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蒼穹の神滅者(シルヴァリオ)  作者: 1
第2章 堕ちる世界
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第68話 聖戦編〜雪辱〜

 グルトミア内戦の報が届く前日。

 帝都オーデルハイムの主城、フェルアーザ城で異変が起きていた。

 城の上層階で突如爆発が起きそこから飛び出した2つの影。

 かたや真紅の髪を靡かせ炎の剣を持つ女性。

 かたや質素ではあるが気品溢れるドレスに聖杖を持つ女性。

 どちらも強大な力を有している事が見て取れる。

 飛行魔法に浮遊魔法。

 どちらも高位の術者でなくては戦闘に扱う事は難しい。

 互いに相手の出方を窺いながらまるで普段話しているような会話をし始める。


「あらら。結構派手に外壁ぶち抜いちゃったなぁ、後でリカードに怒られちゃうかな」

「ダルタニア!一体これは何の真似ですか!?」

「ごめんねぇ陛下。リカードの命令だからさ。こんな形になったけどちょっとだけ死んで欲しいのよ」

「リカードが……?そんな、嘘です!」

「嘘じゃないわよ?まぁ軍人の悲しい性でさ、上官の命令は絶対ってね。悪いけど観念してね」

「……その割には楽しそうですね」

「まぁ半分は私個人の意趣返しみたいなところもあるからね。前のリベンジ果たさせてもらおうかな、って」


 互いに力を認めた者同士、油断なくその一挙一動に気を配るもダルタニアは変わらない奔放な言葉を発する。

 それに対して友人と信頼していた人物の裏切りにシェルファニールの頭は冷静に努めようとしてもその動揺が多分にある今混乱を来していた。

 特に友人の変わらない態度から放たれる言葉は決別の言葉。それが何より悲しかった。

 思っていた以上のダメージを見せる女帝の表情にも歯牙にもかけず尚も戦いを継続する意思の視線を向けてくる。


「ダルタニア、私の敵になり貴族派に味方するというのですか?今の彼等は国を割く存在。その味方をする事の意味を貴女は分かっているのですか?」

「ん?あー…そう言うめんどいのはリカードに任せてるから。私は言われた通りの相手と戦いそして灼きつくすだけ。それが以前負けた相手なら否が応でもテンション上がるわ……よ!」


