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蒼穹の神滅者(シルヴァリオ)  作者: 1
第1章 廻る時計
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第25話 邂逅編〜冷笑〜

「アス!一体なにがあったのよ⁉︎」

「うるさい!付いて来るな!」


 アスは焦っていた。

 自分の知己を攫われた。

 それも伝説とも言われる眉唾な存在にだ。

 焦る。逸る。猛る。

 故に前しか見えずただ荒々しく進む。

 後ろから傷を癒してくれた少女の存在が鬱陶しい位に。


「今からクステルム平原に行くの?間に合うの?」

「行くしかないんだ!間に合わせるしかないんだ!」

「この……!」


 パァン!


 アスの後頭部を強くエティアが叩く。

 身長差を埋める為に軽くジャンプしながら。

 キッと振り返り、エティアの足が地が着くと同時に襟首を掴む。


「何しやがる‼︎」


 凄まじい怒号にもエティアは怯まない。

 こんな時の腹の据わりかたは兄貴分のお墨付きだ。

 そしてアスの膂力は尋常ではない。少女とは言え片手で宙に浮かせている。

 プランと足が力なく揺れている。

 だがエティアの瞳は力強く抗議を訴えていた。

 そして両の手でアスの頬をパンっと挟む。


「大丈夫!きっとなんとかなる!だから少し頭を冷やして。ね?」

「なんでそんな風に言える⁉︎」

「私は神滅者ラドルを知っている。彼は大罪人。命を奪う事に躊躇しない。だからこそ意味がなければ連れて行くわけがない。殺していないなら必ず何か意味がある。だから大丈夫!」


 その瞳は揺らがない。

 なにがしかの確信を持ち自分に訴えている。

 そう感じた死神は歯を軋ませ拳を握るも、エティアを放り捨てる。

 勢いを殺しきれず、尻餅するエティア。


「ちょっと!もう少し優しく離しなさいよ」

「……もしも。もしもレナに何かあったら……まずお前を殺す!それまでは黙っていてやる……」


 ふぅ、と一つ息をついて少し笑みが零れる。

 不器用にも程がある。

 言葉足らずにも程がある。

 しかし。

 これほどまでにこんな交流力欠如な男が必死になるレナという人物に興味が湧いてきた。

 そんな時に兄貴分のメカージュが言っていたこの都市への目的を思い出した。


「あ、そう言えば私がこのハルテージに来た目的ってそのレナって人に会う為だった」

「レナに?」

「うん、そのレナという人から神滅者を捕まえる力を借りろって聞いたんだけど。その神滅者に攫われたのかぁ……まいった」


 2人して頭を抱えてしまう。

 やはり急いで後を追うべきか?

 しかしこの街の人々をこのままにしていくわけにもいかない。

 放っておけば屍肉と思った烏たちが群がって来る。

 とりあえずこの眠りについた人々を起してみようと試みる。


『眠りの意識よ 我が破邪の霧にて退き給え 抗魔霧(ル・テリカ)


 魔法の詠唱が終わるとエティアを中心に薄く霧が薫り立つ。

 周囲を解眠の霧が立ち込めるも、変化は見当たらない。


「……何も起こらないぞ?」

「……ダメね。眠りの魔法を掛けた術者の魔力が強すぎる。多分……上位位階クラスでも難しいかも」


 手が詰まった。

 1人1人家に入れていったら何日かかるか分からない。

 どうしよう、と思案し始めた時、2人とは違う気配がした。

 バッとすぐに物陰に隠れる2人。

 まだ動ける人物がいる。それはこの現状ではあり得ない。只人の魔力ではない力で眠らされているこの街で起きて動いている。それはつまり今回の件に必ず関与しているという事だ。

 気配を探ると何か物色しているのが感じ取れる。

 しかも何やら音外れな鼻歌まで聞こえて来る。

 エティアとアスが互いを見合わすとそろっと物陰から顔を出す。

 そこに居たのは。


「一つ盗っては俺の為〜二つ盗っても俺の為〜ってか。いやーー皆眠ってちゃ誰にお宝盗られるか分かんないからなぁ、俺が有効活用してあげないとなぁ。おっこりゃ値打ちもんだ、へへへ儲け儲け」


