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蒼穹の神滅者(シルヴァリオ)  作者: 1
第2章 堕ちる世界
40/85

第40話 魔法学院編〜拉致〜

 ハァッハァッ……。

 翠の髪の少女がひたすら走り続けていた。

 目的地は皆が居る魔法学院。

 街はまだ知られていないのか然程騒然としてはいない。だが時間の問題だろう。

 何と言っても貴族の子女が拉致されたのだから。

 それもハルテージ一円を統治する貴族の娘が、だ。


 ハルテージは教会都市である。

 その教会の多くが掲げる「博愛・平等・公平」という理念から都市を守備する騎士団は無く、傭兵たちによる最低限の防衛力しかなかった。

 そんな都市を守る警備団は大きく分けて傭兵 組合(ギルド)からの派遣任務による人員と魔法学院を卒業した後学院が保持する魔道警備隊の二つの組織によって構成されていたが両者はやはり、というかその関係は良好とは言えなかった。

 金の為に自分の剣で前線を生き延びる傭兵。

 その出自に恵まれ知識と力を持った魔道士。

 極端な立場の両者が一つ所に集まれば確執が生じるのは目に見えている。

 呉越同舟にもほどがあるが逆に考えると傭兵の立場から言えばさほど外敵からの危険の無い都市で賃金が保証される警備団。

 魔道士の立場で言えば国家機関である魔法学院で自らの研究と警備と言う名目のもと魔法を使用する事が許される権利をもつ警備隊。

 その為居心地の良い職場を失う事を恐れた両者は最低限の関係を維持してその立場を守っていた。

 そしてその両者を束ねる隊長がいる。

 魔法学院を卒業し現在は傭兵 組合(ギルド)に所属するバーツ・ファン・テセウスである。

 攫われたルイーゼの兄である彼は魔道士としても戦士としても優秀で人望も備えテセウス家時期当主として将来を嘱望されていた。

 妹の誘拐事件を聞いて魔法学院に詰問する為に来訪した彼は息急き切って駆けてくる妹の親友を見つけて声をかける。


「エリナ!」

「バーツさん⁉︎どうしてここに?」

「それよりもどう言うことだ?何故ルイーゼが拉致された⁉︎学院は一体何をしていたんだ!」

「……ごめんなさい。私がルイーゼを一人で帰したから……こんな事になってしまったんです」

「……起きた事を言っても仕方がない。魔法学院長に会って警備隊の出動許可を貰う。君も来い」

「その必要はありません」


 2人の会話に割り込むように水を差す落ち着いた声で制する人物がいた。


「貴女は……リューディア神教のレナ司祭か?」

「幾度かお会いいたしましたが初めてご尊顔を拝し恐縮でございます、バーツ様」

「貴女の目が治癒したというのは聞いていた。その件には純粋に喜ぼう。だが今の言葉はどういう意味だ?」

「はい、私の知人であり御妹君ルイーゼ様の担任である方がこの件を終息させると。もう動いております」

「担任?何者だ、それは。そんなどこの馬とも知れぬ男を信じろと言うのか?」


 バーツの疑問は尤もでありそんな言葉を鵜呑みにしては貴族としても組織の長としても失格である。

 そんなバーツに親しい口調でエリナが必死にレナに助け舟を出す。


「バーツさん、私たちの先生はすごい魔道士なの、きっと何とかしてくれる。だから今は先生を……!」

「エリナ、君まで何を言っているんだ!私は貴賎なく君を妹の友人として見ていたがそのような言葉を吐くならば付き合いを改めさせてもらう事になるぞ?」

「……!」


 バーツの貴族としての心根が垣間見えた言葉にエリナは動揺を禁じ得なかった。

 そんな緊迫した空気を和らげる様にカツン、と杖の一突きが響く。

 パァッと淡い光が放射線状に広がるとその場にいた全ての人間に泡立つ心が急速に凪いでいく。


「学院長」

「ファファファ、ホール前で何やら騒がしい声がすると思えばバーツ君ではないか。何を騒いでいるのじゃ?」

「学院長!妹のルイーゼが拉致されたと聞いた。その救出の為に魔道警備隊の出動を許可して頂きたい!」

「……ふむ。ならば一刻を争うが……レナ君、彼が動くとも聞こえたが?」

「はい。午前中にケリをつけると」


 蓄えた白髭を弄りながら一思案するフィリップ。

 ラドルの正体を今追求されるのは得策ではない。彼に渡した認識阻害の腕輪は非対象者の認識外からの情報刺激には当然効果がない。ならば少しでも時間を稼ぐのが吉であると判断したのか、


