第64話 幕間〜解散〜
ラドルがファーナ達との談合を重ねていたその時、紅髪の武僧エティアたちは少し早めの昼食を食堂で済ませていた。
「ラドル君は神使さまと話し合いってなんなんだろうね」
「まぁあの手の女は何かしら厄介事に巻き込むタイプだからな、余計なことに巻き込まれなきゃいいんだが」
「ふふ、大丈夫でしょう。それよりもエティアさん」
そんな他愛の無い会話を展開していくと頬杖をついて少し冷めたパスタをくるくるとフォークで絡めている素ぶりを繰り返していつまでも食べる様子を見せないエティアにレナが問いかける。
「ん?なぁにレナ」
「ラドル様は恐らくまた旅に出ると思われますがエティアさんはどうするのですか?」
「へ?ラドル君の監視を続けるに決まっているじゃない?」
「それは難しいかと思います」
よく意味のわからない質疑に至って真面目な表情で答えるレナ。
「どういうことよ?」
「今回の一件で貴女はセルフィナさんの知人という事でしばらくその身柄を一時的に保護されると思われます」
「保護、ね」
レナの迂遠な発言に皮肉めいて鸚鵡返しに口ずさむアス。
「拘束、尋問の間違いじゃないのか?」
「……セルフィナは長い時間苦しんだ末に亡くなって。それも神様擬きに利用されて。それを悪く言うつもりで私を捕まえて一体何をさせたいのよ」
「言質を取りたいんだろうな。お前が神滅者の監視者として行動を共にする限りフェニア神教がラドルに干渉しないと言わせたいんだろう」
「私が神教の代表としての発言力を持つわけないじゃない」
「それは通用しないでしょう。私もそうですがラドル様に関与している人間は何がしかの沙汰があると思います。最悪この国に災厄を呼び込んだ罪を問われて投獄なども考えられます」
物騒な未来図にレナは表情を変えずに淡々と語る。
リアルに脳裏に浮かべてしまい頭を振りながらレナを制止する。
「ちょ、ちょっと止めてよ、怖くなってきたじゃない。驚かさないで」
「……だとしたらどうする?ラドルが俺たちが自由になるのをここで大人しく待っているとは考えにくいがな」
「大丈夫。君たちは捕縛されたり追補されたりしないさ」
不意に挟まれた言葉にエティアとアスはぞわり、と背中に冷たいものを感じて声のした方に振り返る。
そこには背の高い細身の青年が微笑みながら立っていた。
いつ間にかそこに居たその青年の気配をまるで感じることの出来なかった事に2人は戦慄するも何の敵意も害意も無いその微笑みに違和感を強く感じる。
エティアはその青年の不気味さに。
アスはその青年の隙だらけの威圧感に。
それぞれがそれぞれの直感を持ってその青年を凝視し示威的態勢を取っていた。
だが。
その2人とは対照的にきょとん、とその青年を観察する司祭は思い出したかのように席を立つ。
「その声……フェルド様ですか?」
「ん?あれ、あの時の司祭のおねーさん?君、その目はどうしたのさ?」
「レナ?知り合い……なのか?」
「……知り合いというか」
アスの問いかけに少し困ったような仕草で返すレナ。
とりあえず青年、フェルド・エーゼルハインと知り合ったきっかけを掻い摘んで話すと漸くその特異さに納得する。
「イドラス神教の……神使代行」
「まぁ今のところ君たちに何かしようとかは考えていないよ、残念ながらそんな命令も無いし」
「もしその命令とやらがあれば?」
「ここに死体が3つ転がっていたんじゃないかな?」
物騒な物言いを極めて明るく、軽く言い放つその神使代行にはそれだけの力があるとアスは感じ取りながら隙なくその青年を観察していく。
だがエティアは先程までの臨戦態勢を解き幾分いつもの明朗さを取り戻して話しかける。
「それで?さっきの私たちが捕まったりしない、って根拠は?貴方の言葉だけじゃいまいち信用できないの」
目の前にまで寄ってきたエティアを身長差から見下ろすフェルドは、ああ、この娘がーー。と心中騒めくのを抑えながらにこやかに答える。
「それについてはファーナさんが全て教会に報告しているだろうからね、あの人やる事はやるから心配しなくていいよ。それでも不安ならこの僕がイドラス神教神使代行の名においてそれを止めよう。それでどうだい?」
