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蒼穹の神滅者(シルヴァリオ)  作者: 1
第2章 堕ちる世界
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第52話 歌姫編〜本音〜

 夜の闇が。

 月の明かりが。

 小夜風の波が。

 その全てが静かに支配する夜天の下。

 無数の屍人がその場に倒れ伏せているまるで地獄のような地に一人現れた女神。

 そう思えてしまうような強烈な違和感が殊更その場の異常さを生み出していた。

 女神と見紛うばかりの美貌と手にした竪琴を持つセルフィナと名乗る女性は少しだけ気恥ずかしいような表情でラドルたちに視線を投げかける。


「セルフィナ……というとここ数年で名が売れ出したあのセルフィナ・メルドアナか?」

「えっ?は、はい……。よくご存知ですね」


 意外な事にアスがセルフィナと名乗る目の前の女性の名を口にする。

 驚きを隠せないエティアが聞き返す。


「え?アス、彼女の事を知ってるの?」

「……有名人だぞ。中央航路街道を起点に旅する女詩人だと聞いた。その詩もさることながら特筆すべきはその歌声でな、澄んだその美声で荒れ狂う魔獣を宥めた事もあるという逸話まである。その噂がまた噂を呼びついた渾名が「歌姫セフィ」だ」

「や、止めてください。その名前……私には勝ちすぎていて恐れ多いんです……」


 月明かりの中でも分かる程に顔を真っ赤にしてあわあわするセルフィナ。


「……で?その歌姫が俺たちに何の用だ?」


 相手の正体に何の感慨なく質問する神滅者。

 何の興味も。

 何の関心も。

 微塵も感じさせないその言葉にセルフィナはビク、っと身を強張らせながらラドルの視線に向き合う。


「あ、あの。わた、私……」

「ラドル君、駄目だよ。初対面の女の人を睨みつけちゃ」

「睨んでいるつもりはないんだがな」

「ごめんなさいね、この人無愛想なのよ」


 そう言ってラドルの顔を捻って視線をセルフィナから外させる。


「中央航路街道を基軸にしているにしてはこのティラーニア王国は距離がありすぎるからちょっとだけ疑問があったと思うの」


 ラドルの疑心を見抜いたような洞察でエティアがその因を口にする。

 それを聞いたセルフィナはその疑念を晴らす為、今の身上を言葉にした。


「確かに私は中央航路街道を中心に旅をしているのですが……この度屍人騒動がここティラーニアで起きているを耳にして鎮魂の唄を捧げに王都エルバンスにまで向かう途中なのです」

「王都に行くの?1人で?」

「最初は護衛の方を雇っていたのですが……今夜の騒ぎで……その、置いていかれた、というか。気がついたらもう側に居なくなっていたのです」


 要は護衛が逃げ出したという事か、とエティアたちは結論づける。


「そこで一人でどうしようか迷っていた時に屍人に襲われて、あわやというところで屍人がいきなり目の前で燃え出しなんとか助かったのです」

「という事は」

「はい。ただならぬお力をお持ちの貴方がたに護衛を受けて頂きたいのです」

「断る」


 言うが早いか、ラドルは即座に返答する。


「俺たちの目的は王都ではない。余計な道草をするつもりはないんでな」

「そう、ですか……」


 がっくりと肩を落とすセルフィナ。

 とまぁラドルの性格はある程度分かっているエティアはその宣言を撤回させる。


「いいじゃない。私たちの目的地はティロン神教総本山でしょ?王都エルバンスは途中で寄るつもりだったじゃない?」


 それを聞いて、またか、とラドルは辟易する。

 この少女は要らぬ事柄に敢えて首を突っ込んでいく。

 同行を許しているのは自分であるのにこういう時に話の主導権を握ってしまう。

 突っぱねる事は容易いがそれで彼女が退いた事は一度だってなかった。

 確かにエルバンスはティロン神教総本山の途上にある。少し立ち寄ったところで1日2日程度のロスであらうがラドルはそれを納得する事が難しかった。

 何故なら神が生まれた、という話はティラーニアに入ってからと言うもの噂一つ聞かない。

 聞こえてくるのは屍人の噂ばかり。

 一刻も早く真偽を確かめなくては大事になる。

 そう思うと1、2日のロスも失いたくはないというのがラドルの本音であった。


「エティア、そういうなら君が彼女を護衛してやれ。俺は一向に構わない。好きにすればいいさ」

「だめだよ!ラドル君は私の監視下にないと!」

「……この際、君に対してはっきり言っておくが。俺はいつだって君を撒いて監視とやらの目から逃げられる。俺は君の監視ごっこに付き合う義理も義務もないんだ。それとも神罰とやらを諦めるか?」