「……バーツ君の要請は受諾しよう。しかし急な出動故準備に午前中はかかる。その間は我慢してほしい」

「うむむ。了解した。だが急いでほしい」


 多少納得出来ないまま苛だたしげに踵を返してその場を後にするバーツ。

 その後ろ姿を見送るレナに声を掛けるフィリップ。


「これで良いかの?レナ君」

「ご助力感謝致します、学院長」

「何の何の。君から譲り受けた品に比べれば漸く釣り合いが取れたかの」


 2人のやり取りに少し謎めく思いが残るエリナ。

 そこに割り入る事が出来ないでいるエリナを見つけたクラスメイトの面々が彼女の元にやってくる。


「エリナ!ルイーゼが攫われたって本当?」

「犯人は?」

「要求はいったい何だ⁉︎」


 それぞれが思い思いにエリナに詰め寄って尋ねてくる。

 男子も女子もルイーゼを憂懼する。

 これだけでもルイーゼの人柄を示す反応にエリナはラドルの言葉を反芻する。


 ーー皆を纏めておいてくれーー


 自分に対して差し伸べられたあの優しい手の感触がまだ残る髪を自分で撫でる。

 先生の言葉に応えたい。

 そう決意したエリナは毅然とした態度で皆に伝える。


「大丈夫!先生が……ラドル先生が探しに行ってくれたわ。だから絶対!ルイーゼは帰ってくる。だから皆は勝手に動かないで先生を待ちましょう!」

「でもよ、先生1人で何ができるんだ?」

「……きっと先生には何か僕等には分からない計り知れない力を持っていると思う。今の僕達が勝手に動いて邪魔する訳にはいかない……んじゃないかな」


 ディアスの反論をイアンが冷静に窘める。

 それぞれが自分の特色溢れる発言をエリナは受け止めるもラドルの言葉を愚直に守ろうとする。


「午前中!この3時間余りくらいで必ず何かある!私たちはその時に2人を迎える為にも今は……我慢しよう!」


 エリナの一喝に皆は納得しフィリップとレナに一礼すると講義室へ戻っていく面々。

 その姿を微笑みながらフィリップと共に見つめていたレナが一言呟く。


「強いですね、彼女は。誰よりも飛び出して探しに行きたいでしょうに」

「うむ。しかしそれ以上に驚くべき事はラドル君の掌握術じゃな。まだ10日程度しか経っていないにも関わらずここまで学徒達の心を掴むと空恐ろしいの」

「ふふ。私もラドル様がここまで講師向きとは思いませんでした」

「しかし本当に午前中に見つけて助ける事ができるかの?余り時をかけると警備隊が出張って面倒な事になるぞ?」

「心配は無用です。あの方は必ず言った事は成し遂げます。……必ず」


 迷いのないレナの言葉以上にその瞳がラドルに崇拝に近い信頼を寄せているのを感じたフィリップはカカと笑いながら、


「ならばその言葉を信じて楽しみに待とうとするかの。どうじゃ?レナ君も紅茶の一杯でも?」

「ありがとうございます。ではお言葉に甘えてご馳走になります」


 そう言ってフィリップのエスコートに従うレナは一度足を止め振り返り、信頼する主人に心の中で無事を祈る。


(……お気をつけて。ラドル様……)



 ーーーーーーーーーー



「ここか?ローグ」


 魔獣の案内でルイーゼが連れ去られた拉致現場にやって来たラドルは辺りを改めて見渡す。


「……人通りの無いこんな裏路地にやって来たのはルイーゼが誘われた可能性はないか?」

「どうでしょうね。俺は連れ去る瞬間しか見てないもので」


 使えない奴だ、と思うラドル。

 とは言え偶然でも犯行の現場を見たのは手柄ではある為それを責めないのはラドルなりの労いであるとローグは分かっている。

 そんな長年の付き合いからの互いの人となりを感じるやり取りはラドルが感じた違和感で終わりを告げる。

 スッと腰を下ろして石畳の表面を軽くなぞると弱々しくも淡い光を放ち出す。


「……魔力痕がまだ残っていたか。これは雷破(ヴェガ)……いや違うな。複合魔法の痕跡だな」

「複合魔法?そんな高等魔法技術が使えるとはちょっと信じ難いですね」


 複合魔法は一度の魔法行使による現象で複数の効果を発揮する魔法の事で一般の魔法よりもより明確化されたイメージが無ければ発動しない技術である為それなりの高位魔道士でなくては発動すらしない技術である。