「ふーん、そうしてくれるなら助かるね。でも」
「でも?」
「なんか貴方は私信じられない。理由ははっきり分からないけれど」
「おやおや嫌われたもんだ」
いつものエティアらしかぬ物言いにアスとレナは多少の驚きを隠せずにいた。
だが初めてエティアと相対したフェルドはいままでにない対応に俄然興味を引いたようになってエティアに更に近寄ると。
「ふぅん、君は面白いね。どうだい?今からでもイドラス教に入らないかい?」
「お生憎様、私にはフェニア様のご加護があるので結構です」
また袖にされてもしつこく言いよるフェルドにエティアは露骨に嫌悪感を剥き出しにして。
小さな食堂にぱぁんと小気味の良い乾いた音が響いた。
フェルドの頬が赤く染まる。
エティアの表情がきっと締まる。
その場にいた他の客も驚いて渦中の2人に視線を送ると店主らしき男がおずおずとただ事ではないその修羅場に口を挟んできた。
「あ、あのお客さん。揉め事は勘弁してもらえませんか……?」
その店主の言葉が聞こえているのかいないのか熱く熱を持った頬に手をやりながらみるみるフェルドの貌が歪んでいく。
そして。
「ふふ。あっははは!いいよ、君は本当にいい!久しぶりだよ、僕の頬を叩いた女は!決めたよ、君は僕がもらう。絶対に!」
狂気じみた笑いから覚めるとフェルドは店主に騒がせ賃と言って少し重めの硬貨袋を投げ渡す。
そしてその場を後にしよう扉の前まで行くとふと足を止めて。
「……ああ、聞き忘れた。君、名前は?言いたくなければ構わないよ。君の事を調べるくらいわけないしね」
「……エティア・ヴィルトムよ。変に気持ち悪い真似したら許さないから」
「あはは、これ以上嫌われたくはないからね、肝に命じておくよ。じゃあエティア。最後に一言」
「何よ」
「早く君は自分の事を知るべきだ。君の父上、兄がわりの男。それと母親のことを。ラドルさんの事にかまけて自らの事を知らないというのは君にとって不幸以外の何者でもないよ」
「……どう言う意味よ?」
「さあてね?だけどいずれ分かるさ。そう遠くない未来でね。もっとも……」
勿体つけてフェルドは最後に一言付け加えてその場を去る。
「その未来が来れば、の話だけどね」
一旦静まり返った食堂は再び先程までのざわめきを取り戻すと。
「なにあれ!?気持ち悪いったらありゃしない!」
そう怒気を噴き出しながらまだ手付かずのパスタを勢い良く口に運ぶエティア。
そんな憤懣やるせないエティアをまあまあ、と宥めるレナを見つつアスはフェルドの言葉に何か悪い予感がしてならなかった。
(遠くない未来に知るがその未来が来るとは限らない……?矛盾しているその言葉の真の意味とは……)
だが頭をいくら悩ませても現時点ではっきりしている情報は少なく答えは出ない。
だがはっきりと明らかになったことが一つ。
(やはりこのエティアには何かある。神使代行に限らず、他の神使までがエティアの特異さに注目していた。それは何か?それもいずれ分かると言うのだろうか)
そこまで思考を張り巡らせた所で待ち人が姿を現した。
蒼い髪の神滅者。
何事も無かったように椅子に座り給仕の女性に紅茶を頼むと一言。
「……疲れた」
それを聞いてエティアはあはは、とようやく花貌を花開かせた。
そんなエティアを横目にラドルは一言言い放つ。
「待たせておいてすまないがここで一旦このパーティは解散としよう」
耳を疑うその言葉にエティアはつい聞き返す。
「え?え?どういう事?」
「どこから話したものかな。兎に角これから先は俺一人で行く」
その言葉の真意をラドルは口に出していく。
ーーーーーーーーーーー
ほんのわずかだが時を遡る。
食堂から出たフェルドは未だ頬に残る熱を愛おしそうに手をやっていると。
ついひとりごちる。
「ふふ、かの噂の少女とこんな所で相見えるとは。本当に神は一筋縄ではいかない悪戯を仕掛けてくれる。……そうは思いませんか?ラドルさん」
振り返りもせずにいつの間にか背後を取り鋭く睨みつけている蒼髪の男に対して声を掛ける。
それに対して一言も出さずに威圧し続けるラドル。
