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蒼穹の神滅者(シルヴァリオ)  作者: 1
第1章 廻る時計
17/85

第17話 少女編〜兄妹〜

 神滅者と魔獣は樹海の道無き道を歩いていた。

 だが今の歩調は些か数時間前から遅れていた。

 というのも。


「もうちょっとだよ、私の村」


 新しい小さな同行者は前方を指差している。

 反対の手はラドルの左手をしっかと掴んで離さない。

 カティナと名乗るその少女はラドルをじっと見つめてくる。何を思うのか、意図の測れない瞳をこちらに向けてくる。

 だが先ほどまでの死人のような表情は微塵も感じさせない柔らかな表情を見せていた。

 この少女の歩調に合わせている為に進行速度は大きく遅れていた。

 だが一生懸命案内してくれるその姿に非を唱えたくはなかった。


(なんかよく分からんが……少しは信じてくれたと思っていいみたいだな。……だが、それよりもむず痒いのがこれだ)


「村に着いたら村長さまに会ってね、ラドルお兄ちゃん」


 お兄ちゃん。

 邪神の神使となりこれまで長く生きてきてそう呼ばれた事が無かった訳じゃない。

 だが目の前の少女は何というか、いたいけで何か照れ臭い。

 その姿を見て後からついて飛んでくる魔獣ことローグがニヤニヤとまた醜悪な笑みを浮かべている。

 ジロっと魔獣を睨みつけてもどこ吹く風でニヤけ顔が止まる事はなかった。

 仕方なく軽くカティナに異議を申し立てる。


「カティナ……その、お兄ちゃんって止めてくれないか?少し……こそばゆい」

「嫌だ。お兄ちゃんはお兄ちゃんだもん」

「……なぜ俺をそこまで無条件に信じられる?」

「……私ね、ラドルお兄ちゃんが抱っこしてくれた時きっと神さまの使いなんだって思ったんだ。お兄ちゃんは違うって言ったけど……私はそう思いたいんだ。だから信じて当然でしょ?」