「だがお前は然程強い魔力を感じなかったのだろう?ならば雷撃と麻痺の複合魔法が最も適した魔法だ。雷撃では殺しかねないし、麻痺では射程が届かない。」


 なるほど、とローグは頷くもではどうするのか、とラドルを見上げると。

 ニヤリと珍しく口角を上げていた。


「この魔力……確かにそれなりの術者のようだがそれだけに自己顕示欲が強いようだ。魔力を途切れ途切れながら誘導している。それに自らの立場を暗に示しているな」

「どういう事ですか?」

「これは魔力を故意に残している。強い魔力を有していながら最弱の出力で、それでいて複合魔法を扱える高位の魔道士。そんな逸材がこんなある意味僻地とも言える地にいる訳がない。となるとこれから導かれる答えは多くない」

「それは?」

「恐らくこれはテセウス家の凋落を狙った手口だ。身代金を手にできてテセウス家の評判を貶める。領地の娘が拉致されるというのは貴族内ではその統治能力を疑われてもおかしくない。さらに言えば今回の実行犯は警備隊の壊滅を狙っている。その証拠に魔力の残滓を弱々しく残して未熟さを表面上に出している」

「統治する領主の娘を拉致される危機管理能力の欠如、警備隊壊滅による防衛能力の有無。これだけでもテセウス家の評判は地に堕ちますね」


 聖王国バルカードに限らず貴族内の水面下の策謀調略は常に行われている。

 魑魅魍魎の如き魔の巣窟とはよく言ったもので何の予備知識も無く社交界に飛び込めば一度の失態で家名や家格が一気に崩れるのもよくある話だ。

 今回もそれに類する事件の一つだと類推したラドルは一つため息をついた。


「どの時代でも……人間は原罪からは逃れられないのか。欲深で。傲慢で。いつの時代でも人は……変わらないな」


 そう呟くと。

 故意に残された魔力の残滓を辿って賊の足跡を追おうとラドルはその歩を進めた。



 ーーーーーーーーーー



「う……ん……?」


 暗くじめっと淀んだ空気が支配する空間で少女は目を開けた。

 湿度の高い、蒸し風呂のような暑さの為に身体中から不快な汗を流しているのを理解する。

 だが身体の異常はそれだけに留まらなかった。

 手や足が痺れて動かない。

 指先一つ感覚が麻痺して動かす事が出来ない。

 それどころか口には猿轡。手足は縛られているように見える。

 間違いない、自分は拉致されたのだーー。

 妙に冷静な判断力が今の現状を否応なしに脳に刻みつける。

 あの夕暮れ時からどれ位時間が経ったのだろう。

 高い天窓から差し込む光からもう夜は明けて少なくとも新しい朝を迎えている事は分かる。

 しかしそれにしてもここは何処だろう?

 建物自体は煉瓦造の頑丈さを優先した広い空間を有する場所。

 恐らく倉庫街にある建物の一つだろうと推測できるが100近い倉庫のあるこの一帯でここを見つけるのは至難の技だろう。

 そう思うとまた不意に不安が募る。

 きっとお兄様が助けてくれる。

 だが警備隊がここを見つけ出すまでどれ位かかる?

 その間に自分を拉致した悪漢たちはどんな悪どい罠を仕掛けて待ち構えているか。

 そうなればお兄様だけでなくお父様にも迷惑を掛けてしまう。

 そう思うとつい両の瞳から流れる雫がある。

 同時に徐々に身体が震え出す。

 自分の未来を思うとどんどん悪い方へと考えてしまう。

 そんな時自分の視界の外から声を掛けられる。


「怖いか?ルイーゼお嬢様?」


 低くくぐもったような笑いを含んだ言葉。

 誰?と声を出そうにも轡が邪魔でんーっんーっとしか発音できない。


「安心しな、まだ殺しはしねぇ。だがあんまり騒ぐと綺麗な肌が傷ついていくことになるぜ?」


 麻痺した触覚でも自分の大腿部をつつ、と指が這わされている嫌な感じが分かる。

 (おぞ)ましい。

 汚らわしい。

 だが恐怖が勝って震えが止まらない。


「まぁ大人しくしてりゃこれ以上は何もしねぇよ。だがまぁお嬢様のせいで家は落ちぶれる訳だがな」


 どう言う事?と訴えるも言葉は出ず、相手も視界の外。動かない身体を何とか奮い立たせようと試みるも完全に自由を奪われてしまっている。

 つい自分の軽率さを後悔する。

 何故一人で出歩いたのだろう。

 何故自失しながら歩いていたのだろう。

 そんな時1人の講師の顔を思い出す。


 ーー助けて。助けてください……先生……!


