第65話 聖戦編〜侵攻〜
2日連続で投稿。
また次回は今月中に何とか上げます。
グルトミア帝国軍部は慌ただしくなっていた。
先のクステルム戦役から三月と経たず隣国バルカード聖王国が再度侵攻し現在城塞都市ザールベルクに駐留しているという。
その数以前派遣された聖印騎士団3万を超える国軍10万。
その司令官として抜擢されたのはバルカード聖王国筆頭貴族クィンティア家出身のカイン・ファン・クインティアである。
カインはラドルに惨殺された聖王女アルメアの従兄弟であり軍士官学校を首席で卒業し武芸も魔法も兵法学から交渉学に至るまでその才能を発揮して将来を嘱望されたまさにエリートというに相応しい当代最年少の将軍格であった。
そしてその将軍を補佐するのはかの聖印騎士団の副団長であった金色の戦乙女アーシア・リングベルムがカインの隣に侍っているという。
さらに幕僚格として聖騎士団長ロイド・ゼリアンなど歴戦の勇士が揃い新旧世代の英雄とも言える将軍が大軍を率いていた。
「正に穴のない完璧な人材布陣と言うわけだが……お前はどう思う?ダラス・バーナードよ」
遠くグルトミア帝国都城フェルアーザ城の執務室にてリカードは腰をかけて目の前の老将に問いかける。
ダラスは服の上からでも分かるほどに筋肉と魔力に満ち溢れる無骨な騎士という風体をしていた。
実際この老将は既に三代に渡り国に忠誠を尽くして戦いに人生を捧げてきた。
その正体は前十星将序列4位の紫星のダラスであり年齢を理由に今は退役しているが孫に家督を譲り相談役として召喚される事があった。
その信頼はリカードは勿論、女帝シェルファニールからも厚く、兵卒に至るまで生きる武神として尊敬を集めている。
そんな男にリカードはこれからの是非を問うていた。
「は。この老骨の意見で良ければ具申させて頂きます」
とそこまで言ったところで無遠慮にいきなり重い黒檀の扉がバァンと開いた。
「あー……だる、昨日飲みすぎたなぁ……序列2位紅星のダルタニア、入りま〜すって……げっ!ダラスのじじい!アンタなんでここにいるのよ?」
「メル……お前は相変わらずダラけておるな!そこに直らんか!」
「ちょ、どこ触ってんのよ!変態!私に触っていいのはラドルだけなんだから!もう退役したロートルはあっち行きなさいよ、あとメルって呼ぶな!」
「喧しい!そんなダラけた態度で序列2位じゃと?全く嘆かわしいわい!ほれ襟を直せ!タイを結べ!裾を入れろ!」
「ぎゃーー!ちょっと!本当なんなのよ!触んなエロじじい!」
規律を重んじるダラスと生来の奔放さで振る舞うダルタニア。この2人は昔から犬猿の仲ではあったのだがドタバタ劇を上司とも言うべきリカードの目の前で繰り広げられているのを彼は暫く黙って見ていた。
そのうち2人を止める怒号が執務室に響き渡った。
「何の騒ぎですか!騒々しい!リカード様の御前ですよ!控えなさい!」
とその声の主人が入り口で仁王立ちして怒りを見せている。
それをきっかけに2人の動きが止まると現状に気づいて2人して身なりを整えて離れる。
「リカード様。序列8位木星のライアス・サーヴィス、リカード様の召喚に応じ参りました」
「うむ。よく来てくれた。待っていたぞ」
ダラスが無骨な騎士然とした大柄な男ならこのライアスは小柄で中性的な容姿をした美青年であった。
長い臙脂色の髪を一つにまとめ後ろに流している。
一見するとまだ学生にも見える程に幼く見える。
だがそれでも歴戦の勇士であるダルタニアとダラスを前に臆する事なく苦言を呈する。
「ダラス様、お久しぶりですが場所をお弁えくださいませ。ダルタニアも少しは立場というものを考えて下さい。リカード様が呆れておりますよ」
