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蒼穹の神滅者(シルヴァリオ)  作者: 1
第2章 堕ちる世界
42/85

第42話 魔法学院編〜呪術〜

 魔法学院の学院長室。

 学院長フィリップが机に向かって顎髭を撫でながら書類の束に目を通している。

 書類の冒頭にはこう記されていた。


 ーー呪術発動時の発現効果とその解除技術の因果関係に対する考察ーー


 呪術。

 かつてこの学院には呪術の麒麟児と言われた女子生徒がいた。

 その女子生徒が残した研究成果は発展途上の学問であった呪術を10年進歩させたと言われている。

 卒業後は街を出て外れの森に自身の研究所を構え、研究に没頭していた。

 やがてその女子は女性となり。

 街の人々は彼女を「沈黙の森の白い魔女」と呼ぶようになり近づかなくなった。

 そして彼女は。

 次第に狂っていったーー。


「……まさに鬼才じゃの。まさかこんな切り口から呪術の威力発現効果を格段に上げるとは。だがそれ以上に」


 フィリップは一枚、また一枚とその研究報告書らしき束にのめり込む。

 呪術はその発動効果から忌避されがちの技術である。

 他人を縛る技術。

 他人を呪う技術。

 他人に約を強いる技術。

 時にそれが対象の命を奪うほどに。

 だが力とは一方的では成り立たない。

 それを解く力。

 解呪の技術があればその価値は跳ね上がる。

 効力向上という剣と解呪技術という盾。

 その両者が揃いその知識技術を占有する事が出来ればその付加価値は片方だけより遥かに上回る。

 基本的に呪術とは解除されてはその意味を成さなくなる。当然だが。

 その為に術者もまたリスクを犯してまでその威力と強化を図るのである。

 時には命と言う対価を支払ってまで。

 それ故に。故にこそ。

 解呪技術という能力は計り知れない知識財産である。


「……惜しいの、これを書いた本人はすでにこの世に無いとは。何があったかは知らぬが……自ら死を選んだとは本当に惜しい。……それにしても、じゃ。あのレナ君が今まで頑なに見せようともしなかった母親の形見を差し出してまで守りたいというあの神滅者は……」


 一拍おいて独白を〆る。


「恐ろしい程の化け物であり、哀しいまでの神の操り人形じゃな……」


 静かに呟き、報告書を閉じる。

 傍らに置いていた紅茶はすでに冷めている。

 そのティーカップの中身を飲み干そうと手をかけた時、コンコンと少し乾いたノックが響いた。

 入室を許可すると警備隊の隊員が一礼して入ってくる。


「学院長。魔道警備隊の出立準備整いました」

「ふむ、バーツ隊長には?」

「すでに準備終了の旨、伝令を出しております」


 一つ首肯し席を立とうとしたフィリップ。

 その時、ぞわりとフィリップの背筋に冷たく走る汗を感じた。

 それはこのハルテージの上空から感じる強大な力。

 バンッと窓を開けるとそこには。


「お、おい、なんだよあれ……」

「あ、暑い……」


 眼下で騒ぐ街人の姿。

 指差す空を見るとあり得ない光景があった。

 空に燦燦と降り注ぎ光輝く太陽。

 それがもう1つ。

 全てを焼き尽くすような熱量を誇るもう1つの太陽がそこにあった。


「あ、あれは……!?」


 フィリップが空を見上げ突如現れたもう1つの太陽を観察する。

 勿論直視しないように。

 手を傘にして見ていると騒ぎを伝えに来た講師が学院長に対して色眼鏡を持って近寄る。


「学院長、これを」


 手持ち式の仮面のような色眼鏡を受け取りもう一つの太陽を凝視する。

 距離があるため目を凝らして太陽を見るとその中央に小さな黒点が見える。

 それはよくよく見てみると。


「……人影?」


 そこまで確認したその時、太陽に異変が起きる。

 太陽の表面から目視出来るほどのフレアが発生していた。

 その意味する所とは。


「……いかん!!」


 異変を察知し、フィリップが首から下げた魔石に魔力を送ると教会都市全体に防壁が張られる。

 瞬間。


 ドゴォォォォォォン!!


