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蒼穹の神滅者(シルヴァリオ)  作者: 1
第2章 堕ちる世界
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第51話 歌姫編 〜不死者〜

 ベラシアス大陸の中央部に位置するティラーニア王国は中央航路街道を有してはいないものの、その温暖な気候、肥沃な土地、風光明媚な景色で大陸でも上位の幸福度指数の高い国家として名を馳せていた。

 大陸でも有数の良港を保有するシアルナ内海はローバンス外海への玄関口となり、エグバリアス山脈もまた王都エルバンスから望む事が出来る、まさに自然に愛された天然の観光地とも言える。

 ティラーニア王国はその裕福さから豊穣の女神ティロンを崇め国教としたようにその恩恵を余すことなく享受していたのだが。

 とある出来事を境に異変が起き始めていた。

 辺境とも言える村々で墓地が荒らされるという事件が頻発していたのだ。

 その墓地は一様に外から掘り返したという痕跡ではなく内側から掘り起こした感じであるという事実が周辺住民に不安と恐怖を与えていた。


「未練が残ったまま死亡すると悪霊と化す事があるがティラーニア王国はそう言う不幸と言った類からは無縁だと思っていたがな」


 アスが宿場町の酒場でエールを傾けながら独りごちる。

 ティラーニア王国には日が落ちる前には入国していたのだが入国審査で手間取った事もありようやく一息つける宿場町までたどり着いたのは夜も更けた頃合いである。

 手間取った理由は当然現在のバルカード神聖王国の厳戒態勢を警戒してのことである。今現在はグルトミア帝国に対してのみの宣戦ではあるが軍事力が動く以上それに対する対応は備えなければならない。

 結局、エティアとレナの教会発行の身分保証が功を奏し、無事入国できたのだが。

 何かと巷が騒いでいるのは何も外交上の名目だけではなかった。

 前述のような墓地荒らしのような騒動も手伝って国全体が静かな混乱が芽吹き始めていたのだ。


「豊穣の女神を崇めて幸福度の高い国といっても所詮総体的な情報だからな。人は生きている限り悩みもするし不幸な事だってある。幸せだけが感じられる国が存在するとしたらそれは等しく人の生き方を逸脱し錯覚した歪んだ国だ」

「……人の生き方が豊かになるのは良い事のはずですが……一体何が起きているのでしょうか」

「このベラシアス大陸を騒つかせた張本人が目の前にいるがな」


 エールを飲み干してアスが軽く皮肉るも当の本人はどこ吹く風である。

 そんな時エティアが話題を変えようとしたのかレナに話をふる。


「そういえばさ、豊穣の女神様って何か特徴があったよね?何だっけ?」

「はい、豊穣の女神ティロン様はその御髪(おぐし)が途轍もなく長い見目で有名ですね。その髪一本を掴めば飢える事無く乾く事無く涙を流す事は無いとし、遍く全ての人々を満たすと言われています」

「女神様って皆髪が長いよね?何でだろ?」

「女神様の御髪は神秘性を高める為と言われていますが確かに短い女神様がいてもいいかもですね」

「そういやレナも髪短いよね?何か拘りがあるの?」


 レナは肩に掛からない程度のいわゆるショートボブというような髪形だが別段これといって特別な理由はなかった。強いて言うなら動作の邪魔にならないようにする為、くらいにしか思っていなかった。

