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蒼穹の神滅者(シルヴァリオ)  作者: 1
第1章 廻る時計
31/85

第31話 邂逅編〜球体〜

「よしっ!できた!」


 少女は半日かけて魔力操作の修行の一環である、魔石の純化を完成させた。

 魔石の純化。

 それは天然の魔力湧出を受けてその中に魔力を蓄積させた魔石には魔力だけではなく石としての成分である砂、礫、泥、果ては雑魔力などの不純物が混ざり合い魔石の本来の用途である魔力抽出、物質生成、物質強化などの術式効率は著しく低下する。

 そこでその不純物を除去する作業が必要になるのだがその作業自体は比較的容易であり、かつ消費する魔力はそれなりな為に魔法使い志望の学徒に対する訓練課程の一つに組み込まれやすい。

 その純度が高ければ高いほど魔石は強い魔法波動を放つ。

 そうして出来た魔石はようやく製品として市場に出回るのだ。

 つい先日魔力回路を開拓し、儀式を経て魔力を操る事が許された少女には一足先に訓練課程を卒業した兄よりも先に初めての訓練成果を見せたい人物がいた。

 その成果を手にして少女は帝都を縦断するテト河の畔りにある煉瓦造りの建物を目指して走って行く。

 帝都は人が多い。

 テト河に架かるフラン大橋は商人、旅人、軍人など多様な職種の人で溢れ返っている。

 目的の建物にはそのフラン大橋を渡らなければならないのだがまた成長途中の少女は人にぶつかりながらも先に進んでいく。すると一際大きな体躯の冒険者らしき男にぶつかり尻餅をついた。


「ああ?なんだくそチビが。どこに目をつけて歩いてやがる」


 ギロっと睨むその男に向かって少女は一歩も引かず声を荒げる。


「アンタこそデカい図体して通行の邪魔なのよ!この唐変木!もう少しスリムになってから出直しなさいよ!」

「なんだとこのクソガキ!」


 挑発された男は少女の襟首掴んでテト河に放り込んでやろうとすると少女が握る緑黄色の石に気付く。


「こいつぁ魔石じゃねぇか。おい、クソガキ。どこでこんな代物手に入れた?」

「離せ、バカ!せんせーからだ!」

「お前が持っていても仕方ねぇだろ?俺が有用に使ってやるから寄越せや!」

「何するんだ!離せ、バカーー!せんせーに見せるんだから!手を離せーー!」


 じたばたと暴れる少女は必死になって両手の中の成果品をぎゅっと握るも、所詮少女のあらん限りの抵抗など屈強な男の前には紙の様に破られてしまう。

 奪われた魔石をキーキー喚きながら少女は噛み付かんばかりの勢いで男に実際に噛み付いていく。


「いでぇっ!!このガキ、もう許さねぇ!」


 そう言って男が少女に向かって殴りかかっていこうとしたその時。


 バシンッ‼︎


 雷が落ちたような音がした。

 両腕で顔を覆うように防御に徹していた少女はいつまで経っても来ない衝撃にちらと腕の隙間から相手を覗き込む。

 見ると。

 目の前の男が白目を剥いてぐらりと前のめりに崩れていく。

 その向こうに居たのは。

 夕方の斜陽に照らされた蒼い髪が幻想的なグラデーションを織りなす青年がそこに立っていた。


「ラドルせんせー!」


 そう言って少女は青年の服にしがみついて離れない。


「騒ぎはよせといつも言ってるだろ……リーテス」

「だって……やっと終わって見せたかったんだもん、魔石純化。早く見せたかったんだもん」


 ふぅ、と一つ息をついてクシャッと頭を撫でる。

 事が落着したのをきっかけに騒動を見守っていた野次馬たちは三々五々散っていく。

 倒れた男はそのままに。

 そんな男を見てリーテスはラドルに質問を投げかける。


「これ……雷破(ヴェガ)の魔法?」

麻痺(ジェス)だ。背中からの雷撃は最下級の雷破(ヴェガ)といえども感電死させる危険がある。そこで問題だ。それは何故か?」

「げっ。えーと……対抗魔法は身体の正面に展開されるから……かな?」

「50点。背面には脊髄がある。その脊髄を通って近い心臓を直電してしまう可能性がある事を考慮しなくてはならない。今の様に対象が前面に集中していたら特に危険度は跳ね上がる」


