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蒼穹の神滅者(シルヴァリオ)  作者: 1
第1章 廻る時計
19/85

第19話 少女編~解明~

「ラドルお兄ちゃん!起きて!朝だよ!」


 けたたましくも可愛い声が睡魔を取り除く。

 ゆさゆさと身体を揺らす力は弱いが起きるには十分な威力がある。

 いつの間にか眠ってしまったのか、もう日が昇っていた。

 むくりと気だるい身体に鞭打って起き上がる。

 横では起こした功績にドヤ顔しているカティナが微笑んでいる。


「おはよう、ラドルお兄ちゃん」

「ああ、早いな。……ん?」


 見ると昨夜カティナに掛けた自分の外套がいつの間にか戻ってきて腰に掛かっていた。

 外套を手に取って自分の物だと確認するとカティナを見て、


「……俺に外套掛けてくれたのか?」

「うん。あのままじゃ肌寒いと思ったから……。元々はお兄ちゃんの外套だし私は十分温まったから」

「……そうか。ありがとう」


 礼を言ってカティナの頭をくしゃっと撫でるとカティナはまた笑顔になった。

 手を離すとその感触を確かめるように拳を握る。

 立ち上がり外套を羽織りながらちらと隣で視線を投げかけて来る少女を見やると、その視線に気づいたのか、なに?と言わんばかりに首を傾げる。

 一瞬の目伏せ。

 昨夜出した結論を改めて反芻する。

 理論的には可能な筈だ。しかし余りにも偶発的事象になるが。

 だがもしそれが正しいなら…。

 その結末はラドルの中で多少抵抗のあるものだった。


「どうしたの?」


 カティナの声で思考を止める。

 目を開けてカティナを見据え、再び頭を撫で、


「すまない……」

「え?」


 カティナはラドルの言葉が一瞬理解できずに聞き返す。

 刹那。


 ドスッ‼


 鈍い音がした。

 目の前の少女の身体から異物の突起が突き出ている。

 その突起の尖端から真紅の珠が一つ二つ。

 パタタッと音を立てて地に落ち染みこんでいく。

 カティナは背後からのこの異物の正体を確かめようと錆びた機械の様にギギッと音がしそうな動きで首だけで確認する。

 視界の端に何とか見えたのは昨日まで全く大人しかった魔獣だった。

 魔獣の身体から金属のような糸が飛び出ている。

 その糸は真っすぐ少女の身体を貫いている。


「……どう……して……?」


 カティナの口端からも紅い雫が道を作って零れていく。

 信じられない、という顔をしてまたラドルを見る。

 視界が涙でぼやける。

 痛みからの涙ではない。

 信じていた人の裏切り。それが何よりも痛かった。だから涙が溢れた。

 そして溢れた涙を置いていくかのように身体が横向きに倒れる。


「どうして……?お兄……ちゃん……」


 ラドルの表情は変わらない。

 いや。

 少しだけ悔恨の眼をしているように見えるのは気のせいか。

 そして倒れたカティナの傍にしゃがみ込む。


「……しばらく眠っていてくれ。なに、すぐにまた……会えるさ。」


 その言葉を終えた時には少女の瞳はすでに光を失っていた。


「やれやれ、子供を手にかけるのは気が進みませんね。……これで良かったので?」

「……ああ。彼女こそが……鍵だからな」


 すると足元で倒れている少女の身体がボウっとほのかに光りだす。

 その光はカティナの身体を包みこみ、やがて光に飲み込まれたかのようにその姿を消した。


「消えた……!?」

「やはりな……」


 カティナの姿が消えた現象を確認した後、ラドルは踵を返す。


「どちらに?」


 ローグの問いに苛苛しく答える。


「……魔術祭壇だ」


 そう言って歩を進めるラドルの背中は明らかに怒気を孕んでいる。

 ローグは少し間をおいてラドルの後を追う。

 恐らく、いや確実にその瞳は蒼くなっている故に。



 ーーーーーーーーーーーーーー



 トコル村の住人たちの家屋は殆どが木造だった。

 それも木壁はところどころ腐りかけ、多少の防風程度にしか役に立たない。

 板葺きの天井も長く変えられていないのか、雨が降れば間違いなく雨漏りするような粗末な小屋にそれぞれ複数人が寝食している。

 村長ですらも少し大きい小屋程度の家だ。

 そんな村の一角に明らかに不自然な石造りの小屋がある。

 そこに1人の少年が駆け込んでくる。

 カティナの兄と言ったリーベルだ。

 大粒の汗を顔に浮かべて息を弾ませている。

 石造りの小屋の入り口で前屈みになって息を整える。

 ふーっと一つ深呼吸をして喉を鳴らす。

 周りに誰もいないことを確認して小屋に入ると中にあったのは一冊の古ぼけた本だった。

 その本を手に取って、リーベルは小さな声で何かを呟いている。

 するとその本が微妙に光を放ち始める。

