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蒼穹の神滅者(シルヴァリオ)  作者: 1
第2章 堕ちる世界
67/85

第67話 聖戦編〜弑逆〜

 聖暦750年青龍の月。

 クステルム平原にて再び戦端が開く直前。

 バルカード聖王国領城塞都市ザールベルクから一軍が侵攻してきたのを確認したグルトミア帝国軍もまた一軍を率いて経済都市ソルヴァレンスを出立する。

 両軍ともに大軍ではなくまずは先遣隊としてバルカード軍は3000。グルトミア軍は2000と先遣隊としては比較的多い兵力をもってクステルム平原のど真ん中で両軍が対峙する事になる。

 黒地に赤い龍の旗のグルトミア軍は方陣。

 青地に白い鷹の旗のバルカード軍は横陣。

 対峙している両軍の陣形はそのままその軍の方針を明らかに示していた。

 方陣は守りの陣形。

 横陣は臨機応変に対応できる陣形。

 それを率いるはグルトミア軍は十星将序列8位ライアス・サーヴィス。

 バルカード軍は金の戦乙女アーシア・リングベルム。

 両軍が何一つ遮蔽物のない広い平原で陽の光が未だ顔を出す前に陣列を整えていた。

 そして次第に明るくなっていく平原にやがて顔を見せ始めた太陽が山々の稜線から漏れ出してくる陽光を照らしだすとバルカード軍の騎馬隊を指揮する戦乙女が馬上から右手をかざすと一声を響かせる。


