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蒼穹の神滅者(シルヴァリオ)  作者: 1
第1章 廻る時計
33/85

第33話 邂逅編〜歯車〜

 月が傾く。

 夜雲が流れる。

 星が瞬く。

 なんら変わりのない日常の夜。

 だが柔らかい月光の下で対峙する3つの影は常識を覆す異変を目の当たりにしていた。



 大剣を握る死神、アスは戦慄していた。

 何が起きた、と現状の把握に全神経を傾けるも、答えは出ない。

 斬り損じた?

 違う。

 確かに俺は奴の腕を斬り飛ばした。

 この手には未だ肉を斬り、骨を断った感触が残っている。

 だが現実には斬り飛ばした右腕は奴の腕にある。そして俺の剣をその手で押さえられた。

 何が起きた?

 何があった?

 分からない。答えが出ない。

 今まで幾多の戦場で培ってきた経験が役に立たない。

 こいつは一体ーー何者だ?



 紅髪の武僧(ラージャ)、エティアは動揺していた。

 ーー殺してはダメ。

 私はなぜあんな事を言ってしまったのだろう。

 神滅者(シルヴァリオ)である目の前の男は世界の敵。

 倒せる時があるならそれに越した事はない。

 だが。

 私はアスを制止してしまった。

 ようやく出会えた神滅者を捕らえて話を聞いて適した神罰を与える。

 それは私個人の拘りだ。

 アスの判断は正しい判断だったと思う。

 結果としては神滅者の彼は未だ健在。斬った筈の右腕も何故か欠損は見受けられない。

 そんな結果に私は。

 ーーどこか安堵していた。



 蒼穹の神滅者、ラドルは落胆していた。

 目の前の少女に出会ったのは2カ月と少し前。

 印象的な意思強い鳶色な瞳と長い年月を経て磨かれた紅玉のような紅い髪。

 そんな彼女は田舎から出てきたような朴訥さを持ち、飾らない笑顔と素質溢れる神聖魔法を備えて俺に対峙してきた。

 そんな彼女がすぐに立場を変えて目の前に立ちはだかった時、俺は力で以って制圧した。

 惜しい素質を認め、手にかけるその時、聖王女アルメアが止めなければすでにこの世にない命だ。

 だのに。

 何故また俺の前に現れた。

 そんなに命が惜しくないのか。

 そんなにアルメアを害した俺が許せないのか。

 どちらにせよ。

 命の軽い、魂が柔い、心の脆い愚者だったとは。

 ーー俺の見込み違いか。

 神滅者ラドルは。落胆していた。




「ーー大丈夫?」


 意外な一言で会話を切り出したのはエティアだった。

 ん?と首を傾げるラドルはああ、と自分の右腕をひらひらと握って見せる。

 動いている。

 完全に断裂したならあの速度のやり取りで肉を繋ぎ血管を継ぎ神経を通すなどどんな高位治癒魔法でも不可能だ。もっとも自らに治癒魔法を施せる事を前提にした考察だ。

 それともう一つ。

 腕を斬り飛ばし、治癒魔法で結続したとして回復するのは当然自らの部位のみ。

 だがラドルは着衣まで元に戻っている。

 これは一体どういうことなのか?

 エティアはその現象の可能性を考察していくも、完全に一致する事例に思い当たらない。

 超速再生?

 違う。それでは着衣の再生が説明できない。

 復元能力?

 違う。それだと斬り飛ばした腕の部位は残る。しかしその腕さえも消えている。

 まるで本当に何事も無かったかのようにーー。

 彼はそこに存在している。

 この現象は一体?これも彼の神滅者としての特性なのか?