 いきなり上空が爆ぜた。

 何とか間に合った防壁によって街は無事だったがその熱波は防げず人々は住居から飛び出してきた。

 爆発の熱波は煉瓦や土壁で作られた建物の内部を灼き、蒸し風呂のような熱さに焼かれ堪らなくなった人々は外に誘われたのである。

 慌てふためき、右往左往する街人は混乱しパニックに陥る。


「くっ!各教会に街の住人を受け入れるよう、通達せよ!この学院も解放!あとバーツ隊長に警備団の避難誘導の協力を要請するのじゃ!」

「はい!」

「一体……何者じゃ……?こんなバカな力を持つとは……!」


 講師が慌てて出て行くとフィリップもまた浮遊落下の魔法で窓から学院の中庭に降り立つ。

 そして他の講師たちや上位学徒と共に防壁魔法の儀式魔術の法陣を組む。

 陣の中央に学院長、中円陣部分に講師陣、外円陣部分に学徒達が配置される。

 魔法陣が組まれると学院長の合図と共に防壁魔法を発動させると先程フィリップ単独で発動させた防壁を遥かに上回る強固な防壁が現れる。

 その行為を周囲の熱さとは対照的に冷ややかに見下ろす存在がいた。

 言わずもがな小太陽を作り出し、ハルテージを混乱に突き落とした張本人。

 グルトミア十星将序列2位、紅星のダルタニアだった。




「ふふ、小癪な真似をする。羽虫が群がって何をしようというのかしら。あの様な薄幕一枚龍の吐息1つでかき飛ばしてあげるわ」


 そう言って右手を上方にかざすと背後に燃え続ける小太陽から再び火柱が幾つも立ち上りあたかも火龍のように意思を持ち分離する。


「さぁラドル、早く出て来て……。でないと街が1つ消し飛ぶわよ?……まぁ消し飛んだ所でラドルだけは生き残るし、その方が手間が省けていいかしら?うん、そうしましょう」