「我が聖王国の剣たちよ!我らの前に障害となり得る壁はない!全てを貫け!その手の中に祖国の光があると信じて邪悪を寛恕する悪の枢軸を打ち払うのだ!」



 アーシアの檄に先陣の騎士たちが呼応して鬨の声を上げる。

 ある者は剣を。

 ある者は槍を。

 ある者は旗を。

 天を衝くように大きな喚声がクステルム平原に響く。

 それを受けて戦乙女のかざした右手を振り下ろすと一声。


「突撃せよーー!!」


 アーシアの檄と同時に先鋒軍の騎士隊が一気呵成にグルトミア軍に吶喊していく。

 地が馬の突撃で揺れる。

 大気が騎士の喚声で震える。

 まさに鎧袖一触の勢いで一つの矢のように姿を変えたバルカード軍が怒涛の如く進撃していく。

 触れる者みな吹き飛ばす。

 そんな言葉に相応しい姿を見せて突進していく。

 そのバルカード軍を止められるものなど存在しないかの様に威風を見せる3000の騎士。

 だが。

 その矢の鏃がいきなり折れた。

 グルトミア軍に向かった先鋒隊の騎士が文字通りの吹き飛んだのだ。

 グルトミア軍に届く前に矢の様に突き進むバルカードの騎士たちの中腹あたりがなんの予兆も無く爆ぜた。

 いきなりの爆炎に騎士たちも驚いてその勢いを大きく弱らせてしまう。

 アーシアはその現象を起こした原因をいち早く特定する。


「上だ!上空からの魔獣の火弾を警戒しながら後詰めは矢で射殺せ!先陣はそのまま吶喊せよ!」


 その指揮を受けてすぐさま矢の雨を降らせる。

 その雨を避けるために空を駆る魔獣ピポグリフは高度を上げて回避していく。

 バルカード軍の対応の早さを観察していたグルトミア軍の将、ライアスは感嘆していた。


「……流石は大陸でも随一の練度を誇るバルカード騎士団。ですがいかな軍であろうとも一度止まった勢いはそれは死の間とも言える隙です。さあ第二陣行きなさい!」


 ライアスの獣笛が鳴ると同時に。

 大地に潜んでいた影狼(デギナ・ロウ)が突如姿を現してバルカード騎士を急襲する。

 騎士の突撃は前方には無類の強さを発揮するがその側面は弱く同程度の機動力を持つ部隊に横腹を衝かれるのは致命的とも言えた。

 だがそれは魔獣の部隊も同様でありその作戦を読んでいたのかアーシアはすぐに援軍として部隊の一部を影狼たちに向かわせていた。

 一気にその場は乱戦の様相に変わっていく。

 戦闘の喚声が一気に膨れ上がる。

 すでに多数の負傷者が出始めた両軍だが退く事なくその乱戦を制する一手を待っていた。

 その様子にまず動いたのはグルトミアのライアスだった。


「さすがに50の脅威級魔獣とは言え物量には負けてしまう……防戦に徹すればすぐに撤退すると踏んでいましたが仕方ありません。残りの魔獣を一気に投入して緒戦を制して流れを掴みましょうか」


 再びライアスの獣笛が鳴り響くとすぐに魔獣たちがすぐに反応して統制の取れた動きで乱戦をさらに掻き乱していく。

 そこに残りの魔獣、マンティコアや巨猿(アィー)が突っ込んでいく。

 回避行動を取っていたピポグリフたちもその中に参戦しまさに戦風吹き荒れる戦場に変化したクステルム平原。

 その様子を今度は戦乙女アーシアが傍らにいる黒の魔道士に声をかける。


「これでよいのですか?メカージュ殿の言うとおり敵味方入り乱れての乱戦になったがこれからどうするのです?」


 相変わらず反応のない黒の魔道士二人は聞こえているのかいないのか、だが髪の長いウーナと呼ばれた女魔道士はアーシアの前に立って左手をかざすとその場に突如幾重にも重ねられた魔法陣が展開された。


「ま、待ちなさい!まさかあの乱戦に向けて魔法を放つというのですか!?味方まで殺すつもりなのですか!」


 アーシアの制止もやはり聞こえないのかそのまま発動態勢に入ると。

 乱戦渦巻く戦場の上方に積層型の立体魔法陣が展開される。

 そしてその瞬間。

 魔法陣から放たれた雷の奔流がその場にいた両軍もろとも地を舐めるように一帯を焼き尽くした。

 轟音とともにその雷の嵐は瞬く間に戦場を焼け野原にして数秒間続いた。

 雷の音が終わる頃、立体魔法陣の中は煙で充満していたがそこは最早生命の存在を許さない地獄とも言える光景が予想できたアーシアは愛馬から降りてウーナに摑みかかる。


「貴様……!どういうつもりですか!何故我が軍を巻き込んで魔法を発動させたのです!」


 アーシアの怒髪にも全く動じない魔道士に埒があかないと見たのかウーナを振り払うように地面に倒れ込ませる。


「メカージュ殿を!すぐに呼びなさい!このイカれた魔道士を拘束して彼を軍法会議にかけます!急ぎなさい!」

「そんな大声で叫ばずとも参りましたよ、戦乙女殿」


 怒れる戦乙女とは対照的に涼やかな顔で目の前に現れたメカージュは悪びれることも無くアーシアの目の前に対峙した。


「メカージュ殿、これは一体どういうことか!魔獣50頭と騎士団3000人が貴方の担ぎ出した魔道士によって全て壊滅状態です!この責任、どう取るおつもりか!」

「落ち着いて下さい、戦乙女殿。そんな怒号は貴女の麗しい口から放たれては周りの騎士も驚きましょう」

「何を軽口を……!」


 メカージュの軽口に苛立ちを押さえられないといった様子のアーシア。

 だがそのメカージュが焼け野原になったであろう戦場を指差すとその場を覆っていた煙が次第に夏の爽風によって晴れていく。

 その場にいたのは。


「ば、バカな……!」


 グルトミア軍のライアスも。

 バルカード軍のアーシアも。

 その光景に目を疑った。

 全ての騎士は傷一つ火傷一つなく。

 全ての魔獣はその身を黒く焼け焦がして倒れていた。


「あり得ない!あのような立体魔法陣を組み込んで私の魔獣たちだけを標的に、しかも制御の難しい雷撃魔法をあれほどまでに精緻に制御するとは……!バルカードには化け物がいるのか……?」