 だがエティアの鮮やかな長く紅い髪は女性としてある種の憧憬があるのもまた事実だった。


「……そうですね。今までは目が見えなかったので短い方が都合が良かっただけなのですが。伸ばしてみるのもいいのかもしれませんね。いかがでしょう、ラドル様?」

「……ん?レナの好きにすればいい。髪が長いのも短いのもお前には変わりないがな」


 その返事にエティアはげんなりした。

 レナの気持ちを微塵も考えない発言。

 朴念仁にも程がある。

 全く神使とはこんなにも達観した物言いしかできないのだろうか。

 マースも感情の起伏はあるがどこか浮世離れした雰囲気を醸し出していた。

 簡単に言うと春の枯れた存在。

 そんなラドルを見て少し苛立ちがむくりと頭をもたげた。


「ラドル君、もう少し女心を勉強した方がいいよ?」

「なんだ、女心とは?別に俺は聞かれた事に対して素直に返しただけだが?」

「もう!ラドル君は見た目いいだけの朴念仁なのは知っていたけれど……長年生きていても恋人とかいた事ないんじゃないの?」

「恋人か。まぁ今は必要ない。居ても邪魔なだけだ」


 その言葉を聞いて女性2人はピンときた。


「今は、ってことは昔はいたの?」


 エティアが食いつく。

 レナは目を輝かせる。

 しまった、と思うも時すでに遅かった。


「ねぇねぇ、どんな人だったの?ラドル君の恋人って?」

「あのな……」

「エティア、その辺にしておけ」


 予想外の方向から水を差された。

 その発言の主は誰あろう、アスだった。


「そいつの過去をほじくり返した所で何も変わらん。話すならこれからの事にしたらどうだ」

「むぅ、何よアス。気にならないの?ラドル君の過去」

「気になる事はある。ラドル。何故お前はそんな事を続けている?」

 そんな事。

 それは勿論神を(ころ)す事。

 だが周りには自分達以外の人間が多くいる。

 過激な発言は控えて遠回しに目の前の男に直接問い質す。

 神滅者と死神はじっと互いに視線を外すことなく見合っている。

 エティアとレナも自分たちの質問とはベクトルの違う問いかけに耳を傾けている。

 3人の視線にラドルは一つ水を再び口にして喉を潤す。まるで今から語る言葉を整えるかのように。

 コト、っと水が半分残したグラスをテーブルに置くとゆっくりとその言葉を紡ぐ。


「……俺がしている行いの目的か。そうだな、俺に同行するのなら話しておこうか。それを聞いて同行を中断する材料にしてもいい」

「……話して。ラドル君の旅の目的を」

「……俺の数千年の行いを語るには少しばかり騒がしい場所ではあるが……まぁいいだろう」


 ラドルはすっと目を閉じると一つ呼吸を吐きながら言葉を選ぶように。

 訥々と語り出した。


「俺の旅の目的。それは……神を必要としない人類の進化を促す事だ」


 3人は絶句した。

 事もあろうに出てきた言葉が誇大妄想よろしく荒唐無稽な寝物語のような宣言だったからだ。

 余りにも抽象的な言葉にエティアは鸚鵡返しに聞き返す。


「どういう……意味?神様を必要としない、人類の進化って?どういう事!?」


 エティアの大きな声で周りの他の客がジロッと視線を投げかけてくる。

 レナが一つ頭を下げて謝罪すると、会話遮断の結界を薄く張る。そのままラドルの答えに耳だけに集中する。


「……進化、というのは少し大仰ではあったな。まぁ簡単に言えば神に頼らずヒトの力だけで生きていく世界に変え革める。人類の為に。そういう事だ」

「なんでそんな事を?」

「その目的に辿りつく過程は色々あったがな、人は神に頼り縋りすぎている。今の世界は神という目に見えない、姿も現さない、言葉も出さない、救けもしない、だが存在だけは確認させて遥かな頂から人類を見下しているのを当然のように人々は受け入れている。そんな盲目的信仰が俺は何よりも危ういと考えている」