 そんな講義をしながらラドルの仮宿に向かう。

 リーテスはラドルの講義が好きだった。分かりやすくて色々な可能性を示してくれる。

 それも自分の力量に合わせて教えてくれる。

 たまに厳しいがでも魔法を学ぶのは楽しかった。




 場をラドルの仮宿に移して訓練の成果をラドルの前に出すとその反応を窺う。

 ラドルがじっと淡い緑の光を放つ魔石を観察した後、手に取って上から下からしげしげと見て、一言。


「……30点」

「えーー!なんで?すっごい純度高いでしょ⁉︎コレ」

「まだまだだな」


 そう言ってリーテスの成果品に向けて手を突き出してゆっくりと魔力を集中させていく。

 柔らかい光が魔石を包むと石の表面から汗のようにジワっと石や泥、濁った魔力が浮かんで宙に向かって丸い球体を形成していく。

 まだまだ出てくる不純物に不満げなリーテスに対してラドルが一つ質問する。


「リーテス、この魔石純化にどれくらいかかった?」

「うんと、朝一からついさっきまでだから……9時間くらい、かな?」

「これ位の大きさの魔石なら純度95%に対してまぁ5分位だな」

「ご、5分⁉︎」

「……ほい、終了」


 投げ返されたその魔石は先程の光よりも深く淡い光を放っていた。

 まるで夜空に浮かぶ極光(オーロラ)の様に。

 ゆらゆらと翠緑光が不規則に揺らめいている。


「……きれい……」

「まぁそれでやっと一人前だな。全てはイメージだ。この石一つにどれだけの不純物が含まれているか探知してそれを除去した後のイメージが重要なんだ。……だがまぁ最初の一つで30点なら十分だ」

「じゃあ?」


 キラキラと目を輝かせて何かを訴えてくるリーテスを横目にラドルは机の引き出しから一本の麻紐を取り出して純化し終えた魔石にぐるぐると巻きつけていく。

 簡単な首飾りにしてそれをリーテスの小さな首に下げてやる。


「……少し採点基準が甘いが……合格にしてやる。それ一つで中位魔法一回分の魔力量か。まぁお守り代わりにしておけ」

「うん!絶対に使わない!ずっとお守りにしておく」

「バカ。いざという時には躊躇するな。死んじまったら意味ないぞ?」


 少し口端が緩んだのをリーテスは見逃さなかった。

 普段表情を変えないラドルのその微笑がリーテスは何よりも嬉しかった。

 そのラドルとのやりとりはいつまでも胸に焼きついていた。



 ーーそして。


 ギィンッ!


