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蒼穹の神滅者(シルヴァリオ)  作者: 1
第2章 堕ちる世界
55/85

第55話 歌姫編〜異変〜

「これは……一体」


 ティロン神教総本山都市ティロニクに一人たどり着いたラドルはつい独りごちていた。

 というのも。

 街の様子が自分の予想とは違っていたからだ。

 教会には信仰溢れる信者達が今日も列をなして供物を捧げる。

 町の人々は明るい笑顔で旅人を労う。

 軒を連ねる市場は王都に負けぬ程の賑わいを持って活気が通りを包んでいる。

 つまり。

 普段と何も変わらないという事になる。

 先だってフェニア神教の総本山たる聖王都ベルクラーナでの聖王建国祭(ロア・レクシール)では神が降臨したとして連日連夜祭りのような毎日を送っていた。

 だがこのティロニクではどうだ、熱狂するような活気もなければ神に対して狂おしい程の信仰も見えない。

 至って平凡な平和で平穏な一日を今日も漫然と享受している。

 自らが信仰する神が目の前に現れたとなれば神に対する信仰の強い信者が集まる総本山でこの平静さは有り得ない。

 あと考えられる事といえば神殿がひた隠しに神の降臨を隠匿しているのかもしれない。その理由は不明だが熱狂のあまりからくる治安維持などが理由であれば考えられない事ではない。

 とにかく神殿に向かい神の降臨を確認するべくラドルは一路足を神殿に向けた。



 豊穣の女神ティロンは神位聖争では常に中立を保ちながら信者を守り争いに疲れた大地を地母神フェニアと共同して癒し人類を導く光側の女神として三源神ほどではないが高い人気を集めている。

 だがその一方で一部の人間たちには蔑視の対象として見られることもある。

 それは神でありながら神の威厳を持たぬ、より人に近しい存在であるがために神を絶対視する人間には面白くない存在であるという。

 そして神位聖争では中立として戦いに参加していないのも疑念に拍車をかけていた。

 その為高い人気を誇りながら二級神であるのはこう言った背景が絡んでいた。

 それでも一国の国教にまでなり多くの信者を持つかの神教はティラーニア王国を肥沃な土地と実り多き作物を約束としてその力を広く振るっていた。

 かくして大陸随一と言われた農耕国は今日も平穏な日を送っている。

 それがラドルには強く違和感として感じていた。


(この国の平穏さは外から聞いてみたのとは違う。特に屍人騒動が起きている国の辺境との格差が激しい。国が対処しているようには見えなかったしそれに国の異変を何も知らない人間が多い。そんな事があり得るのだろうか)


 神殿に向かう途中で見たのは今日の平和をさも当然のように受けている笑顔の人々。

 同じ国内での温度差。

 それはラドルが珍しく背中に冷たいものを感じた事案であった。


「……そういえば」


 そんな怖気を頭の片隅に追いやるようにふと思い出したのはここ数ヶ月旅路を共にしてきた紅毛の少女。

 ここティロニクに入る前に立ち寄った王都の宿屋にエティアを預けてセルフィナに彼女の面倒を見てもらっている。おまけに最近眠りっぱなしな魔獣も置いてきた。おかげで本当の意味でゆっくり一人旅をしている。

