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蒼穹の神滅者(シルヴァリオ)  作者: 1
第2章 堕ちる世界
72/85

第72話 聖戦編〜惨劇〜

今回ちょい残虐シーンがございます。

想像力豊かな方は少しパワーを落として読んで下さいませ。

「いやぁぁぁぁぁぁっ!!」


 初秋の爽風吹くクステルム平原にバルカード聖王国の戦乙女の絶叫が響く。

 戦乙女アーシア・リングベルグが持つ金の神槍が貫いているのは一人の細い女性の身体。

 その神槍の特性たる魔力吸収が始まるとその女性の髪が黒から鮮やかな紅に変わっていく。

 見知った、心許した、騎士の忠誠を捧げた親愛なる相手。

 その相手を。

 戦乙女は自らの手で貫いていた。


「あ、アルメア……さま……?!」


 信じられない気持ちと信じたくない思い。

 それが衝突し葛藤が戦乙女の精神を千々に切り裂く。


「何故……?どうして?!」


 大粒の涙が溢れ問いかけるも神槍に貫かれたアルメアは何も答えない。

 代わりにトサッと大地に倒れこむ身体が乾いた草むらの音を立てる。

 何秒そうしていただろう。

 呆然とした戦乙女をアルメアと共に貫かれていたグルトミア元十星将の紫星のダラスが重症を負いながらも戦斧を杖代わりにして凝視していた。


「ほう……その娘御がかの聖王女アルメア殿か」


 その言葉に我に返ったアーシアはアルメアを庇うように自らが前に出て盾とならんとしてダラスに対峙する。


「近寄るな!この方に触れれば殺す!」

「中々に勇ましい言葉じゃがな、それをしたのは戦乙女、其方ではないか?主君を串刺しにするとは騎士道にも悖る所業はいや恐れ入った」

「黙れ!私を侮辱するか!?」


 互いに満身創痍ではある。

 ダラスは神槍に抉られた傷が。

 アーシアは自らがした行いの心の傷が。

 互いの状態は戦闘不能ではあるが戦意は未だ衰えを見せない。

 だが互いには決定的に違う要因が存在していた。

 それは。


「敵の防壁術は瓦解したぞ!全軍突撃ーー!!」


 圧倒的物量の差。

 初戦で両軍に多少の被害はあったものの全体的に見れば軽微であり戦力の殆どを保有していたのだが元から2倍以上の兵力差。

 加えて遮蔽物のない平原では騎馬兵の力が十全に発揮できる戦場。

 ダラスの固有術『絶対防壁術(ヴァル・ヴェローナ)』無くしてはグルトミア軍の勝機は皆無の戦いだった。

 それだけにダラスの防壁術は完璧である事を証明してきたのだが初めてそれが砕かれた。

 それを確認したバルカード軍総大将カインは勝機と見るや全軍に突撃の檄を飛ばして決着するつもりで自身も戦場に駆け出す。


「アーシア卿!ご無事か!?」

「総大将!私よりもアルメア様を!この方の治療を!」

「……なに?聖王女陛下!?何故ここに?」

「詳細は後ほど!今はアルメア様を助けて!」


 状況を飲み込めずに混乱するカインだがすぐに言われる通り馬にアルメアを乗せて駆け出そうとする。

 しかしそこに老練の猛将が立ちはだかった。


「この戦……どうやら我らの負けのようだ。じゃがな、大将首3つ刈り取れれば少なくとも痛み分けには持ち込めよう。故に……ここを通す事はできぬな」


 その腹部から止まる事なく血が流れて出る。

 半身を自らの血で染めて尚衰えぬ戦気にたじろぐカイン。

 その一瞬の隙を見抜かれたか大きく振りかぶったダラスの戦斧が唸りを上げて一閃するとカインの愛馬の太く逞しい首から血を吹き出し倒れ、その主人もまた大地に放り投げられる。


「ぐっ!」

「……突撃した騎兵およそ8万か。バトレシアやライアスが後詰めにいるとは言えこれを抑えるのは不可能じゃな……。ならばやはりせめて其方たちのその細首3つくらいは取らねばな」

「させぬ!」

「邪魔じゃあ!!」


 ダラスの戦斧がカイン達を守ろうとして飛び出たアーシアを横薙ぎに吹き払う。

 今まで以上の一撃の重さにアーシアは驚嘆する。


「儂の最期の槍働きをするにはちと残念な結果ではあるがな……それでも陛下は褒めてくださるであろうて。『大義であった』とな!その一撃を今……食ろうてみるか?!戦乙女よ!!」


 再びダラスの一撃が大きく唸りを上げてその場にいる3人をまとめて吹き飛ばそうとするその時。


 ギィィンッ!!