フェルドはその様子に一つ溜息をつくもそれでも背後の相手に身体を対さない。変に動けば既に剣に手を掛けている相手に両断される。
その対峙が暫く続く。
やがて。
やれやれと思いながらも仕方なく懐から一通の書状を肩越しに差し出す。
警戒を緩めずに黙ってその書状を手に取り片手で器用にそれを開き目を通す。
「……!?おい、これは本当か?」
「僕の独断ではないというのが差出人のサインから分かるでしょう?無論何の根拠も無い虚言という訳でもありませんよ」
書状の最後に記されたサイン。
正道真教会統括神将リゼリア・ベリアレイン。
正道真教会の幹部であり五人の神将の一人ある彼女とは浅からぬ関係があった。
その為その言葉を無視する事は出来なかった。
その中身とは。
「……夭天の七龍が目覚める兆候がある、だと……?この700年封印されていた龍がか?」
「らしいですね。僕がここに来たのは貴方にこの書状を渡すためだったんですが。貴方を目の敵にしている真教会が秘匿とは言え貴方に対し協力を求めている。それだけ事は急を要することです。どうですか?まだ信じられませんか?」
「……」
ラドルは目を細めながらこの書状と使者にこのフェルドを派遣した事によるその意味を考えてみる。
(このフェルドという男は性格に難ありとされていても若くして一神教の神使代行であり正道真教会の特使として遣わされる立場だ。その任務は裏の顔もあるだろうがわざわざこの俺に接触しても差し支えない程度には教会も信用はしているのだろう。だが……)
ラドルの中でこの男の信用度は皆無に等しい。
それはかつての諍いからくるものであったがどうにもその考えと行動理論が自分と馬が合わない。
とはいえこの書状自体は本物であるだろうしリザリアの召喚とあっては無視もできない。
となるとどれだけ思索に耽っても選択肢はないのだと思い知る。
「お返事は?」
「いくつか条件がある。それを飲めば考えなくもない」
「聞きましょう」
ラドルが提示した条件にフェルドは難色を示すも仕方なく首を縦に振る。
また無茶な条件を、と悪態づくがすぐにいつもの掴み所のない笑顔を見せて。
ちら、とラドルの腰に差している剣に目をやる。
「宝剣セレンヴィーラ……ファーナさんからの贈り物ですか。ラドルさんにしては過分な待遇を受けたようで」
「あいつが勝手に俺に押し付けただけだ。違う意味で重い荷物を預けてきて扱いに困っている」
「……ファーナさんも貴方の支持者になった、という事ですか?」
「そんな事はあいつに直接聞いてくれ。あの女の腹の黒さは俺には手に負えん」
そう返すと、ははは。と軽い笑いが出るフェルドだったがその目には表情ほどの楽観的な色は見せていなかった。
ファーナとティロン神教の動向を注視するべきかと頭の中で思い描いているのだろう。
そう結論を出しながらラドルは相変わらず目の色で考えが分かる男だ、と思う。
フェルドとの付き合いは然程長くはない。
だがとある因縁から何かにつけてラドルの目の前に現れては敵意を向けてくる。
だがまだ一度も戦った事はなくその実力は未知数である。ある程度の力は推し量れるが神使代行にもなれば切り札、もしくは奥の手というべき力を持っていてもおかしくはない。
それ故に警戒に値する面倒な男だというのがラドルの中でのフェルドの評価であった。
「じゃあまた。今度は共に戦う同志であったらいいですね、ラドルさん」
「安心しろ、それはない。お前は寿命を全うできない事は請け合ってやる」
クスリ、ともしないその表情にフェルドは更に口端を釣り上げて醜悪に嗤う。
「いいですねぇ、貴方のその眼。僕がいつか必ず歪ませみせますよ」
「だったら早くした方がいいぞ?人の生は短いからな。なんだったら今からでもいいぞ?」
「今はよしますよ、任務の途中ですし。ですが……」
そこまで言うとそれまでの軽薄な雰囲気が嘘の様に鋭く真面目な絶眸をラドルに突き刺す。
同時に激しい威圧を放つも当の本人は何事も無く受け流す。
フェルドはそのラドルの佇まいに妙に苛立ち覚えチッと舌打ちしながら言葉を続ける。
「ルーティは貴方を許しません。今もこれからも。僕はその為の剣になる。覚悟はしておいて下さいよ?」