「ははは、構わん。昂る血を抑えられないのだろう。ではまだ全員揃ってはいないがダラス。先程の続きを」
「は。この老骨が愚考致しますに10万もの軍が相手となりますれば先日のように十星将のみを向かわせるのは下策。いかに序列1位のノヴァがいるとは言えこちらの劣勢は免れぬでしょう。ここは軍対軍の戦いを展開するべきかと。とはいえ生半可な将を送り込んでも撃退されるのがオチです。それなりの上将を派遣なさるべきですな」
ダラスの至って常套的な戦術。
外連味も面白味も無い誰でも思いつくような意見。
だがそれを提言できるのはダラスが多くの戦場を経験しているからであり若い将校ならば自らの才をひけらかす為に奇策などを提案してきたであろう。
そして。
その奇策を隣に立つ真紅の髪の女将が発言してくる。
「そんなのまどろっこしいわよ。私が単身敵の本陣に乗り込んで頭を潰せば終わり。違う?」
奇策も奇策だがそれをやってのけるだけの力が彼女にはある事もリカードは承知している。
だが。
敵には神槍を持つ戦乙女がいる。
あの戦乙女がいてはいかなダルタニアでも敵を討ち漏らすかもしれない。さらにダルタニアを失うことだけは避けなければならない。
そこで未だ沈黙を守るライアスに意見を促す。
「……商業都市ソルヴァレンスの放棄を進言致します」
意外な意見にライアス以外の一同が目を丸くする。
抗議を訴えてくるダルタニアに黙って耳を傾けているダラス。
だがライアスはその意見の真意を口にする。
「まずソルヴァレンスは守りに不適切であること。城壁も無く守るべき民衆もいる。ならば一時的にとは言え敵に保護させ逆にソルヴァレンスに閉じ込めてしまった方が得策と言うもの。民衆の負担はありましょうが手を出しでもすればそれを非難する事で敵の士気を削ぐ事もできます」
「……ふむ」
「更に言えば敵を殲滅した後に永らく預けていたザールベルクを攻め取り戻す事も可能かと。以上の点をもって私はソルヴァレンスの放棄を進言致します」
なるほど、と思うがリカードはその言葉に首を縦に振る事は出来なかった。
何故ならば。
「成る程。机上の空論としてならば確かに効果的かも知れんな」
思っていた事を口にするより早くダラスがこの策の指摘を始めた。
「机上の空論……でしょうか」
「うむ。ライアス、確かに被害を考えなければそこそこいい策だとは思うぞ?だがな。お主はそこに住む民の事を無視しておる」
「いえ、ですからーー」
「まあ聞け。戦場とはな、何が起こるか分からん。いかに軍令を守り士気を高め策の全てが我が手の平の内と思っていてもそこに介在する不確定要素は排除できぬ。絶対にな。ならば如何にしてリスクを減らすか。そこを最大限に配慮しなくてはならぬ」
「……そうね。もし敵をソルヴァレンスに閉じこめたとして敵が民衆を人質にしない保証は誰にもできない」
「民衆には我慢して貰わなくては勝てる戦も勝てないのでは……」
「我慢じゃと?民衆はもう我慢の限界じゃよ。バルカードの前身ガレア神国の名将オルクスによってザールベルクが奪われて以来民衆の中にはザールベルクの家系が離れ離れになっている者もいる。流通は途絶えかつて経済都市といわれたソルヴァレンスは収入が激減し税はかつてと比べて倍以上に膨れている。民衆の忍耐により持ち堪えてはいるがの、もしここで民衆を見捨て一時的にとはいえ敵の虜囚にでもすればもし再びソルヴァレンスを取り戻したとしても民衆の心は国に戻らぬ。言っちゃ悪いがそれは亡国の策と言えよう」
「……同感だ。ライアス、この計は一度取り下げる。また新しい策を講じてくれ」
リカードの一声で決まった。
ライアスは俯きながら謝罪の意を口にする。
「……浅慮の如き計を奉じたことを陳謝致します」
