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蒼穹の神滅者(シルヴァリオ)  作者: 1
第1章 廻る時計
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第18話 少女編〜魔術〜

 ラドルは一人、村外れの川の畔で寝そべっていた。

 すっかり夜も更けて空は星界が広がっている。

 明滅する星々を眺めているその表情はどこか懐古的な面立ちをしている。

 ラドルは神使として永い時を生きて来た。

 しかしいつの時代もこの星界は変わらない。

 変わったのは人の世界。

 変わったのは世界の在りよう。

 変わったのは…自分自身。

 かつて自分がして来た事を反芻しても意味がない。

 だけど。

 今生きているこの世界に自分が存在する理由がある以上、二度と起こしてはいけない事がある。

 それは恐らく目の前で起きている事象もその一つだろうと結論づける。

 先ほどトコル村の村長に会って話を聞いた。

 村長の話によるとこのトコル村はかつてこの地を支配していた魔神と契約を交わし1年に一度の生贄を差し出す代わりに得る代償は村の安泰などではなく、魔神の力をもって周辺勢力を併呑する事だったという。

 だがいつしか魔神はとある神使に征伐されその契約は終わったかに見えた。

 当然拡大した勢力図は元の大きさよりずっと小さくなり、しかも魔神の死は支配下にあった還らずの樹海の魔獣達を解放する結果となり、契約は樹海の中にある生贄の祭壇に恒久的に刻み込まれたという。

