表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼穹の神滅者(シルヴァリオ)  作者: 1
第2章 堕ちる世界
73/85

第73話幕間 〜手紙〜

「……なんて事」


 頭を抱えてそう呟いたのはバルカード聖王国元女王レーヴェであった。

 先日の戴冠式に娘であり聖王女であったアルメアに国家元首の座を譲り隠居として政治の場から遠のいていたのだがアルメアが神滅者ラドルの手にかかり、再び女王として一時的に君臨する事になったのだ。

 バルカードという国は王政を敷いているがその最終決定権は政治的な案件は教会との合議が必要な政教一体制をみせていた。

 というのも地母神フェニアのお膝元、総本山としてその存在を無視する事は出来なかったのだ。

 教会を蔑ろにする事は国民の支持を失う事と同義だからである。

 そう言う意味でバルカードは他の国よりも制限のある、複雑な体制を維持していた。

 勿論そのメリットは大きい。経済、外交、軍事などといった可視可能な事柄以外に機密事項や正道真教会への発言力という水面下での権力も強まるのだがその基盤を失った時の動揺も少なくない。

 即ち今回でいえば聖王女アルメアの死とその隠匿、更にはその神体を冒涜する人体実験紛いの行為。

 また神槍の戦乙女アーシアの重体もそれを手伝っていた。バルカード聖王国の3人の神の使徒。

 地母神フェニアの化身という聖王女。

 神の槍を持ち戦いを勝利に導く戦乙女。

 そして神の愛を受けて人心を安んじる神子(みこ)

 そのうちの2人が重篤という事態はこれまでのバルカード聖王国の歴史において一度もなかった。

 その前代未聞の不祥事を受けたレーヴェは正道真教会から詰問を受ける事になったのだ。

 レーヴェに何か責があるわけではない。

 だが国の代表として責任を誰かが取らなければならない。

 正道真教会やそこに所属する国々。その教権下にある国も含めてその責任となれば計り知れない程の罰則が生じてもおかしくはない。

 それを人身御供として重臣一同が選んだのがレーヴェだった。それも聖王女アルメアの遺言という名目でだ。

 アルメア自身の言葉で女王位を返還すると言ったのは暫定的なものでここまで事態が混迷化するとは知り得るはずもなく仕方ない人選ではあったのだが事もあろうにそれを盾にして重臣たちに請われては拒否する事は出来なかった。

 思った以上の悪状況に陥ったレーヴェは頭を抱えてしまった。


(私が責任を取って死ねば終わる問題ではない。少なくとも世界的にまず説明責任を果たす。そして絶対にアルメアを死なせてはいけない。生きていればまだこの窮地を挽回できる。アーシアも死んではいない。逆に捉えよう。神滅者から生き延びた。そしてその命はまだ尽きてはいない。だから神体を傷つけられた、それだけの咎になればどうとでもなる)


 そう、まだ終わっていない。

 始まったばかりなのだ。

 まだ希望は捨てる時ではない。

 そう腹も括れば覚悟もできる。

 そう思うと次第に覚悟とは別に自分の娘に対しての愛情が湧き出てくる。

 カタッと上から二番目の引き出しを開けるとそこに収まった一つの手帳。

 それが目に入るとジワっと視界が歪む。

 大粒の涙が出て落ちると少なく嗚咽が出る。


(まだ……生きていた……!絶対に死なせない……我が身と命に代えても!)


 自らの頬にできた涙の道を拭うとその瞳は決意に満ちている色に染めて事態の収束を目指して行動を起こす。


「ドルテス。アルメアは絶対に死なせてはならない。どのような手でも構わない。その身心を戻すのです。アーシアも同様です。良いですね!」

「は、ははっ!」


 執政官であるドルテスに下知を下すと、続けて二人の人物の名を口にした。


「神子ソフィア・メーナスと武僧王レグルス・ヴィルトムを召喚します!近日内にこの白峰城(レ・ディアメルス)に来るように申し渡しなさい」

「御意に」

「陛下!レグルスをもですか?彼奴は……!」

「黙りなさい、教会がまともな返答をしないならばかつての幹部に聞くしかないではないですか。それとも何か?レグナー老よ、貴方は教会のあの巫山戯た回答に納得がいくというのか?」