 誰あろう、この眠りの街を作り出した張本人、先程自分たちの目の前から消えたマースだった。

 唖然としてしまったエティアが覗いているのに気づいているのかいないのか火事場泥棒の如き行為を続けている。

 そんな姿を見たアスは先程の怒張が蘇るような怒気を孕み大剣を握りしめ飛び出していた。


「マースゥゥゥゥ‼︎」


 未だ家探ししているマースの背後から渾身の一撃を繰り出す。

 が。その結果は先ほどとまったく同じだった。

 防壁を展開されその剣はマースに届いていない。

 怒気を隠さないアスに対して冷ややかに振り向くマース。


「あれ?お前ら、まだいたんだ?」

「殺す‼︎」

「ムダムダ、どんなに頑張っても力だけじゃ……」


 ピキィ。


 陶器に亀裂が走ったような音がした。


「……え?」


 目の前に展開された魔法防壁に大きく亀裂が走った事実に目を丸くするマース。


「ちょ、なんて馬鹿力なんだよ⁉︎力任せに魔法防壁を破壊するつもりかぁ⁉︎」


 ググッと徐々に剣の重さに潰されそうになる。

 マースの片膝が床につく様は先程とは逆の立場になっている。


 ビシピシィ。


 少しずつ、だが確実に亀裂が大きくなっていく。


「やべっ……これ以上押し込まれたら…防壁ごと真っ二つだな」


 やがて地に落ちた皿のように。


 パリィィィィン!


 防壁陣が激しく粉々に砕ける音とともに死神の大剣が木張りの床を叩き割る。

 だがその場にはマースの姿は無かった。


「どこに行った!マース‼︎」

「あーやべやべ。全くなんて力だよ。物理現象じゃ破壊できない防壁なんだがな」


 ふわりとアスの後方に立つマース。

 アスとマースの戦いは今のところどちらも引けをとらない。

 だがこのまま戦い続ければどちらかが死んでしまう。そう考えたエティアは睨み合う2人の間に割って入る。


「アス、ちょっと落ち着いて。剣を下ろして」

「どけ!邪魔するならお前ごと斬るぞ⁉︎」


 気が荒ぶるアスを宥めながら今度はマースに向き直り問いかける。


「ねぇマースさんだっけ?貴方がこの街の人達を眠らせたの?」

「ん?まぁそうだ。なんだ、疑ってんのか?」

「……あんな強い魔力、初めて感じた。……一体何者なの?」

「さっきも言ったろ、魔法学院の一教師だってよ」

「嘘。ただの一教師にしては魔力が高すぎるもの。貴方の魔力強度は司祭、司教クラスなんかよりももっと上……それこそ……」

「神滅者クラス……ってか?」


 エティアはマースを、マースはエティアをじっと見据える。

 互いに互いを観察しているとやがてマースが冷笑を浮かべながら口を開く。


「まぁ俺の事はいい。で?お前らこそ何者だ?この街になにしに来た?」

「…私はエティア。こっちはアス。私たち、神滅者が連れ去ったっていうレナって人に用があったの。…一体なにがあったの?彼は何をしたの?」

「彼、ねぇ……。奴とは面識が?」

「……一応ね。」

「まぁいい。……で何があったか?か。……反乱だよ」

「反乱?」


 住人が眠りについた街。

 それが何故反乱に繋がるのか?

 頭の中で関連性が繋がらない。

 エティアは視線で事の詳細を促す。


「まぁここには軍隊なんざ駐留していないが兵の代わりはある。この街の住人5万人強という兵士たちがな」

「はぁ?言っている意味が……」

「先月の聖王女殺害の反動だ。……この教会都市には大小合わせて約100近い正道真教会所属の教会が点在しているのは知ってるな?でもってこの聖王国バルカードには国教であるフェニア神教総本山がある。ここまで言えば分かるか?」

