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蒼穹の神滅者(シルヴァリオ)  作者: 1
第1章 廻る時計
24/85

第24話 邂逅編〜教会都市〜

 太陽の光が照りつける道を行く二人分の影。

 影の一つは地図とにらめっこしながらダラダラと汗を流している。

 もう一つの影は溜息つきながらそれを見ているだけ。

 岐点街を出てから中央航路街道から外れ、道はよく叉路にぶつかり、そこでしばらく足止めされていた。


「……またか?」

「う、うるさいわね!ちょっと確認してるだけじゃない!話しかけないで!」


 はぁ、と頭を掻く死神こと、アス。

 必死に地図を精査しているエティアは地図を縦に横に回しながらまるで頭の上に?マークが回っているのが見える。

 いよいよ見かねたアスがエティアの身長の上からひょいと地図を奪う。


「ちょ、なにするの?」

「俺が見る。こんなところで無駄に時間を使うこともないだろう?」

「うぅ〜」


 納得いかないと噛み付かんばかりにこちらを涙目で睨んでくるエティアを全く相手にしない。

 まさかこんなに自分が読図に弱いとは思わなかったが、じっと自分に変わって読図しているアスを凝視する。

 すると向こうから一言聞いてきた。


「そういえばお前、どこに行くつもりだったんだ?」

「なによ、言ってなかったっけ?ハルテージって街」

「……!」


 それを聞いてぽいっと地図をエティアに投げ返す。

 お手玉しながらも、しっかと地図を掴んでアスの変化に気づくエティア。


「な、なに?どうしたの?」

「それならそうとはやく言え。……こっちだ」


 黙ってついてきた男が何を言っているのか、と心の中で抗議の声をあげるも、素直についていく。

 その後もいくつかの叉路に出くわすも、迷わず進むアス。

 ちらと横目でアスを見るといつもの仏頂面に戻っている。

 この数日アスと同行してきたが会話が弾んだ事はない。だがさっきのような黙って助けてくれたりもした。


(……そんなに悪い人じゃないのよね……。死神とか言われてるけど)


 じっと見ながらそんなことを考えていると、なんだ?と言ってくる視線を投げかけてくる。

 その視線に急に気恥ずかしくなり顔を背ける。

 スタスタと互いの足音だけ聞こえる無言の行進がしばらく続く。

 そんな時、意外にもアスから話題を振ってきた。


「なぁ、エティア。……一つ聞いていいか?」

「うぇっ⁉︎な、なに?」


 急な問いかけに変な声が出てしまった。

 珍しい同行人の質問を何だろう?とまた視線を投げかける。


「……回復魔法ってのは他人を治せても自分は癒せないってのは本当なのか?」

「……え?」


 意外な質問に口が開いてしまう。


「聞いてなかったか?」

「あ、いや、ちょっと意外な質問だったから。……そうね、確かに回復魔法は自分を癒せないわ」

「……何故だ?」

「うーん、それは教会の教義にもよるんだけどね、基本回復魔法は人を癒して、その人の生も癒すのが最上、と言うの。つまりそこで亡くなる筈の人の命を救う事が回復魔法の第一義。でもそれは自分の命は含まれないのよね。矛盾してるけど。どんな神様でも回復魔法は与えてくれる。だけど、自分を回復する事ができると己を省みることがなくなる。傷つく事を恐れなくなっちゃう。傷つくという事は本来は人の親たる神に対して畏れ多い事なの」