 甲高い戟音が脳を刺激して目蓋を僅かに開く。

 激痛が走る身体に鞭を入れ、上体を少し起こして目の前の現状の把握に努めようと視界を明瞭にしたその先に居たのは。

 幼い頃から見慣れた抜けるような蒼穹の髪。

 こんな髪は自分の知る限り一人しかいない。

 まさか。

 だが。

 でもその声が聞きたい。

 そんな想いが堰を切って口から出る。


「ラドル……せん…せぇ……?」


 出た一言。

 ちらと一度だけ目が合うとラドルは厳しい表情をしているも、優しい目は昔と変わらず同じだった。

 そして聞こえて来た一言。


「この戦い、このラドル・アレスフィアが預かった。これ以上の諍いは俺に言え」


 ーーああ、やっと聴けた。せんせーの……声。


 そこまで確認すると意識は闇に溶けていった。



 ーーーーーーーーーー



 聖印騎士団の幕舎は騒然としていた。

 騎士が入れ替わり立ち代わり、その度に変わらぬ報告が舞い込む。

 その報告を聞いた騎士団長ギルス・イスアリタスは狼狽する。


「何故だ!何故奴がここに現れた!本当に……!あの神滅者が!現れたというのかっ‼︎」


 ダンッ!と激しく軍机を叩きつけるギルス。

 何度聞き返しても返ってくる報告は同じ。

 蒼い髪の騎士。

 戦乙女アーシアの渾身の一撃を止める力。

 そして何よりラドル・アレスフィアと名乗り上げた事。

 ギルスはあの白峰城(レ・ディアメルス)の悲劇のその場に聖印騎士団団長として列席していた。

 あの時の恐怖。

 身体が空気に縫い付けられたように動かなくなった。

 並みいる騎士を無人の野を行くように歩くあの姿。

 その結果。

 聖王女アルメアは命を落とし国の威は地に堕ちた。

 たった一人の力だけでだ。

 ならばと、この目で確かめて本物ならばすぐに撤退するべきだ。騎士団全てを投げ打ってでも。

 そう言って騎馬に跨り前線に向かうギルスの姿は。

 もはや軍を統率する将の在りようではなかった。



 ーーーーーーーーーー



 金の乙女は驚愕していた。

 この男はいつ現れた?

 しかもその名は。

 あの2ヶ月前の悲劇を巻き起こした張本人。

 神滅者(シルヴァリオ)、ラドル・アレスフィアだと⁉︎

 そう認識した直後。

 頭が真っ白になる感覚とともに。

 血が沸騰し心は闇より暗い黒の感情が噴き出してきた。

 あのアルメア様の仇が目の前にいる!

 ならば戦乙女として為すべき事はただ一つ!


「破邪‼︎滅殺‼︎滅せよ‼︎邪神の使徒よ‼︎」


 金の裂帛がクステルム平原に轟く。

 かつてこれまでに無い程の激情を放ちながら金の神槍を唸りを上げてラドルに放つ。

 凄まじい威力の神槍がラドルを貫く。

 それがアーシアの脳裏にイメージとして焼きつき、勝利を確信したその時。


「激情が過ぎる。隙だらけだ」


 目の前にいた神滅者が自分のすぐ横に居た。

 そして放った神槍の一撃は空を切って目の前の大地を抉り取る。

 瞬間。

 腹部に重い衝撃が襲った。


「かはっ……!」


 打撃が体を突き抜けて背中で爆発したような一撃。

 これは。

 対象にダメージを与える一撃ではない。対象の意識を刈り取る一撃だ。

 目の前が歪んで意識が、脳が、飛ぶ。

 ガクリ、と力の抜けた身体を受け止めてくれたのは逞しい男の腕だった。



 ーーーーーーーーーー



 頬に何か触れている。

 ペチペチと私の頬を柔らかい何かが叩いている。

 まるで早朝の寝惚けた頭に覚醒を促す刺激がやってくる時のように。

 微睡(まどろ)みの中、ゆっくりと目蓋を開けるとそこにいたのは。


「やっと目が覚めましたか?リーテス」


 魔獣がいた。

 しかも喋った。

 私は悲鳴を上げる為に肺に空気を入れたその時。

 私の口にその手を突っ込んでくる。


「モガ?モガモガー!」

「リーテス、俺ですよ。ローグですよ!ったく、目が覚めたら悲鳴を上げられるのはそこはかとなく傷つくんですがね」


 ローグ?

 よく見たら可愛い魔獣の姿をしている。

 なんでこいつ、ここにいるの?

 あれ?


