」

「ここは水の街だからね。雨が降らなくても虹は良く見れるんだ。私、この名前が好き。虹の橋を渡ってこの島に来るとか御伽話みたいでしょ?さて、と。お姉ちゃん!お客さん連れて来たよ!」


 そう言って迷いなく扉を開くとふわっと香るのは酒の匂い。それもなかなか強めのものだ。

 確かに酒場と食堂が一緒に併設されている。

 一階はまるまる食堂兼酒場。

 階段を登ればいくつか部屋も用意されているところを見ると2階が宿泊用の個室と言った感じで10部屋ほどあるがちらと見ると予約済(リザーブ)の札は掛かっていない。

 階下の酒場の賑わいの割に宿泊には不向きなのか?


「シア!この忙しい時にもう!ほら3番テーブルと7番テーブルにエール運んで!」


 シアと呼ばれた少女は姉だという妙齢の女性に叱咤されてささっと仕事に戻されてしまう。

 仕方なく近くの空いたテーブルに腰を下ろしてまっていると程なくシアがヴルストとエールを運んでくる。


「おい、俺はまだ注文してないが?」

「ごめんなさい、無理矢理連れてきたのにほっぽらかして!それは私の奢りだからそれをつまんでて待ってて!」


 やれやれと思いながら供されたヴルストを口に運ぶ。


「……!?」


 美味い。

 掛け値無しに、お世辞でもなく単純に美味い。

 シアが自信満々で食事を推してきた理由が分かった。

 絶妙な塩加減と焼き加減。

 噛んだ側から溢れてくる肉汁がエールの苦さを更に旨味に変換してくれる。

 ついもう一本、と口に運んでしまう。

 すると足元でブーツを引っ掻くローグが自分にもと催促してくる。

 さすがに多くの人が集まるこの場では喋りはしないか、と自重した褒美に1本恵んでやる。

 そして一口口にすると尻尾がこれまでにないくらいの速さで左右に振る。コイツの口にも合ったようだが。

 そう言えばこの魔獣の身体、本来はもう死んでるモノだが味とか分かるのか?と単純な疑問が浮かんだがそれよりもこの食事を楽しむ事を優先した。それほどまでに目の前の牛詰めのヴルストは美味だった。

 何度かやってきたシアにおかわりを頼むと年相応の笑顔で返してくる。

 そのやりとりを見ていた隣の席の男が酒瓶片手に声をかけてきた。


「あんちゃんもあの嬢ちゃんに連れてこられた口か?」


 男が無遠慮に同じテーブルにどかっと腰を下ろす。


「まあそうだな。だが驚いたのは絶品の食事だ。良い所に連れて来てくれた」

「……そうか、これも後しばらくでお終いかもしれないからな。よく味わってくれ」

「お終い?店を畳むという事か?」


 そこまで言うと男はラドルにそっと耳打ちする。


「まぁ目出度い話ではあるんだがな、この店を取り仕切ってるあの若女将、クリスってんだがこの街の役員の一人と縁談が持ち込まれているらしいんだ。相手は若手のホープ、って言うのか。まぁ見た目お似合いなんだがな、その役員はこの店を潰して区画整理したいんだよ。つまり政略結婚に近いんだ。まぁクリス本人はそれを承諾してるしどうしようもないんだがこの味がもう味わえないのは寂しいもんがあるよなぁ」


 酒の勢いからか聞いてもいない事をベラベラと話す男を横目にラドルはエールをちびちびと含む。

 本人同士が互いに納得しているならそれ以上他人が横から口を出すのは野暮でしかない。


「……他人の恋路を邪魔すれば馬に蹴られるからな。惜しい事ではあるがまぁ慶びごとなら祝福すればいい」

「慶びごとじゃないよ!」


 といきなり怒号を飛ばしてきたのは今の今まで給仕に奔走していた少女だった。


「あんないけすかないヤツにお姉ちゃんは渡さない!きっとお姉ちゃんは騙されているんだ!だって……!」


 シアがまくし立てるように結婚話に異論を口にしていくとその背後にユラっと立つ影がある。

 その右手に持っている獲物がシアの脳天に振り下ろされると。


 パァン!!