 そう独りごちるとダルタニアはその視線を落とし一際大きな建造物である魔法学院学舎に照準を定めて破壊の化身たる火龍をけしかける。


「ーー死ね、愚者たちよ」


 ドォォォンッ‼︎


 ダルタニアの柔らかくも残忍な一言と共にハルテージが誇る魔法学院は火に包まれるーー筈だった。


「……へぇ」


 ダルタニアは少し意外な結果に少しの苛立ちを隠さなかった。

 火龍が学院に直撃する前にフィリップ率いる魔法学院の面々による必死の防壁魔法陣によって何とか事なきを得ていたのだ。

 しかも今度は熱波さえも完全に防ぐ空間遮断の魔法を同時に行使して。

 だがその代償は大きくフィリップ始め講師たちや上級学徒達がその場で膝をついてしまう程の疲労を被っていた。


「な、何者じゃ……!これ程の火力、まさか……」

「そうよ、多分貴方の思う通りの存在よ」


 ゆっくりと浮遊しながら降下してくるダルタニアはフィリップの言葉が聞こえるところにまでいつの間にか来ていた。

 とん、と軽い音を立て学院上階のテラスの手摺に立つ。


「グルトミア帝国の……紅星のダルタニアか……?」

「正解。で?ラドルは何処?」

「ラドル……?彼に一体何の用じゃ?」

「お前には関係ない」


 そう言ってつい、と人差し指をフィリップに向けてその指先が光ると。


「うごぁぁ!?」


 それなりの魔法防御を付与された講師套をいとも簡単に焼き尽くす。

 その火はそのままフィリップを焼きのたまわらせる。


「学院長……!」


 講師の一人がフィリップを助けようと冷却魔法を発動させる。

 しかし力の差があるのか、疲労困憊の講師の魔法ではダルタニアの火は消せない。


「別にラドルに義理立てするような関係でもないのでしょう?さっさと吐けばその火、消してあげるわ」

「うぉぉぉっ!あ、熱い!」

「……つまらないわね、じゃあ勝手に探すから貴方はそのまま火葬になっちゃいなさいな」


 とダルタニアはフィリップに興味を無くしてバイバイと手を振りながら踵を返そうとすると。

 自分の魔力が掻き消えた気配がした。火が消えた。

 自分の魔力を無効化できる存在など一人しかいない。それは自分が求めてやまない存在。

 その姿を期待して振り返るとそこには。

 かの孤高で気高い存在の神滅者とはほど遠い。

 一人の男子学生であった。


「なんだ、貴様は」


 目当ての男とはかけ離れた取るに足らない虫のような存在。

 そんな虫の如き一介の男子学生が自分の火をかき飛ばした。

 その事実が一層彼女の苛立たしさを引き上げた。


「なんだもくそもねぇ!俺はディアス・バルデス!テメェこそ何者だ!」


 ディアスがフィリップの火を消えたのを確認すると後方に控えていたイアンに引き渡す。


「ディ、ディアス……無茶しないでね」

「いいから引っ込んでろ!奴は俺が相手する!」

「馬鹿!アンタ一人で何ができるのよ!私たちが!やるのよ!」


 ディアスの無謀とも言える発言に否を唱えたの翠髪の少女エリナだった。

 ダルタニアはその取るに足りない羽虫の様な学生たちに一抹の違和感を感じていた。


(こんな未熟で未発達で未成熟な羽虫が私の火を消した?なんだ、この虫たちは他の連中とは少し違う。そんな気がする。それは何故か)


 それはダルタニアの直感と経験からきた所謂、勘だった。

 他の連中とは明らかに魔力の発現力が違う。練度はまだまだだがその魔力の制御は講師と同等かそれ以上だ。

 それが一介の、通り一遍の教示で済ますだけの学生ができる芸当ではない。

 魔力の実戦的な使用法を知っている人間でなければこうはいかない。

 となるとこの羽虫達に教示したのは限られてくる。


「ーーそうか。お前達は……ラドルの教え子か」

「先生を知っているの!?」


 先生。

 眼下の翠髪の少女がそう言った。

 その瞬間ダルタニアの全身から炎が噴き出した。


「ーー死ね」


 低く。小さく。威すように。

 ただ一言発しただけで。

 ラドルの教え子たちに夥しい火弾が襲いかかった。

 ドドドドドッ!!!

 激しくも精確なその火の魔弾は間違いなくエリナやディアスを撃ち抜いた筈だったが。

 魔弾による土煙が晴れても倒れた者は皆無だった。

 これにはダルタニアも少々驚いた。

 ある程度の加減はした。

 だがただの一人も倒すことができないとは信じがたい。何がこの目の前の有象無象たちに力を与えたのか。

 ダルタニアは刹那、思考の網に囚われていた。


(認識……!力は其処にある!魔力は自分の中にある!大きな、制御出来る力がこの手の中に!それを認識し、感じ、理解する!それこそが先生が教えてくれた魔力の底上げ。魔力の使い方。だから。私たちは今、生きている!)


 エリナはラドルの言葉を、教示を反芻していた。

 そしてレナのあの言葉も。

 自分の中にある力を感じて認識する事で自在に力を扱う事ができる。

 例えれば水。

 手の平に雫が落ちれば水だと認識する。

 でも目の前に川があるのを見ればその雫はその川の一部だと知る。

 更に川全体。その源流から海へと流れる大量の水を認識すればその膨大な力を感じる事ができる。


(あのレナ司祭の言葉もヒントになったのは癪だけど)


 少しの反骨を見せながらも2人に感謝するエリナ。

 対象的にディアスは憮然とした表情でからくもダルタニアの魔弾からその身を守り通していた。


「おい、エリナ!いつまで守りに徹するんだよ!」

「先生が来るまで!先生さえ来れば何とかなるからそれまで……!」


 刹那。

 腹部に鈍痛が走る。


「……え?」


 口元から何かが伝う感覚。

 ぱた、とその何かが地に墜ちる。

 その何かとは。紅い玉雫だった。

 地に墜ちたその紅い雫を確認した際に自らの腹部の異変に気付く。

 身体から妙な金属物が突起している。

 やけに反応の遅い首を捻って背後を見ると上方に居たあの女がそこに居た。


「羽虫がより集まったところで何ができると思ったのか。貴様ら程度がラドルの保護を受けるなど万年早い」

「エリナ!?」


 少女を貫いたダルタニアの剣を乱暴に引き抜かれると意識を失ったエリナは身体をくるん、と引き抜いた反動で横方向に一回転して。

 とさ、と地に伏せた。

 思っていたより軽い音とともに倒れた少女を見下すダルタニアはぶん、と剣に滴る血を払う。


「てめぇぇぇ!」


 エリナを斬られた事で激昂したディアスは魔法学院生らしくなく拳を握りダルタニアに殴りかかるがなんの経験もない、魔法使いでもない素人の白打が世界にその名を轟かせたグルトミア十星将最強と言われたダルタニアに当たる訳もなく、飛び出した勢いに疎かになった足を掛けられ派手に転がる。