 耳を劈く甲高い音が響いた。

 ダラスの一撃がその場を血溜まりにする筈がそれを受け止めた男がいる。


「もう……アンタの出番は終わったんだ。静かに退場してくれないか?過去の武神よ」

「……何者か」

「一介の聖騎爵教徒ですよ。紫星殿」

「メカージュ殿……」


 重戦士らしき青年が事もなげに武神の渾身の一撃を防いでいる。

 その事実は信じられないものではあったがそれよりも。

 いかに目の前の3人に注視していたとは言えこれ程までに接近を許すという事実こそがダラスを驚嘆せしめた。

 目の前に立つ男の力量たるや十星クラスである事は間違いないと判断するもそれ以上に底の知れない男に今度はダラスが躊躇いを見せる。

 そんな様子も構わずにアーシアはメカージュに懇願する。


「頼む……!何とかアルメア様を助けてくれ……!」


 その言葉を聞いてメカージュは目を丸くした。


(そうではないだろうに、本当に聞きたい事柄は。それすらも判断できない程に混乱しているのか。それとも主君の無事を望むだけの愚物か)


 一瞥してメカージュは鷹揚に返答をする。


「承知した、聖王女陛下の御身は必ず守りましょう。戦乙女殿もご武運を」


 そして右手にはめられた指輪がキラッと輝くと足元にも魔法陣が展開されるとアルメアを抱えたメカージュの姿が朧気になっていく。

 転移の術式を付与した魔道具と判断したダラスは逃すかと消えゆくメカージュに斬りかかる。


「武神殿。貴方の相手は用意してある。トリエ」

「む!?」


 パチンと指を鳴らすとダラスの背後に影が忍び寄るのを感じたその時。

 そこには異質な力を放つもう一人の黒衣の魔道士が立っていた。

 相変わらず表情は読めないがその力が放たれていると確認した瞬間、ダラスの身体に異変が起きる。


「ぐっ!?」


 今まで自らの気合いのみで痛覚を麻痺させ出血も抑えていたのをいきなり肉体がそれを思い出したかのように再びそれらが顔を出した。


「これは……!?そうか、其方の能力だったか、認識誤認の力……アレサよ」


 グルトミア十星将9位水星のアレサの能力、「認識誤認」。

 アレサは魔力に依らない自らの異能によるその力で十星将にまで上り詰めた。

 幻術や催眠洗脳とは違い直接相手の思考を歪曲するため防ぐことも避ける事も困難である。

 幻術のように対象のない知覚を起こす事もできるし過去の改竄やダラスの様に肉体損傷を脳に働きかけ重症化する事も出来る。

 見た目的な派手さは無いがその有用性は計り知れない。

 リカードが彼女に偵知の任務を任せたのもその力故である。

 だが今はその力を以ってダラスに敵対している。

 視覚補完の魔道具、バイザーの様な仮面をつけていて素顔はしれないが顔の輪郭や、首筋のホクロの位置など彼女と想定できる要素がある。何より報告のあった彼女の左手の指は切り取られたのか全て存在しなかった。

 その事実から目の前の刺客は元十星とそう確信したダラスは心の中で舌打ちをする。


(これはちと……マズいのう……)


 普段のダラスであれば例え相手が誰であろうと負ける事はないと自信があったが前門の元十星、後門の戦乙女。

 しかも自身のコンディションは最悪と不利極まる状況にもはや笑うしかなかった。

 更に周りは敵兵の壁。

 バトレシアやライアスの助力は頼れない。彼等は彼等で今頃敵の大軍と交戦中であるだろう。


(……わしの命運もここに尽きたか)