「そんなわけないじゃない!ラドル君を助ける意味も含めて私がついていかないと意味がないわ」

「だったら俺を君の都合に巻き込むな」

「むむむ」


 途中からコソコソ話に移行して言い包められるエティアの口は横に波打ったようになっている。

 そんなやりとりを少し離れた位置から見ていたセルフィナはおずおずと2人に声をかける。


「あ、あの。別に王都までとは言いません。その近くまでご一緒させていただければそれでいいので。何とかお願い出来ませんか?」

「同行するだけならいいじゃない!ね?ラドル君」

「……まぁ付いてくるだけならな」


 やれやれ、また同行者が増えるのか、先程とは違う辟易さがラドルの胸を占めていた。

 だがそれは意外な別の方向から払拭される結果となる。


「あの……この度の屍人騒動を鎮圧していただいたのは貴方がたですかな?」


 更に声をかけてきたのは初老の男。

 白い髭と髪をたくわえたその容姿から恐らくこの宿場町の町長だろうか。

 一同の視線を浴びて一礼するとやはり町長だという。

 その町長が言うには今回多くの屍人が現れたがその多くはこの町の住人であったらしい。

 その肉体を改めて葬り、その霊を慰めたいというのだ。

 一向には僧籍の人間が2人いるのなら一人残ってその手助けをしてもらいたいと町長は懇願した。

 となると。ラドルは自分に追随する女司祭にそれを振る。


「レナ、お前は残って手伝ってやれ」

「で、ですが」

「アス。お前も残ってレナを守ってくれ」

「分かった」


 二の句を次がせない命令にレナは黙って首肯する。

 アスに至っては当然と言わんばかりに即答だった。

 エティアは自分から離れる事を容認しないだろうしレナが妥当と判断したのだが。

 見るからに肩を落とすレナに一言声をかける。


「エティアじゃ上手く死人たちを送れるか分からん。お前が適任だ。頼む」

「……分かりました。ただ一つだけお願い申し上げます。要らぬ殺生は極力お控えを」

「それはその時々の状況によるな。だがまあ努力はするさ」

「はい。よろしくお願い申し上げます」


 にこ、とまだ少しの落胆をその面に残しながらも健気に笑みを浮かべる。

 だが多くの屍人を一瞬で焼き尽くしたその力を見せつけたラドルに対してレナは自らの力不足を痛感していた。

 もっと神聖魔法特化の力を身につけなくては主人に助けてもらうだけの足手まといは本位ではない。

 きゅ、と口を強く噤みながらラドルに対して請願する。


「ラドル、合流するとしたらどこにする?まさかまたお前を探して当てもなく彷徨うつもりはないぞ」


 アスが尤もな疑問をラドルに問いかけるとラドルが返すよりも早く、


「じゃあ王都!王都のギルド板に伝言残せばまた合流できるよ。ね、それならいいんじゃない?」


 エティアがラドルよりも早く自分の希望を提言する。

 ラドルがその際見せた倦怠的な視線はこの際無視して話を進めるとセルフィナに相対し、


「セルフィナさん、だから私達が王都に行くまでゆっくりしていて。その歌声も聞きたいしね」

「それが本音か」

「ふふ。ありがとう、エティアさん」

「あ、私の事は呼び捨てて。さんとかつけられるとむず痒くて」

「そう?じゃあ私の事もセフィと呼んで。実は堅苦しいのは苦手なの」


 そんな二人のやりとりを見ていたアスはレナをチラと視線を送る。

 その意を汲み取ったのかすぐさま、


「私は他人には敬意をもって対します。そこに当人の意思は介在しません」

「……そうか」


 そう言い放つ女司祭は街の子供達以外には敬称を付けていないのは目の前の死神だけなのだがそれを聞いたアスの面貌はどことなく喜色を滲ませていた。




 そのまま場は一旦解散し、ラドルはアスと同じ寝室で語る事もなく黙々とただ時を浪費していた。

 互いに口数の少ない性分からか沈黙の間でもそれを苦にしたりはしていない。

 しばしの沈黙を破ったのは巨躯の死神からだった。


「……ラドル。一つ聞いていいか?」

「やれやれ、今夜はやたら質問責めにあう日だ。なんだ?」

「……お前、エティアをどうするつもりだ?」

「……エティア?」


 予想外の切り口だった。

 自分の出自や目的、企みなどを聞かれると予想していたがまさか自分のことでもレナのことでもなくエティアのことだとは想定外だった。

 そう思うと同時に疑問も覚えた。


「……てっきりレナや俺の過去やらの質問だと思っていたが。何故エティアの事だ?」

「お前が先程言っていた言葉。エティアの監視ごっこなんかに神滅者たるお前が付き合う理由がない。言葉の端々にもアイツが煩わしいと感じる節がある。いざとなればアイツを殺して自由になる事くらい造作もないだろう?違うか?」

