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蒼穹の神滅者(シルヴァリオ)  作者: 1
第1章 廻る時計
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第2話 序幕〜建国祭〜

 

 聖王都ベルクラーナ。

 神聖王国バルカードの国都にして3源神が一柱、愛と現在の地母神フェニアの最大教権地である。

 この世界の神々は信徒の信仰によって神の奇跡を行使する為、その存在は確認されているもののその姿はこの現世よりも高次元の存在である為、基本的には教会を介しての信仰が一般的である。


 神の奇跡とは主に魔法、神託などが挙げられる。

 とは言え信仰心があれば誰でも魔法が使えるというわけでもなく、教会による許可認定が下りたのち、肉体に魔法行使の為の処置がなされ更に専門の施設で知識、教養、鍛錬を修めて初めて魔法が使えるようになる。また術式によっては触媒、素材が必要となる為、必ずしも万能の力ではなく術者の力量に大きく左右される能力である。


 神の力、神霊力の強弱は信徒の信仰心の多寡により決まるもので、当然信徒の数がそのまま神の序列に直結する。

 3源神72主神と言われる神々の中でも人気があるのが源神である光と未来を司る太陽神セレス、闇と過去を司る月女神マルティナ、そして前述のフェニアの他に軍神イドラス、慈愛神リューディアなどが上位に名を連ねる。


 ここ聖王都ベルクラーナは地母神フェニア神教の総本山であり、最高教権者である教皇はとある条件の元で王権最高位である「聖王女」の称号を得た女王に全権を委譲し政教統合、国母君臨することが王国法典により定められている。