 腰が落ち、ふーっと一つ息を吐く。

 傷口が熱い。今着用している鎧には痛覚鈍化、疲労耐性、止血効果などが付与された魔法鎧だがそれをもってしても追いつかない。

 傷口周辺は熱く、血が足りないのか身体全体としては寒い。秋の風が殊更冷たく感じる。

 日はまだ中天にもならず蒼穹が晴れ渡っている。

 日差しだけはやたらと暖かい。

 いや熱いくらいだ。まるで太陽が二つあるようだ。

 その時、空の違和感に気づいた。

 二つあるようではなく実際に二つある。

 勿論太陽はこの世界では一つであり二つあるような事はない。

 ではあれはなんなのか。

 その異変に感づいたダラスは目を凝らす。

 見ると太陽の一つがどんどん風船のようにその大きさを膨らませているように見えた。

 いや、大きさを変えているのではない。

 太陽の一つがクステルム平原に向かって落下しようとしているのだ。

 その事にバルカード軍の騎士たちも気づき始める。


「あれは?」

「熱い!太陽が二つある!」

「こっちに向かってきているぞ!」


 などと急速に混乱が規律正しい騎士団を駆け巡る。

 そして状況の把握もできないままその太陽がバルカード軍のど真ん中に落墜した瞬間、


 ドゴオオオオオオオオン!!!


 と巨大な熱波と轟音と爆発がクステルム平原を覆い隠してしまう。

 太陽が落ちたその場は悲鳴と苦痛と悶絶のるつぼと化し騎士たちはある者は鋼鉄の鎧に焼かれ脱ぐ事も出来ずに焼死し、またある者は太陽の熱波により一瞬にして水分を失い乾死し、さらにまたある者は酸素を全て炎にされて息もできないまま窒息死をしていった。


「これは……あやつか……」


 アーシアもカインも突然の地獄絵図に言葉に出来ないような表情で自失している。

 そんな中ダラスだけはこの惨劇を引き起こした張本人に心当たりがある為幾分冷静に事の顛末を見ていた。

 グルトミア領内に突撃した騎士団はほぼ壊滅だろう、と結論付けると周囲の阿鼻叫喚の中でもやけに通る声が降ってきた。


「見ぃつけた〜年寄りの冷や水もほどほどにしなさいよ?爺様」


 平原を舐めるように焼く炎の壁から現れたのは紅い髪を靡かせながら燃える剣を手にして女神のような笑顔を湛える魔女だった。


「メル…いやダルタニアか。馬鹿もんが……!一体何人殺したのじゃ?」

「さぁ?運の悪くて弱い羽虫が何匹死のうが興味ないからね、強い奴は生きてるよ、きっと。それよりも」


 ダラスの目の前まで来るとその肩に手を置くダルタニア。

 その瞬間、置いた手から今度は白い炎が噴き出してダラスを包むもすぐにその身に吸収される。

 するとダラスが先程までの痛痒が嘘の様に消えていた。


「白癒炎か。儂を助けて恩を売るつもりか?」

「まさか。こっちが売ってもジジィが売られたと思わなかったら意味ないでしょ?ボランティアよ、奉仕の精神ね」

「どの口が言うのか、美しい平原をこんな地獄に変えた本人が」


 ダルタニアの固有戦技「麗炎術」はダルタニアの魔力により炎という特性を幅広く変換できる技術である。戦闘、破壊、殺傷は当然ながら肉体を活性化させ癒す炎、魔を払う浄化の炎など汎用性は高く、また彼女自身の素質も相まってそのスキルは途轍もなく凶悪なモノと化していた。