 ライアスはそのあり得ない光景にも驚きを禁じ得なかったがそれ以上に自分の魔獣だけが全滅したという事は防御する手段が無くなったことを意味する。

 このままでは一気に防衛線が瓦解するのは火を見るより明らかだ。

 今後の展開はなす術なく無傷の騎士団が自軍を蹂躙していく。それはもはや確定事項とも言える事柄である。

 それだけは避けねばならない。

 ならば自分一人だけでも残って軍をソルヴァレンスに帰すべきか。

 そう覚悟を決めた時。

 無骨な手がライアスの上から頭に置かれた。


「言ったじゃろう?どのようにしても不確定要素は排除できぬと。まぁ今回はわしの見通しの甘さもあったが。50と言わず100まで使役魔獣としていれば良かったわい。だがここからは儂が受け持とう」


 その声の主は武神とも言われた紫星のダラス・バーナードその人であった。





 バルカード軍のアーシアもまた目の前の光景に唖然としていた1人であった。

 それを見たメカージュが一言提言する。


「戦乙女殿?ここで今する事は呆然と時を過ごす事ではない筈。今こそが好機では?」

「わ、分かっています!しかし……彼女の正体は一体……」

「ふぅ……それは後ほど。ですが少し遅かったようです」

「え?」

「面倒な男が出てきたようです」


 メカージュの視線の先をアーシアもまた追うと。

 そこにはいくつもの戦傷をつけた重装鎧を身に着けて手には大斧を手にした老将がいつのまにか仁王立ちしていた。

 その威風堂々たる姿はまさに護国の鬼とも言える風格を備え、一人でありながらグルトミアを守る防壁のように見える守護神の様にも見えた。


「紫星のダラス・バーナード……引退したと聞いていましたが……再び戦場に戻ってきたか」

「あれが一人で万の兵に匹敵すると言われた万夫不当のダラス……成る程、噂に違わず凄まじい戦気ですね」


 その姿にさしもの戦乙女もついゴクリ、と生唾を飲み込む。

 報告では受けていたものの実際に目撃するとその戦歴に偽りなしと思い知らされる感覚にとらわれる。

 そしてグルトミアの十星将はそれぞれに貴重な特殊技能を有する集団とも言われた。

 ダルタニアならば炎麗剣。

 バトレシアならば精霊術。

 リーテスならば超魔道などと言われたように目の前の老将にもそれがあった筈。

 確か、と報告されていた事柄を思い起こすと。

 その報告がまた事実であることを目の当たりにする事になる。


「思い出した……あの老将の特殊技能……「絶対防壁陣(ヴァル・ヴェローナ)」を」


 そう口にした瞬間。

 目の前の老将を中心に真一文字に巨大で透明な壁が展開された。

 その大きさは常識外れに平原をまるで横断するほどに巨大でありまさに長城とも言えるその様相は異様とも言えた。

 それを傍らで見ていたライアスは圧倒されながら賞賛の声を出さずにはいられない。


「す、凄いです、ダラス様。これが絶対防壁陣(ヴァル・ヴェローナ)ですか」

「まぁの。この防壁は儂が解くまでいかな魔法であろうと物理攻撃であろうと全てを跳ね返す。逆にこちらからは壁から出なければ攻撃し放題というある意味卑怯の極みとも言える動く長城じゃよ」


 この防壁には弱点らしい点はなく強いて挙げるならばその場にダラスが居続けなくてはならない程度のものであり一度発動してしまうと敵にはもはやなす術が無いとも言われる強制停戦の切り札でもあった。



 それを確認したアーシアは一旦この事を報告する為にカインの元に戻る事を余儀なくされバルカード軍もまた撤収し始めた。

 そしてその長城とも言える防壁とそれを展開した老将を見やるメカージュは一言ボソリと呟く。


「絶対防壁か。外側からは破壊は困難だろう。さりとて中からはあの老将を倒せる者はいない。正に鉄壁の防御だが……だが破壊できるモノがこの世にあるとするならばそれは神の力だ。楽しみにしておけ、ダラス・バーナード」


