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蒼穹の神滅者(シルヴァリオ)  作者: 1
第2章 堕ちる世界
56/85

第56話 歌姫編〜同類〜

 ラドルがティロン神教総本山ティロニクで見た光景。

 それは王都上空を怪しき雲が広がり闇色の大気が覆っている異様なものであった。


「あれは……?」


 ラドルの隣に並んでその光景に息を呑み驚愕を禁じ得ないティロンの神使ファーナはつい言葉を漏らす。


「まさか……まだ早すぎる!」

「早すぎる?ファーナ、あれが何なのか知っているのか?」

「い、いいえ……まだそうと決まった訳では……」

「お前は先程神降臨が事実とも虚言とも言えないと言っていたな?それが今まさに関係しているのではないのか!?」

「……それは」


 目の前に広がる異様な光景を目の当たりにしても未だに口ごもるファーナに剣を突きつけ答えを無理矢理引き出そうとしてようやく重たい口が開く。


「……神託があったの。神の輝きが潰えし時、この国は百の夜迎える事は出来ぬであろう……と」

「神の輝き?」

「……先月我が国の神器『豊穣の鏡』から光が失われた。我が神ティロン様の御力が健在であれば昼夜問わず神光が国を照らしていたのだけど……それが失われたの」

「それはいつ頃の話だ?」

「ちょうど50日前よ。この件で頭を悩ましていたところに貴方がやって来た。貴方を利用すれば何か打開策が見つかると期待していたけど……とにかく現状打破する手を考えるわ。貴方はここから立ち去りなさいな」

「……あの王都を覆う気配は明らかに強大な力を有している。何が起きているかは知らないが俺が好きにしていいんだな?」

「手を貸してくれるというの?」

「50日前に神器から光が失われたと言ったな?お前はこの国に起きている屍人騒ぎは聞いているな?」

「ええ……報告は受けているわ」

「光が消えたというのはティロンの神力が何かに邪魔されている為と見るべきだ。そして屍人騒ぎが起こり始めたのも大体同時期だとしたら関連性が無い方がおかしい」


 実際には屍人騒ぎが起き始めたのはもっと以前だろうが国がそれを知ったのがもっと後だと考えてみると一応の許容範囲だろう。

 それを知りながら放置していたツケを今になって払っているわけだが。

 とは言えラドルが神を相手取るには一つはっきりさせておかなくてはならないことがあった。

 ティロン神が降臨したのではないのなら一体何の神が生まれたのか。

 このティラーニア王国は当然ティロン神の神域範囲内である為野良の地方神や従属神程度の神ではない筈だし何より王都を覆う力が72主神並の強大さを誇っている。


「ファーナ、神託にはあの力の主を示唆するような文言は無かったのか?」

「え、ええ。それらしいのは何も」


 その時予想外な方向から答えが返ってきた。


「あれは病と痛みの神クラニアンですよ」


 声のした方を見るとテラスの手摺によく見知った黒い魔獣がそこにいた。


「ローグ?なぜお前がここにいる?」

「流石にあんな事になっていたらゆっくり眠っていられませんよ。貴方に知らせないとと急いで飛んできた自分を労ってください」

「エティアとセルフィナはどうした?」

「やれやれ、未だあの小娘の事を気にされるのですか」

「答えろ!」

「そんなに怒鳴らなくても答えますよ、エティアさんは神に捕らわれています、俺を逃してね」

「全くあの能天気武僧は……自分の力量以上を求める悪い癖がまた出たか。で?セルフィナはどうした?」

「死にました」

「何だと?」

「もう、この世界には彼女は存在しません。セルフィナ・メルドアナという人間は」


 ローグは極めて淡々と何の感情も無くラドルに王都であったことを話し始めた。


 ーーーーーーーーーー


 ラドルとファーナがティロニクにて対峙する前日。


「う……う〜んっ」


 朝日の光で目が覚めて上体を起こして軽く伸びを一つ。エティアはふぁっと欠伸も一つ。

 隣のベッドにはここ10日ほど旅路を共にした少し年上の女性。歌姫というその女性は長い髪を下ろしてベッド全体に広げその中央にやけに艶めかしい肢体を横たわらせて静かに寝息を湛えている。