 そして単身噂の大元である総本山にまで来たのだが。ふと思い出してしまうのは彼女の明るい声。

 騒々しいのは苦手だが彼女の声がなくなるとそれはそれで物足りない気がするのは随分身勝手な考えだ、と自分自身呆れながら歩みを進めていた。


「さっさと戻らないとまた何を言われるか分からないな、さて。鬼が出るか蛇が出るか……はたまた何も起きないか。とりあえず敵陣に乗り込むとしようか」


 そう言って目の前に見える大神殿は総本山に相応しい佇まいを見せる荘厳な聖域が大きな口を開くようにラドルを迎え入れた。



 ーーーーーーーーーー



 ラドルが総本山に着く2日前。

 ラドルが懸念していた紅髪の少女は相変わらず宿屋の一室で伏せっていた。


「大丈夫?エティア?」

「……だいじょぶ、だいじょぶ。セフィもごめんね、お城に呼ばれているんでしょ?私の事は気にしないで……行ってきて」


 セルフィナは元々の用事で王都に召喚命令が出ていた。

 鎮魂の唄を捧げに来た歌姫は予定日より些か遅れて入都した為至急王城に出頭するようにと。

 だがこんなに体調の悪い彼女を置いてその場を離れることに抵抗があった。

 だが王城からの出頭命令を無視する事も出来ない。意を決してセルフィナは一言エティアに告げる。


「……分かったわ、早めに話を済ませて戻ってくるから。ゆっくり休んでいるのよ?無理しちゃダメだからね」

「うん、ありがと。……いってらっしゃい」


 そう言って軽く手を振って歌姫をベッドの中から見送るエティア。

 その後ろ姿に。

 何か得体の知れない不安を感じたのだが。

 エティアの現在の状態ではそこまで気を回すことが出来なかった。


「……参ったなぁ、何でこんなに気持ち悪いんだろう?風邪だって今までひいたことない位健康なのが私の取り柄だったのに。よくあの村から王都まで来れたと思うよ……」


 村を出てケアレマスの谷を越えて4日。

 ようやく王都に着いた時にはもう立つことも出来ない程に疲弊していた。

 まだかの村ではアスやレナは屍人たちを死界に送り続けている筈だ。セルフィナも自分のすべき事をしようとしている。

 ラドルは非道い事をしていないだろうか。

 聖王都でしたように虐殺を起こしていないだろうか。

 ちゃんと用が済んだら迎えに来てくれるのだろうか。

 これだけ動かなかった事がなかったせいか普段あまり考えなかった不安が大挙して押し寄せてくる。

 そんな不安を振り払うようにかぶりを振る。

 ふと窓から見える遠くの山の麓にかの神教の総本山がある。

 そこに異変が起きれば何かしら変事があるはず。

 火の手が上がるなり爆発が起きるなり。

 それが無いならラドルはまだ事を荒だてていないと思いエティアは少しだけ安堵すると。

 ゆっくりと目蓋が閉じていった。





 私は深い眠りについている。

 それが分かる。

 身体が鉛のように重い。

 だが。

 それとは別に夢がやけにリアルに見れる気がした。

 そう、あの時の夢の続きを。

 いつかの夢の続きを。

 夢の内容は覚えていなかったが、夢は夢の続きを見れる事がある。

 ーー確か。

 人の立ち入らない神殿で男女が激突した夢。

 どちらが勝ったのか。

 その2人は誰なのか。

 その場所は何処なのか。

 気になる事は多くある。

 だがその戦い自体が何の為の戦いなのか。

 それが一番気になった。

 ーーあ。

 見えてきた。

 強大な力を持った2人が。

 剣を合わせていた。

 激しく。(はげ)しく。(はげ)しく。

 男は両手に握る神剣と聖剣を縦横無尽に振り続ける。

 女は強大な魔力を以ってしてその剣尖を防ぎながら神霊力による魔道の術を放つ。

 その一振は大地を揺るがし。

 その一閃は空を裂き。

 その一撃は天を焦がした。

 いつ終わるかも知れない戦いは10の昼と夜を数えた。

 そしてその時がついに来る。

 男の剣が。

 女の腹部を貫いている。

 だが。

 男は何故か。

 勝ちを誇るような貌ではなかった。寧ろ苦痛の極限までその身に受けたような苦貌だった。

 その2人を見つめるように神像が言葉もなく屹立している。

 その神像は。

 何処かで見た事がある気がする。

 しかしその物言わぬ神はどこか笑っているように見えた。

 それに気づかない2人は互いを見つめると。

 しばしの沈黙の後に紅い雫の路を作った女の口から言の葉が生み出された。


「……汝の勝ちだ。しかし。邪神の使徒よ。汝の罪はまだ続く。汝への罰はまだ終わらぬ。これから始まるのだから。ーー汝に、光あれ」

「……小賢しき女神よ。我が神は……我が手でーー」


 短い応酬。

 だがその直後。

 辺りを白く染める強く、しかし優しい温かな光がその場を包み込んだ。

 最後に聞こえたのは。


「ありがとう……心惹かれる愛しき神滅者(シルヴァリオ)