 そうだとすると。

 彼を殺害する事はおろか、捕らえる事さえできないではないか。


「考え事はすんだか?」


 不意なラドルの声で思考が現実に引き戻される。

 ラドルは少しエティアの表情の機微を楽しんでいるように見える。

 解明できない。

 そう思い至ったエティアは決心する。


「お、おい?」


 アスの制止を聞かず、ずんずんとラドルに詰め寄る。

 そして手を伸ばさなくても届くくらいにまでラドルの正面まで歩みを進める。

 互いに視線を外さないまま、月明かりの下2人の距離は縮まる。

 見る人間が見れば恋人の逢瀬にも見えなくもない状況だ。

 そして。


「……⁉︎」


 バッとエティアが両手でラドルの右腕を丹念に触る。さする。撫でる。つねる。叩く。


「……なんだ?」


 流石のラドルもこれまでこんな風に接触された事はない。

 一通り触診の限りを試みると、それまでの頑なな表情が急に崩れる。

 そして大きなため息を一つ吐き出すと。


「……良かったぁ〜〜〜」

「「は?」」


 またもエティアの意外な一声にラドルもアスも素っ頓狂な声を出してしまった。

 本当に安堵したのか、先程までの緊張感が嘘の様に解けてしまっている。


「良かったね、腕何ともなくて」


 まるで自分の事のように。愛おしそうにその腕に手を添える。

 そして急に人が変わったかのように今度は鋭い視線をアスに投げかけ怒鳴る。


「アス!あんた、いきなり人様の腕を斬りとばすってなに考えてるの⁉︎」

「はぁ?そういう段取りだったろうが!今更何を…」

「おバカ!私は「反撃してきたら」自衛くらいは仕方がない、って言ったの!この人、反撃どころかアンタを無力化しようとしただけじゃない。全く……対魔法防御の魔法を掛けてあげたのがアダになったわ」


 2人のやり取りはまるでどこかで見た三流喜劇のようだ。

 展開の早さに少し思考が置いてきぼりされた感覚にラドルは戸惑っていたがすぐに切り替えてエティアに問う。


「……君は何故また俺の前に現れた?まさか俺を追って来たのか?」


 その問いにエティアはまたキリッと口を一文字に結びラドルを見据える。


「……そうよ。私は貴方を捕らえ神罰を与える為にここまで追って来た」

「……それで?」

「最初私は貴方を、アルメア様を守れなかった自分が許せなかった。許せないから貴方を追った。だけど貴方を追っていくと少しずつ違和感を感じた。ハルテージで聞いた貴方の行動。今日だってバルカードの騎士団を一人も殺さないで撤退させた。神を(ころ)し人を殺す神滅者のイメージが少しずつ崩れていった」


 ハルテージで誰に何を聞いたのかある程度予測はできたが敢えてそれは無視した。


「正直私は貴方が本当に聖王女様を殺したのか、まだ戸惑ってる。だって……やっぱり貴方の目は善い人のそれだから。……前に善いと言う私の概念を貴方に押し付けるな、と言われたけれど私の善は貴方の善と変わらないと思う。人を助け人を殺す。その善悪が逆転するなんて貴方を見て聞いて考えたらあり得ない。何が目的かは知らないけど貴方の行為には意味がある。人に理解されないような。もしかしたら私だって理解できないかもしれない。でも」