 これ以上の問答は無用と一気に間を詰めて火剣を振りかざすダルタニア。

 くっ、と防壁魔法を展開するシェルファニールだがダルタニアの重い一撃で防壁ごと吹き飛ばされてしまう。

 地上戦であったなら城壁に叩きつけられて戦闘不能であっただろうと空中戦を選んだ意味があったと思うものの、ダルタニアの激しい攻撃は止む事なく繰り出されてくる。

 このままでは防戦一方で押し切られてしまうと判断したシェルファニールは無詠唱による魔法を発動させる。

 手を出して魔法陣を構成するとそこから広範囲に氷霧を吹き出して視界を潰す戦法に出た。

 だがダルタニアは焦る事なくその場に停まりシェルファニールの次の手を待つ。


「陛下の力を真正面から叩き潰してこそ私の溜飲も下がるってもんだけど……はてさて何をしてくれるのやら」


 楽しみにその手を待っていると氷霧の中にいくつかの影が見える。

 幻影魔法か?と思いその一つに斬りかかると手応えがある。それも砕ける感触だ。

 なるほど、氷人形で気を散らす作戦か。

 そう判断したダルタニアは正直落胆の思いを滲ませた。

 こんな時間稼ぎしか出来ないのならもう用は無い、と女帝の戦術に付き合わずに一気に決着を付けようと全身から火気を放つ。

 周囲の記憶が氷点下から一気に上昇し氷霧を全て吹き飛ばす。

 そしてその霧が晴れた空に見えたものは。

 全周囲を氷の、まるで宮殿とも言えるほどに巨大な氷の牢獄だった。


「これは!?」


 さしものダルタニアもこの光景に驚きを禁じえないという表情を露わにする。

 僅かな時間でここまでの氷の結界を張るのはまず不可能。

 すなわちそれはシェルファニールの才能を物語るものだったからだ。

 そして牢獄の外から一人涼しい顔で見下ろすシェルファニールがダルタニアに問う。


「覚悟はよろしいですか?紅星のダルタニア」

「……そんな事言ってる間に攻撃してくればいいのに。お優しい陛下だこと」

「……分かりました。では先にお逝きなさい」


 別れの言葉を継ぐと一気にシェルファニールの魔力が収束し氷の牢獄がダルタニアを押し潰さんと全方位から崩れていく。

 崩れ落ちてくる巨大な氷塊に向けて特大の火弾を放つもその圧倒的質量と魔力合成力によって弾かれてしまう。

 そして。

 ダルタニアを圧死させようと巨氷の群れが襲い潰す。

 ドガァァァァッ!っと轟音を響かせた氷塊が更に牢獄内に氷霧を巻き起こす。

 それを見て止めと言わんばかりにシェルファニールは魔法の詠唱を始める。


『クーベ・アーダ・ナルベリア 蒼樹よ咲き誇れ 氷界の薔薇よ その死棘をもって我が敵を滅ぼせしめたまえ 滅ぼしたるその墓標に氷の雨を 氷の風を 氷の嵐を 蒼き棺を其の前に 蒼薔氷棺漣(マルガ・レッツェ)


 魔法詠唱を終えて発動した瞬間。

 牢獄内にいくつもの氷の蔦に溢れ中央でダルタニアを圧し潰している氷塊を押し包みやがて。

 その場に蒼い墓標の如き大樹が聳え立つ。

 フェルアーザ城の一角に咲く蒼樹が雪を降らしていた。


「……火の龍に氷の墓標は苦痛でしょうがそれが貴女の罪として永遠に眠りなさい、ダルタニア」


 悲痛の瞳を見せてその場を離れようとした時。


 ビキィッ!


 何が裂ける音が耳を突いた。

 振り返ってみると咲き誇っていたはずの氷の雪花が全て溶け消えていく。

 その現象の意味するところは一つ。


「ま、まさか……!」


 信じられないと表情を歪ませていくシェルファニール。

 そうしている間に蒼樹の幹から全体に亀裂がほとばしる。

 そのまま枝も花も。全てが崩れ落ちていく氷たちは大地に届く前にすべて霧散して場は美しい水と氷の粒子で世界を彩る。

 そしてその中央に立っていたのは。

 先程までとは比べ物にならない程の熱量を纏い不敵に微笑む火の龍だった。

 剣から。

 身体から。

 蒼氷の世界に煌々と巨大な炎を纏う紅星が輝く。


「やれやれ。酷い仕打ちね、陛下。まぁ死罪にも値する事をしてる訳だからそれには文句はないんだけど。……でも陛下。これが貴女の全力?だとしたら舐められたものね」

「無傷……ですか」

「まぁ軽い凍傷はあるけどね。で?お得意の神霊力はどうしたの?」

「……」

「……出せない、か。それとも出さないのか。でもどちらにせよ神霊力を使わない今の陛下じゃ私には勝てないわよ?どうするの?」

「……どうしましょうか」

「あーあ、つまんないわ。いくら魔法の天才でも戦いに関しちゃズブの素人ね。以前の戦いは私のコンディションが悪かったって事かしら?私が最初から全力だったなら神霊力を使っても私には敵わないって事?」

「……一つ、よろしいですか?」

「?なぁに?」


 もう諦めたのかシェルファニールの花貌に涙が流れる。

 それを見ても何の痛痒もないという表情で女帝を見遣る。

 火の龍は女帝の質問を待つ。

 やがて出た言葉はダルタニアの心に響く事はないと思うもそれでも聞かずにはいられないもの。


「……十星将の全てがリカードに呼応したのですか?誰も私の味方はいないの、ですか……?」


 女帝という存在を許さない派閥があるのは知っている。

 帝位に就いたあの日リカードや十星将は私を守ると誓ってくれた。そのおかげで貴族派の台頭を許さないでいれた。

 だが。

 今の状況は全て周りが敵になったのか?