「うむ。次の策を楽しみしている。……さて、そうなるとやはり軍を動かすしかないというのか?現在動員できる兵力は?」
「は。現在このフェルアーザ城に駐留している騎士団3万が待機しており、ソルヴァレンスに駐軍している歩兵5000が現在の行動可能な兵力です」
頭を抱えて少し思索に耽る。
やはり貴族派のクーデターの蜂起を警戒しなければならない為禁軍を動かす事はできないし自分が動く事も出来ないとリカードは結論をつけ他に捻出できる軍を探してみる。
机の上に広げた地図を凝視するが正直辺境は貴族派の息のかかった連中が多く信用できない。
やはり中央航路街道沿いに位置する駐留軍を掻き集めて向かわせるしかないのか。
それでも5万に達するかどうかだ。
相手の半分の兵力では正直互角に渡り合えればいいところだ。
それに派遣する軍の司令官だが。
ちら、と目の前の3人に視線を移すと。
ダラスは歳だ。経験は豊富だが軍務には厳しい。
ライアスは逆に経験が無い。初陣にも等しい為指揮官は無理だ。
ダルタニアははっきり言って論外。吶喊して終わる。
さてどうしたものか。
「……摂政閣下。何を悩まれておられるのか。このわしに命じなされ。この国を守れと。軍は退きましたがこの身体が動くうちは護国の鬼にもなりましょうぞ」
「……そう言ってくれるか。ダラス。ならばその言葉に甘えよう。今一度十星紫星称を与える。バルカード軍を蹴散らし女帝陛下に勝報をもたらせ!」
「はは!必ずや良き報告ができるよう非才の身ではありますが粉骨砕身戦いましょうぞ!」
そう言って一礼をすると踵を返して執務室を出ていくダラス。
その副将にライアスを付け経験を積ませ準備を整えて従軍させる。
これで一先ずの手は打ったが早めに貴族派のクーデターを潰す必要があるとリカードは更なる策を考える。
2人になったリカードは先程までの穏やかな表情から一転冷徹な為政者としての貌を見せダルタニアに向き直る。
「ところでまだ来てない奴っていうと……」
「ダルタニア。君にして欲しい事がある」
「……大きな声では言えなさそうな感じだね。いいよ、聞くよ」
「陛下の友人としての君を頼りたい」
「貴族派を根絶やし……にかい?」
「いや」
ゆっくりと口にしたその言葉は。
重く。
そして暗い声で発された。
「……陛下を亡き者にしろ」
ーーーーーーーーーー
城塞都市ザールベルクの領主館を接収したカインとアーシアは軍を休ませてこれからの方針を確認する。
「リングベルム卿。戦乙女の卿を副将にした理由。理解しているな?」
「はい。先の戦で犯した失態を拭う機会を与えて頂けた女王陛下には感謝の言葉もありません。必ずや聖王女アルメア様の仇を取ります」
「うむ。ではここにいる10万の兵。そのうち3万は聖印騎士団。うち2万は神教から借り受けた清光騎士団。残り5万は国軍の全兵力だ。これでなんとしてでもグルトミアを滅ぼす。そうだな?ロイド」
「は。憎き神滅者を匿い聖王女陛下の殺害を指示したかの国を許しはしませぬ」
「だがグルトミアには十星将という難敵がいる。それはリングベルム卿に任せるがよいな?」
「はい。恐らく前回の序列4位金星のリーテス、5位の銀星のドリムーラは出てこないでしょう。その更に上。秘匿された3人が出て来るやも」
一度十星の撃退実績があるアーシアはその口をきゅと噤み決意新たに神の槍を握る手に力が篭る。
カインはあらゆる情報を精査し、あらゆる状況を想定し、適切な対応を指示していく。
だが。
目の前の商業都市ソルヴァレンスはなるべく無傷で手に入れたい。
この都市の経済力は見過ごせない。
駐留している軍はわずか守備兵が5000程度。
ひと思いに蹂躙してしまえば半日でケリがつく。
しかしその末に手に入るのは都市機能を失った廃墟では意味がない。