 炎を自在に操れる様にしてくれたのは師匠であり保護者のラドルだがその力の根源はかつていた暗い地下倉庫の蝋燭の火に起因している。

 どんな炎も熱い。

 その身を焦がす程に熱い。

 特に命の炎は何よりも熱いと知ったその日から全てを自分の炎で焼き尽くそうと決めた。

 その思いが彼女に自信と傲慢とそして残酷さを与えている。

 ダラスはそんなダルタニアを危ういと思いながらも稀有な才能として認めていた。

 だがそれはラドルという乗り手がいてこそ。

 今はそのラドルが出奔してしまい、燻る火種がこういう事態で爆発する。もはや彼女を止める事ができる者はいないのではないかと不安を心に宿すもだが今は。


「さて形勢逆転かな?戦乙女に総大将殿にあと……アレサよ」


 黒いバイザーをしているトリエは炎の熱でか行動を停止していた。

 ダラスは身を起こして再び戦斧を手にすると。


「待って」


 戦闘再開しようとしたダラスに待ったを掛けたのはだれあろう、火の龍ダルタニアだった。


「言ったでしょ、年寄りの冷や水はいい加減にしとけってさ。ジジィの傷は治したけど体力は戻ってないんだからここは私に任せてよ、それにね」


 ちらっとトリエ、もといアレサを一瞥すると


「うちの同輩をいいようにしてくれた礼を目の前の小虫に少し返してやりたいのよね」


 刹那。

 強烈な威圧に似た殺意をダルタニアから感じたアーシアとカインは反射的に剣を身構える。

 だがそれよりも早く動いたのは意志のない人形と化したアレサだった。

 まるで獣が恐怖から逃れる為に窮鼠となったかの様にダルタニアに襲いかかっていく。

 凄まじい速度でダルタニアに斬りかかる。

 さらに彼女特有の認識阻害能力からダルタニアの死角から攻撃を仕掛けていく。

 絶対に不可避の攻撃。

 そう思われた。

 だがアレサの刃がダルタニアに届く直前。

 急にその刃が消えた。

 いや。消えたのではない。

 手にしていた右手ごとダルタニアの熱幕によって蒸発したのだ。


「/@&#*¥々○〜〜!!?」


 言葉にならない叫びがその場に木霊する。

 苦痛以上に我が身に起きた状況に理解できずに悶絶したのだ。

 その姿に僅かながら憐憫の色を宿して見下ろすダルタニア。


「馬鹿ね、アレサ。言ったでしょうに。貴女は攻撃しちゃダメだって。どんなに死角に回っても攻撃すれば貴女の位置は敵も攻撃できる距離なんだから。そう教えたのにそれが出来ないのはコイツのせいかしら」


 そう言って蹲るアレサを抱きかかえると無理矢理バイザーを外す。

 そこに現れたのは久しぶりに見た同僚の顔。

 だがその瞳には焦点の合わない、燻んだような虹彩。

 数々の拷問などを受けたのだろうか。

 首には声を奪われた傷もあった。


「〜〜〜〜!?」


 未だに悶絶しているアレサをそのまま抱きしめる。アレサは痛みと悶絶で暴れるがダルタニアの身体はまるで根が張ったかのようにビクともしない。


「もうこれ以上の苦痛はない、瞬で送ってあげるよ。……またね、アレサ」


 優しくアレサを抱きしめてダルタニアは自らの身体に高熱の膜を形成する。

 熱の揺らぎから2人の姿が撓んで見える。

 そして次の瞬間。

 何も残さないままアレサの身体は白い煙となってその姿を消した。


(瞬間的に超超高温の熱膜を形成しておるのか。鉄や銅の沸点は2500度以上。人間の身体など一たまりもあるまいて。じゃがアレサの葬送に使うとは思わなんだろうに)


 ダラスもまたやり切れない思いでその光景を見ている。

 一人になったダルタニアは次に。未だ声を出せずにカタカタと震える剣を自分に向けている敵の大将と。

 それとは対照的に金の槍を構えている戦乙女に視線を移した。


「う……う……」

「……はぁ。仮にも一軍の総大将がそんな様とは興醒めね。で?金色、アンタはいい目をしてるわ、コガネムシってところかしら。あはは」

「我が名は戦乙女の称号を戴いたアーシア・リングベルグ!貴様も名を名乗れ!」


 ああ、そういえば、と名乗っていない事に気付いたダルタニア。

 その事が可笑しかったのかついクスッと笑みがこぼれる。

 その見目と残虐性のギャップからかカインが一言漏らす。


「あ、悪魔の美姫……」

「悪魔?私が?あはははは!」


 その言葉を聞いて殊更笑いが込み上げた。


「爺さん、聞いた?悪魔だって、私」

「どうでもいいわい、何がおかしいんじゃい」

「だってさ、こんな目に遭ってこれから遭う目を想像してもまだ悪魔なんて可愛いモノに見えるんだから。ホント笑えるでしょ。あー笑った笑った」

「可愛い……?」

「私はね龍よ。火の龍ダルタニア」

「ぐ、グルトミア十星将序列2位……!紅星のダルタニア……!?」

「正解。さぁ……灼け死ぬ時よ!」

「させない!!」


 振り上げた火剣をカインに振り下ろす直前に金の槍でそれを防ぐアーシア。


「あらコガネムシ。邪魔するの?なら貴女から死ぬ?」

「神槍レグアローフ!その力を解放せよ!!」


 その文言を口にすると今までないほどに強烈な光を放つ神槍。

 すると周囲にある変化が起こる。


「……私の炎の壁が消えていく?」

「貴女のその炎は貴女自身の魔力から生成されているならこの神槍レグアローフには勝てない!この槍は魔力魔素の類を喰らい尽くす神の槍なのだから」

「アーシア卿!た、助かった!」

「カイン様、この槍がある限りいかな十星将と言えど私の敵ではない!御助力お願い致します!2人でこの者を討ちます!」

「分かった!」


 そう言ってパチクリと目を瞬かせるダルタニア。

 一体何を言っているのか?心底分からない、という表情を見せる。

 2人がかりなら勝てる?