「……なるほどな」

「だからザールベルクでナイフ投げのリンゴ持たされた時は本当に腰が抜けたなぁ。あはは」


 エティアの空笑いが虚しく宙に消える。

 また黙々と道を歩いていく。

 ……しかし。

 アスが珍しく会話を振ってきたきたのは何故か引っかかる。

 もしかして。


「ねぇ、アス」

「なんだ」

「もしかしてなんだけど……治してほしい人がいるの?だから私について回っていたの?」

「……」


 否定をしない。

 という事は答えは決まっている。

 そう思うと何だか嬉しくなってくる。

 こんな無愛想な、不器用で他人に対して興味の無い、無い無いづくしの男にも大切に思っている人がいる。


「なんだ、それならそうと早く言ってくれればーー」

「五月蝿いぞ、その口を縫い付けてやろうか?」


 あ、怒った、と思うも人間らしい一面があるのを知ってやはり口元が綻んでしまう。


「ごめんごめん。さぁ行こう!目指すはハルテージよ!」

「……変に意気込むな。もう目の前だぞ」

「えっ?どこ?」


 すっと指を指した先。

 地平線に向かって伸びる道の先に小さく見える外壁。

 あれが教会都市ハルテージ。

 やっと目的の地が見えてきて安堵するも、2人とも少し足を止めてしまう。


「……ねぇ、何かおかしくない?」

「感じたか。一先ず行ってみよう」


 なにがおかしいかはまだ分からない。

 だが予感がする。

 特別嫌な悪い予感だ。

 2人が感じた予感につい歩調が早くなる。

 ハルテージに近づくと向こうから一人の冒険者らしい男が駆けてくる。

 その様はどう見ても何かから逃げてきた様相だ。

 その男が2人の姿を認めると、わたわたと近寄ってくる。


「あ、あんたら…まさかハルテージに行くつもりか?」

「え、ええ。何があったの?」

「蒼い髪の男が…!」

「!」

「蒼い髪の騎士風の男が…町を…住人たちを…!」


 蒼い髪の男が現れた。

 それだけを聞けばかの神滅者が現れたという確証はない。

 だがエティアは直感した。

 神滅者だ。あの男があの街にいる。

 そう思った時、エティアの心に押し込めていた箍が外れた。

 ーーもう誰も殺させない。死なせない。

 その想いがエティアを疾駆させた。

 まっすぐハルテージに向かって駆けていた。


「お、おい!やめておけ!今は…」

「今は…なんだ?一体ハルテージでなにが起きた?」

「街が…死んだんだ…!」

「……!ついてこい」

「はぁ⁉︎冗談だろ!あんな化け物がいるところ…ごめんだ…」


 ジャキっという鈍く重い音。

 アスの背中の大剣がへたりこんでいる男の首に添えられる。


「街で逃げるか、今此処で死ぬか、選んでいいぞ?」

「わ、分かった!分かったよ!」


 そこまで言ってアスと冒険者風の男がエティアの後を追う。

 街が死んだ。

 その言葉だけでは何が起きたか分からないが、一つ腑に落ちない事もあった。

 だが今は街の現状を確認する事が先だ。

 嫌な感覚は街に近づくほど強くなる。

 アスはその感覚を覚えながら焦る心を抑え込んでいた。



 必死に全速力で駆けてきたエティアが街の外門をくぐるとそこには。


「な、何これ……?」


 もともと中規模程度のハルテージだが耳に聞こえてくるのは優しく戦ぐ風音。

 それだけだ。

 人の賑わいも行く人びとの雑踏も何も聞こえない。

 そんな数々の賑わいを奏でる人びとは。

 門をくぐって真っ直ぐ伸びる大通りで無数に倒れていた。

 すぐに倒れている近くの住人を抱きおこす。


「……え?」


 息がある。

 心臓も動いている。

 つまり眠っているだけだ。

 他の住人も確かめるがやはり眠っているだけだ。

 これは何が起きたのか?

 エティアがこの地で起きた事象をあらゆる可能性を推測する。

 その時戦いだ風に乗ってふわりと僅かに魔力を感じた。

 そっと立ち上がり、街のあちこちを見て回る。

 だがただの1人として動いている人影を見つける事は出来なかった。


「……これを神滅者が引き起こしたというの?人の命を何とも思わないあの大罪人が……?」


 ただ眠らせているだけのこの状況。

 それはエティアの脳裏にあるあの死神の行為とはそぐわない違和感を感じていた。

 その時。


 ドオオオンっ‼︎


 近くで初めて自分の出した音以外の物音を聞いた。

 それも爆発に近い轟音だ。

 神滅者ーー?

 そう思い一気にまた駆け出すエティア。

 一体何が起きている?