 中天に上り詰めた日の光が眼を覆う目蓋を開かせる。

 エティアはその瞳から流れた涙が自分のものだと気づいた。

 夢か、と思うとやはりその内容は覚えていない。

 だがどこか悲しい、遣る瀬無い想いが伝わってくる不思議な夢だった。

 覚えているのは。

 神滅者が、ラドルがあの夢に出てきたのか。

 随分色んな想いが夢に顕れたのか。

 むくり、と上体を起こして再び夢の世界に微睡(まどろ)み始めた頭に手をやり甘い誘いを拒む。

 そして気づいた。

 先程までの体調の悪さが嘘のようになくなっている事に。


「ーー……わたし。何で寝てるんだっけ?体調を崩した筈なのにまるでなかったように……」


 枕元に置いてある水差しの水を一口含むと。

 ゆっくりとベッドから出て練武の型を構えその場で打突、蹴撃を振るうと以前と変わらぬ鋭さで繰り出す事が出来た。

 右手と左手を交互に見て手をグッパグッパと開けて閉じて。

 そして一言。


「ふっっっっかーーーーつ!!」


 その場をぴょんぴょんと跳ねて飛んで。

 今までなりを潜めていた元気が溢れんばかりに一気呵成に吹き出て来た。

 絶不調から絶好調にバイオリズムが変動したためテンションが異常に振り切っているのを感じて。


「よぉし!今から総本山ティロニクに行こう!ラドル君の監視を再開しなくちゃ!」


 ばっと荷物を持って闘手甲(フェルマー)を着け宿屋を飛び出ると。

 見知った顔と勢いよくぶつかってしまった。

 尻餅をついたその相手は同行者の歌姫だった。


「いったぁい……あれ、エティア?寝てなくても大丈夫なの?」

「セフィ!うん、もう大丈夫!そんな訳だから私、総本山に行ってくる!」

「はい!?ダメよ、あんなに体調悪かったのに!病み上がりが一番気をつけなくちゃダメ!」

「だいじょぶだいじょ……」

「ダメったらダメ!さぁ、部屋に戻るわよ!」


 そう言ってエティアの腕を取り再び充てがわれた一室に連れ戻す。


「ちょ、本当にだいじょぶだって、セフィ?」


 とさ、とベッドに並んで座る2人。

 じっと見つめてくるセフィ。

 その凝視に近い眼差しに耐えられなくなり視線を外すエティア。


「たしかに顔色はだいぶ良くなったみたいだけど……でもなんで?あれだけ顔色悪かったのに。たった3、4時間寝て治るもの?」

「なんでだろ、でも不調を訴えたことの方が珍しいからさ、疲れが出たんじゃないかな?多分。そ、それより打ち合わせ?もう終わったの?」

「ん?ああ、まぁね。明後日の昼、共同墓地で歌う事になったわ」

「かなり急な話だね」

「誰かさんが倒れたからね」


 軽く皮肉を言うとまた視線を外す。


「ごめんなさい」

「それまでは一緒にいてよ、そのうちラドルさんもここに来るんだから。ね?」

「えーー……でも……」

「行き違いなったらまた面倒だよ?ここで待っていましょう?」

「……そうだね、ちょっとだけ焦りすぎたかも。確かに行き違いになっちゃマズいね。分かった、それまでご一緒しましょう、我等が歌姫様」


 ふふ、と笑い合うと。

 狭い部屋に明るい声が鳴り響いた。



 ーーーーーーーーーー



「大胆にもよくこの神殿に顔を出せましたわね、我等が大罪人、神滅者ラドル・アレスフィア?」

「そうと知って迎えてくれて恐縮の至りだ、ティロン神教神使ファーナ・レストリス」


 ラドルの対面に座している妙齢の女性。

 ティロン神教神使ファーナ・レストリスというその女は微かに香る爽感ある香水を振りまき深いスリットの入った腰元と大きく開いた胸元が豊かな双丘の形を維持させているおよそ淑女が着るような代物ではない扇情的なドレスを優雅に着こなしてラドルに気後れする事なく対峙していた。