そこまで言うとフェルドの身体は徐々に透けていく。
完全にその姿を消してもその気配は残してラドルに辛辣な言葉を残す。
ーー貴方は世界の爪弾き者だ。貴方がいる限り世界は貴方を認めない。貴方を許さない。貴方を憎み続ける。いつまでそうやって傍観者のように振舞っていられるか見せてもらいますよーー
完全に消えた気配に傍観者、という言葉に違和感を覚えながらも踵を返して宿に向かう。
そしてこれからの行動に頭の中で修正を掛けていく。
この後は自分の縁深い土地に向かいとある人物を訪ねようと思っていたのだが少し後回しにするしかないと諦めながら歩を踏み出した。
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そして時は現在に戻る。
カチャ、と供された安紅茶に渋面を見せているラドルの言葉を受けて得心のいかない顔で抗議を剥き出しにしてきたのは予想通りの少女。
「何それ!?そんなの駄目よ!却下却下!ラドル君は私の監視の下にいなきゃいけないんだから絶対に駄目!!」
相変わらず監視という名目を疑いもしないで憚らない、ある意味豪胆な物言いをしてくるエティア。
だが今回ばかりはそうも言ってはいられない。
「駄目だ」
ばっさりと抗議を切り落とすその言葉に理由を問う。
「龍討伐の依頼があった。このまま君たちが俺に同行するというのは自殺と同義だと思ってくれ」
「なんでよ?竜退治ならラドル君、この街に来る前に単騎討伐したじゃない」
「龍は竜とは違う」
きょとん、とした目でアスに疑問を投げかけてくる。
もちろんその含有した意味はどう違うの?というものである。
またか、と一つため息をついてアスは簡単に説明する。
「竜はあくまでもこの主物質界の中で最も強大な存在だ。だが軍なり神使なり数の力、個人の力で撃退が可能であり絶対無比の存在ではない」
「対して龍種は文字通り次元の違う存在です。神と同義とも言えるその力は一たび振るわれればこの世界に大きな傷を与え、その姿は正に神威堂風でありその知恵は正に天威無限です。咆哮は絶望を。吐息は絶死を与えると伝わっている神の同格者ともいうべき存在なのです」
アスの説明に次いでレナの龍の解説に少しの違和感を感じる。
「……ん?伝わって……いる?じゃあいるかどうかは分からないってこと?」
「まぁ竜はお前も見たんだろ?その存在は確認されているが……だが龍種となるともはやお伽話や童話の世界の住人とも言えるんだが」
「神の存在が明らかなのに龍が存在しないと思うのは楽観的にすぎると言えます」
エティアの問いかけにそれぞれの答えを口にするアスとレナ。
その締めくくりとしてラドルが注釈を付け加える。
「龍種はこの世界には顕現できない存在として認められている。というのも高次元体である龍はそのままの姿では次元境界線を突破できないからだ。次元境界線とはこの世界の主物質界とアストラル体の神々のいる霊界に間にある断絶された溝みたいものなんだがそれがある為神々がこの世界に干渉するには「受肉」という手段を取らなければならない。今回の龍も同じだ。この世界にある依代が目覚めれば再び龍はこの世界を滅ぼす為に破壊の限りを尽くすだろう。その被害は今回の神擬きの比じゃないのはまず間違いない」
その言葉にシン、となるラドルたちのテーブル。
周りの賑わいとはまるで別世界のようにそのテーブルだけ空気が落ち込んでいる。
無理もない。
どんどん話が大きくなっていくラドルの周囲の変化にアスもレナも正直気後れを感じてしまっている。
ほんの数日前までは個人的な感情や使命感などで寄り集まった仲の4人だったが旅を続けるうちに変化して行く事柄の大きさに一個人の許容の範疇を完全に超えてしまっているのだ。
国家レベル、大陸レベルではない。
世界レベルでの話に何の特別な存在でも何でもない一人間がどうにかできる話ではないのだ。
改めてラドルという男の特異さを感じた2人だったのだが。
それを吹き飛ばす言葉がその場を支配した。
「大丈夫!何とかなるよ、だから大丈夫!」