 だがその思いに応える者はなく。

 ヒョイ、と自分を跨いで出口に向かう背の高い男。

 身に溢れる魔力を隠す事なく自身に満ちた姿とは対照的に下卑た厭らしい笑みを絶やさない。

 その姿を認めるとクルッと此方を振り返り大仰に両手を広げて芝居がかった様な口調で語りかけてくる。


「攫われたお姫様を助けようとする一人の騎士。だが世の現実はそんなに甘くはない。一人が大人数を相手どれるなんざ無理な話だ。特に俺レベルの魔道士が一人いるだけで戦況は覆る」


 そう言い切った時気づいた。

 彼を知っている。見たことがある。

 確か本家であるフューデル家付きの魔道軍所属の中尉だ。

 名前は……オーヴェ……だったか。

 優れた魔法の使い手で兄以上の魔力を有していた。

 そして。

 悪漢は彼1人ではない。気配を消して姿を隠している者が一人、また一人魔力を溢れさせて分かる。

 一人一人が只の男ではない。

 目の前の男と同レベルの手練れだ。

 しかもこの男たちの配置……大魔法の儀式的配置だ。

 魔法知識があるだけにこの配置がいかに危険なものかが分かる。

 警備隊がここに足を踏み入れたが最後、発動する魔法は全ての命を刈り取る殲滅魔法だ。


「時間的に見ればあと数時間。どんなにヘボな警備隊であろうと昼過ぎにはここを嗅ぎつけるようにわざと痕跡を残してきた。そして何も知らずにやって来る奴らを全滅させればテセウス家の王家からの信頼は地に堕ちる。そしてこの地は本家であるフューデル家が治めるのだ」

「なるほど、本家が裏を引いていたか」


 響いたその声はいつも学院で聞いたあの人の声。

 ルイーゼは目を疑った。

 煉瓦造の建物の中に何の気配もなくそこに一人立っていたのは。

 いつも飄々としながら確かな実力を持って、しかしそれをひけらかさない、無愛想ながらも優しく魔法を教えてくれるその人だった。

 顔を床に擦り付け、思い切り頭を振って何とか猿轡を外すとぷはっと空気を思い切り肺に送り込む。

 そして叫ぶ。


「ラドル先生!」

「おっ。無事か、ルイーゼ。少し待ってろ、今助けてやる」

「……てめぇ、何者だ?」


 オーヴェが警戒を引き上げながらラドルをゆっくりと観察する。

 見たところただの優男だが、直感が告げてくる。

 この男は危険だ。

 絶対的な捕食者に狙われた弱者になったような感覚。

 魔力も膂力も経験も全てが自分が上だという観察結果が信じられない。

 それほどの危険度を目の前の男から感じる。


「俺か?俺は臨時講師だよ、一ヶ月っていう短期で契約した只のな」

「やれ!こいつをここから生きて返すな!」


 オーヴェが大声で叫ぶ。

 堰を切ったような口調で魔法陣の要点に配置された男たちに対して命令する。

 しかし。


「な、なんだ?何をしている、お前ら……⁉︎」


 何も起きない。

 それどころか配下の者たちは身動き一つしない。

 見ると。

 全ての男たちは鋼糸によって貫かれて壁に縫い付けられている。


「あ……う……お、オーヴェ……」

「これは……一体……⁉︎」


 その鋼糸は足元の魔獣が何時もの手段で全ての男を無力化させていた。

 だが殺してはいない。

 皆魔法を扱えない程度に負傷しているだけだ。


「何故殺さないのですか?」

「ここで変に騒ぎを大きくして後々面倒になるのは避けたいからな」


 これは分家の声望を妬んだ本家の暴走だとすれば決着を付けるのは俺じゃない方がいい。

 策謀を潰されたとすれば本家であるフューデル家の力を削げる。

 本家と分家の政治的喧騒などに興味はないがここでルイーゼを失ってもいい事はない。

 だが。

 目の前のこの男はある程度痛めつけて王都にお帰り頂こう。伝達係として。


「オーヴェと言ったか、で?何が目的だったか、などという陳腐な問いかけなどはしない。だが王都のお前の主人に一言伝えて貰おうか」

「黙れ!貴様が何者か知らぬがここで死ね!」


 そう言ってオーヴェは呪印を結び詠唱を唱え始める。


「先生!」

「ルイーゼ、こんな時だが一つ講義をしてやろう」

「え?」

「魔法同士による衝突は4つの大別系統と密接な関係性がある。それは神聖魔法と暗黒魔法は衝突時に強力な反発作用が生じるが精霊魔法と純魔法は他の2系統の魔法とは違い衝突時に干渉作用が起きる。即ち」


