一日の終わりは家族団らん
私がお世話になっているのは牧場経営しているロリズリーさんのお家。牧場の仕事と家事を手伝う代わりに、空いていた屋根裏部屋を間借りさせてもらっている。おまけに食事の世話まで見てもらっているのだ。感謝してもしきれない。
今はロリズリーさん夫婦、そして一人息子のヒュージと共に夕食中。そういえばもうすぐ新節祭だな、と零したのはヒュージだった。
「ヒナは行った事無いよな、新節祭」
「新節祭って、村の皆でやる新年のお祭りだよね?」
それなら去年だって参加している。首を傾げるひなたに、ヒュージは得意げな顔をした。
「ばかだなぁ。違うよ。あんなちゃちい祭じゃなくて王都でやる本物の方!」
場所と人が違うだけで、お祝い事に本物も偽物も無いのでは? そう思ったけれど、楽しそうな彼に水を差す気がして口に出すのは止めた。素直に首を縦に振る。
「王都には行った事無いよ」
「だろ! やっぱ人生で一度は行っておかなきゃな! いいだろ?」
「いいだろって……、え? ヒュージは王都まで行くの?」
「あったり前じゃん! ヒナも一緒に行くんだからな!」
「私も?」
ここは国土の端にある山村。王都に行くとなれば一日がかりの旅になる。けれど牧場の仕事に休みは無い。家畜は生き物だから一日も休む事はできないのだ。
「でも、牧場のお手伝いが……」
向かいに座るロリズリー夫婦を見れば、にっこりと笑ってくれた。奥さんがスープをすくっていた手を止めて私を見る。
「いいのよ。今までずっと休み無しで働いてくれているんだもの。たまには気分転換しないとね」
「そうだぞ。若い内は色々な経験をしておくもんだ」
日に焼けたロリズリーさんもそう言って頷いた。もしかして、最近気分が塞ぎがちだったから、心配してくれたのかも。
「……ありがとうございます」
「決まりだな!」
元気な声でヒュージが「よし!」と隣でガッツポーズ。私の基準で言えば、彼は高校生くらいの年齢で、歳も近いからかいつも遊びに誘ってくれる。私が村の若者たちと馴染むことが出来たのも彼のお陰だ。
「ルーカスとモリーも一緒だから」
「うん。ありがとう。楽しみにしてる」
ロリズリーさんに似た笑顔でニカッとヒュージが笑う。
白の国の人達は大抵皆銀髪に銀の目をしている。ロリズリー一家も例に漏れず皆綺麗な銀色だ。私だけが、髪も目も真っ黒。けれどそんな私を彼らは快く受け入れてくれた。
本当に感謝しても仕切れない程の恩があるんだ。