 その光は赤く黒く、邪悪な負の魔力を帯び、やがて乱気流の様に周囲を巻き込んで宙に浮いている。

 リーベルはその魔道書とも言うべき本に再び手にとって中身を確認すると、安堵の息が漏れた。


「……良かった。まだ間に合った……。一体何があったんだ?……カティナ」


 魔道書から放たれた光が集約していくとやがてそれが人の形を成していく。

 それはほんの僅か前に事切れた筈のカティナだった。

 魔道書から光が収まると同時に完全にカティナはその姿を取り戻す。

 ぱちと、目を開けるとゆっくり言葉を継ぐ。


「お兄ちゃん……?私……?」

「カティナ!一体何があった?何故お前は死んだんだ⁉︎」


 まだ頭がはっきりしないのか、カティナは寝ぼけ眼で焦点が合わない。

 リーベルはぱちんとカティナの頬を両手で軽く叩いて強制的に覚醒させる。

 カティナが目をぱちくりするとやがて涙が溢れて来た。

 うわぁぁっとリーベルのボロ服に泣き縋る。


「ラドルお兄ちゃん……に……」

「やっぱりあいつか。くそっ!余計な事をしやがって……!」

「余計な事とは何の事か是非とも知りたいな」

「……!」


 振り返ると昨日カティナを助けたラドルとかいう余所者が小屋の入り口にいつの間にか立っていた。外は朝だった空が夜中の様に暗くなっている。

 ラドルの目の前で事切れ消えたカティナがそこにいる事も予想通りだったのか、一瞥したあとリーベルの持つ魔道書に目を移す。


「それが祭壇か。……全くしてやられたよ。契約魔術の要素がその本に全て詰まっていれば必ずしも目に見える祭壇が必要とは限らないからな。要は契約を履行する効力があるかないかだ。言うなれば契約魔道書と言ったところかな」

「……お前、何者だ。俺たちをどうするつもりだ?」

「それはこちらの台詞だ……と言いたいが何が目的かはわかっている。知りたいのはお前が何者かだ」

「……」


 リーベルが子供とは思えない視線で鋭く睨んでくるも、ラドルは歯牙にも掛けずに言葉を続ける。


「お前はカティナの兄じゃない……し、人間でもないな。そんな契約魔術を扱える子供はいない。さらに言えば一体何年、何回同じことを繰り返してきた?」

「……!」

「急に黙ったな。否定しないのなら勝手に続けるぞ。最初に感じた違和感はカティナの感情の起伏だ。最初魔獣から助けた時のカティナは死んだ絶望を写したような表情だった事。だがお前が本当の兄貴なら、カティナに心の拠り所があるならばあんな顔はしないしできない。……しばらくするとカティナはその絶望がまるでなかったかのように明るく笑いだした。恐らくは魔術の影響下からカティナの感情はその魔道書に支配されている。だから…生き返ってしばらくは魔道書の支配が及ぶ前は素の感情が露わになる。だろ?……カティナ?」


 そう言ってカティナを見ると先ほどまで泣き腫らした表情が嘘のように一転して笑顔だった。自分を殺した相手を前に出来る筈のない笑顔だ。


「なんのこと?ラドルお兄ちゃん」

「……さらに記憶改竄か。便利な契約魔道書だ」


 カティナの反応とは裏腹にリーベルの表情は強張っていく。

 ふるふると震えながら許せない相手を見るように怒りを露わにしている。


「……お前、一体何者だ!只の一般人がそこまで魔術に精通している訳がない!」

「……俺の正体は置いとけ。お前にとっての誤算は樹海までこの契約の結界範囲に入れた事で本来誰も立ち入る事のできないこの閉じた世界に俺が紛れ込んだ事だ」

「それだ!何故お前はこの世界に……閉じた世界に入り込めたんだ⁉︎」

「これは本当に偶然なんだがな、その魔道書、いやこの小屋を中心に展開した結界魔法陣の外角円の魔交点……俺が散らした人的魔力が他の魔法陣の魔交点とダブっていた。結果そのもう一つの魔法陣が無間空間を生み出し俺が気づいた訳だ」

「もう一つの魔法陣……?そんなものある筈が……!」

「あったんだよ、樹海の木々と自然湧出した自然魔力によって形成された偶発的魔法陣がな。もっとも結界内にいたお前には知るよしもない事柄だがな。まぁこの結界魔法陣を発動しなければそっちの魔法陣も発動しなかった訳だから間抜けな話だ」

「……!」

「この魔法陣の効力まで言い当ててやろうか?こいつはある起点で時間軸ごと魔法陣内を無限に過去へループする時干渉系魔法陣だ。随分雑な作りだが……一応の発動条件はクリアしてるみたいだな。その起点の鍵となるのが……」

「やめろ‼︎気付かせるな‼︎」


 リーベルの怒号の制止を無視してラドルは未だ飲み込めない少女を指差して、


「カティナの死亡だ」

「……え?」


カティナはラドルの言葉を理解できずにただへたり込んでいたーー。

謎解きターン( º﹃º` )

説明文がもう難しい。

もう少し上手く書けると思ったのになぁ。

また頑張って改稿します。

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