 以前グルトミアに特使として向かったレグナーが女王に異議を唱えようとしたがその威圧感に声が詰まる。


「い、いえ。だが彼奴は陛下に不敬を働いた者である為……」

「ならば貴方が教会にその真意を問えるのですか?」

「……それは」

「代案も出さず異論だけならばその口を閉じなさい。今私が求めるのは実のある発言のみです」


 強く反駁されたレグナーはすごすごと上げた腰を椅子に落とす。

 代わりにレグナーの対面に座るもう一人の壮年の男が軽く挙手して発言の許可をとる。


「陛下。至極尤もな意見ではあります。ですがもう一人その所在を明らかにしなくてはならない存在がおります」

「それは?バルド公」

「それは我らが聖王女陛下を傷つけた大罪人。神滅者ラドル・アレスフィア……かの者に問う事があります」

「……何を聞くと?こう言ってはなんですがかの者はその行動原理に従ってアルメアを狙ったのではないのですか?」

「然り。ですが疑問は残ります。そもそも聖王女という存在には寿命は無くなり不老の存在となる。ならば先代、先先代の聖王女はなぜ今現在この場にいないのか?」

「……!」

「その存在はすでに200年以上前であるために詳細な資料は残ってはいませんが今回の戴冠式にて彼奴が現れたのならば先代たちももしやすると彼奴の手にかかったのでは、と考えるのが普通でしょう。ならばそれは今回のアルメア様に対して何かしらの真意が隠されているのではないのか。それが。それこそが。教会の歪曲された返答に対しての裏側が明らかになるきっかけが見つかるやもしれませぬ」


 バルド・ファン・クインティア。

 その智謀と聡明さから賢公とも名高いかの老公はカインの父親でありバルカード四大貴族の筆頭としてその存在を強く示していた。


「……ふむ。成程、良いでしょう。ならば特殊斥候部隊「烏」を使いなさい。そしてかの者を必ず発見し捕縛するのです!」


 レーヴェは粗方の指示を出し終えると一人。

 供も付けずに執務室を出て眠る娘の寝室に向かって行く。

 これから始まる戦いの。

 信念と使命、そして矜恃を掛けた孤独な決意を新たにする為に。

 我が愛娘を見遣りに向かうのだった。



 ーーーーーーーーーー



「はっくしゅ!」


 遠く離れたバルカードで話題に上がっていた件の神滅者は船上にいた。


「旦那!風が強いからな、中に入ったらどうだ?」


 船長らしき男に声をかけられた蒼い髪の青年は一度振り向くと船長の指示に従う。


「久々にラーカニア大湖に来たがやはり広いな」

「だろ?このラーカニア湖は一番対岸が近い場所でも距離にすると船で2日かかるからな。南北に伸びたこの湖は7大陸でも二番目の大きさだ。ゆっくりするがいいさ」

「そうさせてもらおう」


 ラーカニア大湖は水の女神ラーカニアの名を冠しているようにその透明度の高い美湖として観光としても世界に名を知られていた。


「この湖の中島には水上街ラーセンがあるから今日はそこで一泊するぜ。あと2時間程だからそろそろ準備を始めておいてくれ」


 少し大きめの客船の旅だが目指す先はまだ遠い。

 ラーカニア大湖を越えて水の王国ラクリアに入り清峰オード山脈を越えてまたメレニア内海を渡り教会王国ファラニアに向かう旅だ。

 道程にして3ヶ月はかかる道のりだ。

 神滅者ラドルはソルヴァレンスでエティアたちと別れてから単身徒歩で仇敵でもある正道真教会に招かれてファラニアに向かう。

 無論馬鹿正直に乗り込む訳でもないがとりあえずは久々に一人旅を楽しむと事にする。

 客船には結構多くの人が同船していたが寝泊まりできる程度の大きさの船で一人で過ごすには充分な部屋を充てがわれた。

 腰に差した宝剣を置き椅子に腰を掛けると懐から取り出した旧知からの手紙を改めて目を通す。

 流麗な文字に品の良さを感じさせるもその文体からはその人物の芯の強さを感じる事ができた。


「……変わらないな。あの(ひと)は」


 そう思いながらその差出人の声を思い出しながら脳内にて再生しながら手紙を黙読する。


 ーー親愛なる友人にして世界の大罪人たるラドル・アレスフィアよ。先ずはこのような不躾な手紙を送る事に対して謝罪させてほしい。それと恐らく更に無礼を働くであろう者を使者として送る事も含めて謝辞を述べさせて頂こう。さて急な手紙に戸惑っている事を期待して早速本題に入らせてもらう。夭天の七龍が活動期に入った事が確認された。七龍のうち「暴食」「強欲」「色欲」の三龍は無限縛鎖の呪法封印下にあり復活にはまだ余裕があるが残る「憤怒」「傲慢」「嫉妬」「怠惰」の四龍は残念ながら封印を破ろうとしている。とは言え私を含む神将が出張って再封印に動く手筈だが、しかし「傲慢」だけはその封印の減弱率が高い為それを任せられる人物が生憎と足りてない。そこでラドル。「傲慢」の封印、若しくは討伐を其方に任せたい。無論其方と教会との因縁は重々承知している。それに関しては私の責任において一時的にではあるが全て不問にし其方の望むものは用意する。そして何よりー……」