業魔煉炎獄(ガルシアン)!』


 オーヴェの放った巨大な炎が場を包み建物全体が熱により悲鳴を上げる。

 しかしそれ以上に炎はその威力を増すことはなかった。


「こ、これは?」


 オーヴェが異変に気付いたのは自分の魔力がかつてない程に押し込められている時だった。


「ディアスの時と同じ…….これはあの時の」

「そうだ。純魔法は全く強化されていない魔法の為に干渉作用が強く発現する。一般的には他の系統よりも使い勝手の悪いイメージがあるが極めるとこんな事も出来る」

「お、俺の魔力が⁉︎」


 ラドルが手を軽くかざすとこれまで猛威を振るっていた炎がラドルに操られるようにオーヴェに向かい容赦無く焼いていく。


「うがぁぁぁっ⁉︎」

「奴の魔法による炎の支配権を奪ってやった。今この魔法の炎は奴の魔力によって発現しながら俺に操られている状態だ」


 のたうち回るように苦悶の表情で身体に燃え移った炎をなんとか掻き消すと信じられない目でラドルを見上げる。

 まるで歯が立たない。

 軍の魔道士としてエリート街道を進んでいた自負が崩れ去る。

 歯が鳴る。

 恐怖。

 それだけがオーヴェの心理を埋め尽くしていた。

 そんなオーヴェに興味が無いようにラドルは無視してルイーゼの拘束を解いていく。


「せ、先生……ありがとうございます……」

「俺はお前の先生だからな。これ位は当然だ」


 ようやく長時間の束縛から解き放たれ、差し出された手を取り立ち上がったルイーゼは頬がどんどん赤くなっていくのを自覚する。

 パッと手を離し赤くなった頬を両手で押さえると、耳に呻く声が届いてくる。

 振り返るとうつ伏せに上体を起こそうとしようとしているオーヴェがいた。

 それさえも無視を決め込みラドルは未だ講師の振る舞いを続ける。


「さてルイーゼ。ディアスの時も今回も俺は純魔法を何の強化もなく使用したわけだが。さて問題だ。逆に純魔法を自らの魔力のみで強化したらどうなる?」

「え?そ、それは……暗黒魔法か神聖魔法へと形態を変質させるのでは?」

「50点。俺は言ったぞ?自らの魔力のみで、とな。

 暗黒魔法は自らの魔力の他に周囲の魔素も利用する。神聖魔法は言わずもがなだな。正解は」


 そこまで言うとラドルは純魔法としての強化を行うように詠唱を唱え始める。


『天の力点 地の支点 持たざる者は須く赦しを請い 持ちし者は須く罪を断じる 傲慢は驕慢へ 怒号は憤怒へと姿を変じたるは闇の竜の咆哮なり』

「なぁっ⁉︎お、お、おまっ!待て待て待てぇっ!」


 その詠唱の正体を知るのであろう、オーヴェは後退りながら幾つもの防壁を展開させるも。


洸崩竜破(デインテシア)‼︎』


 その魔法が完成される。

 瞬間。

 強大な魔力がラドルの掌から放出される。

 一条の光線がオーヴェを巻き込んでどこまでも空に広がる雲さえも貫いて伸びていく。

 まるでこの世界に大きな穴を空けたような、そんな一撃が空を撃ち抜いていた。


「まぁあれだけの防壁を展開していれば死ぬ事はないだろう。正解は「魔力の純粋な放出による爆発的熱量作用」だ」

「……」


 あまりの魔力の放出に度肝を抜かされたのか茫然自失しているルイーゼ。

 そんなルイーゼの頭を撫でて正気に戻す。


「せ、先生?」

「さて戻るぞ?今から戻れば昼からの講義には間に合うな。一度お前は家に帰って……いや。一応送っていくか」


 ここ数日の溜飲を下げてさっぱりしたのか、ラドルは建物を出てひらひらと手を振りながら帰る仕草をルイーゼに送る。

 そんなラドルの後ろ姿を見送りながらルイーゼは胸元を掴んで一言声を出す。


「せ、先生!」

「んー?」


 肩口から背後に立つ少女に視線を送るとその表情は硬くなったまま、顔を赤くして決意を秘めた視線を投げ返してくる。


「あの!私……先生に伝えたい事が……あります!」


40話アップします!

今回は正直色々悩みました。

そう、色々迷ったのです。

改めて読み返しておかしな箇所を必ず直しますので少々お待ちください。

感想評価もよろしくお願いします!

ではまた次回〜!

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