「もう身体の痛みも倦怠感もないでしょう?聖薬水(ルーン・クリア)を使いましたからある程度欠乏した魔力も戻ったでしょう?」


 ガバッと跳ね起きるとパチパチと瞬きを数回。

 身体に走っていた激痛も消えていた。

 まだ少し貫かれた肩に違和感が残って軽い鈍痛はあるが支障はない。

 両手を開いて閉じて。

 全てが夢ではなかった事を告げている。

 と言うことは。


「目が覚めたか?リーテス」


 いた。

 そこにいた。

 私の名前を呼ぶ人が。


「ラドル…せんせー……」

「……まだ寝ぼけているのか?」


 ハッと気づいた。

 十星将になってからはせんせーじゃなくて対等の立場としてラドルと呼び捨てろと言われた。

 子供の頃の夢を見たせいか、つい出た口癖に顔が赤くなるのがわかる。


「う、うるさいわね!なんでアンタがここにいるのよ!」

「……お前、何故その魔石を使わなかった?」

「……え?」

「言ったはずだぞ?使う時が来たら躊躇するな。死んじまったら意味がないとな」

「……それは……」

「まぁ、複重魔法詠唱ができるレベルになったのは成長したと褒めてやる。だが……」


 二の句を継ごうとしたその時、クステルム平原に絶叫に近い、怒声が響いた。


「殺せっ‼︎‼︎」


 怒声の発信元を見ると、馬に乗り青い騎士套を纏った中年の男がこちらを指差して半狂乱になって喚き散らしている。


「奴を殺せ‼︎奴こそは!我らが聖王女アルメア様をその手にかけた神滅者!ラドル・アレスフィア!我らが王国の剣たちよ!今こそ我等が忠誠を示す時ぞ!」


 味方を鼓舞しているようにも見えるがギルスのその周章狼狽ぶりは明らかに恐怖に駆られた表情をしている。

 だが騎士にとって命令は絶対。

 故にこそ。一度命令が下れば。


「突撃せよーーーーっ‼︎」


 一気に2万5000の騎兵がラドルに向かって突進してくる。

 あと数秒のうちにその槍がここまで届くだろう。

 だがラドルは冷静に。


「……俺は言ったな?この戦いは俺が預かると。それが答えならば……後悔しろ」


 すっと前に手を差し出す。

 魔法だ。

 そう認識したリーテスはすぐさまフォローしようと立ち上がり詠唱に入ろうとする。

 しかし。


「手出しは無用だ。リーテス、よく見ておけ。本当の力を」

「でもどんな大魔法でも2万の兵は止められない!」

「いいから見ていろ。いくつも大魔法はいらない。一つだけ。中位魔法を使う」


 中位魔法を一つだけ?

 理解できない。

 初戦でドリムーラとともに大魔法2つで仕留めたのは5000人。

 その5倍の規模をいかにして止めるのか。

 見てみたい。

 疑問はない。

 ラドルがやるならやるんだ。ならばその教え子としてその力を余さず見届ける。

 そう決めたリーテスは一歩後ろに下がるとそれを確認したラドルが魔法の詠唱に入る。


『シーク・ランドル・フェルメーサ 荒れ狂え魔界の嵐 全てを攫いて龍よ 吼えよ 颶風轟嵐(オルン・ベーダ)


 魔法詠唱が完成すると同時にクステルム平原全体に暴風が吹き荒れる。

 その魔法はただ暴風を引き起こすだけの魔法。

 人がその風に飛ばされる位には強い強風だが大軍を壊滅できるとはリーテスには見えなかった。


(何がしたいんだ?ラドルは。足を遅らせる程度にしかならないみたいだけど……)


 ちらとラドルを見上げるとぶつぶつと何か唱えている。

 その内容を理解するとハッと突撃してくる騎兵たちに視線を移す。


「ま、まさか……!」

「いいか、リーテス。大魔法で大を制するのは当たり前。小、中で大を制するのが魔法戦術というもんだ」


 信じられない光景が目の前に広がっていた。

 こちらに突進してくる騎兵が一人、また一人。

 その様を見て逃げ出す騎兵も逃さない。

 暴風に巻き上げられた騎兵2万5000人が宙に一塊(ひとかたま)りとなって巨大な球体を作り上げていた。


「な、な、な……‼︎」


 あまりに非常識な光景にリーテスもローグも絶句する。

 騎士達の球体はラドルの操る乱気流によって身動きが取れないまま肉団子のように丸くなって呻き声をあげている。

 全ての騎士はラドルの魔法一つで今まさに圧縮されそうになっていた。

 一人残らず。馬も人も大地に立っていたのは皆無だった。

 いや、厳密には一人残っている。

 そう、この騎士達に突撃を命令したギルスだけはその場に残していた。

 そのギルスにラドルは冷酷に言い放つ。


「さて。お前が下した愚かな命令で部下の騎士たちは肉団子状態だ。俺がこの手を握れば2万5000人の配下は皆圧死するが….…どうする?」

「あ……あ……」

「俺はどっちでもいいぞ?ここで部下諸共死ぬのも。一人逃げ帰って3万人の騎士を失った罪で斬首刑も。好きに選ばせてやる」

「あ、悪魔め……!」

「……分かった。それが答えだな。ならば」

「ま、待ってくれ!」


 ぐっと手に力を込めようとした時。

 ギルスが慌ててラドルに近寄って地に頭をつける。


「わ、我が聖印騎士団は……!このクステルム平原から……撤収する……!故に……情けを……騎士達は助けてはくれまいか……!」

「……貴様の神に誓えるか?」

「誓う!だから……」

「分かった。ならば一つ呪術を施してやる。リーテス、髪の毛一本引き抜いてコイツの首に巻け」

「ああ、あれ?りょーかい」


 そう言ってリーテスは自らの長い髪を一本引き抜きギルスの首に結ぶ。

 そして目を瞑りギルスの首に指を添えて呟くように。


『リー・シラタール・ターレアン 我が髪に一つの契約を 遠き地にありても近き地にありても 約は守られたし その効力は死と共に有り 髪呪斬詛(ベラン)