「……おい、エティア分かるか?」

「……ごめん、分かんない」


 アスがエティアに解説を求めるもエティアもいまいち理解していない。

 そんな2人を何かもの言いたげな視線を投げ掛ける。


「そ、それより話の続きを!何があったの?」


 マースの表情が呆れ返るも、頭を一つ掻きながら、面倒くさそうに説明を続ける。


「……つまりだ。国教の象徴たる聖王女が殺害されたのは国同士の諍いを生むだけに留まらず、教会同士の新たな火種を生んだ。つまりこの聖王国の国教だけでなく正道真教会内での台頭を狙う不届き千万な考えを抱く輩も現れたということだ」

「先生!質問があります」

「……先生言うな。なんだよ?」

「せいどうしんきょうかいって何だっけ?」


 その質問に心底呆れた顔をするマース。


「……マジか、お前。腐っても教会所属の武僧(ラージャ)だろうが」

「そうなんだけど……私の故郷って田舎でさ。そういう教権組織の事情とか縁がなくって。丁度いいから教えてよ」

「……簡単に言うとだ。正道真教会ってのは特定の神を信仰するものではない、3源神72主神を中心とした各神教の協調統治信託機関だ。……と言っても解らんか。所属する各教会の安定、友好、協力を仲立ちする組織であると同時に正統な各教会教義に反する考えを処罰する異端審問組織でもあり、所属教に敵対する教えを邪教認定する断罪組織だ」

「それが聖王女様殺害と反乱とどう結びつくの?」


 未だに理解出来ずにいたエティアにアスが先に口を出す。


「なるほど、フェニア神教は正道真教会内でも今権威を集めている巨大派閥だ。そしてその象徴たる聖王女が殺されその権威は足元から崩れた訳だ」

「そうだ。そしてその座を奪おうと企む派閥教会が現れた。それがイドラス神教だ」


 軍神イドラスは第一等の主神であり神位聖争で多くの勝利を収めた事から戦争と勝利の男神だ。

 だが戦争を司る神教である為、武力行使に躊躇しない強硬的傾向がある。

 それが今回の件で最悪の形で発露したという。


「フェニア神教の権勢は失墜し、その後釜を狙うイドラス神教が軍を挙げ行動を発起したって事だ」

「……そこまでは分かったわ。でもそれがこの街を眠らせた理由と何が関係あるの?」

「……ここは教会都市だ。当然イドラス神教教会も存在する。そこの最高司祭が総本山の教皇から受けた勅諚は……『ここ教会都市ハルテージに住む全ての住民を我が教えに強制的に改宗させ、一人残らず兵員として徴用せよ』って奴だ」

「強制的に……改宗って……」


 マースの耳を疑う言葉にエティアは信じられない、と動揺を隠せずにいた。

 強制的に改宗とは信仰の自由の阻害を意味する。

 それを行使できる手段は2つ。

 武力を持って改宗を促し、従わない場合は死を以って制裁する。

 そしてもう一つは。


「この都市に住む人間を丸ごと洗脳し自分の意思と錯覚させて教会兵として軍に組み込むことだ」

「ーーーー⁉︎」


 街一つ丸ごと洗脳の対象にする。

 それは許されざる行為。

 だがそれが行使されれば恐らく神聖王国バルカードの安寧は根底から覆される大事変になるだろう。


「そんな事……許されない!」

「そういう事だ。まぁこれで分かったろ?その洗脳魔法が発動される前に住民を全員眠らせたワケだ。イドラス神教の連中もろとも。眠らせちまえば洗脳も徴兵もへったくれもないからな。これがつい二日前の話だ」

「……それで?レナはどうした?」


 アスにとって一番知りたい情報がまだ出て来ないことに苛立ち、会話に割り込んで来る。


「だからよ、そのレナって司祭が知っちまったんだよ。そのイドラス教皇の勅諚をさ」

「何⁉︎」

「本来勅諚ってのは教会の秘中の秘。ましてや他神教の人間に漏れる事はあっちゃならない一大事だ。だがどうやってかは知らねえがそのレナって女は知っちまった。結果その命を狙われたってわけだ。そして…俺に泣きついて来た」