 いい音が酒場に響く。

 薄い金属製のトレイがシアの頭を直撃していた。

 シアはその場に頭を抱えて蹲って苦悶の表情を浮かべている。


「お客様に対して何て物言いしてんの!?ほら口よりも手と足を動かす!ほら行った行った!」


 クリスという話中の人物はシア以上の怒号でシアをまた叱り飛ばすとまた叱られた本人は給仕に戻っていく。

 こりゃやばい、とラドルの隣に座っていた男はそろそろと腰を低くしてその場を離れようとするがその首根っこをクリスに掴まれる。


「ベナルドさん、初めて来てくれたお客様に余計な事を吹き込まないの!仕事中に呑んだくれている事話しちゃうわよ?」

「いや、待て!クリス、それだけは勘弁してくれ!」

「だったら早くお会計済ませて仕事に戻る!」


 這々の体で若女将にどやされるとかのベナルドという男も逃げ帰る。

 ふんっ、と鼻息荒くして一息つくと先程までの鬼の形相を見せていた女性はコロッとラドルに対してはその花貌を綻ばせた。

 ラドルも何人もの美女と形容できる女性を見てきたがクリスはまた一風違う健康的な優しさを湛える美しさを見せていた。

 ダルタニアやアルメアと言った傾国の美やファーナのような妖艶な美とは違っていわゆる高嶺の花ではない、手の届く大輪の花という感じの庶民的な美人であった。


「ごめんなさいね、折角のエールが美味しくなくなるような話を耳にしたでしょう?もう一杯奢るわ、えっと……」

「ラドルと呼んでくれ」

「ラドル、ね。もう少ししたら手が空くからちょっと待ってて」


 そうして厨房に戻っていくと再びシアに次から次へと指示を飛ばしていくのを見る。

 なかなかの賑わいだがそれでも違和感を覚える。

 店を畳むのはいいとしてもこの水上バザーが始まる前に一人も宿泊客がいないこと。

 クリスとシアとの婚約者に対する意識の差異。

 何かあるのかと考えてもまだこの時点で結論は出せない。

 そう色々思索を巡らせているといつの間にかラッシュは過ぎたのか先程までの喧騒が落ち着きを見せていた。

 お供の魔獣は丸くなって眠っている。

 そう言えばコイツがこれだけ起きていたのも久しぶりな気がする。グルトミアでの騒動がひと段落したのか。

 そして温くなった最後のエールの一口を口にするとクリスが両手に酒瓶と腕の上に自分の食事なのか皿が二つ乗せて話しかけてきた。


「お待たせしてごめんなさい、はいこれ。最後の一皿と奢りの一杯。ね、私も一緒しても?」

「構わない」

「じゃあ遠慮なく」


 承諾すると屈託無い笑顔でラドルの隣に自然と座る。


「シアは?」

「最後のお客様の相手が終われば洗い物が待ってるわ。色々と押しつけても文句一つ言わずに手伝ってくれるから助かっちゃう」

「そうか」

「でも結構おかわりしていたよね?健啖家なんだ?」

「まぁ次に来る時にはこの店が無くなっているなら味わっておくのもいいかなと思ってな。つい食べ過ぎた」

「ふふ、ありがと」


 そう言って自分はパンを裂いてスープに浸して口に運ぶ。

 意外、というかそれなりに女性でも背が高い方だろうし凹凸のある肉感的な体型をしている為それなりに食べると想像していたが思ったより少食なのか。

 まぁ女性の食事の量などあまり気にした事もないがそう言えば。


『女は一回の食事は少なくして回数を増やして食べるの。その方が栄養が身体に行き渡るのよ』


 などとダルタニアが言っていたのをふと思い出した。

 根拠もない言葉だと一笑に付していたが女性の中では常識なのかもしれない。

 そう思うとダルタニアもやはり女性なんだな、と改めて忘れかけていた事実を再確認する。

 すると隣の若女将が目敏く指摘してくる。


「あ、今女の人の事考えていたでしょ?」

「ん?顔に出ていたか?」

「やっぱり。何となく分かるんだよね、私。隣にこんないい女がいるのに失礼しちゃう」


 言葉は怒っているが表情はにやっと嫌味のない笑顔を見せてつん、と頬を指でひと突きしてくる。


「別に大したことじゃない。娘みたいなヤツが言っていた言葉を思い出しただけだ」