笑顔でいつもの台詞を放つエティアにラドルは溜息を、アスは呆然と、レナは仰天した表情で固まる。
そしてひと間を置いて。
三者三様の笑みが吹き出してくる。
「……君ならそういうと思っていたがな。全く向こう見ずだ」
「お前を見ていると悩むという事が馬鹿らしくなってくるな。ある意味感心する」
「ふふ。でもそれがエティアさんらしいです。そして何故か本当に何とかなる。そんな気にさせてくれる貴女は本当に尊敬できる方です」
その言葉にまた少しの抗議を呈するのは紅髪の少女。
「なぁによ。失礼じゃないのよ、その言い方。まるで私が考え無しの無鉄砲娘みたいじゃない」
「みたい、じゃない。そのものなんだ」
ラドルのその言葉に頬を膨らませる。
だがそれでも。
「だが駄目だ。今回ばかりは君は足手まといだ。俺一人で行く。同行は許さない」
「なんでよ!どうせローグ君は付いていくんでしょ?じゃあ私だって……」
「身体は誰でも一つだ。ローグはここのところ眠っているし本体ではない。君はその身体が死んだらどうする?それとも君は死に急ぐ馬鹿だったのか?」
ラドルの言葉は正論だし自分を思いやっての言葉だというのも理解はしている。
しているが納得はしていない。
ラドルが自分の監視の外で何をしでかすか分からないのが不安になる。
また多くの人を殺すかもしれない。
理不尽に災いをもたらすかもしれない。
誰かを悲しませるかもしれない。
それを止めたくて同行しているのに。
その時。
チクリ、と胸に小骨が刺さったような感覚に襲われる。
……?
義務感や使命感でここまでやってきたエティアだったが自分の感情に何か違う違和感を覚える。
それを確認するまでもなく。
とりあえず何とかラドルの旅に同行するためかぶりを振って言葉を探すも適当な言葉が浮かばない。
それを打破する為に他の2人に視線を寄越すと想定外な言葉が出てきた。
「……エティア。悪いが俺はラドルの言葉に従う。一度お前たちと離れてそしてその間に……自分を磨く。このまま差をつけられたままじゃ結局足手まといだからな。次会う時までにせめて十星くらいにはなってみせる」
「そんな!じゃ、じゃあレナは?どうするの?」
「……私はダルタニア様との衝突で力の無さは分かっていました。呪術をラドル様に禁じられ自分に出来ることがあるのは何かを探したとき私は知識を求めました。この世界の。神々の。そして……ラドル様の事を。私はもっと知りたい。その為の時間が欲しいと。許していただけますか?」
「……お前が考えた末に出した答えならお前の道だ。好きにすれば良い」
許可など必要無い、とは言わないがいつもラドルには助けられてばかりの自分が嫌だと感じていた。
ラドルの提案はその時間を探るのには渡りに船だった。
それを聞いてもやはり葛藤の残る表情のエティアにアスは一つ提案をする。
「エティア、一つ頼みがある。レナは個人では身を守るのも覚束ない。そこでお前がレナを守ってくれないか?」
「私が?アスはどうするのよ?」
「言っただろ、俺は腕を磨く。その為にある人物を探す。俺の師匠……剣姫エステリアにもう一度鍛えてもらう」
それとはまた別に。
何故ダルタニアがエステリアの火剣を手にしていたか。それをはっきりさせたかった。
もしかしたらその途中でまたダルタニアと対決になるかもしれない。
その時レナが居ては狙われるかもしれない。それは避けたいと護衛をエティアに頼みたいのだ。
レナも何処に行くにも一人では心許ない。そう思えばこそ。
「お願いできますか?エティアさん」
「〜〜ううう」
凄い形相で葛藤が渦巻いているのが分かるほどに顔を赤くして悩む。
このままではいつまでも答えが出ない。
そう思ったラドルは一つ撒き餌を差し出す事にした。
「エティア。コレを持って俺が行こうとしたある人物に会ってきてくれないか」
「……誰よ、その人って」
差し出されたのは少し古めのアミュレット。それを渋々受け取るもその顔は見るからに不満顔のエティア。その彼女にラドルは一言。
「妹だ」
ーー妹。
ラドルはゆうに1000年を超える時間を生きている。
その妹となれば。
当然人ならざる存在だろう。
ラドルと同じ神使?