 それが信じられない。信じたくなかった。

 だから最後の最後にその忠誠に縋りたかった。

 仮初めでも。偽りでも。

 その想いに頼りたかった。

 だがその答えは。


「そうよ」

「そう、ですか……」


 打ち砕かれた希望。

 どうせ捕らわれて断頭台に行くくらいならば。

 反逆の徒に少しでも自分の矜持を見せつける。

 掌の中に小さな氷の刃を研ぎ造る。

 そして喉元に突き立てようとしたその時。

 火の龍が吠える。


「そんな終わり方、させる訳ないでしょう!炎龍突火衝!」


 一際巨大な炎を纏い高速でシェルファニールに突進するダルタニア。

 その様はまさに火の龍。

 紅い龍が女帝に向かっていく。

 全てを受け入れたのかもはや魔法防御もしないまま女帝は。

 火の龍の顎に飲み込まれる。

 その火の龍は高速の勢いをそのままに爆発で崩れた城にまた戻り再び爆発する。

 謁見の間であろうその位置に火の龍はその身を燃やしながら。

 業火を持って女帝の死を証明していた。





 ーーーーーーーーーー




 帝都から半日の位置にある軍事都市ファルンヴェーネ。

 ここにはリジェル辺境伯率いる私設騎士団が駐留していた。

 貴族派の筆頭とも言えるリジェルは女帝シェルファニールの従兄弟であるラグナ皇子の後見人として権勢を誇っていたが女帝と摂政リカードの合一関係に足踏みをしていた。

 先帝が崩御してから早2年。

 遺言に女帝としてシェルファニールを指名したのは先帝であり誰もその言葉に異を唱える事は出来なかった。

 先帝は政治手腕や外交力でも優れていたが身体が病弱でリカードもまたその補佐を務める官僚の一人だった。

 だがその女帝擁立案を先帝に進言したのはリカードだという噂から周囲の貴族たちからは白眼視され、そしてその立場もまだ20代半ばで宰相補佐という地位を得たのもその噂に輪をかけていた。

 その身辺も十星将によって守られその発言力は揺るぎないものとして認識された頃、先帝は崩御しその遺詔によって女帝シェルファニールが誕生する事になる。

 その事に異を唱えるのは即ち反逆罪とされ強権的に貴族派を抑えていたがその女帝を廃立しようと陰謀調略が始まる。

 皇太子という立場が目の前だったラグナ皇子は当然の如く女帝に対して不満を隠す事なく非難してきたがそれでも女帝派の力は強く後見人のリジェル辺境伯を頼りにして漸く対抗勢力を作り出せたのだ。