 今年はその条件が揃う稀有な事例として歴史に刻まれようとしていた。


 聖歴750年白鷹の月。

 10年に一度の「建国祭レクシール」が執り行われる今年はかつてないほどの賑わいを見せていた。

 というのも聖王女の戴冠が同時に行われる「聖王建国祭ロア・レクシール」だからである。

 建物の上階から花を散り降らせ、細かく裁断された色とりどりの紙吹雪が宙を舞う。

 男は酒を飲み、女は着飾り、子供は笑う。老人も赤子も悲しみの欠片は微塵も見いだせない。

 キャラバンの踊り子は舞い踊り、芸を披露する。

 大通りは出店が軒を連ね行き交う人が思い思いの品を物色する。

 そんな中、軽やかな足音と無骨な鋼のかち合う音を織り交ぜながら駆けて来る少女が一人。

 先ほどメカージュを置き去りにして入都したエティアである。


「ふぁ~!建国祭だ!夢にまで見た聖王建国祭だぁ!あはは!」


 手を広げながらさながら独楽のようにくるくる回るも器用にすれ違う人たちには掠りもしないでかいくぐりながら大通りを進んでいく。

 しかし世の物理法則の理としていつまでも回り続ける独楽など存在しない。やがて軸心は大きくぶれ、そのうち地に伏せる。

 独楽の様に回るエティアもその理から逃れえるはずもなくやがて、


「あれ?あれあれれ?め、目が回る~?回れば、回る時ぃ~?」


 地に伏せた。

 周りの人々の視線など気にもせず、まだ回る世界に身体を預け空を見る。

 どこまでも蒼く続いていく澄み切った蒼穹に向かって、無骨な鋼を纏った手を伸ばす。


「本当に来たんだ……。聖王都に……」


 グッと拳を握る。掌の熱が身体に伝わる。

 息が弾む。

 胸中に宿る興奮が高鳴る。昂ぶる。

 全身から沸き起きる不思議な余韻に浸りながら笑いがくぐもって出ようとしたその時。

 空に伸ばした手を掴む感覚がした。


「大丈夫かい?そんな所で口を開けていると紙吹雪が積もっていくよ?」

「……え?兄さ……?」


 聞きなれた口ぶりに先ほど置き去りにしてきた兄が脳裏をよぎるも瞬間、他人だと認識する。

 兄は自分にこんなに柔らかい言葉遣いはしない。

 日の光が逆光となって相手の顔が見えにくい。

 目を凝らして相手を見やる。

 そして瞳に飛び込んできたその姿につい一言呟いた。


「綺麗……」

「え?」


 相手の反応に気もやらず、ゆっくり上体を起こしながら相手を、厳密に言えば相手の髪を注視していた。

 蒼く澄み切った蒼穹と相手の髪の境界が見えなかったのだ。

 蒼穹に同化するほど澄み切った蒼い髪。

 じっとそれを見つめるエティアに対して、


「ありがとう」


 軽く頬を緩めて微笑みながら、腕に力を入れエティアを引き起こす。


「へへ、いきなりごめんなさい。とても綺麗な髪で見惚れちゃって…」


 と。そこまで言って気づいた。

 相手は男だ。髪に目がいってしまったが整った端正な顔立ち。自分よりも上質な外套を羽織り、華美な意匠の銀の軽鎧。腰にはそれに負けない長剣。

 間違いない。

 相手は騎士だ。

 そこまで気づいて一気に血の気が引いていくのが自分でも分かった。


「ごごごごめんなさい!あの、その、まさか騎士様が私なんかに手を差し伸べてくれるなんて思わなかったもので…!」


 相手が騎士だと知り条件反射で後ずさりながら謝罪をまくしたてる。

 ともすれば上騎士か聖騎士クラスだ。

 騎士は国の剣と言う。国と民と、そして神の正義を守る断罪の剣だ。その騎士に無礼を働けばその国の剣に泥を塗りたくったも同義である。

 フェニア神教のお膝元なら尚更である。

 それを口実に切り捨てられても文句は言えない。


「ああ、これか。元、だから大丈夫」

「もと?」

「元、騎士って事でね、今は天下の自由騎士だ。要は無頼の傭兵ってところかな」


 自由騎士とはどこの国にも教会にも属さない、己の腕だけを頼りに戦地から戦地へと渡り歩く傭兵…と言えば聞こえはいいが、普通の傭兵よりも報酬が高く設定されるので大戦でもない限りお呼びにならないのだ。平時ならば尚更である。

 それを聞いてホッと一息ついたエティアは対面する騎士に近づき、改めて礼を言おうとしたその瞬間、腰に軽い衝撃を受ける。

 振り向くとエティアの足元で尻餅をついた子供が痛みを訴えた。


「いてて……」

「ああ、ごめんね。道のど真ん中で立ち話してた私がダメだったね」


 見ると少年の膝小僧が擦りむいて少し血が出ていた。


「これ……大丈夫?」

「平気だよ、これくらい唾でもつけときゃ……」

「ああ、ダメダメ。よし!お詫びにお姉ちゃんが治してあげる」


 そう言うと少年の傍にしゃがみ込んで、患部を優しく包むように手を添えると口から響くような、しかし通る声で言葉を継ぐ。


 『善なる神よ 癒しの聖櫃を開きて彼の者を如何なる痛痒から解き放ち給え  治癒リーフ


 魔力の籠る声に導かれるように癒しの詠唱を唱えると膝にかざした手から白く優しい光が漏れる。

 ほんの僅かな瞬間、光が消え手を離すと先ほどまであったはずの傷がまるでなかったかのように綺麗に治っている。


「どう?」

「わあ!姉ちゃん!ありがとう!全然痛くねえや!」

「良かった。でも人混みで走らない事。いい?」

「さっき自分が悪いって言ったじゃん」

「それはそれ。これはこれ。わかった?」


 感謝の言葉をそれらしく感じさせない口ぶりで少年は手を振りながらまた走りながら人の波に消えていく。やれやれと一つため息をつくと先ほどの騎士がじっと事の成り行きを見ていたことに気づく。