 詠唱が終わるとギルスの首に巻きついた髪がキュッと軽く締め付けられる。


「こ、これは……?」

「これはね、契約者と被契約者との間に交わされた約を強制的に遵守させる呪術でね。契約に逆らったり目的に合わない行為をとったり、髪を力任せに解こうとすると次第に締まっていくの。へんな事ばっかり考えていると最後には」

「最後には……?」

「ちょんぱだよ。決まってるじゃん!」


 最悪の結末を聞いて腰が抜けるギルス。

 笑って解説するリーテスを横目にラドルが契約の内容を告げる。


「お前、名は?誤魔化せば首が落ちるぞ?」

「ギ、ギルス・イスアリタス……」

「イスアリタス家の人間か、丁度いいな。ではギルス・イスアリタスにラドル・アレスフィアが命ず。貴様は聖王都ベルクラーナに撤収が終了するまで。一人も欠ける事なく帰還する事。そしてこれ以上我ラドル・アレスフィアに対する追補を中止する事」

「そ、それだけ……?」


 そう聞き返すと左手に抱えた未だ目を覚まさない戦乙女をギルスに引き渡すと、一言。


「この戦乙女も同様だ。……死なすなよ?もし約を破れば……分かるな?」


 ラドルの有無を言わさない眼光に押されてギルスは首を懸命に縦に振る。

 ギルスがアーシアを背負って逃げていくのを確認した後、未だ吹き荒れる暴風を徐々に弱らせて全ての騎士と馬を優しく大地に帰す。




 そして。

 その日の内に聖印騎士団はクステルム平原を撤収し、聖王都に向かって出発した。

 万を超える軍が居なくなっていままで平原に渦巻いていた戦気の代わりに夏の始まりを告げるそよ風が耳朶をくすぐる。

 ふーっと背伸びをするリーテスはようやく任務が完了したと思い、肩を下ろす。

 だが正直ラドルが来てくれなかったら勝てない戦いだった。

 結局はラドルの力あって。

 グルトミア十星将の名に泥を塗ってしまった。

 まだまだ精進しないと。

 その為にはやはり目の前の男に師事しなくてはならない。

 そう思ってラドルを見ると、つい目が合ってしまう。

 そう言えばまだ助けてもらった礼を言ってなかった事に気付く。

 だが。

 生来の天邪鬼気質のせいか、上手い言葉が思いつかない。

 代わりに出た言葉が。


「ふ、ふん!助けてもらったなんて思っていないから。あの後、私の秘術が炸裂してあんな女、一発だったんだから!勘違いしないでよね!」

「……えーそれは説得力がない気がするんですが」

「うるさい!うるさい!アンタ私より下位序列のクセに生意気よ!」


 ローグの冷たい視線に抗議を訴えるリーテス。

 わいきゃいしている一人と一匹。

 そんな様子にラドルはリーテスを見て。


 ヒュッ。


 何がしかの風切り音が聞こえた。

 それに気づいた時。リーテスの喉元にラドルの銀の長剣が突きつけられていると把握する。


「……え?」

「勘違い?それはお前の方だ、リーテス。俺がここに来たのは……」


 この状況に理解が追いつかない。

 何故ラドルが自分に剣を突きつける?

 どうして自分に対してその目を向ける?

 聞きたくない。その言葉の先は。

 だが無情にもその思いは裏切られる。


「ーーお前を殺すため、だ」

第31話です!

最近ほんとテキスト量が多い汗

初期の頃の約3倍。テンポ悪いのかなぁ?

詰めたい話は沢山あるのにまだまだ上手くいかない。

勉強あるのみです!

感想評価よろしくお願いします!

またブクマしてくれた方々、本当にありがとうございます!頑張りますのでこれからもよろしくお願いしますね!

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