「いい加減に飽きたわね。羽虫が何匹もいれば煩わしいし少し本気をみせてあげようかしら」


 そう言うやいなや、ダルタニアの足元に巨大な魔法陣が展開された。

 その大きさにラドルの教え子たちは驚愕した。


「お前たち、爆縮魔法って知っているかしら?」

「ば、爆縮……?」


 爆縮は通常の爆発圧力を外部へ解放するのではなく、内側に高速、均一、高火力で圧力をかけることで通常爆発を遥かに凌駕する超高温エネルギーを得る事ができる現象であるがその威力故に魔法による爆縮は禁忌とされてきた。

 だがダルタニアは自らの魔力と魔力制御によってそれを可能にした炎の龍に相応しい力を得た。

 そんな爆縮の意味を唯一知るイアンが震えながら口を出す。


「そ、そんな爆縮なんて……使ったら……この街だけじゃなくて……」

「あら、勉強熱心な学生もいたのね、でも心配する事もない。痛みも何も感じる間も無く燃え尽きるから」


 にこ、と微笑むダルタニアの魔力が急激に膨張していき魔法陣内の魔力濃度が高まっていく。さらに手を高々と上げて開いた掌をグッと握ると魔法陣が強く発光しだす。

 狂気染みたダルタニアのその瞳が妖しく光る。


「さぁ!灼け死ぬ時よ!」


 振り上げた拳を魔法陣に突き出すと、魔力が暴走するように赤く赤く更に強く光り臨界を突破しそうになったその時。


「!?」


 急に魔法陣の発光が止んだ。

 ダルタニアが事態の把握に努めようとしたその時辺りを見渡すとまた一人知らない顔がこちらを鋭い目で睨みつけてきた。


「……誰?」

「荒ぶる炎の使者よ。これ以上この場での狼藉はおやめ下さい。でなければ慈愛神リューディアの名において貴女を制圧します」


 それは慈愛神の司祭レナだった。

 いつも花が綻んだような笑顔を崩した事のない彼女が似合わない程に眉を吊り上げ怒りの表情を見せている。

 その瞳はダルタニアとは対照的に美しくも強い意志に満ちた、しかし少しの怒気も孕んだ清冽な瞳だった。

 ダルタニアはその姿を見て普通の羽虫ではない、と少しの興味を惹かれたからか一言聞いてみる。


「貴女、名前は?」

「リューディア神教の司祭、レナ・ファンリューと申します」

「何をしたの?」

「僭越ながら貴女の魔力と魔法陣を無効化させていただきました」

「どうやって?」

「知りたいですか?」

「ええ」


 短いながらも互いを探るような会話。

 その頃には今までの怒りは微塵も感じさせないいつもの笑顔をみせるレナ。


「ですがしばしお待ち下さい」

「……?」


『癒せ 神の御力 我が身 我が命 我が魂にて全ての者に神の愛が賜わらん事を 聖なる天秤にかけられるは慈悲と愛なり 光あれ 快癒瑠璃光(ファナーフ・エル)


 祈るような立ち姿勢で胸の前で組んだ両の手から眩いばかりの光が溢れ出る。

 ゆっくりと手を開き花弁を優しく散りばめるような仕草で光を放るとレナを中心に目に見える学徒、講師たち全員の足元に光の輪ができ、その輪の中にいるとダルタニアによる火傷や負傷がみるみる治癒されていく。

 それはダルタニアに瀕死の負傷を受けたエリナも例外ではなく次第に血色が良くなりやがて静かな寝息が聞こえてくる。


「なに……広範囲治癒魔法だと……?しかもかなりの回復力だ。……成る程、やはりただの小虫ではないということか」


 自分の勘が当たりを得たことに少し気分を良くしたのかレナを羽虫から小虫へと上位変換している。

 そしてその力もまた認めた事も意味していた。

 わずかに口角を上げるとレナもそれに応える。


「いいえ、私などまだまだ未熟。ですが未熟な身なれど精一杯抵抗させていただきます」

「で?私の問いの答えは?」

「もうお見せしていますよ」

「なに?」


 そう言うとレナがパンッと柏手を打つと。


 キィンッ!!