 一拍置いて決意した目でラドルに言葉を紡ぐ。


「話してくれたら理解できるかもしれない。私でも。だから私は貴方と話をしたい。その上でまだ貴方が邪悪なら私の命に代えても貴方を捕らえて神罰を与えます」


 迷いの無い瞳。

 力強く明瞭な意思に満ちた言の葉。

 無謀な宣誓にも自信溢れる決意の表情。

 一体彼女は何者か。

 話をしたいが為だけに神滅者と畏れられる自分を追って来た。

 先程の落胆は撤回しようと思ったのと同時に俄然目の前の少女に興味が湧いた。


「俺はーー」


 彼女に言葉を返そうとするその時。

 夜の空から幾重にも張り巡らされた鋼糸がエティアとアスを囲むように飛んで来た。

 見ると小さな牢と言わんばかりの鋼糸牢を繰り出した張本人が空に音も立てずに浮いている。


「ラドル、こんな夜に密会とはあまり褒められたものではありませんねぇ」

「なにあれ……?魔獣?」

「魔獣ビルキャスの幼体だ。なんでこんなところにいやがる?しかもこんな能力、ビルキャスにはない」


 ローグの派手な演出にも冷静に対処する2人に鋼糸を投げかけた本人は些か不満を漏らす。


「ちょっと驚いて貰おうと思っただけなんですが……あんまり反応が薄いと見せ甲斐がありませんね。そんな反応薄なお客にはさっさとご退場願いましょうか?」

「待て」


 魔獣の身体からまた幾つか鋭い鋼糸がみちみちっと肉を破り現れ殺気を放つとラドルが制止をかける。


「おや、ラドル。刺客には容赦しないというのが貴方のやり方と思っていましたが……俺の心得違いでしたか?」

「それ以前にこいつらは刺客じゃない。どこの世界に標的と話し出す刺客がいる」


 ふむ、確かにとローグは敵意を収めるも未だ警戒は解いていない様子で、


「だったらこの2人は何でしょうか?後々面倒になるなら……」

「アスカル⁉︎」


 ローグの警戒に水を差す、いやむしろ水をやったような細い声がその場に響く。


「レナ⁉︎」


 声の主は肩で息をしながら鋼糸牢に囚われたアスに走り寄って行く。


「アスカル……貴方何故ここに……?」

「お前こそ!神滅者に連れ去られたと聞いたが……それよりもお前、その目……?」


 本当の囚人とその面会人のように格子越しに再会を果たす2人。


「……ええ。ラドル様に治していただいたわ」

「……!……そうか」


 2人の会話でどんな間柄かなんとなく察したラドルはローグに降下を促し問いただす。


「何故レナを夜の街に一人来させ、お前は一人でここに来た?お前にはレナの護衛を申し付けていた筈だが?」

「いや、すいません。強い殺気を感知しましたからつい。彼女には断りを入れましたがまさか付いてくるとは」

「レナの身に施されていた呪術はもう無い。一人戦地に来させてなにかあったらどうする?」

「まぁまぁ貴方の言い分は理解してますよ。ですがラドル、俺の言い分としてはですね」


 ローグが飄々とラドルの叱責を流しつつ自分の主張を述べる。


「俺の優先度合いとしては貴方が常に第一位なんですよ。貴方と彼女じゃ比べるまでもない程に。もしも戦場で貴方と彼女に万一があれば俺は何をおいても貴方を助けますよ。必ずね」


 その言葉を発するローグには先ほどのエティアとは違う決意が見て取れた。

 もっとも。その言葉には幾つもの思惑が介在している事にラドルは気づくも、それ以上は追求しなかった。

 そんな水面下の探り合いをしているとレナから懇願の言葉が飛んで来る。


「ローグさん、彼はその、素行は荒いですが根はいい人なのです。だから……この鋼糸を解いて頂けませんか?」

「それはできませんね。この2人がラドルを狙ったのは事実ですから。むしろ貴女は主人を狙った相手に怒るべきで釈放などあり得ない筈でしょう?俺は刺客であろうがなんだろうが不安要素は排除しておきたいのです」


 とちら、とラドルを見ると。


「……解いてやれ」

「えぇ〜〜」

「そんな嫌な顔するな。大体、俺は頼んでもいない」

「……はいはい、分かりましたよ」


 と止まらない愚痴をわざと聞かせるように口にしながら鋼糸をその身に受け入れていく。

 ほっ、胸を撫で下ろすレナにアスが近づいて問いただす。


「酷い事されなかったか?」

「ええ」

「乱暴に扱われなかったか?」

「勿論」

「なにか奪られたりしなかったか?」

「え?」

「え?」


 その質問にふい、と目を逸らす。

 アスがレナの仕草に動揺する。

 面倒くさいことになると察知したラドルがその場を離れようと窺っていると魔獣がよく見せる邪悪な笑みを湛えながら一言。


「ああ、奪われましたね。主に人権を」

「じ、人権⁉︎」

「その彼女はモノでラドルに買われたのですよ、まぁ奴隷ですね」

「ど、ど、ど、奴隷だと⁉︎」


 ローグの爆弾投下によりアスのかつてない程の殺気が場を包んで行く。


「違う、違うの!落ち着いて、アスカル!」

「おま、だって、あいつ主人がどうとか言っていたじゃないか!あいつに何をされたんだ?」


 今まで見せたことのないアスの狼狽ぶりにレナが何とか落ち着かせようと必死になる反面、ニタニタと引っ掻きまわしてご満悦な魔獣の首根っこを掴んでラドルが地獄の呻き声のような声でローグを締め上げる。