 以前にも話していたようにベッドで眠る時は衣服を身につけない主義らしく今回もやはり何一つ身につけていなかった。


「もぅ……あれだけ寝間着を着てって言ったのに」


 くす、と笑いながら手のかかる姉みたいでやれやれと夏用の薄布団を掛け直す。

 すると。

 いきなり手首を掴まれてベッドに引きずり込まれる。


「きゃっ!」

「ふふ、捕まえた。エティア」


 いつの間にか目を覚ましていた歌姫ことセルフィナはぎゅっと強くエティアを強く抱きしめる。

 軽く寝汗をかいた身体は妙にいい香りを放ちエティアは抱きしめられながら言葉をかける。


「セフィ、ちょっと暑いよ。放して」

「いやだ、放さない」

「もぅ朝からもう仕方ないなぁ……よっと」


 と人差し指を立てて背中をなぞる。


「きゃっ……あははは!や、やめて、エティア!くすぐったい!」

「いやだ、やめない」


 くすぐり始めてベッドの上で身悶えるとドタッとベッドから2人して転げ落ちる。

 そしてエティアとセルフィナは互いを見つめてあはは、と笑い合う。

 まるで仲の良い姉妹のようにじゃれ合う2人はゆっくりと立ち上がりながら身の支度を済ませていく。


「セフィ、鎮魂式は明日でしょ?今日はどうするの?」

「あらエティア、昨日の言葉をもう忘れたの?」

「へ?」

「今日一日は私に付き合ってくれるんでしょう?ご一緒しましょ、と言ったじゃない」

「まぁ言ったかな」

「だからエティアは今日一日私に付き合う義務があるのだ。違う?」


 ふぅ、一つ息つくとエティアは苦笑いを浮かべて、


「分かりましたよ、歌姫様。私で良ければいくらでもお付き合い致しましょう。で?私は最初に何をすれば良いので?」

「そうね、まずは背中のファスナーを上げてくれる?」


 貴族風に言い放ち髪を上げて背中を向ける。

 その様を見てまた2人して笑いあう。



 それから程なくして。

 2人は王都の街中にいた。

 日が昇ってすぐ活気に沸く市場を冷やかす。


「うん、これ美味しい!とっても甘くて、でもしつこくない。どうしてこんなに新鮮な果物が王都に並ぶのかしら」


 セルフィナが手に取った赤い果実を口にするとエティアがその代金を支払う。

 その幸せそうな顔を見て店の主人はその質問に答える。


「最近は冷凍魔術を運送事業に組み込んだらしくてな、冷凍魔術を封じた魔石を荷に一緒にしておくと真夏でも日持ちはいいし、鮮度も保てるんだ。もっとも魔石自体は高価で運搬費用は高いが将来的な利益面では充分元を取れる」

「へぇ、さすがは豊穣の国。食べ物こそが何より価値があるってことね」

「まぁ北の国々と比べりゃまだ平和ではあるけどな、最近キナ臭い噂も流れているんだよ」

「それって屍人騒ぎの事?」


 黙っていたエティアが口を挟む。


「なんだ、知っていたのか。辺境の村々で死んだ人間が冥府から蘇り人を襲っているらしい。物騒な世の中になったもんだ」

「……そうだね」


 礼を言ってその場を離れるセルフィナとエティア。

 そうして街の雰囲気や風景、人々の生活、表情を見て回る。

 日が中天にさしかかる頃、2人は中央広場の噴水の縁に腰を下ろしていた。


「市場を見て回るだけで午前中かかっちゃったね。やっぱり王都は広いなぁ」

「……そうね」


 エティアが声を掛けてもどこか上の空のセルフィナ。

 互いに沈黙を守る。

 こんな空気を以前にもあったような気がするとエティアは沈黙の間、思い起こしていた。

 そうだ、あれはまだ旅に出た頃気のいいキャラバンの少女と出会った時だ。

 あれは夜だったが2人並んで黙ってこの沈黙を楽しんでいた。


「なんかね」


 沈黙を破ったのはセルフィナの方からだった。


「同じ国でもこうまで違うんだなぁ、って感じたの」

「辺境と首都圏と?」

「実はね、私生まれはこのティラーニアなんだ。こんな立派な王都じゃない、普通の山村。でもね、みんな明るいいい人たちばかりだった。そんな国に、村に生まれて良かった、って思いもした。あの日が来るまでは」


 倒置法で事の次第を強調してゆっくりと思い出すように蒼い空を見上げて呟く。


「疫病がね、流行ったの」

「疫病?」

「まぁ大した事ない水毒熱だったんだけどね、一応念の為私は父と村を離れてバルカードの国境の町にいる親戚の家に疎開したの。それからずっと帰らずじまいで今日まで経っちゃった」