 逸る気持ちが溢れ出るのを抑えながらまた疾駆した。



 ーーーーーーーーーーーー



 時は少し遡る。

 アスと冒険者の男がようやく外門をくぐるとその惨状に脇目も振らずに迷いない歩調で駆ける。

 その後を男は必死に追い縋りながら文句を言い放つ。


「お、おいアンタ!勝手に一人で行くなよ!一人にしないでくれ!」


 アスはその体躯に似合わず素早い動きである場所を目指していた。

 疾駆している途中、横目で倒れている人々が生きている事を確信する。

 流血も、肌の疾患も誰一人異常が認められない。

 即ち人による殺戮でも疫病による病死でもない。

 ならば倒れている住人は最低限まだ生きている。

 それは数多くの死を見てきた彼故の経験則から感じた直感だろう。

 ならば自分のするべき事はーー。

 そうしてアスが辿り着いた先は教会都市と言われる街でも一際大きい教会だった。

 その教会の扉を荒々しく開けると目当ての人物の名を叫んだ。


「レナ‼︎」


 レナという名を叫びながらどんどん奥に進んでいく。

 聖堂と言うべき場も静寂に包まれ、アスはレナという人物を探す。

 だがいくら探せどアスの声に応える人も姿も見当たらない。


「いない……?そんな筈は……あいつが教会を出ていけるはずがない。これは一体……⁉︎」


 ガチャ、と開けるその扉の部屋の主はいない。

 恐らくはレナという人物の部屋だろうか。

 狭いながらも整頓された簡素な部屋。

 だが窓際にある小さな神像から信仰心の強い好印象を受ける人物だろう。

 アスは勝手知ったる手つきでその部屋を少し調べる。

 最近まで人のいた形跡は残っている。

 街中どこを見ても荒れてはいない。

 これだけの異常事態に街の中は人が動いていないだけでどこも崩落などはしていない。


「これは……」


 そこに後を追ってきた男が息を切らせながらやってきた。


「あ、アンタ……は、はえぇよ……全く……一人にしないでくれって……言ったのに……よ」


 その姿を確認すると男目掛けて巨大な鉄塊が飛んでくる。


「うおわっ⁉︎な、なにしやがんだ!」


 飛んできた鉄塊はアスの大剣だった。

 それを辛うじて躱した男をアスは冷たく見下ろす。

 ずしっとくる大剣をアスは片手で掴みあげると冷ややかに言い放つ。


「お前……何者だ?」

「えっ…?」


 再び手にした大剣を振り下ろすと足場が激しく裂壊する。

 またもなんとか避けた男は必死に死神に懇願する。


「なに言ってんだ?アンタが嫌がる俺を連れ回してきたんだろうが⁉︎」

「変には思っていた。お前一人だけが外に逃げてきた事。お前が言ってた化け物が本当にいたならこんなに街が整然と残っているはずがない。貴様一人だけが動けている。……もう言うべき事はあるまい?」

「……」

「死ぬ前に聞いておく。この教会の司教のレナ・ファンリューをどこにやった?」

「……ふ、アッハッハ!やるねぇ。ただの蛮勇者かと思いきやなかなかどうして」


 先ほどまで怯えていた姿はもはや影を潜め、その容貌は仮面を棄てていた。


「レナをどこに連れて行った‼︎」

「まぁ待てよ、そのレナとかいう司祭を攫ったのは俺じゃない。ていうかこの街を眠らせたのは訳があるんだよ」

「黙れ‼︎」


 一気に間を詰めて袈裟斬りに大剣を振るう。

 その一撃はその大剣の重量に加え、アスの常人離れした膂力によって凄まじい威力を発揮した。

 ……筈だった。

 その一撃は男の肩口で止まっていた。

 見えない壁みたいな存在がアスの一撃を止めていた。


「魔法障壁……⁉︎貴様、魔道士か!」


 ニコッと笑ってアスに向かって手を差し出す。

 ヒタッとアスの鎧に触れるととてつもなく重い衝撃がアスを貫いた。

 その一撃によって教会の屋根が激しく崩れ落ちる。

 ドォンッと凄まじい威力で内壁に叩きつけられたアスは片膝をつく。


「くっ……!」

「へぇ…見た目通りのタフさだな、傭兵」


(くっ……!魔法耐性の高いこの鎧でもこれだけの威力……ただの魔道士じゃない……!)


 ググッと大剣を杖にして身体を無理矢理叩き起こす。

 その姿を見て、魔道士の男は何を思ったかアスに向かって陳謝する。


「悪い悪い。大して力は出してないんだが戦士は魔法に弱いのは知っているさ。」

「貴様…何者だ……!」

「俺か?俺はマース・マルフェス。この教会都市のレンツェル魔法学院の一教師だよ。ちなみにこの街を夢の世界に招待したのは何を隠そう、この俺様さ」


 とマースが自己紹介するとふわっとその身を浮いていく。


「ま、待て!」

「ああ、無理するな、傭兵。もうすぐ連れの武僧の女がやってくる。下手に動くと死ぬぞ?」

「レナは…何処だ……!」

「……大した男だ。自分の命より他人の心配か?何処に何しに行ったかは見当もつくし拉致した奴も知っている。教えてやろうか?」


 マースの身体は既に宙に高く浮いている。

 卑俗な笑みを浮かべマースは言葉を継ぐ。


「蒼髪蒼瞳の神滅者(シルヴァリオ)……ラドル・アレスフィア。奴はお前の目当ての女を攫いクステルム平原に向かったよ」

「神滅……者だと……⁉︎」

「じゃ、そういうコトで。じゃあな」

「待って!」


 別の方からの声に目を運ぶとそこにいたのはエティアがマースを見上げていた。


「神滅者が…ラドルがクステルム平原にいるの⁉︎」


 エティアの問いに何も答えず、手を振りながらその姿を消す。

 魔法によって位相転移したのを見届けるとアスは身体の中からありったけの、獣の如き咆哮を轟かせた。


「ち……っくしょおおおおお‼︎」



暫く間が空きましたが24話アップです。

エティアとアスが久しぶりに出てきました。

今回初登場のマースはもう少しスマートに出す予定でしたがなんかゴチャゴチャしちゃいました。

反省。

ホント作品は生き物ですね。

感想評価お待ちしております!

よろしくお願いしますね!

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