「お前を?レナが⁉︎」


 納得いかない思いがアスの表情からありありと見てとれた。

 しかし気持ちは分かる。

 どう考えても一戦士が出来る範疇を超えている。

 しかも魔法に対してはアスでは対応出来ないだろう。

 マースはニヤリと薄笑い、許容できずにいるアスを面白げに眺めている。


「それで紆余曲折があってラドルに拾われたって訳だ。先に言っておくがな、その紆余曲折ってのは俺は関知していない」

「神滅者ラドルは何しにこの街に?」


 ふと気づいた疑問を問いかけるエティア。


「もともとクステルム平原に行く途中にこの街を立ち寄っただけらしいがな、教会兵に追われていたレナをたまたま助けたらしい」

「……助けた。あの大罪人が。」

「意外か?」


 自分の心中を見透かされた気がしたエティアは慌ててマースを見る。

 そのマースの薄笑いは薄ら笑いにランクアップしていた。

 だがラドルの行為はエティアを困惑させるだけだった。

 人の命を簡単に刈り取る神滅者。

 しかし請われたら助けの手を差し伸べる仁者?

 分からない。

 あの聖王都での乱行で聖王女をはじめ、多くの騎士を手にかけたあの神滅者しか知らない。

 世界もかの神滅者を悪と断じ、そしてそれが常識になっている。

 整合性が取れない。

 掛け違ったボタンの様な落ち着かなさ。

 そんなエティアを見てマースは満足そうにニマッと嫌らしく微笑む。


「……まぁ、あいつのしている事は確かに間違っている。人の目から見たらな。だがだからと言ってラドルは自分の行為を悔いたり止めたりはしないだろうよ。……あいつの目的は誰にも理解されない、自己満足なもんだからな」

「貴方は……神滅者とどういう……?」


 その問いには答えないマース。

 スクッと立ち上がり、エティアを一瞥する。

 その表情には先ほどまでの下卑たような笑みは消えていた。

 背中を見せたマースにエティアは近寄ろうとする。

 今の表情が何か気になった。

 そして後ろから手を差し出すと。


 バチィ!


 手が触れようとした時、いつの間にか帯電したマースの身体からの放電に指が弾かれた。


「おっと下手に俺に触れるなよ?……火傷するぞ?」


 そう言うとマースの手から薄く光輝く円形の魔方陣が広がっていく。


「これは?」

「お前の懸念だろう?眠りに落ちた住人の身の安全ってのは。今この街に対物対変温結界を張った。眠った住民はこれで野鳥や雨や暑さから護られる。寝心地は最悪だがな」


 全て見通したかのようなマースに底知れない力を感じながらエティアは少し後ずさる。

 それを見たマースはちらと肩越しにエティアを見やり一言言い放つ。


「それでいい。力が無いなら強い力に近寄るな。強い力に寄り添うならば傷つく覚悟を見せろ。お前らが何をしたいかは知らないが出来るならあいつには関わらない方がいい。……じゃあな」


 マースの身体が陽炎のように揺らめき始める。

 それを見たアスが大剣を振り上げながら突進するも、マースが片手で展開した防壁に遮られた。

 アスはその防壁をまた破壊しようと力を籠める。

 だが今度はその防壁が砕ける様子はない。

 その強度は先ほど防壁破壊した時とは次元が違っていたのが分かった。


「悪いな。さっきの防壁はわざと砕かせたんだよ」

「なにっ⁉︎」

「そう、それだ。お前のその顔を見たかったんだ。信じられない、恥辱の顔をよ。満足したぞ、アス。また会えたら相手してやるよ。ははは」


 そう言うと初めて見た時のようにマースの姿が消える。

 くそっと苦虫を噛み潰したように吐き捨てるアスをよそにエティアは一つ重大な事を思い出した。


「あ…!盗んだ物全部持っていかれた!こらー!戻ってこい!この火事場泥棒ーーーー‼︎」


 すべて手のひらの上と感じたエティアの耳には先程までの魔道士の言葉ではなく、卑しい薄ら笑いのマースの嗤い声が聞こえてきた気がした。

 その無念の叫びが眠りについた街に大きく何度も木霊していたーー。

25話アップです!

再びマース登場。もちょっとイヤな奴感出したいんですが難しい。

さて次回は再びラドルサイドに突入予定。

いつの間にやらレナを拉致したラドルサイドはさらに難しくなる予感。

頑張るぞい!

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