「…神聖魔法か。君は…僧職の立場の人間かい?」

「僧侶様だったらこんな厳つい手甲つけないでしょ?」

「…武僧ラージャか。それにしてもいい腕だ。その歳で神聖魔法を扱えるならさぞ優秀な武僧じゃないのかな?」

「ううん。私、魔法は得意だけど格闘は苦手で。でも今年ようやく武僧の認可を貰えたの。だから……」

「成程。教会で誓言式を挙げるのか」

「そう」


 誓言式とは武僧見倣いがその力を以って神の敵を祓い、傷ついた民を癒す事を神前で誓う儀式でこれを終えて一人前の武僧として認められる。

 その後は教会所属となり直属の上司祭から与えられた任務をこなすことになるのが一般的である。


「……でも」


 ふと頭に疑問がよぎった騎士がエティアに問う。


「神聖魔法は教会の管理下にある技能だからまだ誓言式を終えていない君が使うのは……」

「あわわわ!それは…その……!」

「……使ったのか」


 背後から聞きなれた声がした。そう、先ほど置き去りにしてきた兄貴分その人だ。

 その身体全体から発しているオーラともいうべき気勢は常人のものとは思えないほどに盛っている。


「あ、あらあ……お兄さま……お早いお着きで」

「ああ、おかげ様で……な!」

「んぎゅ!」


 およそ少女の声とは思えない、まるで馬車に轢かれた蛙のような声が思わず漏れた。

 見れば先ほどまで兄が背負っていた二人分の荷物が自分の背中にのしかかっているではないか。

 おまけに重量感満載の大剣も自分の腰の上に居座っている。

 メカージュが騎士に相対すると互いにじっと目を離さない。


「……連れが失礼した。なにか迷惑を掛けたか?」


 油断も隙も見せない双眸が騎士を相手に威圧しながら謝罪する。


「……いや。素晴らしい光景を拝見させて貰ってたよ」

「……悪いがこの馬鹿妹がやらかした事は他言無用でお願いしたい。」

「承知した。大丈夫。誰にも口外するつもりはないので」

「助かる。こいつがここで騒ぎを起こせば何のために此処まで来たか……」

「それはそうと……」


 つい、と騎士がメカージュの背後を指さす。

 何事かと振り向くとそこで荷物の下敷きになって蛙の変死体よろしくしていた筈の妹分の姿がない。

 見ればもうすでに遥か彼方に逃げだしている。


「この……!待て!エティア!今度という今度は許さん!」

「じゃあね!蒼い騎士様!縁があったらまた会いましょうーー!」


 手を振りながら逃げる少女と、荷物を軽々と担ぎそれを追いかける青年。

 そしてそれを見送る騎士。

 まるで嵐ーーとは言わずとも目の前を一陣の清風が通り過ぎたかのような錯覚を覚える。

 騎士は彼女が起こした小さな神の奇跡を反芻する。

 しかしすぐにいつもの答えが埋め尽くす。


 ーー自分には関係のない事だーー


「……行くか」


 誰に言った訳でもないその一言を周りの人間に聞かれたかと思い、つい周りを、彼女が走り去ったその場を見渡す。

 あの紅毛の少女が先程自分に放った一言。

 小さな棘のように脳に刺さる。


「また……会いましょうか。縁など……ここで切れた方が良いものなんだよ。特に俺とはな」


 そう漏らすと騎士は改めて自分が向かうべき場所を見据えて歩を進める。

 その視線の先にある切り立った峰の上にそびえるような白い王城へと。

一日おいての投稿です。

スマホで書いてたら二回も消えるというアクシデントに見舞われながらも前の話の倍の量を今度はPCで打ち込みました。しかし…自分、かなり遅い。何がって文の構成、組み立てがです。

もっと精進しながら進めますのでお付き合いください。

しばらくは世界観を出すためリズム観が悪いですがご容赦ください。

ではまた近いうちに次話をあげますのでよろしくお願いいたします。

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