それに広大な帝国領を併呑するには初戦で被害を出してはならない。
その為にまずすべきは。
「リングベルム卿。降伏勧告の使者としてソルヴァレンスに向かってほしい」
「御意。では行って参ります」
アーシアもやはり騎士らしく優雅に一礼した後外套を翻して一軍を率いてザールブルクを発った。
その後ろ姿を見送るカインは隣に控えるロイドに質問を投げかける。
「ロイド」
「は」
「敵は仕掛けてくると思うか?」
「流石にこの兵力差で無駄な死を選ぶような馬鹿な真似はしないでしょう、しかし時間稼ぎはしてくるでしょうな」
「帝都からの応援を待つ、か」
「恐らく3万から5万程度の軍を引き連れてくるとの報告があります」
そうなると一大決戦になってしまう。
それは帝都戦にしなくてはいけない。
ならばやはり速戦即決が無難か。
しかし。
初の大戦の為か言い知れぬ不安がカインの直感を刺激していた。
ざぁっと夏も終わる頃の爽風が緑の絨毯を撫でていく。
空も高く雲は流れが早い。
このような状況で危惧しなくてはならない条件があるのをカインは脳裏から引き出してくる。
あれは確か、そうだーー。
その時だった。
目の前に広がる緑の草原が一点の赤い火が燃え始め広がっていく。
「こ、これは!?」
「火計です!司令官!」
その火の中心にはアーシアが率いる200騎が炎にまかれていた。
「一体……何が起きている?」
「究明は後です!今はリングベルム卿を助けねば!」
「うむ、第1団我に続け!火に巻かれるな!」
聖騎士長ロイドの進言もありいち早く軍を率いてカインはアーシア救出に向かう。
だが不可解な事象に遭遇する。
アーシアの軍に近づこうとするとそれを阻むように突風が吹き荒れ竜巻が渦を巻きその進行を邪魔するのだ。
「これは……明らかに人為的な仕業だ!まさか?」
「ご名答〜〜。そう、この風は俺が起こしているのさ」
下卑た様な、しかしこの暴風の中でもやけに通る声がカインたちの頭上から聴こえてくる。
上を見上げその声の主を探すと。
幾柱の竜巻の間に見える一つの影。
よく目を凝らして見るとこれもまた歳若い少年のような姿をした男が宙に浮かんでこちらを見下ろして笑っていた。
「全く……リカード様もダルタニアもあのじじいも遅い遅い。戦いは常に先手必勝!殲滅上等!まず一発ガツンと与えて混乱している隙にボコボコ。単純じゃねぇか!あははは!!」
「貴様……何者だ!」
吹き荒ぶ風の中、よく見えない視界を腕で護りながらカインはその少年に名を求める。
だが少年はそれがおかしいのか、更に歪んだ笑みを浮かべて言い放つ。
「馬鹿じゃねーか?敵だよ。お前らを皆殺しにするのな!あはははははは!!」
ゲラゲラと笑い続けて一頻り笑ったあと。
漸く火と風に巻かれているバルカード軍に対して大声で自らの名を叫ぶ。
「俺はグルトミア十星将序列6位!碧星のバトレシア!!お前らを地獄に叩き落す水先案内人になってやるよ!感謝するんだなぁ!!あひゃはははは!!」
狂ったように笑い叫ぶ少年が一つ指を鳴らすと。
火と。
風が。
強大に逆巻き踊り始める。
それはまさに地獄の様相であったーー。
はい。勢いで連日投稿。
始まりました聖戦編。今回は戦争パートです。
ですので殺戮描写など刺激の強い表現が出てくる予定ですので苦手な方は回れ右でお願いします。
まぁ結果だけ知っておけばいいと思うこの聖戦編ですが重要キャラが何人も出てきます。
その一人バトレシア。
かなり久しぶりです。
キレッキレの戦闘狂。書いてて楽しいです。
でも彼にもその土台がしっかりありますのでそのうちまた異聞辺りで書きますのでこちらもお楽しみに!
感想評価お待ちしております!
ではまた次回〜☆