 ラドルはその後に続く文言に敢えて目を伏せた。

 その言葉に何の意味もない。そう考えてしまう。

 そしてつい一言だけ。


「俺は一体何に負けたんだろうな……」


 漏れ出た言葉。

 それが誰に伝わる事もなく水上を走る船の水切り音にかき消されてしまう。



 暫しの沈黙。

 どれだけそうしていたのか。

 ふと気づくと自分は夢を見ていた。

 眠ってしまったというのが分かる。

 まだ覚醒していないが今のこの感覚は夢だ。

 それが分かるのだが。

 白く開けた視界に入るものはない。

 誰もいない。

 何もない。

 ただあるのは自分。

 変な夢だ。

 そう思うも不思議と不快な感覚は無い。

 寧ろこれは懐かしい、懐古的な感覚を感じる。

 そうしていると不意に自分に声がかかる。

 いや姿は見えない。

 はっきりとした声ではない。

 しかし確かに自分を呼ぶのが分かる。


 ーー誰だ?


 声をかけても返ってこない。

 正確には返ってきているかもだが明瞭としない為何を言っているのか把握できない。

 もっと感覚を鋭くしてみる。

 するとようやく何を言っているのか何となくだがその声の輪郭が見えて、いや聴こえてきた。


 ーーけてーーここはーーのちがーーつくーーちゃーーするためーーないでーー


 やたらと雑音というかノイズが入るように聴こえる。

 だがどことなく聞いたことがあるような声の気がした。

 そこまで理解したその時。

 現実にある身体に妙な刺激が伝わる。


 ーーなんだ?


 あまりにしつこい刺激に身体が自然と覚醒に向かっていく。

 そうやって無理矢理目を開けるとそこには。


「あ、起きました?」


 黒い子魔獣が鼻と鼻が接触する程までに顔を近づけていた。その前足は頬を叩いていたのか踏み付けようとしていたのか目の前にまで迫っている。


「……何の真似だ」

「いやぁ、貴方が無防備に昼寝しているからついその安眠を邪魔したくなりまして」

「……そうか」


 そう言って無言で個室の窓を開ける。

 そしてムンズと魔獣の首を掴んで荒々しく窓から捨てようとすると目一杯の抗議をバタバタと暴れて起こす。


「ちょちょちょ!待ってください!ここで捨てられたら真水が!真水が!溺れるとダメなんですよ!すいません!ごめんなさい!」


 懸命な抗議に免じて許してやる。

 そんなドタバタで先程までの夢の内容をすっかり忘れてしまった。

 窓を閉めて風で少し荒れた個室の中を片付ける。

 旧知からの手紙も飛んでしまったのを拾って手に取るとつい手紙の最後が視界に飛び込んでくる。


「……ーーこれを受けてくれる事を信じて私は敢えて筆を取る。何故なら其方は世界を滅ぼす存在ではない。また人々を滅ぼす存在でもない。ただ一つの信念。一つの使命。それは神を滅する事のみ。例えそれが其方の意思に関係あるかないかは別にして。この世界を救う為の。人々を救ける為の手を其方は取ってくれると信じて。ここに旧き友の親愛に縋る事を許してほしい。

  正道真教会神将リゼリア・ベリアレイン」


 信じて。

 その言葉が胸を刺す。

 今の自分に古い付き合いでそう言ってくれるのは何人いるだろうか。

 感謝も。祝意も。罵倒も。面罵も。

 今まで受け入れてきた。

 だが信頼。

 それは何年経とうと消えない絆の別称。

 それを使われては向かわないワケにはいかない。

 かの(ひと)が請うなら。

 今一度話を聞くのも吝かではないか。

 そう心で自分に言い聞かせて窓を見ると遠く対岸に見える山嶺に日が隠れていく。

 客船はいま水上街に着こうとしていたーー。


はい、最新話更新します!

今回は前回の半分のテキスト量でした!

え、それでも多い?

うーむ精進します!

で、次回からラドルとローグの2人による「魔導生命編」が始まります。

こう書くとよくある話になりそうですがそこは個性を付けていきたいと思います。

あと七龍の名称は大罪からとりました。横文字も良いのですがやはりファンタジーでは王道のネーミングなんでつけちゃうか、と安易に名付け。

後々面倒だと思うのですが確定してない未来は置いとくのが自分の流儀です。

とりままたこの2人の事件は難しいと思うので出来るだけ簡潔にしていきたいですね。

感想評価お待ちしております!

ではまた次回☆


追記 一部名称を変更しました。

ジェルド→バルド

ラクニア→ラクリア

似たような名前が出たので変更したので読者の方々にご迷惑をおかけしました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