「……まぁ違わないな」

「であるにもかかわらずお前はアイツの半分趣味のような監視ごっこに付き合っている。そこに何かしらの意図があるように感じる」


 やはりこの男は目敏い。

 一見何の興味も無いように見せておきながらその実、この一団で最も警戒と配慮を見せているのは目の前の死神と呼ばれる巨躯の男だった。

 そんな男がいつの間にかこちらをじっと見据えて視線を投げかけていた。

 その問いに対してラドルはどう返そうか僅かに思案してみた。


「……そうだな。正直彼女の事はよく分からん」

「はぐらかすつもりか?」

「いいや、至って真面目に考えてみた。だが……行きつく答えはやはり、『よく分からない』だ」

「というと?」

「まぁ確かにお前の言う通り、少々煩わしい面はあるが彼女は俺が神滅者だと分かっていながらこうまで同道を望んで今日まで共に来ている。普通の年頃の少女なら失禁して気絶してもおかしくない程度に世界は俺を敵視している。そんな彼女は俺を更生させるとまで宣っている。俺が聖王女を殺したにも関わらずだ。そんな彼女が俺にどんな神罰を与えるつもりか正直興味はある。彼女をどうするか、どうしたいのか。それは彼女の努力次第と言ったところだ」

「だからよく分からない、か」

「まぁそうだ。だがな」


 一拍間をおいて出てきた言葉は。


「俺は誰も味方だの、仲間だのとは思っちゃいないんだよ」



 ーーーーーーーーーー



 ラドルとアスが互いに思いを話していたその時。

 階下では話の渦中の少女が歌姫と呼ばれる女性と沐浴していた。


「もう夏だねぇ、汗まみれで水浴できるのは助かったぁ」


 そう話すエティアは井戸から汲んだ水を張った桶に麻布を浸らせてきつく絞る。

 僅かに水気を含んだ麻布で何一つ身につけていない上体を擦るように強く拭っていく。

 その様子を同じように上体裸になっているセルフィナがじっと見つめる。

 その視線に気づいたか、エティアは無意識に前を腕で隠してしまう。


「あ、ごめんなさい。つい見入っちゃって」

「見入るって……どこをよ……」

「そりゃあ、決まってるじゃない。凄くスタイルがいいもの」

「もう言われ慣れたけどね……私自身は普通だと思っていたんだけど。そういうセフィだってスタイル抜群じゃない」

「ふふ、ありがと。でもエティアに言われたら嫌味に聞こえるかも」

「そんなことないのになぁ……」


 そんなやりとりで2人は先程出会ったばかりとは思えないような感覚で会話に花を咲かせながら沐浴をこなしていく。


「そういえば」


 急に話題を変えてきたのはセルフィナだった。


「貴方達はどういう関係で旅をしているの?ただの冒険者…というわけじゃないでしょう?」

「ん……まぁね。詳しくは話せないけど……私の中での決着点を見つける旅、って感じかな」

「そう……じゃああのラドルさんってどういう方?」

「え?ラ、ラドル君?なんで?」

「……気を悪くしないでほしいんだけど」


 少し考える仕草を見せてセルフィナはエティアに向き直り言葉を継ぐ。


「彼……ラドルさんとはこれ以上旅をしない方がいいわ。それがきっとエティア、貴女の為になる」

「……え?」


 ザザッと夜風が戦ぐ夏の夜に濡れた肌がセルフィナの言葉で少し寒気を覚えるエティアだった。

お久しぶりです。

ようやっと52話投稿します。

今回、パーティを分けようか迷いましたがあまり大人数になると会話がごちゃごちゃになるので一旦二手に分けることにしました。

で、この歌姫編。少し考え考え進めている為改稿が多々あると思いますのでちょくちょく見に来てくださると助かります。

推敲しながらだと尚更投稿スピードが遅くなるのは目に見えていますが御容赦下さいませませ。

感想評価お待ちしてますのでよろしくお願いします。

ではまた次回〜(^ ^)

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