「……そうか。じゃあ好きに呼んでくれ」

「うん!」


 少しの後ろめたい感じと子供の直感に驚いた。

 無論、神様の使い…神使であるのを言い当てられた直感と神は神でも邪神の神使である事だ。

 これ以上異を唱えても暖簾に腕押しだろう、と諦めた後、カティナが呟く。


「あとね、お兄ちゃんが2人になったのって村じゃ私だけだから……嬉しいんだ」

「ほんとの兄さんがいるのか?」

「うん。私に優しくて強い自慢のお兄ちゃん。いつも私を守ってくれた。どこにいても私が泣いてたら飛んで来てくれるんだ」


 その兄が今度は助けてくれなかった……それはこの少女にとってどういう事実なのか。

 そう思うとカティナはひとつ声のトーンを下げて言葉を継いだ。


「だからね、私が今度はお兄ちゃんを、村の皆を守るんだって。そう思っていたら。ラドルお兄ちゃんが助けてくれた。神さまがきっと私たちに目をかけていただけたんだよ」

「……?」


 チクリ。

 何だろう、胸に刺さる小さな違和感。

 言葉にするのもままならない程度の本当に小さな違和感を感じた。

 その正体を探る間も無く、カティナが急に駆け出した。

 樹々が晴れて目の前の視界が急に開けた。

 ようやく還らずの樹海から抜け出たその先には。

 周りを木の柵で囲まれたけして大きくはない集落があった。

 これがカティナの言うトコル村なのだろう。

 ここに来てカティナがこれまでぎゅっと離さなかったラドルの手を不意に離して村に駆け出していく。

 急に左手の熱が冷めていく感覚を覚えながら開いた掌をじっと見やる。


「……ラドル?」

「なんでもない。それよりもお前は入ってくるなよ?無駄に村人たちを怖がらせる必要もないんだからな。」

「了解。俺は樹海から他の魔獣が出てこないか見張っておきますよ。その代わり」

「分かっている。勝手に居なくなりはしない」


 そう約束するとローグは高く飛び羽ばたく。空には幾つかの星が瞬き始めていた。

 魔獣の姿が見えなくなったのを確認して村に足を向ける。

 先ほどの違和感の棘を抜く事も出来ないまま、ラドルはカティナの後を追った。




 ーーーーーーーーーーーーーー



 夕暮れが差し迫る中ラドルが村に入ると既に村人たちがカティナの帰還に騒いでいた。

 村人がカティナに囲まれているが少し様子がおかしい。

 大人の男たちがカティナに何か問い詰めているようだ。

 少し様子を見ようと足を止め事の成り行きを見守っていく。

 一体何を問い詰めているのか。

 この距離からでは詳しい内容は聞き取れない。

 ならば、と目を凝らして問い詰める男たちの唇を読む。


「カティナ、お前は村の安泰の為の生贄として魔獣に捧げられたのになぜ戻って来た?」

「お前が帰って来た事で魔獣が襲ってはこないのか?」

「大体なんでお前がまだ生きているんだ?」


 なるほど、とラドルは納得する。

 カティナの無事が村の存亡に関わると言って自分たちの将来が不安でカティナを問い詰めているのだ。

 カティナは大人たちの下卑た質問責めに答えられずにあわあわと涙目になっている。

 このままだと再びカティナが大人たちによって樹海送りにされてしまうかもしれない。

 助けに行こうと足を前に出したその時。

 向こう側から大人たちに向かって駆けてくる影がある。

 そしてカティナを庇うように大人たちの前に立ちはだかる。


「やめろよ!帰って来たばかりのカティナに大の大人が寄ってたかって口汚く責めるな!」

「リーベルお兄ちゃん……!」


 件のカティナの兄と思しき少年は大人たちに一歩も引かず火花を散らす。

 だが所詮子供と大人だ。その内力任せにカティナを連れていかれるに決まっている。

 やはり助けてやるべきと思い歩を進めると、その思いは杞憂に終わった。

 しばらく睨み合いを続ける両者はやがて大人たちのほうが引き下がっていったのだ。

 予想外な結末に呆気に取られていると、カティナがラドルを見つけ近づいてくる。


「ラドルお兄ちゃん、ごめんね。変な所見せちゃって」

「あ、ああ。」

「カティナ、この兄ちゃんは?」


 カティナの後をついてきたリーベルと呼ばれた少年は不躾にラドルを観察しながら妹に問う。


「リーベルお兄ちゃん、こっちは還らずの樹海で助けてくれたラドルお兄ちゃんだよ。ラドルお兄ちゃん、こっちが私のもう1人のお兄ちゃんのリーベルお兄ちゃん。仲良くしてね」


 一つの単語を繰り返しながら互いを紹介するカティナ。

 だがそれには気にもせず、妹を助けた恩人に頭を下げるリーベル。


「兄ちゃん、カティナを助けてくれたのか。ありがとう、礼を言うよ」

「……たまたまだよ。それにしても君はまだ子供なのに大人たちと互角にやりあうとは凄いな」

「へへ。腕っぷしなら大人にも負けねえからな。兄ちゃん、今夜はウチに来てくれよ。何ももてなせないけど」

「……ああ。ありがとう。でも少し村を見て回っていいかな?村長にも挨拶したい」


 分かった、と明るく笑うリーベル。

 そう言ってカティナを連れてリーベルは村の端々に置いてある獣避けの松明に火を灯していく。

 その姿は仲睦まじい兄妹そのものだ。

 だが。

 ちらと村を見渡す。木板でできた家々。石造りの小屋。村の中央に立つ巨木。見たら貧しいながらも普通の辺村。

 しかしラドルはこの村に入った時から、いや厳密に言えば樹海の人的魔力を散らしたその時から言い知れぬ悪い予感を感じていた。

 それは徐々に強くなり村に入ってからは更にそれが強くなっていった。

 おかしい。

 この村は何かがおかしい。

 それが何か分からないのなら。

 少し強引な手を使ってみるのも一つの手かーー。

 そう思案したラドルの瞳が僅かに蒼みがかっていた。

17話です!

いつもより少し文量が多くなってしまいました。

それともまだ少ない?

よく分かりませんが少女編、動き出しました。

もうちょい続きますが粘り強くお付き合い下さい。

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