「娘がいるの?まだ20歳辺りかと思ってたのに」

「シアにも言われた。見た目よりは歳はいってるのさ」

「ふぅん……ね、ラドルは何しにラーセンに来たの?」


 いつの間にか食事を終えていたクリスは興味ありげに頬杖をついて視線を送ってきている。

 それは先程までの健康的な花顔ではなく妖しい魅力を発していた。


「まぁ明日には経つ。旅の途中で立ち寄っただけだ」

「そうなんだ、さっき思っていた娘さんの所にでもいくの?」

「反対だ。そいつは国に置いてきた」

「あら、酷い父親ね。じゃあその若作りを利用して新しい女を探す旅?ふふっ」

「酔っているのか?」


 彼女らしからぬ言いようにふと見ると彼女の顔が紅潮しているのが分かる。


「もう休んだらどうだ?」

「じゃあ……はいこれ」


 エプロンのポケットから一つの鍵を出してラドルに手渡す。


「泊まっていくんでしょ?3000ガルド。お会計は明日でいいよ」

「分かった。じゃあ待たな」

「待った」


 席を立とうとすると手に取った外套を掴んで引き止めてくるクリスは机に突っ伏していた。

 突っ伏したまま視線だけラドルに投げかけてきている。


「おい」

「見た目より唐変木なのね……酔った若い女がいるのに放ったらかして部屋に戻るつもり?」

「そういうのは間に合っている」

「そうじゃなくて部屋まで連れて行ってよ……ちょっと……吐きそう……」


 口元を手で押さえると今にも吐くような仕草で訴えてきた。

 ふう、とひとつ息を吐くと文句言わせずにいきなり抱きかかえる。


「えっ?ちょ、ちょっと?」


 いきなり身体が浮いた感覚に驚いたのか、目を丸くして異議を唱えてくる。


「ちょっと……大胆なのね。おぶってくれる位だと思っていたのに……これは少し恥ずかしいわ」

「お前の都合は知らない。ただ本当に吐かれたら負ぶさった時俺にまで被害が及ぶ。これなら被害はお前のエプロンだけになるというだけだ」

「……本当に唐変木」


 クリスからのジト目が強く身に刺さるがこの際無視する。

 部屋の場所を聞くと厨房の脇に入った奥にあった。

 ドアを開けると簡素だが編み物や鏡台など女性らしさを感じる事のできる部屋だった。

 灯は付けずに暗いままに角にあるシングルのベッドにクリスをそっと横たわらせる。


「じゃあ今度こそまた明日……」


 振り返らずにそのまま部屋を後にしようとしたその時。

 いきなり尋常じゃない力によって引き戻される。

 そのままクリスが寝ていた筈のベッドに押し倒されたと把握するとそのクリスが馬乗りになってくる。

 そして。

 ペロッと妖しく舌を出すと。

 プチっと上からシャツのボタンを外しはじめた。


「……なんの真似だ?」

「あら……意外と冷静なのね。男と女が二人でベッドで、しかも服を脱ぐ事なんて一つしかないでしょ?」

「……娼婦の真似事か?婚約者はどうするんだ?」

「それは今は言いっこなし……さぁ一緒に上り詰めましょ?」


 そこまで言うと完全に上半身は一糸まとわぬ姿のクリス。

 外の僅かな光に照らされたその肢体は正に芸術とも言えるほどに。

 ただ綺麗だった。

 素直にそう思えた。

 コームを外すと一つにまとめ上げていた長い髪が自由を得てバサッと無規則に広がる。

 普通の男ならこれで簡単に陥落してしまうだろう。

 妖しく光るその瞳は男を捉えて離さない、まるで蛇のように暗い部屋の中でも視線を外せない魔性の力があった。

 まるでこの力はそう、常人にはない力だ。


「そうだな……じゃあ楽しませてもらおうか」

「ふふっ素直な人は好きよ……あっ……」


 形の良い乳房を優しく撫でると甘い吐息が漏れ出す。

 絹のようなきめ細かい柔肌にうっすら汗が滲み始める。

 吐息が早くなるのと同様に鼓動も早く脈打つ。

 互いの身体が覆い被さるように2人の顔が急速に近づきそして唇もまた重なるその時。

 パチっとクリスの身体に電撃が奔る。


「かはっ……?!」