 そう言っているのか?

 あの槍があれば?

 全くもって話にならない。状況把握が出来ていない。

 そう思考すると笑いを通り越して不快感を感じる。


「やっばり虫は虫か。もう面倒だわ。もういいから2人揃ってかかって来なさい。万が一私に傷一つでもつけられたら見逃してあげる」


 そう言うや否やアーシアとカインは同時に斬りかかる。

 神の槍が光を放つ度にダルタニアの熱膜が削られていく。その間隙を縫うようにカインがダルタニアに連撃を繰り出していく。

 カインに注視すると今度はアーシアが強烈な一撃を死角から繰り出してくる。

 急造の連携とは思えない程にテンポ良く途切れない攻撃。

 このままいけば押し切れる。

 そうアーシアの思考の網にかかったその時。

 目の前の火の龍はただ静かに。

 その目に自分を写していないことに気づいた。

 まるで興味がないような。

 押しているのは自分達なのに。

 歯牙にもかけないような表情。

 そんな屈辱、これまでにない。

 怒りにも似た激情が今迄にない程の一撃を繰り出す。

 しかし。

 その一撃をダルタニアは片手で金の穂を掴んでしまう。


「なにっ!?」

「貴女、言ったわよね?この槍がある限り負けはないと?それって自分の弱点を口にしているって気づかないの?」

「え?」


 ぐっ、と更に力を入れるダルタニア。

 受け止めた右手から赤い血が滴るが全く意に介さないように力を込める。


「離しちゃダメよ?」

「な、何を……きゃあっ!!」


 ダルタニアは神槍の穂を掴んだままそのまま神槍を力任せに振り回し始めた。

 まるで縄を投擲する前のようにブンブンと風を切る音を鳴らして振り回す。

 その槍の反対側には成人女性であるアーシアをも一緒にだ。

 常人離れした膂力。細い体のどこにそんな力があるのか。

 これも彼女の麗炎術の一つ「狂活炎」と言う身体強化術だった。魔法と違う為使用する魔力は僅かである為神槍に喰われる事なく効率良くダルタニアを強化できているのだった。

 神槍を大車輪のように振り回し続けるダルタニア。

 その意図するところを察せないカインは隙だらけのダルタニアに剣を突き立てようと向かっていく。

 だが槍の加護が無くなったその時、再び熱膜が形成され熱波をまともに受けてしまう。


「ぐあっ!!」


 吹き飛ばされたカインの身体は火傷でもはや動けずうつ伏せになってダルタニアの強大さをただ見てるだけとなった。

 ダルタニアは更に槍の回転を上げていく。

 回転の先にいるアーシアには遠心力という力が働きかける。


(ま、まさか……この女……!?)