「お前……なにを口走ってるんだ……!」

「いや、だって本当の事じゃないですか!」


 てんやわんやと先の展開が無かったかのような流れにまとまりが無くなって行く。

 全くの無法地帯になろうとした。

 その時。


「ぷっ……あっははは!」


 夜の広場に屈託のない笑い声が空に溶けてまた湧き上がる。

 紅い髪の少女はお腹を押さえて大きな笑いを止めずにいた。

 一頻り笑った後、唖然と見ていたその他の面子に向かい直って一言宣言する。


「決めたわ!神滅者ラドル・アレスフィア!」


 ビシッと人差し指を標的である神滅者に向かって指差す。

 そして。


「地母神フェニア様の名の下に武僧エティア・ヴィルトムが貴方を監視します!」

「……はぁ?」


 今夜2回目の絶句。

 一体この少女は何を言っているのか。

 その場にいる人間が理解できていない。

 その様を見てエティアは言葉を続ける。


「多分今の私には貴方を拘束する力も貴方を裁断する力もない。でも、私は貴方を放っておけない。放置すればきっとまた先の事件のような事を起こす。だから私が貴方について行ってその行為を抑える」

「……お前、本気か?」


 アスが呆れ気味に聞き返す。

 無理もない。

 力が無いと宣言した奴が何故神滅者の手綱を握れると思うのか。

 その問いかけにエティアは真っ直ぐに。


「勿論!それに私はまだ彼の事を知らなさすぎる。とりあえず分かった事は。彼が非情でもなければ冷酷な殺人鬼でもないこと。話せば分かってくれる人。それが私の第二印象!確かに今までの罪は罪。罪には罰を。でも酌量の余地はあると思う。だから私が貴方を更生させます!」


 何とも単純な思考。

 何とも愚直な発想。

 聞けば何の根拠も勝算もない、ただ自信に満ちただけの言葉。

 今まで神滅者に相対して生き残れた者はいないと言うのにこんな発言ができる彼女は一体本当に何者か。

 ラドルは踵を返して一言告げる。


「折角の提案だが却下だ。君と俺じゃ力の差がありすぎる。君が何を言った所で俺は自分の目的を棄てはしないし、君に止められる程度の覚悟を持ち合わせてなどいない。俺を止めて更生させたいのなら。命がいくつあっても足りないぞ?」

「大丈夫!きっと何とかなるよ。だから大丈夫!」

「付き合いきれないな」


 そう言ってローグの首根っこを掴んで去ろうとする。

 それを追おうとするレナの手を取り行かせないアス。


「どこに行くつもりだ?」

「ごめんなさい……アスカル。私はあの方を癒すと決めたの。だからあの方について行く。だから……」


 手を振りほどいてラドルの後を追うと主人から言葉が飛んでくる。


「……レナ。俺はお前があの街に置いておけないからここまで連れて来た。だがその男がいれば一先ずの護衛は務まるだろう。だったら……もう自由にしていい」


 柔らかい拒絶。

 その言葉につい足を止め立ち尽くすレナ。

 ラドルが再び夜の闇に溶けて行くのを3つの影はただ見送るだけだった。



 ラドルは久しぶりに胸が清爽していた。

 自分を更生させる。

 なんとも痛快な言葉じゃないか。

 幾万人もの人間を手にかけ、果ては神まで手にかけた男に対して酌量の余地があるとまで言い放った。

 どれだけ器が大きいのか。

 現行の国はおろか、正道真教会が定めた法ですら自分を縛れないにも関わらず、あの少女は。捕らえて神罰を与えるだけでは飽き足らず自分を更生させると。

 一体どんな教えを受けて来たのか。

 一体どんな生き方を送ってきたのか。

 闇に溶けていきながらラドルは口端を緩める。

 本当に、彼女は。

 惜しい素質だ。



「行っちゃったかぁ」

「エティア、お前本当に奴を監視するつもりか?」

「とーぜん!でないと旅に出て来た意味がないよ」

「……」


 未だ拒絶されてすこし肩が落ちているレナにエティアは明るく問い掛ける。


「えっとレナ?さんだっけ。私エティア。ちょっと聞きたいんだけどいい?」

「え、あ、はい。何でしょうか?」

「まずはこれを見て」


 そう言って懐から兄貴分のメカージュから受け取ったロザリオをレナに手渡す。


「私の兄貴分だった人から旅に出て貴女に力を借りろって言われたんだけど、貴女にこのロザリオを渡せって」

「これは……?」

「ただのロザリオみたいだな、何だこれは?」

「あれ?分からない?おかしいなぁ、兄さんこれを貴女に渡せばいいって言っていたのに」


 ロザリオとは祈りを紡ぐ回数を数える道具である。

 一般的には全ての神に対して有効である十字架がついたいくつかの珠環であるが用途を考えれば十字架はなくても構わない。

 レナが受け取ったロザリオは小さな十字架の中央に碧玉がある簡素でありながらどこか気品も備えた物だったがそれ以外は特に何の変哲も無い普通のロザリオだった。


(……普通の一連一環の正統的ロザリオね……。なにか意味があるのかしら…?……ん?これは……?)