 足を組みながら淹れたてのコーヒーを一口含む。

 それに対して供されたコーヒーには手をつけないラドルを見てふ、と口元を緩めるファーナ。


「コーヒーはお嫌いだったかしら?」

「いや別段喉も渇いていないのでな、遠慮させてもらおう」

「あら残念」


 本当に残念だと言わんばかりに頬に手をやり一つ溜息をつく。

 そして。

 じっと全てを見透かすような深い眼差しを向けてラドルに問う。


「単純にコーヒーを飲みに来たのであれば話を聞くまでもなく皆を呼ぶつもりだったけど。本当に残念」

「肥沃な土地を持つティラーニアはコーヒーも一級だとは聞いたがな、生憎紅茶党でな」

「あんな葉を漉しただけの薄味がご趣味ならば次回はそうしましょう。で?突然の来訪、いや急襲と言うべきかしら?今日はなんの御用で?」

「聞きたいことは一つ。豊穣の女神ティロンが現世に降臨したのは本当か?」

「……それを聞いてどうするの?答える義務も義理も無い筈ですわ」


 その言葉を皮切りに互いの駆け引きが始まった。


「無論、俺の二つ名をそのまま実行するまでだ」

「まぁ、怖い」


 全くそうと感じさせない口ぶりにラドルは目の前の女神使の胆力に感嘆していた。

 力に訴えれば実力差は明白。数秒でその首を飛ばす事が出来るだろう。

 だがラドルはそうしないと確信をもって接してくる。

 そうしても何の得もないからだと分かっているからだ。

 ある程度ラドルを観察しながら出方を見ているとラドルも相手を分析していた。


「で?神滅者さまのご意見としてはどう思われるので?まさか噂だけでこんな一小国くんだりまで来たわけではないでしょう?」

「……正直言ってその通りだ。とある他神教の神使からティロン神が生まれたと耳にして来た」

「ぷっ……あははは!なぁに?世界に名が轟く神滅者さまは真実も見抜けない空者とはね」

「というとやはり虚言か」


 ファーナの挑発に眉目を動かさないラドル。

  それよりもラドルは事の真実を知り己のなす事だけを優先しているだけだった。


(一体どこで仕入れた情報だ……マースの奴め)


 明らかに不機嫌に見えるその態度にファーナは追い打つ。


「とも言えないのよ、神滅者」

「……どういう事だ?」

「……さてここからはただという訳にはいかない。貴方……私に何を貢いでくれるのかしら?」

「貢ぐ、だと?」

「時間もないからね、即断的なものがいいわ」


 先程までの淑女然とした態度とは打って変わって妖しい妖艶な視線で神滅者を見やるファーナ。

 これが本性か、とラドルはファーナに対する認識と評価を見定めて席を立とうとする。

 それを見て妖艶な神使はニヤリと嗤う。

 その笑みの意味をいまいち理解できないラドルはすぐに身をもって知ることになる。


「……これは」

「飲んでおけばよかったのにね、コーヒー。貴方はもう私の言葉に逆らえない」


 何の変化も無い執務室に僅かに混じる植物の匂い。

 魔力も含まれていない単純な匂い故にラドルは目の前の神使の香水程度に感じていた。

 しかし彼女の神使としての特性を知らないでいた。

 豊穣の女神たる神使の特性。

 それは植物や穀物の効能、育成などの情報組織を自在に操れるというものであった。

 穀物ならば多くの実を生らせる。

 薬草ならばどんな病にも効く神薬に。

 それは彼女、ファーナにとって天祐とも言うべき力であった。


「どうかしら?この香は私のお気に入りでしてね、貴方の意思とは無関係に貴方の身体は私の言葉に忠実に従うようになるの。たとえ貴方がかの邪神の加護を受けていたとしても数分はこの効果はあるはずよ」

「……数分で何ができる?」

「数分あれば色々できますわよ?例えばそうね、この紙切れに一筆したためるとかね」


 そういうと懐から一枚の巻物(スクロール)を取り出すとラドルはそれに注視する。


「それは……!?」

「そう、神の盟約による神誓書。これに貴方の名を書き記した時点で貴方は私の言いなり。例え貴方でもそれからは逃げられない。さぁ、神滅者ラドル・アレスフィア。この神誓書に貴方の名を書きなさいな」

「く……」


 ふるふると震える手でペンを持ちゆっくりと神誓書に名を走らせていく。

 自らの意思ではなく身体が、手が、指が勝手に動いてしまう。

 この神誓書に名を書き終えてしまえばラドルは生涯彼女の僕に成り下がることとなる。

 ラドルを見下ろすファーナからはその表情は見えないがきっと苦渋の表情をしているだろう。

 そう思うとファーナはつい顔に笑みが零れる。


(ーーふふ。世界に轟く神滅者を僕にさえできれば目の前の問題だけでなく他の神教にも強大なアドバンテージを得ることができる……!)