もしくは古代の魔法で不死を経た人外?
どちらにしても興味が湧いた。
その反応を見てあとひと押しと見てさらにラドルは続ける。
「妹から俺の事を聞けばいい。知りたいのだろう?俺の過去を。妹は神学者でもあり騎士でもあるからな。学ぶことは多いと思うぞ?」
「……分かったわよ。分かりましたよ!行けばいいんでしょ!行きますよ、全く。私を邪魔者みたいに扱ってさ……」
ようやく折れたエティアはあからさまに口を尖らせて不満がありありと見て取れる。
宥めるようにしてラドルはやれやれと溜息をついて。
「エティア。右手の親指を出してくれ」
急にラドルの表情が柔らかくなったと思った。
そして意味深な言葉。
よくわからないがひとまず言われるがままにゆっくりと右手の親指をラドルの前に差し出す。
そしてラドルも。
右手の親指を出すと口で軽く噛む。
ラドルの体から赤い血が滴る。
それは当たり前の光景。
だが始めて見る光景。
どんな傷も他人に与えられた傷はたちまち癒して戻してしまうその身体から赤い血が一筋。
流れ落ちた。
「ラドル君……それ……」
『テア・レア・メーナ・セリセリス 此処に我は約し誓う 我が身は一つ 時と地が別たれしもこの血は再び交わらん 血誓約』
互いの親指が合わさり詠唱が終わるとラドルの血がまるで糸のように2人の指に絡まりながら、赤く光りながら消えていく。
それを見たレナは自分の持つ知識の片隅にあるその術を理解すると目を見開いて驚きを隠せずにいた。
「……!ラドル様、それは……」
「再会の呪術だ。簡単なものだがまた逢おう、エティア、レナ。ついでにアス」
「ふ、ふーん。随分と殊勝な呪術なのね。そんなに私の神罰を受けたいってワケ?」
先程までの葛藤の赤ら顔から少し照れた赤みの頬に変わりながらも強気な言葉を投げかけるエティア。
その言葉にラドルは。
「君は死なすには惜しい。出来れば長く生きて天寿を全うするのを俺は望む。それは以前から思っていた。だから今回は君を遠ざける。次に会う時は君の神罰とやらを俺に下せるように精進してくれ」
そこまで言うと旅外套を羽織り。
剣を腰に差して。
荷物を手にするとただ一言。
「じゃあな」
そのまま振り返る事もなく食堂を後にした。
風の様に。
遥かな蒼穹のような爽風の如く。
その去り際に見せた顔には。
これまで一度も見たこともない微笑みを浮かべて。
またすぐに会えるかのような軽さで。
神滅者はエティアたちの前から姿を消した。
アスやレナはまるでそれが別れとも思えないほどに。
だがエティアには。
ラドルの唐突な言葉の意味が理解できずに。
顔を真っ赤に紅潮させながら。
「な、な、な、な、な……何よ、あれーーーー!??」
食堂いっぱいに悲鳴に近い叫びが響き渡った。
本当にお待たせいたして申し訳ありません…!
ようやく更新できました!
今回パーティを解散をするかどうかで悩みました。その為にこれだけ期間が空いちゃいました。
解散自体は決まってはいたのですがもう一つ話を挟んでからとも思いましたがそろそろ登場人物も出さなきゃいけないのが何人もいるので今回に踏み切りました。
エステリアもその一人です、ダルタニアとの因縁はもう少しお待ちください。
よく最近ラノベ異世界ではステータスやらスキルやら視認できる風潮ですが僕は数値化苦手でしてとある漫画家さんが数値化すると設定が固まってしまうという言葉に共感します。その力が足りないのは承知ですが昔からのやり方が合うのでこのままいきます笑
次回から新編聖戦編が始まります。
感想評価お待ちしてます!
ではまた次回〜☆