 全貴族の約3分の1をまとめ貴族派を支援する民意もある程度固めたラグナ皇子とリジェルはその決起の時を窺っていた。

 ただの謀反で終わってしまえば周辺国に亡命する事もままならない。

 必ずクーデターを成功させるにはその天の時とも言えるタイミングを見計らっていかなくては全てが水泡に帰す。

 そんな時。

 摂政リカードからの突然の協力の申し出。

 勿論罠かと思っていたがその矢先。

 遠目に見えるフェルアーザ城の爆発。

 それを内戦の狼煙として全軍をもって帝都に乗り込み占拠せよ。

 それがリカードからの呼応の合図。

 報告によれば確かに女帝と火の龍が戦っているらしい。

 ならば、と周辺都市に伏せていた貴族派の連中に進撃命令を飛ばす。

 大軍をもって帝都に侵入し都城を占拠する。

 そして戦いの場である謁見の間で見たものは。

 玉座背面の壁に垂れ下がる帝旗に縫い付けられている小さな身体。

 桃色の髪に焼け焦げた肌。

 口から流れる赤い雫。

 胸には未だ燻る火を纏う火剣。

 物言わぬ女帝シェルファニールの身体が帝旗にくるまる様に火剣により縫い付けられていた。


「こ、これは一体……!?」


 完全武装したラグナ皇子とリジェルが謁見の間に乗り込んできた時、またそこかしこに火の焦げた匂いが充満する。

 これが個人の力量によって起こされた破壊であるならまさに驚嘆に値するが。

 その破壊の限りを尽くした張本人が玉座に座っていた。


「遅いんじゃない?ラグナ皇子と……後見人の辺境伯様?」


 紅い髪の女神とも言えるその見目に目を奪われる。

 だがすぐにこの有様の説明を求めてリジェルが一歩前に出る。


「そ、そなたがかの有名な十星将の序列2位、紅星のダルタニアか?」

「そうよ。まぁよろしくね」


 ひらひらと手を振ると悪びれることも無く依然として玉座に座っているダルタニアに向かって今度はラグナ皇子が声を出す。


「き、貴様。貴様ら十星将とリカードが手引きしたとは言えこの城を占拠し天下に号令をかけるのはこの私だ。早くその玉座を譲れ」

「ん?この椅子が欲しいの?どうぞ、好きなだけ座ればいいわ」


 素直に立ち上がり椅子を譲り、ふわり、と浮遊魔法でもはや動かない女帝の側に寄り自らの愛剣を抜くと支えを失った女帝の身体は万物の理に従い大理石の床に叩き落ちる。

 うつ伏せに血が流れ出る。身体を中心に紅い花のように大きな血溜まりを作るとリジェルがその遺体を確認して。


「間違いなくシェルファニール陛下です、殿下」

「殿下ではないだろう?リジェル?」

「は、失礼をラグナ皇帝陛下」


 シェルファニールの死体を確認して漸く落ち着いたのか、下卑た高笑いをするラグナ皇帝はどかっと皇帝の玉座に座る。足を組み、手を組んでその座り心地を堪能する。

 そして高らかに自らの勝利を宣言する。


「……ふ、ふははは!私が宣下するには少々血生臭い場ではあるが……新生グルトミア帝国の誕生をここに宣言する!」




 ーーーーーーーーーー



 グルトミアの政変が未だ伝わらないバルカード軍陣営においてカインとアーシアとメカージュが今後の事を検討していた。

 カインもメカージュもこのままではただ時間を浪費するだけだと分かっている。

 ならば別の侵路を行くべきだと考えていた。

 しかしアーシアはあの長城防壁を繰り出したダラスを討たねばザールベルグを奪われると懸念を示していた。

 だがいつまでも議論しても仕方がないとしてあともう一度戦いを挑む。しかし今度は兵力戦ではなく実力あるアーシアとメカージュの精鋭戦を挑むことで速戦即決で決める。

 そう決まると軍議は解散し幕舎から出たアーシアはもう夜の帳が落ち始めたのを知る。

 星々の明滅が彼女を過去を振り返る事を要求してきた。


「そういえば……あの日もこんな星の光が主張する夜だったわね……」


 まだ10歳だった幼き日に。

 神槍に選定されまだ間もない頃。

 賎民だった身分の自分がいきなり王宮暮らしになりわけもわからないまま一人寂しく夜を過ごしていたあの頃。

 自分の環境は変わっても。

 星々の輝きは変わらない。

 その輝きを見て心を落ち着かせても自然と流れ落ちる涙。

 何も出来ない。

 親も友人もいない。

 着ていたボロや汚かった身体が美しい髪を梳かれてドレスを着る。

 自分だけが。

 何故自分が。

 何のために神様は私を選んだのか。

 何も分からなかった。

 変わりすぎた環境に自分が追いつかない。

 それを思うと後から後から涙が出る。

 そんな毎日をいくつ過ごしたのか。

 今日もまた部屋を抜け出して星々を見上げに行くと。

 いつもの庭園に先客がいた。

 長く紅い髪。

 純白のドレス。

 凛とした瞳。

 この人は、いやこの方はもしかして。

 そう思った時その方がこちらを見て。

 その優しく美しい声で語りかけてくる。


「こんばんは。小さな戦乙女さま」


 星神レクスファートが導いた縁が彼女の生きる道を決定的に決めてしまったのだったーー。

はい、68話更新します。

もう巷は夏休み一色ですね。

子供達をそこかしこで見かけると羨ましいな、と素直に思います。

さて今回の聖戦編、まだ書きたい内容の半分くらいなんです、本当申し訳ないです。

シェルファニールとダルタニアの戦いは頭の中ではああしたいこうしたいとあるのですがそれを表現できたかと言えば全くまだまだです。もっと頑張ります。

聖戦編を1話挟んだら多分また異聞編としてシェルファニール編を書きたいと思ってます。

彼女もまた色々あるのでそれを補完してあげたいです。

感想評価お待ちしてます!

ではまた次回〜☆

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