「なにっ!?」


 ダルタニアは驚愕した。

 甲高い音と共にダルタニアはぞわっと背筋が凍るような怖気を感じたのだ。その怖気と同時に自らの異変に気付く。

 自らの身の自由が利かなくなっていた。

 精霊が騒いだり魔力が発動した気配はなかった。

 なのにこの現象は一体?

 レナをキッと睨み付けると目の前の司祭は次の行動に移っていた。

 懐から小瓶を取り出すと更に取り出した羊皮紙に振りかける。


「あれは……血か?そしてあの羊皮紙にある文様は……呪いの術式!?まさか……貴様呪術師か!?」

「まさか。私はただ一介の司祭に過ぎませぬ。ですが出来る事はまだあります故」


 その血は蛇の血である。

 蛇は神の敵として扱われ呪術の効果を向上させると言われてきた。

 そしてその羊皮紙にはこの呪術が対象人物のみの魔力消散と身体拘束の術式が組み込まれていた。

 その羊皮紙に蛇の血を振り返るとまさに血のような赤い光を放つ。


「くっ?うぁっ!」


 ダルタニアが初めて苦痛を口にする。

 その身を縛る目に見えない拘束が更に強く締め付けたのだ。

 その姿を見てレナはダルタニアに提案する。


「いかがでしょう?どうかこの地を去ってはいただけませぬか。私たちは貴女様になんの恨みもございません。まだ被害はありません。今ならば……」

「……ふ。あははは!」


 急な笑いにレナはビクッと体を震わせながら気丈にダルタニアを見据える。


「私とした事が油断したわ。成る程、どうやって私に対する呪術対象照準したか解けなかったけれど、この火ね。私の火から魔紋を奪い私に対する呪術行使を成功させたのか」

「……左様です。この呪術を解き放つ事が出来るのは私のみ。ですから……」

「それはどうかしら?」

「え?」


 一瞬ダルタニアの言葉が理解できなかった。

 だがすぐにその意味を理解する。

 急激に赤く輝く羊皮紙の光が弱まって行く。

 ダルタニアの抵抗力が羊皮紙を通じてレナに圧力を加えていったのだ。

 今度はレナが驚愕する番だった。


「こ、これは……!?」


 その圧力にレナの柔和な笑顔は消え失せて苦痛が滲み出している。

 反対にダルタニアは額から丸い汗を流しながらもその表情は余裕があった。


「強力な呪術であればあるほど跳ね返されたリバウンドはその比ではないという事は知っていてこの私に呪術を掛けたと言う事だな……?」


 徐々に、だが確実にレナの拘束力は圧され始めていく。

 グググっと次第にレナの呪術から解き放つ為に更に全身に力を込めていく。

 やがて。


「私は……龍だ……!炎の龍……火龍(.ダルタニア)だ……!たかが蛇の血如きの束縛が……私を縛る事が出来るはずがあるものかぁっ!」

「ああっ!!」


 ダルタニアの気合いがついにレナの呪術を食い破りそこに発した反動によりレナが後方に吹き飛ぶ。

 同時に呪術行使の要である羊皮紙がボボッと燃え出しやがて炭へとその本質を変える。

 ドサッと吹き飛ばされたレナはゆっくりとその身を起こそうとすると左腕に激痛が走る。

 見ると肘を中心にきめ細やかな肌はそのままに白かった肌が炭のように黒く変色していた。


「うぁっ!こ、これは……?」

「跳ね返されたリバウンドのようね……。ふふ、その白い肌が黒く変色しているわね」


 ゆっくりと自由になった身体でレナに近づくダルタニアの手には火剣がいつの間にか存在していた。


「ここまで私に力を使わせたのは本当に久しぶりね。ラドル以来じゃないかしら?」

「ラドル様の……?」

「ラドル……様?もしかして……そうか、貴女ね。緋の糸が切れた因は」


 ダルタニアの言葉に知らない単語が出てきても今はそれどころじゃなく、苦痛と不理解に顔が歪むレナ。


「そう言えば、朝方にミスリス湖で薙ぎ払った2人も貴女の仲間?まさか貴女もラドルを監視するとか言うのかしら?」

「2人……?まさかアスカルとエティアさん……?」