 そう言ってメカージュは踵を返して本陣に向かって歩き出す。

 その後ろには変わらず異様な黒の女魔道士が2人。

 その力の一端を見せつけてメカージュの後を追った。



 バルカード軍の撤収を確認すると漸く気を緩めてその場に座り込むダラス。

 この防壁はダラスの意識依存によるものであり気を緩めたところでその性能には衰えはなく深い眠りにつかない限りは半永久的に展開される事もまた特異な点であった。

 その為ここに幕舎を用意し軍を休ませて再び軍議を始めた。


「ダラス様。バルカード軍はこれからどう動くでしょうか」

「そうさの、この防壁陣を敷いた以上はここでの戦闘は泥沼になるからの。儂らは構わぬが敵は撤退するしかないではないか?今更他の道から進軍したとしても効率が悪いしそもそもこのクステルム平原が最も騎士団の戦い易い地形だからの、やはり撤退してもらえるのが一番いいのじゃがな」

「因みにこの防壁は戦乙女の神槍の魔力吸収によって破られたりはしないのですか?」

「こいつはな、魔力依存ではない。儂の命がある限り維持する。故にあの戦乙女でも傷一つつける事は叶わぬよ」


 ダラスは敢えて口にしなかったがこの防壁を展開するにはいくつかの条件がありそれをクリアする為の時間稼ぎにライアスの魔獣を利用したのだが当のライアス本人はそれに気付かずただただ驚嘆するばかりであった。

 この防壁を展開した以上後はもう時間が解決すると思われたが何故かダラスの胸中には先日の不安がまだ残されていた。

 何故か。それは分かりきっている。

 ライアスはともかくバトレシアまで連れてこの戦場に戦力が集中しているのはどう考えても良くない。

 というのも現在帝都オーデルハイムには僅かな近衛兵である禁軍が駐留しているだけでもし貴族派の人間がクーデターを起こせば成功する可能性もある。

 とは言えオーデルハイムにはまだ数人の十星将が女帝シェルファニールを護衛しておりシェルファニール自身も魔道の達人であり可能性としては然程高くはないのだが。

 それでも貴族派の戦力がもしも集中すれば抑えきれないかもしれない。そう考えていたダラスは一部戦力とバトレシアをオーデルハイムに帰しこの不安を少しでも解消する為バトレシアの姿を探した。

 だがあの血気盛んな少年がまだ姿を見せない。

 それもまた不安を強くさせていたのだが。

 その時件の少年が慌てて幕舎に駆け込んできた。


「じ、じいさん!クーデターだ!貴族派の連中が決起してオーデルハイムを占拠しやがった!今禁軍の兵がその報告をしてきた!」

「なんじゃと!?陛下やリカード様は!?他の十星将は何をしておったのじゃ!?」

「そ、それが……首謀者がリカード様だって……陛下はダルタニアに弑逆されたって報告してきた兵が……」


 グルトミア女帝シェルファニール弑逆。

 その報がグルトミア全土に広がった。

 信頼していたリカードの裏切り。

 信用していたダルタニアの凶行。

 今後世に伝わる「オーデルハイム政変」が幕を開いたのであった。

はい、最新話を更新します。

ダラスのキャラは好きです。てか老将が好きです。

黄忠、厳顔、ハンニバル、メルカッツ、沖田十三とか。

最近では某アプリゲーム老騎士が好きです。

あと某人民の騎士とかいいですね。

ああいうおじいちゃんはお話には必須です。

女の子も必須だけどじいちゃんもいる。

だから活躍させてあげたいと思ってスキルを与えたらこんなチート能力あげちゃった。てへ。

ところでリカードとダルタニアの反逆。これは結末は決まっています。次回を楽しみにしてください。

えーっとも言われるかもですが。

感想評価よろしくお願いします!

ではまた次回〜☆


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