 ふ、と笑みを浮かべるダルタニア。


「気づいたかしら?手を離した瞬間、貴女には神槍の加護は無くなるのよね?てことは貴女は神槍がないとただの羽虫に成り下がるわけよ。だから手を離しちゃダメよ」

「あ、あああ……!!」


 どんどん強まる遠心力に血が足の先に向かっていくのを感じる。思考も出来ないほどに脳に血が行かない。

 離せない。

 離せばその時点で詰む。

 こんなバカなやり方で。

 負けるわけにはいかない。

 思いは屈さない。だが。身体はいずれ限界が来る。

 そして数分経った時。

 その限界が来てしまう。

 手から滲む汗が握力を奪ってしまった。

 瞬間。

 遠心力によってアーシアは中空にとうとう放り投げられてしまい宙を舞う。


「きゃああっ!」

「はい、羽虫の羽を毟りとるわよ?そぉれ!」


 クルッと神槍を1回転させて持ち直すと勢いよく中空のアーシアに向けて投擲すると凄まじい勢いで神槍は唸りを上げる。


「……えっ?」


 これまでドリムーラ、リーテス、ダラスと言った十星将を破ってきた神槍が自分に向かってくる。

 金の穂がこちらを向いて飛んでくる。

 頼もしい相棒が。

 牙を剥いてくる。

 信じられない思いで思考が停止した。

 それと同時に神槍がアーシアの左足を貫いて切断してしまった。

 そして重力によって大地に生還したアーシアは勢いよく赤い血を吹き出しながら転がり倒れる。

 その時初めて自分に襲ってきた激痛を自覚する。


「ぎぁぁああああああっ!!あ、足が!」

「あらあら、ごめんなさい。ひと思いにとどめと思っていたんだけど手元狂って結局地虫になっちゃったわね、あはは」

「こ、この……!貴様ァっ!!」


 懐に忍ばせていた短剣を取り出し憎しみ隠さず刃を向けるも。

 瞬間自分の腕が消えた。

 これは。先程の。腕が蒸発して消えた。


「がぁぁああああっ!腕がぁ!私の腕がっ!」

「貴女、本当に戦乙女?神槍に裏切られたのはその加護が無い証拠じゃなくって?」

「き、貴様……!私は……聖王女アルメア様に……認められた……戦乙女…だ!」

「ふぅん。で?もう戦えないの?戦乙女も普通の人間……羽虫ね。

つまらない。貴女たちは私たちグルトミアに喧嘩を売ったのよね?だったらもっと頑張りなさいよ。さあ!立って!戦え!壊せ!殺せ!吠えろ!燃えろ!叫べ!滾れ!灰になるまで血を流して牙を剥け!もっと!もっと!!」

「この狂戦士め……!貴様は龍などではない。血と肉と骨に飢えた、餓狼の如きただの獣だ……!」

「あらそう?だったら今日はここまでにしてあげる。ヘタな挑発だけど、そう簡単に死ぬよりもまだまだ苦痛が欲しいんでしょ?私まだやらなきゃいけない事があるし貴女たちにばかりかまけてるわけにはいかないのよ。じゃあね、命があればまた会いましょう?金 (めっき)の戦乙女さま」


 そう言うともう興味を無くして見向きもしないでダラスに戻ろうと合図を送る。


「良いのか?後々面倒じゃぞ?」

「いーのいーの。あの子ラドルにも負けたらしいしね。100年早いって教えられたからもう溜飲は下がったわ」

「全く知らんぞ?メル、どうやってここまで来たんじゃ?」

「リーテスに無理矢理転移魔法使わせて。リカードが至急戦場に向かえって言うから。ホント人使い荒すぎ」

「そうか。ところで内乱の話じゃが詳しく聞かせてもらおうか」

「げっ」


 喧々諤々しながら二星は帰投する。

 その場に残されたカインは残った気力で光弾の指輪から救援を要請すると意識を失う。

 程なくして後方でいまだ健在だった騎士団に保護されたカインとアーシアは応急処置を施されてこちらも聖王都へと帰途に着いた。



 こうして後にクステルム戦役と呼ばれる戦いは痛み分けという形で終わった。

 実際にはバルカード聖王国の大敗北なのだがグルトミア帝国も完全にクステルム平原での領有化に失敗したという意味合いで歴史的には痛み分けという形になる。

 だがそれ以上に今回の事柄はベラシアス大陸のバランスを崩壊させるその幕開けであった事に気付いたのは僅かな人間しかいなかった。

 いまだ燃え盛るクステルム平原には3万人に上る死者が炎に包まれている。

 その炎が消えて終わった時こそ真の地獄絵図であるのはその様を見ていた商業都市ソルヴァレンスの住民は感じていた。

 ラドル・アレスフィアがグルトミア帝国を出奔して約半年。

 ベラシアス大陸の情勢は彼一人が表舞台に出たほんの半年で急激にその姿を一変していくのであった。

最新話更新です。お待たせしました!

相変わらずのダルタニア無双です。

僕は一番強い属性はなんだ?と聞かれたら迷わず火!と答える人間です。

で一番優しいのは風。一番激しいのは水。一番固いのは土笑。てなイメージです。ちなみに雷ですがこの世界観では風の精霊界の一現象としての属性です。

なんだっけ?昔のゲームからずっとそんな感じで刷り込まれたからですな。

でアーシアはこれでしばらくリタイアです。

好きなキャラですが仕方なし。あと爺様も生かしました。うーむ、お話に冷徹になれないのは作家失格なんですが後々必要な方々なもので。

ではまた次回お会いしましょう☆

感想評価もよろしくお願いします! 人(´д`;)

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