「それはラドル君が決める事じゃないよ!人は神様にその日その時を生きられる事に感謝して幸せを感じるんだよ?」

「何が幸せか、それを議論するつもりはない。ただ俺はこの世界に神は不要。そう思い、剣を取っている」


 ラドルの目的は神を滅す事で人々の自立を促すこと。

 そう言い切った。

 エティアはそれを聞いてマースの言葉を思い出した。


 ーーあいつのしている事は間違っている。人の目からしたらな。誰にも理解されない、自己満足なモンだからな。


 自己満足。

 そんなレベルではない。

 傲慢を通り越して尊大を通り越してまるで自分が神であるかのような思考。

 エティアはそれが理解出来なかった。

 ーーだが。

 彼は言った。

 人類の為だと。

 それをどういう意味か聞かない事にはまだ彼を断ずる事は出来ない。

 そう思うとエティアはゆっくりと問いかける。


「人類の為にって……神様に頼り縋る事の何がいけないの?」

「……それは」


 その時だった。

 バタンッと酒場の扉が荒々しく開いた。

 開けた主は農夫と思しき中年の男が息を荒げて一言叫ぶ。


「ぐ、屍鬼(グール)だ!屍鬼がこちらに大挙してやってくる!早く逃げるんだ!!」

「話の腰を折られたな」

「行こう!皆を助けなきゃ!」


 やれやれ、と腰をあげるアスと素直に応じるレナ。

 だが一番の戦力である筈の蒼髪の騎士はその場から動こうとはしなかった。


「ラドル君も!早く!」

「……後から向かう。すぐに追いつく」


 そう言うと剣を手にして裏口から出て行ってしまった。

 一体なんなんだ、と思いながらもエティアは駆けてその場を離れる。

 少し走ると宿場町の門が見えてくる。その入り口にはすでに多くの屍鬼がゆっくりとした、覚束ない足取りで上体を揺らしながら町に一歩ずつ確実に近づいていく。

 その姿は生きている人のそれではなく、土気色の肌、腐食した皮膚、土で汚れた衣類。

 何より生気の無いその姿はもはやこの世のものではなかった。


「な、何、この数……」


 一体一体は大した力のない屍鬼ではあるのだが大抵屍鬼が単体で現れる事は少ない。

 多数でもって初めて脅威になりうるのだ。

 だが目の前の屍鬼の数は予想以上だった。

 10、20とかではない。

 200、いや下手したら300はいるかもしれない。

 その数を見て流石に少し気後れしたエティアにアスが一声かける。


「なんだ、怖気付いたか?なら俺がまず先駆ける。レナ。援護を」

「ええ。気をつけてアスカル」

「……エティア。お前がここで踏ん張らねぇと後ろで隠れてる奴等がまた屍鬼になる。お前の覚悟ってのは……その程度のもんか?」


 そう言い捨ててアスは単身死人の群に一人突喊する。

 そのまま勢いに任せて一体、また一体と次々に屍人を斬り伏せていく。

 まるで台風のように近づくモノ全てをバラバラに吹き飛ばす。

 だが300という物量差は如何ともしがたく、アスカルは次第に囲まれていく。

 エティアはそれを見てアスを援護しようと奮い立つ。


「あーーもう!見てらんないわね!大口叩いておいてなんてザマよ。レナ!対魔魔法二重掛けいくよ!」

「はい!」


『『地の底へと還れ 常闇の住人よ 光の射手よ 忌まわしき影を打ち払わん リーグ・エレベア・レーグレア 退魔閃(シープ)!!』』


 エティアとレナが息を合わせて放つ退魔魔法による優しく暖かい光が夜の帳が下りた周辺を照らしだす。

 その光を浴びた屍人達は次々と倒れ伏せていく。

 やがて倒れた屍人たちの身体から白い靄のようなモノが浮き出していく。

 強制的に縛られた擬似魂が身体から離魂したのだ。

 その魂が抜かれた肉体はそれまでと違いどこか安らかに見えた。

 レナとエティアは互いに見やり一つうなづくと続けて退魔魔法を放つ。

 しかし。


「くっ!数が……多すぎて……!」

「レナ!!」


 アスがエティアとレナを囲む屍人たちを斬りふせる。