 その為今でも生贄を差し出す事で村の平穏を守っているらしい。

 つまり。

 ある個体の魔獣を倒したところで契約が消える事はない。

 ローグが倒した魔獣ビルキャスの代わりに他の魔獣が生贄を欲するのだろう。

 更にタチの悪い事にその契約の祭壇は魔神による保存魔術が施されている為破壊などは一般人には不可能だという。

 あくまで一般人には、だ。

 魔術とは基本的に施術者の力量によりその効力、強度、強制力などが大きく左右する術式である。

 それが魔神クラスになれば半永久的に効力は持続するだろう。

 しかしそれはその術者の力量を上回る魔力を以ってすれば解呪できる事を意味する。

 尤もそんな人間などはいない訳で。

 故に今でもこのトコル村の生贄システムが生きている事実に帰結する。


「全く……人間も神もろくなもんじゃないな。迷信的な儀式ならともかく、ずっと昔の魔術的儀式が今でも機能していて、それを放置しているんだからな」

「何を独りごちているのですか?」


 一息ついたところを見計らったかのようにローグが背後から現れる。


「何でもない。森の方はどうだった?」

「特に今のところ大きな魔獣の移動などはありませんでした。一応鋼糸界を張っておきましたから何かあったらすぐに分かりますよ」

「……祭壇とやらは見つかったか?」

「いえ、隈なく付近を探しましたがそれらしいモノは見つかりませんでした」

「…とするとやはりこの現象は厄介だな」

「厄介とは?」

「…鍵が分からん」

「鍵…ですか」


 そこまで言ってサクッと草を踏む音がする。

 背後に近づく気配はもう確認する必要もなかった。

 何故なら村の人間にラドルを余所者として滞在を認められなかったからである。

 だから村外れの川に寝そべっていたのだ。

 そんなラドルに近づく人間など1人しかいない。


「やっと見つけたよ、ラドルお兄ちゃん」


 昼間助けた少女が其処にいた。

 その手には取り立てと思しき木通(あけび)が握られている。

 少女はラドルの隣に腰を下ろすとはい、と手の中の木通をラドルに手渡そうとする。

 身体を起こし、それを受け取る前に一つ確認する。


「こんな時間に森に入ったのか?」

「……うん。ラドルお兄ちゃんお昼から何も食べてないからお腹すいたと思って。……ごめんなさい」

「気にするな。でももうこんな時間に一人で森に入るな。リーベルが心配するぞ。……それと」

「なに?」

「カティナは何か食べたのか?」


 カティナは口ごもる。

 やはり懸念は的中した。

 こんな貧しい村に客をもてなす余裕などないのは明らかだ。

 だから危険まで冒して魔獣が徘徊する夜の森に入って調達する。

 その意味は本人もまだ何も口にしていない可能性が高い。

 そう思い確認したら案の定だ。


「カティナ、俺はペットが取ってきた果物を食べた。だからそれはお前が食べろ」

「え……でも。」

「沢山食べないと大人になれないぞ?」


 そう言われてカティナが逡巡したその時。


 グルゥゥゥ〜〜〜


 カティナのお腹が盛大に悲鳴をあげた。

 顔を真っ赤にしながら、チラとラドルを見やる。

 ラドルが一つ首肯するとカティナはもはや食欲を隠す事なく勢いよく手の中の果実にむしゃぶりついた。

 よほどお腹が空いていたのだろう。

 種も実も綺麗に食べ尽くすのにものの2分と掛らず食べ終えてしまった。

 ひとしきり食べた後、少しバツが悪いようにして、


「ラドルお兄ちゃん、ありがとう……。美味しかったよ」

「そうか」


 そこで二人とも黙ってしまう。

 ラドルは空を見上げる。

 カティナは少し俯いてしまう。

 対象的な姿勢の2人を夜風が吹き抜けていく。

 ブルッと震えたカティナの身体にラドルは自分の外套を羽織らせてやる。

 カティナはラドルをじっと見つめる。

 その視線が気になるのか、ラドルは心地よい沈黙を敢えて破る。


「……なんだ?」

「……ラドルお兄ちゃん、何を見てるの?」

「……星だ。星神レクスファートの伽話、知ってるか?」

「……知らない」

「そうか。じゃあちょっと話してやる。聞きたいか?」


 カティナはコクンと一つ頷くと、ラドルはすぅ、と息を吸い目を閉じる。

 そして寝物語を語る親のように優しく、囁くように物語る。


 ーーーー昔々の神話の時代。星の神レクスは星から発する光こそ史上の宝石にも勝ると思い昼も夜もその光を地上の人々に照らしていた。

 一方闇の月女神マルティナは夜の闇を以って人々に安らぎを与えていたがレクスの光によって夜が来なくなって迷惑していると光の源神セレスに訴えた。

 セレスが話を聞いてみるとレクスはこう言った。


『光は凡ゆる万物を照らし出します。しかし、光とは単一のものに非ず。火の光、射光、雷光、陽光と様々。その中でも特に美しいのは我が星が照らす星光であると思いませんか?』


 ーーーーそれを聞いたセレスは怒った。


『我が権能たる光に上も下もない。光は闇を照らすだけに非ず。人の希望たりえ、人の活力たりえているのだ。それを比べる事に何の意味があろうか。星は自らが光る事はできても細々しい微かなその光の何がそれ程誇らしいのか』


 ーーーーそれを聞いてレクスは大いに恥じ入り、星の光を弱めて夜の闇の中で明滅する事で更にその美しさを際立たせるようにしたというーーーー


 ラドルが短く簡単にお伽話を締めるとカティナはじっと星の光を見つめていた。

 再び訪れる沈黙。

 だが今度はカティナが沈黙を破った。


「神さまって何だか人間みたいだね。間違って怒って謝って」


 やはりこの子は聡い子だ。

 この話の教義的意義は神ですらも間違える事があり、過ちを是正する事でさらに本質を捉える事ができるーー、というものだ。

 それをこの子は無意識に理解している。

 そんなカティナに視線を送っていると歳相応の笑顔でラドルに語りかけてくる。


「ラドルお兄ちゃんはどうしてここにいるの?なんで旅してるの?」


 旅の目的。

 それは神を(ころ)す事。

 だがそれは目的であっても終結ではない。

 それをまだ年端もいかない子供に話す事でもない。


「……そうだな、人探し……ってところかな」


 探しモノという意味では間違っているわけでもない。


「人探し?じゃあずっとずっと旅してるの?」

「ああ。まぁちょっと前までさぼり気味だったがな。」


 カティナはニコッと笑い、また空を見上げる。


「いいなぁ、私も村を出て旅とかしてみたいなぁ」


 この世界では大抵の人間は生まれた土地で一生を過ごす物が殆どだ。

 旅商や軍隊でも無ければ他の土地に移り住む余裕が無いからだ。

 その年その日その時を精一杯生きる。

 それが常識でありそれを疑う事も少なかった。

 しかし。

 そう思えてしまう程に何もなかった。

 魔神だの契約だのそれが発動している割にはこの村はその痕跡が無い。

 この村に来てから感じる悪感は未だに感じるのにその痕跡が見つからない。

 貧しい以外は普通の辺鄙な村に思える。

 そこまで思案したところで肩に小さな重みを感じた。

 見るとカティナがラドルの外套に包まりながら静かな寝息を立てている。

 起こさないようにそっとカティナを横たわらせると今迄黙っていたローグが口を出した。


「ラドル。少し気になる事があります。この村は魔術儀式があったという割にその痕跡が見つかりません。祭壇は見つからない、魔獣も見当たらない、しかしその感覚だけはする。さらに……」

「さらに?」

「最初に樹海で見つけた人的魔力は何だったのか。あれは無間空間を生み出す結界の類ではありません。考えれば考えるほど腑に落ちない点が多すぎます」


 ラドルの感じていた違和感はローグも感じていたらしく、不安を吐露する。

 確かに樹海で見つけた魔力から違和感が絶えず途切れる事がない。

 これまで一連の流れをラドルは熟思する。

 樹海で無限ループする無間空間に迷い込む。

 探知した人的魔力を散らすと魔獣が現れカティナを保護する。

 トコル村に来て生贄システムの真意を知る。

 しかしそれを裏付ける痕跡が見つからない。


「……?」


 と、ここまで考えて一つの結論がラドルの中で決する。


「……そうか。魔術が発動するのに必要な要素は思い描いたものだけじゃない。必要な過程さえこなせばイメージ通りの姿をしていなくてもおかしくはない」


 ようやく魔神の契約魔術の片鱗が見え出した。

 だがラドルの思った通りならばこれは魔術というよりも呪術に近くその本領は他者を縛り付ける特性だ。

 そしてその解呪には「鍵」が必要になる。

 尤もラドルには思い当たる宛てがあった。


「全く……本当に神も人間もろくなもんじゃないな……」


 そう言ってラドルは足元で未だ静かに寝息を立てている少女に目を落とした。



あと少し。

少女編もあと少しです。

でも安易に終わるつもりはないのであと2話位かかる…かも(汗

が、頑張るぞい!

感想評価お待ちしております!

よろしくお願いしますね!

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