 セルフィナはいつか見た少女と同じような少し自嘲気味に笑うとエティアは黙ってその言葉の続きを待つ。


「それから国に戻る事なく私の歌が皆の目に、この場合は耳か。聴き止まっていつのまにか歌姫なんて呼ばれるようになっちゃった。私ね、この鎮魂式が終わったら一旦故郷に帰るつもり」


 エティアはその言葉に一抹の不安を抱きながらもニコ、と微笑み返す。


「そしたらさ、エティア」


 セルフィナはばっとエティアに向けて顔を突き出してまた笑顔で話してくる。


「私と一緒に故郷に来てくれない?」

「え?」


 突然の言葉に少し躊躇うエティアは以前から気になっていた疑問を口にしてみることにした。


「ねぇ、セフィは何で私にこうまでしてくれるの?仲良くしてくれるの?」

「前にも話したじゃない、妹みたいで気が置けないって」

「そうだけどなんかそれだけじゃないって気がして」


 エティアは自分の直感を感じながらセルフィナの不興を買わないように質問を続ける。


「そうね……それだけだと思っていたんだけどよくよく考えたらエティアは私にそっくりだな、って。他人に感じられないっていうか」

「そっくり?私とセフィが?」


 見た目も出自も立場も何もかも似ていないと感じたエティアは頭をひねって共通点を探す。

 だがそれらしい共通項は思い当たらずぱっと相手を見やると。

 その言葉の主は立ち上がってエティアに向けて手を伸ばす。


「まぁ無理は言わないけど考えてみてね」


 ニコッとまた笑って振り返ると。

 その笑顔はどこか浮世離れした美しさを誇っていた。

 そんなセルフィナに見惚れてエティアはそう言えば、と思い出したことがあった。


「ねぇ、セフィ。一曲歌ってよ」

「え?」

「私、まだ歌姫としてのセフィの歌声を聴いた事ないよ。鎮魂式前に聴いておきたいな。ダメ?」

「うーん。確かに護衛してもらっておいて何もしてないし……いいよ、じゃあ私が初めて覚えた一曲を」


 そう言ってゆっくりと息を多めに吸い込み目を閉じて一度だけ深呼吸。

 そしてその唇が開くと。

 美しい絹のような声が、だがはっきりと耳に残る旋律が中央広場に広がっていく。



『さあお眠りなさい

 今日もまた母の愛に包まれて

 雨の日でも

 風の日でも

 目が覚めればきっと

 蒼い空が微笑みかけてくれるから


 さあお眠りなさい

 今日もまた父の腕に抱かれて

 雲る日でも

 雪の日でも

 目が覚めればきっと

 蒼い空が手を伸ばしてくれるから』



 子守唄だろうか。

 優しいが希望と未来に向けて進む子供たちに宛てた歌に聞こえる。

 短い唄だが心に温かみを与えてくれる優しい唄が一先ずのピリオドを打つとエティアは自分の瞳から一筋の涙が流れているのを感じた。

 つい心の箍が外れたのか。

 その涙を拭うと。

 少し驚いていた顔でこちらをじっと見ていたセルフィナがそこにいた。

 慌てて取り繕うように身振り手振り返しで弁明をする。


「ご、ごめん!すごく心に響く歌声だったから!流石歌姫って言われたセフィだね」

「ふふ、ありがと。これね、私が小さい時に亡くなった母さんがよく唄ってくれた子守唄なんだ。これが私の出発点。何より大事な歌なの」

「そっか、ありがとう、そんな大事な唄を聴かせてくれて……ん?」


 気付くと周りに沢山の人が二人を囲んでいた。

 どうやらセルフィナの歌声に惹かれてきた人々が続きを求めて待っているようだった。

 それに気づいた二人はくすっ笑いあって。


「よーし!じゃあ今日は特別!中央航路街道で知らぬ者はいない歌姫セルフィナ・メルドアナのミニコンサートを開催しちゃおう!」


 セルフィナの大盤振る舞いに周囲の観客達は諸手を上げて喝采を送る。

 その姿を見てエティアは。

 また一つ涙が溢れていたーー。

今回やや短めに更新してみたのはやっぱり次回から忙しないバトル展開が待っている予定だからです。

正直色々伏線張って回収が面倒になってますが無理にならないようにしていますがここおかしくね?みたいな意見ありましたら是非とも教えて頂けたら幸いです。

とりあえず次回は早めに更新する予定ですが遅れたらごめんなさい( _ _ )

感想評価も併せてお待ちしてます。

ではまた次回〜(^ ^)

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