「ち、埒があかないな。ラドルはどこに行った?」

「後から合流するって言っていたけど……」

「まさか逃げ出したか?」

「そんな事はあり得ません!」


 アスの言葉に激昂するレナに少したじろぐもアスはこの状況の打開に頭を悩ます。

 そうしている間に。


「きゃーー!」


 絹を裂くような悲鳴が夜の無音(しじま)に響く。


「くそっ!侵入を許したか?」

「アス、レナ、私が行く!ここを頼むわ!」

「その必要はありません」


 駆け出そうとしたエティアを制止した声。

 それは宙に浮いていた魔獣からだった。


「ローグ君!」

「やれやれ。命を軽視する事に憤る貴女がこんなザマでどうします」


 そう言って屍人たちを見ると無数の鋼糸が例のごとく絡まり貫いている。


「これでしばらくはもつでしょう」

「だがいつまでもこのままではいかないだろう?」

「ご安心を」


 そこまで話すと。

 ぼっと屍人たちが青い炎に包まれる。


「これは……?」

「ラドル様?」


 レナがふと見上げると民家の上にラドルが魔法を行使していた。

 聞いた事がある。

 死に蝕まれた亡者を強制的に死界の鬼火で焼き尽くすという高等魔術を。

 退魔魔法の中でも上位に位置するその魔法は大司教クラスでも難度の高い術式として有名だがまさか自分の主人がそれをできるとは。


「さすがラドル様ですね。これでこの一帯の屍人騒動は収まるのではないでしょうか」


 動ける程度の屍人も焼き払われたことで二度と立ち上がることはない。

 ほ、っと胸を撫で下ろす。

 だが。

 そこかしこから今度は泣き声が聞こえてくる。


「親父……こんな……こんな事ってあるかよ……!」

「ああ、貴方……なんて姿に……う、うう……」

「神さま……どうして、どうしてこんなことになったのよ!わあああ!」


 聞こえてくるのは当たりどころのない無念の嗚咽。

 胸を撫で下ろしたのも束の間。

 既に亡くなった人間を蘇らせる事はラドルといえども無理な話だ。

 僧職の2人は先程の笑顔も何処へやら見るからに落ち込んでる。


「こんな事でいちいち落ち込んでる暇があるのですか」


 そんな2人に辛辣な声を掛けるのは。

 小さな黒い魔獣だった。


「人はいつか死ぬもの。貴女はやれる事を。やるべき事をした。それで満足できないのならそれは傲慢というものです」

「それくらいにしておけ」


 ラドルの一言で口を噤むローグ。


「でも、ラドル君、私……」

「……聞こえてくるだろ、住民の声が」

「え?」

「自分たちは何もしていない。だが神は助けてもくれない。それに甘えてただ泣き咽ぶだけの人間。やがてそれは神に対する呪詛になる。それがおかしいとは。誰も気づかない。……君はどうなんだ?エティア」

「わ、私は……」


 エティアがラドルの問いに答えを返せないでいると。

 さく、と背後から草を踏む音がする。

 振り返るとそこにいたのはうら若き旅装の女性だった。

 長い水色の髪を靡かせて藍色の瞳に少し怯えた色を見せて此方を見ている。


「あ、あの……この度の活躍、素晴らしかったです。あなた方がいなかったら私は……」

「貴女は?」


 レナが女性に問いかけると。優しい、柔らかな声音で自らを名乗る。


「あ、申し遅れました。私は旅の歌詩人、セルフィナ・メルドアナと申します」


 ひと騒動あった後とは思えぬ柔らかな夜風が辺りを薙いで行くと月に照らされた歌い女は。

 美しく微笑んだ。

約ひと月ぶりの投稿です。

始まりました、新編「歌姫編」。

今回はラドルよりもエティアのターン的なお話になりますがしっかりとラドルの背景設定も小出しにしながら書いていくつもりですのでお付き合いくださいませ(>人<;)

また長丁場な雰囲気な新編ですがよろしくお願いします!

感想評価もよろしくお願いします。

ではまた次回☆

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