 にやにやと笑いながらラドルのやけに遅い署名に多少苛立ちながらもその時を待つ。

 そして。

 ついにラドルはその名を神誓書に書き終えてしまう。

 ばっとそれを確認するために荒々しく紙を奪うとその名に間違いがないか凝視する。

 その神誓書には確かに書き記されている。

 ラドル・アレスフィアと。


「ふふふ。あははは!やったわ!かの神滅者をこの手に!手中に収めたわ!これで貴方は私のものよ、ラドル・アレスフィア!」


 ゆっくりと立ち上がってようやく香の効力が切れてきたのか手首を振る神滅者はこちらを見ない。

 さぞ怒っているだろう。

 さぞ憎んでいるだろう。

 だがもうどうにもならない。

 神誓書に逆らえばその魂と肉体はこの世から飛散する事になる。

 例えそれが神の加護を受けた神使であろうともだ。

 そう思えばこそ普段出さないような嬌声の如き笑いも溢れるというものだ。


「さぁラドル?もう貴方は私の可愛い玩具。どんな顔をしているの……かしら?」


 相変わらず表情を見せないラドルに対してゆっくりと覗き込むようにファーナはその顔を窺う。

 その顔には。

 何の感情も浮かべずただ目を閉じて身体の調子を調えている仕草を見せるのみだった。

 拍子抜けしてもなお、居丈高にラドルに対して言葉を放とうとしたその刹那。

 白銀の一閃がファーナの目の前を斬り裂いた。


「……え?」


 何が起きたのか、一瞬分からずつい呆けてしまう。

 その目の前の男はつい今しがた言いなりにした筈の男。

 だがその手にはラドルの愛剣。

 斬り裂いたのはたった今署名した神誓書。


「……っは!?」


 ようやく今の状況をのみ込んだファーナは一足飛びで後ろに飛び退く。

 何が起きたのか理解できずにいた。

 その疑問がついなんの精査もない言葉をラドルに投げかける。


「なぜ!?何故私に対して危害を与えるような行動ができる?この神誓書に署名した以上私の言葉は絶対の筈!何をしたの!?」

「こんな手はな、千年生きてきた間に何度もこなしてきた。似たような考えを持つ輩はいつの時代もいるんだな」


 ラドルはこれまでも似た手口を経験してきた。

 この神誓書は己の真名を書かなくてはならない。しかし神誓書に対して署名した名は仮の名である事を彼女は知らない。

 そしてそれは当の神滅者でさえも自分の真名はラドル・アレスフィアだと誤認してしまうほどに千年という時の流れは重い。

 故に神誓書はその効力を発揮することなく斬り裂かれてしまったのだ。


「一体何を……!?」

「種明かしなど気にする余裕があるなら自分の事を気にしたらどうだ?俺に敵対した奴らの末路は分かっているんだろう?」


 そう言って身から溢れんほどの魔力が目視できる程に立ち上るラドルからは明らかな敵意を感じる。

 身が竦む程に絶対的な力の差。

 だが自分も神使である。

 戦うにしても一矢報いることはしたい。

 そう思い聖杖を顕現させると互いに臨戦態勢に入る。

 互いの戦意が臨界まで上り詰めたその瞬間。

 それを邪魔する闖入者が執務室に飛び込んできた。


「た、大変です!ファーナ様!」


 衛士と見えるその男は慌てて息を切らせてその戦意を僅かに挫く。

 だか室内の現況に瞬間驚いた衛士もまたこの状況を把握しようと試みる。


「こ、これは……?」

「それはいい、何があったの?」

「は、はい!西の空を!王都を見て下さい!」


 そう言って互いにテラスから出て西の王都方面を見ると。

 王都の空に邪悪な力が覆うようにして黒々とした暗雲が立ち込めていた。

 その異変はこれより王都で起きる凄惨な大事変のはじまりであった。

ようやく55話更新できました……!

えらく時間をかけて申し訳ありません。

なんか上手くまとめられずにだらだらとしていたらあっという間に一月半経っていました。

はい、恒例の言い訳スタートからでした。

さて歌姫編もようやく中盤。

ですがこっから先はバトル展開が待っています。

さぁ表現力の無さを痛感する今日この頃ですが頑張って執筆していきますのでよろしくお願いします。

感想評価も併せてよろしくです!

ではまた次回〜☆

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