 レナが何か気づいたのか、十字架をゆっくりと触って確かめるように指を這わせていく。

 十字架の縦と横を入念な手つきで探って行く。

 そして急にバッと目を見開いてエティアを凝視する。

 その目は少しの畏れと疑心に彩られていた。

 しかし薄暗い月明かりの下でその彩りはエティアには伝わらず、


「え?な、なに?何かわかったの?」

「あ、い、いえ。なんでも、ありません……」

「?ならいいけど……」

「こ、これはお守りですね。きっと貴女の試練を助けてくれます。大事に……なさって下さいね」

「う、うん……?」


 ロザリオをエティアに返す。

 レナの異変に少しの疑念を残しながらも、アスの一言で矛先が変わる。


「で?どうするんだ、これから。俺としちゃレナが無事だったのが分かったし、する事も今の所ないからお前に付き合ってやるが」

「それなんだけど……レナさん、貴女彼と話して見てどう思った?」

「え、ええ。そうですね……」


 未だ幾らかの動揺を隠せないレナにエティアは遠慮なしに聞いてみる。


「あの方は……とても強いお方です。しかし……自分の罪に向かい合いそれでも歩みを止めないその身の内の傷は誰よりも深く、そして大きい。だからこそ私はあの方の傷を癒したいのです。我が母たる女神リューディアの名において」

「まぁ貴女を守る為に連れて来たのなら途中放棄は良くないわね。やっぱり優しいんだね、彼」

「……はい。言葉足らずで誤解されそうですが。何処かの誰かのように」

「……俺を見るな」

「うん、じゃ決まりね」


 そう言ってエティアは満面の笑みで2人を巻き込む事に成功した。



 ーーーーーーーーーー



 カチリ。


 東の山々の稜線が暁光でくっきりと現れる。

 いまだ宵の中にある街の外門をゆっくりと出る影が一つ。

 改めて旅装を身に纏ってフードを目深に被る神滅者。

 朝の陽光が直接降り注いで目が眩む。

 そんなラドルに声を掛ける影があった。


「どこに行くの?神滅者さん」

「……まだ決着はついてないぞ」

「おはようございます」


 ふぅ、と自分との縁など切れた方がいいと最後に思ったのはいつの事だったか。


 カチリ。


 だが時はもう動き出してしまった。

 どんな未来があるか。そんな事に価値はない。

 どんな過去があったか。そんな事に意味はない。

 大事な事は現在(いま)


「……監視は必要ないと言ったはずたが?」

「それを決めるのは貴方じゃなくて私。残念でした」

「……決着などつける必要を感じないが?」

「勝負に負けっぱなしは性に合わんからな。好きにさせてもらう」

「……自由にしろと言ったはずだが?」

「自由に致します。私の意思で。貴方様を癒す為に」


 それぞれにそれぞれの応答。

 ーー喧しい旅になりそうだ。

 そう思うラドルはついに一言。


「ーー好きにすればいいさ」


 紅髪の武僧(ラージャ)、エティア・ヴィルトム。

 死神の剣士、アスカル・ディッド。

 慈愛の司祭、レナ・ファンリュー。

 そして蒼穹の神滅者、ラドル・アレスフィア。


 カチリ。


 時が動き出す。

 時が流れ出す。

 その先に何があるかを誰も知らずに。

 その後ろに何がいるか誰も知らずに。

 大きな大きな時計の歯車が噛み合った。

 大きな大きな時計が鳴り出した。

 だがそれを知る者は誰一人としていなかったーー。

第33話アップしました!

ようやく邂逅編終了です。

やっとこれで物語がひと段落しました。

ここから更に話は動き出します。

もっともっと頑張りますのでよろしくお願い致します!

感想評価よろしくお願い致します!

ではまた次回〜!

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