「ああ確かそんな名前だったわ。まぁ死んではいないと思うけど。女の方はどうかしらね」

「そんな……エティアさんが……?」

「で?貴女はラドルの何なのかしら?……監視者とか宣うのなら貴女の行く道は一つだけど」

「監視者など……私は……母なる神に変わって……あの方を、ラドル様を癒したいと……。身体はもとより……心も……魂さえも……癒やしたいだけなのです」

「癒す……だと?貴様が……?」


 その言葉に険を極めたような反応を示すダルタニア。

 その瞳は怒りという言葉では言い表せない程の怒気を孕んだ色に支配されていた。


「貴様如きが……ラドルを癒すと言うのか!何も知らないこの不遜者が!」

「……え?」


 エティアと同様、レナはダルタニアの急な変貌に思考が追いつかない。


「ラドルはその傷を癒せば……その身は破滅だと言うのに!それを知らぬ貴様が!神の使徒であり偉大者であり救済者である彼の神滅者を癒すとは何たる大不遜!何たる大罪人!何たる異端者か!貴様の様な奴が彼を苦しませる!ラドル・ファークを真の意味で救えるのはこのメルテシス・クロルデシア以外に無いのだ!」

「ファーク……?」

「死ね!この不遜者が!」


 剣を振り上げ、レナの命を狩ろうとしたその瞬間。

 ドンッと足元が軽く爆ぜる。

 振り返るとラドルの教え子達の他にフィリップたち講師陣まで立ち上がりダルタニアに敵意の視線を向けてきていた。

 その中心にいたフィリップが信じられないという表情でダルタニアに聞き返す。


「そ、そなた……今何と言った……?ファークと……言ったか……?」


 だがその言葉には答えず、まさに逆鱗に触れた龍の如き怒眸で睨み付けてくるとダルタニアは遂に堰を切った怒濤のような魔力を解き放った。


「調子に乗るな……!この羽虫共がぁぁぁっ!!」


 それはただの純魔力の放出。

 だがその威力は中位魔法の起こす嵐にも匹敵し、周りにいた生徒講師は全て壁に叩きつけられ、気を失ってしまう。

 魔力の放出が収まった時にその場で動くモノはダルタニア一人になっていた。

 だが急激な魔力の大放出によりダルタニア自身にもダメージとは言えずとも疲労は確実にあった。


「はぁ、はぁ……今……灼き殺してやるぞ……この不遜者共が……!」


 先ほどまでの余裕はなく、手に持つ火剣ですら重く感じる。

 だが。

 やるべき事はやる。それが私の使命。あの神滅者の為に。だから。ここにいる彼を惑わす羽虫は全て駆除する。

 その思い一心で気を失うレナに向けて剣を再び振り上げたその時。


「そこまでだ、ダルタニア。それ以上はこの俺が許さん」


 聞き覚えのある声。

 その声はダルタニアの脳を刺激し、蕩けさせる麻薬の様な甘美さを感じる。

 だが気怠い身体の不調により意識はすぐに現実に引き戻された。

 しかし。

 ダルタニアは精一杯の笑顔で。

 ただ一言言い放つ。


「ラドル。……殺しに来たよ?」


今回また2週間もの時間をかけての投稿になりました。

これまたクソ長くなってしまったのはすいません。というのも切りどころが悪くって変に切ったら色々中途半端なテキスト量になったり場面変換とかもできずにいて気づいたら1万字近くになっちゃいました。

だめだなぁ、と反省したところで閑話休題。

前回後半と今回はダルタニアの強さを全面に出したかったのですが意外や意外、レナが結構頑張ってくれました。

レナは言うなればただの回復役だけにとどまらせたくなかったのですが、魔法使いはぶっちゃけラドルがいればいいのでちょっとだけ変化球を加えて呪術師というクラスも付与しました。

というわけでレナの今後の活躍も自分にも読めないという事態が発生。

なんか、あとがきまで長くなってるな。

とまぁこんなグダグタな作品ですが今後ともよろしくお願いします!

感想評価も合わせてお待ちしてます。

ではまた次回!

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