 何が起きたのか分からない表情でクリスは意識をなくしてラドルに向かって倒れこむ。

 最低出力の雷破(ヴェガ)の魔法で行動不能にしたのだ。

 麻痺(ジェス)でも良かったが意識は下手に残さない方がいいと判断した為感電させてそのまま眠ってもらった。

 ごそっともたれ倒れてきたクリスをそっと横にしてベッドから這い出ると布団を掛けてそのまま部屋を後にした。


「俺がもう少し初心だったら良かったな。正直その手の行為はもうたくさんなんだ」


 パタン、とドアを静かに閉めるとそこにはこの宿に連れてきた客引きの少女が立っていた。

 もう食堂の灯りは全部消えていたが窓から刺す魔道の光でその影がシアだと分かる。その足元には監視役失格の魔獣も控えていた。


「……お姉ちゃんに何かされたの?」

「子供には少し早い大人の会話だ。早く寝た方がいい」

「……あのね。少し前からなんだ。お姉ちゃんがこんな事をしだしたのは」


 こんな事。

 恐らく娼婦紛いの行為の事をこの少女は知っているのだろう。目に涙を浮かべてエプロンの端をぎゅっと強く握っている。


「……宿泊客がいないのはこれと関係があるのか?」

「分からない。でもお姉ちゃんと夜を過ごした人はみんな、もれなく。酷い目に遭っているの。ある人は急に病気になったり。馬車に轢かれて大怪我したり。中には……」

「死人も出た?」


 ローグが代わりに代弁するとコクン、とひとつ頷く。


「最初は偶然が重なったんだ、って皆言うけど……でも裏ではお姉ちゃんは人を呪う魔女だって……そんな事を言う人も出てきたの」


 なるほど。

 それで宿泊客はいないと言うわけか。だが根拠はないから食堂や酒場は繁盛していると。

 そう得心したラドルはローグに一つ確認する。


「お前、俺の隙を突いて俺の上に馬乗りになれるか?」

「まさか。貴方にマウントを取れる人間なんてそれこそ人外の……ってもしかして」

「てことはお前、クリスにも負けたな」

「嘘でしょう?貴方に馬乗りになるなんてそんな事普通の女に出来るわけが……!」

「そう、普通じゃなかったんだよ。女の力とは思えないほどの怪力。その身のこなし。更には魅了(ファマ)の魔法まで使ってくる周到さだ」

「お姉ちゃんが魔法を……?」


 無論魔術回路を開拓していないクリスには無理な事だ。

 だとしたらその身に媒介となる魔道具を持っている可能性もある。

 どちらにせよ、シアはそんな事をするような人物ではないと言う。

 明日にはこの地を発つ予定だったのだが。

 この地で何かが起きている。

 普段のラドルならばティターニア王国にでも報告してファーナ辺りに対応してもらうのだろうが。

 何故だかこの街に着く前に見た夢がふと脳裏をよぎる。

 覚えてもいない中身の夢だがやけに心に引っかかっている。

 こんな時の感覚はよく当たるのを自覚していた神滅者は少女の頭をひとつ撫でると一言だけ。


「まぁなんとかしてみるさ。上手く事が済んだらまた美味いヴルストを馳走してくれ」


 萎れた花のような少女は明るく破顔し大きく何度も頷いた。

 それがこの地でラドルとの邂逅を待つ存在が居たのをまだ誰も知らなかった。

今回早めの更新です!

さて始まりました、新編魔導生命編。

今回初めてベッドシーンを入れてみましたが上手く伝わりましたでしょうか?

いやー難しいですね、どこまでやっていいのかの加減が。僕自身は濡れ場は表現の一種としてアリです。ただやっぱり匙加減を間違えなければ。意味のない濡れ場には抵抗があるのです。作者の限界かな?これは。

あともう一つ。食リポもやってみました。ちなみにヴルストとはソーセージの事です。ドイツのソーセージは世界一ィ!

色々チャレンジしましたごどれもイマイチ、というか中途半端な出来で勉強しました。

もっと精進します。

と毎回勉強勉強してますのでまた長丁場の予感漂う新編にお付き合いくださいませ笑

感想評価もよろしくお願いします!

ではまた次回☆

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